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戦いの記憶(7)
黒龍は掠れた声で暁に語りかける。
「私の身体が塵と化しても、闇に落ちた魂は再び蘇り、この大地を血で染めるだろう。
二度とこの世に現れぬように、私を消滅してはくれまいか…永遠に。
だが…邪な考えを起こす者は、いつかまた現れる。
光があれば闇が生まれるように。
千早…どうやらお前は普通の人間ではないようだ。
元々持って生まれた魂が、そこの龍神に感化されて、自然界と呼応して5人が生まれたのであろう。
この世が闇に閉ざされても、それをこじ開けることができる一筋の希望の光…鍵だ…
再び戦いが起こる時には、千早…お前は救い主となる。」
そこまで一気に話し合えると、またごぼりと大きな血の塊を吐いた。
「…私の意識が白香である間に、早く消滅を。
再び闇と交われば、またこの世は悲惨な戦いが始まる。」
黙って聞き入っていた暁は
「…承知した。その願い聞き入れよう。
五気達よ、力を貸せ!」
そこへ千早が黒龍の前に躍り出た。
「待って!待って下さいっ!
このような身になっても、白香様は私の親!
どうか、どうか命だけは!」
「…ならぬ。そこを退け、千早。
お前の気持ちも分かるが、この世界を消滅させてはならぬ。
それに…黒龍の思いを受け止めてやれ。
そうしなければならぬ。」
千早は振り向き、苦しげな黒龍の顔を見た。
その瞳が千早に訴えかける。
そして、血を吐きながら懇願された。
「千早、お願いだ…私を…私を『白香』として逝かせてくれ…頼む…」
千早は動けなかった。
痛いほどにその気持ちが雪崩れ込んできた。
白香との数々の思い出が走馬灯のように頭の中を走っていく。
優しくて厳しくて、常に冷静だった大切な親…
千早を失ったが故に、怒りと悲しみでこのような姿になってしまった…
――私のせいだ。
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