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後日談(2)

暁は千早の髪を優しく撫でながら、咎めるように志津に語りかけた。 「そうか、気付いてはおらぬか…志津殿、あなたの見立ては正しいのかな?」 ほほほっ…さも可笑しそうに志津は笑うと 「間違いはございませんよ。 千早、最近食欲が落ちているようだけど…体調はどうなの?」 「え?体調?…確かに食欲は落ちてるし、ムカムカして吐き気もあるけど…精神的なもので新しい環境に慣れるまでだ、とは思ってるよ。 でも、それがどうかした?」 「ふふっ。何かお腹に感じない?」 千早は志津の言葉に再び首を傾げた。 お腹? そっと両手を当ててみる。 その手に暁が大きな手を重ねてきた。 その瞬間、何かが光った気がした。 「えっ!?」 戸惑いを隠せないまま暁を見上げると、この上なく幸せそうな微笑みを返されて、たった一つの結論が閃いた。 「…まさか。」 「どうやら本当のようだ…千早、私達の子供がここにいる。」 労わるようにそっと抱きしめられた。 思わず零れ落ちる涙を愛おし気に指先で拭われる。 どうりで…最近やたらと暁様から『走ってはならぬ』『台に登るな』と不可解なことを言われていた。 風に舞う桜の花びらをはしゃぎ回って追い掛けていた五気が、心配そうに寄ってきた。 「主様、千早様お具合でも?」 「志津様、何かあったのですか?」 「千早様、何処か痛むのですか?」 「千早様、我ら騒ぎ過ぎて申し訳ありません。」 「主様、お水お持ちしましょうか?」 千早はそれら一つ一つに首を横に振り、五気に微笑むと 「主様との子供を授かったらしい…この子の守護も頼んだよ。」 それを聞いた五気の喜びようといったらなかった。 庭の土が音を立てて膨れ上がり、それを包むように色とりどりの花が満開に咲き乱れる。 金色の薄くて小さな箔が降り注ぎ、8人いや、9人を取り囲むように燃える炎を優しい雨が消していく。

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