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第3話

1週間の休みも、5日が経過した 遠出しようか、と渉は提案したが啓太はそれを却下した 元々インドア派である2人は、外で過ごすよりも部屋で過ごす方を好む テレビを観たり、録画した映画を観たり、背中合わせで読書をしたり・・・ そして、どちらかともなくキスをして どちらかともなく、身体を求め合う 俗世との関わりを最低限シャットダウンしたこの時間が、お互いの心を満たしていた。 永遠にこの時間が続けばいいのに、とさえ思うくらい。 「兄さん、海に行かない?」 それは6日目の夜のこと。啓太が突然提案してきたのだ。 たまに食料調達にと軽く外には出ていたものの、ここ2日は部屋に閉じ籠もったままだった。外の空気が恋しかった渉は、啓太の誘いに乗ることにした。 「・・・見事に何も見えないな。」 車で走らせること約30分。部屋から一番近い海水浴場に着いた。 シーズンも過ぎ、遊泳期間も過ぎているため誰も人は居なかった。さざ波の音が聞こえるだけで、辺りは真っ暗。空と海の境界線すらわからなかった。 「でも夜の海って、不思議と心が落ち着く・・・。」 啓太はそう呟いて、海を眺め続ける。吹く風の冷たさが、夏から秋のものであると思わせる。やがて啓太はおもむろに、海の方へと歩き始めた。波の満ち引きの境で足を止め、海水が靴を濡らしていた。 「兄さんもこっちに来なよ。」 海面を見つめていた瞳が不意に渉に向き、啓太は手招きしながらそう言った。誘われるまま、渉は弟の方へと寄って行った。 啓太は渉とは対照的に、今見ている海と同じくらい漆黒の髪と目を持っている。啓太の、猫のような大きな瞳が渉を見つめる。渉はその瞳に吸い込まれるように、啓太との距離を詰めた。絶えず響く波の音を耳の奥で聞きながら、渉は啓太に口付けた。

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