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第5話
「兄さんの休みがもうすぐ終わるだなんて・・・。」
ご飯を済ませて後片付けをし、渉がこの休みで楽しみにしていた一つ、地上波初登場の映画を啓太も一緒に観ていた。それも終わり、時刻は23時45分。楽しい時間もあと15分で終わろうとしている。
「俺も寂しいよ。休みって本当に一瞬なんだよな。社会人になったら特にそう思う。」
渉は壁にかかった時計を見つめながら、しみじみとそう言った。秒針が頂点に進むたび、時間は刻一刻と進んでいく。啓太も渉が見ている時計に視線を移し、いつしか無言になっていた。カチカチ、と針が進む音だけが部屋に響いている。
『・・・ぐだ。』
ぴりっ、とした一瞬の頭痛が啓太を襲う。
それと同時に頭を何かがよぎった。知らない声だ。
―何だろう、今のは・・・?
啓太に何かが引っかかった。そして、先程の謎の声が、何か重大なことを忘れているような予感をさせた。時刻は23時50分。過ぎ行く時間が、啓太を焦燥に駆られる。
「・・・ねぇ、兄さん。」
「何だ?」
「キス、して。」
沈黙を啓太が破り、静かな声でねだった。啓太の中で渦巻く焦りやいらだちを、取り除いて欲しくて。あまりにも目が真剣だったせいか、渉は微笑むとゆっくり啓太の唇を奪った。
優しく啄むようなキスから、歯列を割られ口腔を蹂躙していく
舌を絡めとられ、口の端から唾液が漏れる
空気を求めるように唇が離れるが、それは一瞬だけ
また貪るようにキスを繰り返した
ようやくお互いが離れた時には、息が上がっていた
「はぁっ、はっ・・・っ!」
潤んだ瞳で兄を見ていた啓太だが、途端に胸が苦しみだした。胸を押さえてうずくまる。けれど痛みは増すばかり、このままでは心臓が破裂してしまいそうだ。
ついには床に倒れ込み、苦しみで閉じかけていた目を薄く開く。
そこには、薄ら笑みを浮かべた兄が見えた
『もうすぐだ』
弟を心配する素振りすら見せない兄。そして再び、啓太の脳裏に知らない声が聞こえた。今度ははっきりと。ねっとりとした、欲にまみれたような声だ。上手く呼吸が出来ず、動く力すら何も残っていなかった。
『兄を生き返らせてやる。』
また脳裏で囁くような声が聞こえた。それと同時に一瞬だけ画像も見えた。
真っ黒な服を纏い、漆黒の髪をなびかせた・・・。
―そうだ、俺は・・・。
啓太はそこでようやく全てを思い出した。
これから自分がどうなるかも、もう既に知っている。
啓太は抗うことなく、ゆっくりと瞳を閉じた
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