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第6話

 そして次に夾と会ったのは翌々日の金曜日。  奏くんと待ち合わせをしていた学校近くのコンビニだった。  コンビニの前に停められているバイクが思考に引っ掛かる。  店内に視線を走らせれば奏くんの姿がお菓子コーナーにあって、ドリンクのところに他校の制服を着た男と夾。  それを眺めながら俺も店内に足を踏み入れる。  自動ドアが開く音に顔を上げた奏くんと目があった。  すぐに破顔する奏くんに軽く手を振ってそちらへ向かう。 「先輩! こんにちは」  久しぶりに会うからかいつもよりもテンション高く弾んだ声で俺のもとへ駆け寄ってくる。 「久しぶり、奏くん」  笑いかければ嬉しそうに奏くんは頬を緩めた。  店内はわりとこんでいる。だけど騒がしい場所じゃないし、そんなに広いわけでもない。  俺のいるところから夾まではほんの3メートルほどだ。  なにかに気づいたように夾が振り返った。  目が合う。  だけどすぐに興味なさ気に夾は視線を外した。 「奏くん、なにか買う?」 「あ、はい。これ買おうかなって思って。新作らしいんです」  奏くんが持ってるお菓子はチョコレートだった。  美味しそうですよね、と笑う顔は可愛い。  男の子だけど、女の子みたいに可愛かった。 「美味しそうだね」 「あの先輩は? あ……あの、飲み物とかお菓子とか……用意はしてるんですけど」  途中から頬を赤らめて奏くんは目を泳がせていた。  それに軽く笑ってしまいながら、俺はいいよ、とだけ返した。  どうやらやっぱりこのあとは奏くんのお家らしい。 「行こうか」 「はい、買ってきますね」  歩き出した奏くんと一緒に俺もレジに向かう。 「買ってくるな」 「ああ」  後ろで見知らぬ声と、一昨日聞いた声がしていた。  ふたつのレジの片方で奏くんが会計をし、もう片方には夾の連れの男が順番待ちしていた。  必然俺たちが先に店内を出ることになる。 「先輩。チョコレート、帰ったら食べましょうね」 「そうだね」  コンビニから出ると冷たい空気とともに煙草の匂いがした。  視線を向ければ夾がバイクにもたれて煙草を咥えている。 「奏くん、ちょっと待っててくれる?」 「え? はい」  怪訝そうにした奏くんはどうやら夾の存在に気づいたようで身体を竦ませている。  そりゃそうだろうなぁ。  コンビニ前で煙草を吸ってる、いかにもガラの悪い男子高校生。  奏くんと無縁だろう。  すぐ戻るから、と声をかけて夾のもとへ行く。 「藤代くん」  呼びかけると夾は胡乱そうに俺を見た。 「制服着て、下校途中のコンビニ前で煙草吸うのはよくないよ。お店にも迷惑かかるし、学校のイメージも悪くなるから」  もとより喫煙は二十歳になってから。  にっこり笑いかければ夾は視線を逸らしながら煙草を地面に落とした。  それを靴裏で踏み消す。  案外すんなり従ったな、と見ていれば吸い殻をとって俺に向き直った。  ポケットから煙草の箱を取り出し、吸い殻をそこにいれて、そして――。 「夾、どうした?」  後ろからかかった声に俺と夾が視線を向ける。  夾の連れの男が不審そうに俺をにらみつけながら夾に近づく。 「なんでもねーよ。行くぞ」  夾が促し、男は俺に視線をとめたままバイクに跨った。  メットをそれぞれつけて、夾が後ろに座る。コンビニの駐車場に響くエンジン音。 「じゃあね、藤代くん」  ばいばい、と手を振る俺の言葉をかきけすようにバイクは走り出す。  運転している男と違ってちらりとも俺を見ることなかった夾を乗せたバイクはすぐに角に消え見えなくなった。 「先輩っ」  そうして奏くんが顔を青くさせて慌てた声で俺に駆け寄ってくる。 「ごめんね、待たせて」 「いえ、大丈夫です。で、でも」 「俺は大丈夫だよ。さっきのは同級生なんだ。さすがにこんなところで煙草はまずいからさ」 「そうですけど……。気をつけてくださいね」  俺が殴られないかとでも心配してくれてたんだろうか。  もう一度、「大丈夫だよ」と笑って奏くんを促す。  奏くんを安心させるように他愛のない話を俺から振りながら、ポケットに手を突っ込んだ。  外気に冷えた指先が紙のケースに触れる。  半分も入っていないらしい、吸い殻入りの煙草の箱。  それに意味なく触れながら奏くんの家へと向かった。

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