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第9話
特に代り映えがしない一日。だからこその日常。
晄人は彼女ちゃんと昼食な昼休み。
俺は売店でサンドイッチやら総菜パン、コーヒー牛乳買って生徒会室へと向かっていた。
別に仕事するわけじゃない。
昨日は新作ゲームやりこんで睡眠不足なものだから誰もいないだろう生徒会室で昼寝でもしようかなーっていうだけのこと。
ポケットに手を突っ込んで廊下歩いていたら、ふと、足を止めた。
窓の向こうにある屋上が視界に入ったからだ。
あのヤンキーくん、藤代夾に出会った屋上。
夾は今日来てんのかな。
そう思って、あれ夾が今日とかダジャレ?、いや違う、なんてどうでもいいことを考えながら、俺は再び足を動かし始めた。
生徒会室へ――じゃなくて屋上に。
鼻歌混じりに階段を上っていく。秘密の鍵で開けて重いドアをあければ眩しい日差しに目がくらんだ。
目を細めながら一歩踏み出して、
「来い来い」
と、誰もいない屋上でひとり呟きながらフェンスのほうへと歩いていった。
日影になっている部分に腰をおろしてガザガザと買ってきたパンを取り出し早速食べはじめた。
今日は気温がわりと高くてこの時期にしては結構暑い。
生徒会室のほうが過ごしやすいだろうってことは確かだけど――たまには外でメシ食うのも悪くない。
「来い来い」
紙パックのコーヒー牛乳にストロー突き刺しながらぶつぶつ。
今日はたまたま運よく人気のゴージャスサンドが買えてよかったなあ、とボリュームたっぷりのカツとハム卵トマトにチーズそしてカツ、という男子生徒向けサンドイッチにかぶりついていたらガチャガチャと金属音。
それがなにかっていうと、それは鍵を開ける音で、次いでバンと力任せにドアが開けられた。
視界の中で早速とばかりに煙草を咥えて火をつけ、ポケットに片手を突っ込んでフェンスにもたれかかり、紫煙を吐きだす――夾が映った。
「来た」
俺の呪いが効いたわ。
サンドイッチを食べ終えた俺は袋から総菜パンを取り出しながら呟いた。
と、その音に一瞬動きを止めた夾が俺のほうを見た。
「Buon giorno!」
いい天気だし、気分いいし、イタリア語の挨拶がぴったりか、と軽く手を上げて言ってみた。
夾ははっきりと眉を寄せると大きく舌打ちをして俺から目を逸らす。
俺の顔見て舌打ちするなんて俺ってば相当意識されちゃってるなぁ。
パンを頬張ってゴミやコーヒー牛乳を持ち夾のそばへと行く。
じろり、と睨まれたけど気にせず夾の傍らへと腰を下ろした。
「藤代はもう飯食べたの?」
見上げて訊くけど夾はぷかぷか煙草を吸いながら俺のことなんて眼中にないように空を見ている。
「パンわけてあげようか?」
俺的にとっておきのスマイルを向けるけどこっち見ないヤツに意味ねーし。
ま、いきなりフランクになられてもびびるしいいんだけどな。
いまは腹減ってないってことでいいだろう。
そう結論を出して、残りのパンを食い終わる。
コーヒー牛乳をストローでずーっと飲んでいたら視界の中で煙草が落ちていく。
すぐに靴でもみ消され、拾い上げる夾の手。
一応吸殻はちゃんと回収するのえらいえらい。
最後まで俺は視界に入れてもらえないのか夾は俺を見ることなく、屋上のドアへと向かいだした。
「――藤代」
ブレザーのポケットに入れていたものを取り出し、振り返った夾へと投げる。
ナイスキャッチで受け取った夾はそれを見て眉を寄せてようやくちゃんと俺を見た。
夾の手の中にあるのは煙草だ。
この前もらった代りに買っておいた新しい一箱。
夾は煙草と俺を見比べ、呆れたように目を眇めると煙草をポケットにしまい背を向けた。
「またなー」
あっというまにドアの向こうへと消えていく後ろ姿にひらひらと手を振る。
もちろん返事なんてあるはずなく、ひとりになった屋上でコーヒー牛乳を飲み終えると肌寒さに堪えながら日向ぼっこをしつつ、ちょっと昼寝した。
それから――俺は昼休みをその屋上で過ごすことが多くなった。
そして、
「な、このスペシャル焼きそばパン食べたことある?」
相変わらず無言のまま、相変わらず眼中には入ってないみたいだけど、夾もまた一服しにくる。
俺の言葉に返事はないけど、問題はない。
別に返事が欲しいわけでもないから。
俺と夾に会話が成立したのなんて初めて会ったときくらいだとしても。
別に会話が成立する必要があるわけでもないから。
肝心なのは、この空間を共有しているっていう事実だ。
一服を追えて去っていく姿を眺めながら、昼寝をするには寒さが厳しくなってきたなーと欠伸を噛み殺した。
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