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第6話

「っ!…っ…はぁっ、はぁ…っ」 ガバッと悠亜はベッドの上で起き上がった。 びっしょりと汗をかき、Tシャツが肌に張り付いている。 荒くなった呼吸を整えながら壁掛けの時計を見ると、既に11時を回っていた。正午近くの夏の日差しが、部屋の中に溢れている。 けれど、生気に満ちた空気とは正反対に、悠亜にとって紛れもない悪夢のせいで、目覚めは最悪だった。 両手で顔を隠して大きく息を吐く。 自分が小学 3 年生の時の夢だ。 もう 9 年も前のことなのに、嫌なことははっきりと覚えているもんだと悠亜は思った。 そういえば、もうすぐ母の命日だ。 夏休みの終わる直前。 あの頃、亜南はまだ小学校に入ったばかりだった。 懐かしい、と思うにはあまりにもネガティブな思い出に、悠亜はすぐ蓋をした。 現実に戻ろうとカレンダーを見る。 8月の後半の日にちに亜南を拒絶した日から、既に 1 ヶ月が過ぎていたことに気づいた。 あれから、亜南とはほとんど口をきいていない。夏休みに入って亜南はバイト、悠亜は受験勉強に追われているのもあるが、悠亜の方が徹底的に亜南を避けていた。 亜南に会わなければ、触れられなければ、平穏な気持ちでいられた。 このままの穏やかな気持ちで、あと半年ほど我慢できればいい。 試験日まであと2週間ほど。 亜南があんなことを言った理由も、自分を駆り立てる衝動も、試験を言い訳に悠亜はすべて考えないことにした。 ラストスパートだと、だらけそうになる自分を叱咤してベッドから出る。 服を着替えて簡単に朝食兼昼食を食べると、自室で机に向かい参考書を手に取った。しかし、気分が晴れずに問題が頭に入ってこない。 しばらく粘ってみたが、うまく気持ちが切り替えられず、このままではダメだと気分転換をするため、図書館へ向かうことにした。

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