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第8話
どうやって帰ってきたのか、分からなかった。
食事もせず制服のまま、悠亜は自室のベッドの上で蹲っていた。
驚愕と疑問が強かった感情も、時間が経つと共に怒りの方が強くなっていった。
どれだけの時間そうしていたのか。
玄関の鍵が開く音が聞こえた。
思わずベッドから降りて 1 階へ降りる。
あれだけ顔を会わせたくなかった亜南の顔を見ずには、否、怒りに支配されていて気まずさはどこかに行っていた。
2 階に上がろうとしていた亜南と鉢合わす。
「悠亜…」
久しぶりに正面から見る兄の顔に、亜南が驚いている。それに構わず、亜南の胸ぐらを掴み、乱暴に壁へ押しつけた。
「いっ―――」
「っっ、・・・・・・っ!!」
亜南の顔が痛みに歪む。
悠亜は、怒鳴ろうとして口を開くも怒りが強すぎて唇が震え、言葉にならなかった。
「・・・っ、なんで、あいつと・・・あんな奴といたんだよ・・・っ」
どうにか絞り出した声は、掠れて小さくなっていた。
亜南は言われたことがすぐ分からないようでキョトンとしていたが、少しして悠亜の言っている人物に思い至り、言葉を詰まらせた。
「・・・見たの?」
「今日だけじゃない。・・・夏休み前も、お前、あいつといただろ・・・っ。」
猫目が戸惑いに揺れる。
「・・・・・・ごめん・・・。」
「ごめん、じゃねえだろ!!」
素直に謝る亜南に苛立って、間髪入れずに悠亜は怒鳴った。
ビクッと亜南の肩が揺れるが、それでも萎縮することなく言葉を続ける。
「去年の・・・受験の時に、お母さんのお墓に行ったんだ。そしたら、お父さんがいて・・・」
「父さんなんかじゃない!!あんな・・・っ、母さん裏切って男と出てったホモ野郎!!」
はぁ、はぁ、と悠亜は大きく肩で息をしながら、今朝見た夢が、頭の中で反響する。
―――『男の人と出て行っちゃったんですって』
―――『お母さん、お父さんは、どこ?』
母親を裏切って、勝手に出て行って、居なくなった後もずっと自分たちを苦しめた。
明るかった母が泣き崩れて、挙げ句の果てに自ら命を絶ってしまった。
全部、全部、あの男のせいだ。
だから、自分は、あんな奴と同じにはならない。
あんな奴とは違う。
ちゃんと女と結婚して、子どもを作って、ずっと幸せに暮らす。
そうじゃないと、いけない―――。
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