9 / 12
第9話
「悠亜だって、同じじゃん」
注がれた言葉に、興奮した頭が冷める。
いつの間にか下がっていた顔を上げると、亜南の真剣な目と視線が合った。
「悠亜、俺にもおばさんにも内緒で大学受験やめて、家出てくつもりでしょ?俺のこと好きなんじゃないの?それなのに、俺から離れるの?離れて、他の人と一緒になるの?俺のこと、好きなのに?」
「ちがう・・・」
畳みかけられる現実に、悠亜は頭を緩く振る。
けれど、亜南は止めなかった。
「好きな人がいるのに、他の人と一緒になって・・・、そんなのお父さんと一緒じゃないか」
「・・・違うっ」
「違わない」
ハッキリとした声音が、悠亜の言葉を否定する。先程まで怒鳴っていたのが嘘のように、悠亜はただ亜南の言葉に怯えた。
「ねぇ、俺、お父さんと話して分かったんだ。好きな人とは絶対一緒にいなきゃダメなんだよ。男同士も、兄弟も関係ない。好きな人と離れて、他の人と一緒になるなんて・・・そんな嘘つくから、皆、不幸になっちゃうんだ」
既に力が抜けて、ただ服を掴んでいるような腕を、亜南が掴んだ。
そのまま、抱きしめられる。
「悠亜。俺、ほんとに悠亜のこと、好きだよ。だから、一緒に居ようよ」
突き放したい。
逃げ出したい。
けれど、体は正直で、ふわりと香る亜南の匂いに反応を示す。
絶望と、歓喜と――――。
バラバラな気持ちが綯い交ぜになって、悠亜の心を痛めつける。
「ずっと一緒に居て・・・。・・・俺を、置いてかないでよ。悠亜・・・」
「・・・、・・・」
縋り付くように、背中を掻き抱かれた。
まだ自分より細い腕は、拒絶すれば剥がすことができる。
けれど、悠亜は動かなかった。
拒絶することも、受け入れることもできずに。
ただ、動けなかった。
ともだちにシェアしよう!