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第8話
どうして。
どうしてどうして。
もうだいぶ、『思い出し』かけていた。
そうだ、男同士で気持ちよくなる方法を教えてくれたのは兄貴だった。『男が好きっていうか……二知翔としたいんだ』と、兄貴は言った。兄貴が教えてくれるものは、何でも尊とかった。自分のことを、自分のことだけを見てくれる存在は、兄貴しかいなかった。他のものに目を奪われる兄貴なんて、兄貴じゃない。そんな兄貴、いらない。でも……
見ないフリをしようとした。記憶を封じ込めようとした。でも結局、無理だった。
欲しい、欲しい、兄貴が欲しい。
この衝動を非難されるいわれはない。だって俺をこんなにしたのは、元はと言えば兄貴のせいだろ。兄貴が手を引いたから。大丈夫だよ、と、怖くないよ、と言ったのは兄貴じゃないか……
『名前を書くと、書いたものが自分のものになる』
不意に、馬鹿みたいな話を思い出した。
でも、馬鹿なこと、だと笑い飛ばせる余裕はなかった。
まじないでも何でも、縋れるものがあれば縋りたかった。そうだ、ペン……あのペンはどこにやったのだっけ。確か、ベッドの下……
しかし、ペンは見つからない。
どこだ、どこだ……!
狂ったように、本棚や机の引き出しの中をあけて回った。まさか勝手に掃除されて捨てられてしまった、なんてことは……
ゴミ箱の中をひっくり返す。母に詰め寄ったが、「ペンくらいで……」と不審に思われてしまった。もう一度部屋に戻り、兄貴の机の中をあけると……そこに、あった。震える手でそれを取り出し、胸に抱いた。
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