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第3話 疑心暗鬼

「あぁ、そっか。邪魔して、ごめんな」  どちらかと言えば、明日まですら待てない俺の堪え性の無さの方が申し訳無い。 「何謝ってるんですか? 鞍崎さん、謝る必要なくないですか?」  くすくすと笑う網野の声が耳に届く。 「邪魔だなんて思わないし、電話もらえて嬉しいですよ」  ふふっと続く音は、網野の笑みを連想させた。  ほんのりと温かくなる胸に、浸ってしまう。 「どうしたんですか?」  電話をして来たのだから、なにか用事があったのだろうと考えた網野の問いに、言い淀んだ。 「あ、いや………」  見栄っ張りな俺は、声が聞きたかったなんて、恥ずかしくて言えやしない。 「育ちゃーん」  言葉を詰まらせる俺の耳に届いたのは、網野を呼ぶ可愛らしい女の子の声。  俺には、甘えるような猫撫で声に聞こえてしまった。  直後、ぼすっとぶつかるような音がした。  ドクン……、心臓がひとつ音を鳴らす。  友人が、男ばかりとは限らない。  網野のコトだ、男でも女でも、たぶん、友人はたくさんいる。  それに、自分の性癖を考えれば、男だからと、安心もできない。  その声の主は、…その女の子は、友人なのか?  疑うべきではないコトを、疑ってしまう。  考えるべきではないコトを、考えてしまう。  動揺する俺の心臓は、余計に喉を締め上げ、言葉を奪った。 「ぅおっ、ちょ、なにっ」  驚いたように放たれる網野の言葉にならない声に、自分の心臓の音だけが鼓膜に響く。

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