4 / 30

第4話 そっちの方がアウトだろ

「なになに? 彼女ぉ~?」  続く女の子の声に、俺の胸は、ミシミシと軋むような音を立てていた。 「違ぇよっ。会社の先ぱ……」 「どうもぉ。友人代表、森野れすっ」  苛立ったように放たれる網野の声に、心にぴしりと、ひびが走る。  網野の声に被るように、別の男の声が混じった。  酔っぱらい独特の舌っ足らず感と、敬礼でもしてきそうな勢いの男。  男の存在に、女の子と2人きりで飲んでいたわけではないコトへの安堵は生まれた。  でも、俺の心は、しゃしゃり出てきた男を、どうでもいいものとして扱った。  間髪入れずに“違う”と、放たれた否定の言葉が、胸の中に影を落としていた。  “彼女”じゃないにしても、少しばかりの動揺を見せてもいいんじゃねぇの?  俺たちは恋人……、なんだよな?  考えれば考えるほど、思考がその場で足踏みをする。 「育をよろしくお願いしますっ。何卒、なにとぞぉ……って、こら!育っ」  やけに上機嫌で割り込んできた男の声色が、激変した。  ガザっと響いた鈍い音に、スマートフォンが放られたらしいことを感じ取る。 「萌のおっぱい、揉んでんじゃねぇよっ」  ぱしっと肌のぶつかるような破裂音。  あまりにもはっきりと響く音は、スピーカー機能が働いているせいかもしれない。 「違ぇよっ。これは、萌が…ぁ……っ」  遠くから聞こえる言い訳がましい網野の声に、鼻から抜けるような悩ましい音が、続いた。 「触って欲しそうな顔でもしてたってか?」  怒り爆発の男の声に、電話先の現状が読み解けない。  なんだ? 何が起きてんだ?  揉んでるってなんだよ……? 「んなっ………ぁっ…」  喘ぐ……そんな表現が似合う網野の声。  悶えてるとしか思えない音。  こういうコトするのは、俺だけだと、キスをしてきたクセに。  キスよりも、おっぱいを揉む方がアウトだろっ。  なんだよ、その声はっっ。

ともだちにシェアしよう!