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第5話 元来のネガティブ思考

 じわじわと、不安や疑心が怒りに変換されていく。 「萌も萌だっ。俺が居るのに、何してんだよっ。触らせてんじゃねぇよっ。こいつが……」  ――タンッ  苛立ちと焦りと戸惑いが胸の中で、ごちゃごちゃと混ざり合い、指先が通話を切っていた。  聞いてはいけない会話を聞いてしまった気がした。  イケないコトをしてしまったような背徳感が胸を埋めた。  俺たちの関係は、キスから先に進んでいない。  目の前にいたら押し倒したくなるなんて言っておきながら、あいつは俺に指一本、触れてこない。  やっぱり、女の方がいいってコトか?  女に飽きて摘まみ食いしたくなっただけなんじゃなねぇの?  少しばかりの好奇心だったんじゃねぇのか?  あまりにも靡かない俺を落とす優越感を味わいたかっただけじゃ……。  ポジティブかネガティブかで言えば、俺はネガティブだ。  元来、俺の思考は、マイナス傾向。  考えれば考えるほどに、どんどんと負のスパイラルに嵌まっていく。  もやもやとした気持ちのままに、通話を切断し、真っ暗になった画面を眺めていた。  有耶無耶にしたままに切った電話に、何かしらの反応が返ってくるのではないかと、無意識のうちに、スマートフォンを握り締める。  スマートフォンが鳴るコトも、震えるコトも、明かりがつくコトさえなく、日付は変わっていた。  やっぱり俺、揶揄(からか)われてたのか?  自らが出した結論に、ふっと小馬鹿にするような自嘲が漏れた。  鳴らない電話に、やきもきするくらいなら。  揶揄われたのだと、落ち込むくらいなら。  俺は嫌なコトから目を背けるように、網野の番号を着信拒否に登録していた。

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