9 / 30

第9話 なんでオレが悪者に?

 女の子に手を上げるのは、男として最悪。  そう父に教え込まれ、強制的に排除するコトを躊躇っていたオレに、森野が萌を引き剥がす。 「触って欲しいなら、俺が触ってやるっ」  引き剥がした萌の身体を跨いだ森野は、むにゅりとその豊満な胸を掴んだ。 「別に触ってほしかった訳じゃないよぉ~」  ゲラゲラと笑う萌と、ふんっと鼻息を荒くする森野。  オレを蚊帳の外に放り、イチャつき出す2人に、溜め息が漏れる。  ふと逸らせた瞳に、森野が放ったスマートフォンが映り込んだ。  あっ!!!  焦り手にしたスマートフォンを耳に当て、声を放った。 「すいませんっ、鞍さ……」  オレの耳には、何の音も返ってこない。  耳許から離し見やった先は、ロック画面。  鞍崎さんとの通話は、途切れていた。 「もおー。お前らのせいで、電話切れてるじゃねぇかよっ」  苛立ちのままに吠えるオレに、萌も森野も動きを止め、きょとんとした瞳を向けた。 「どうせ毎日、会社でイチャついてんだろ?」  首を傾げながら立ち上がった森野は、オレの肩を、ぽんっと叩いた。 「電話くらいで、ごちゃごちゃ言うな」  まるでオレが悪いかのように、我儘を窘めるかのように紡がれる森野の声。  え?  なんで、オレが悪いみたいになってんの?  納得のいかない顔をするオレに、萌が口を開いた。 「ごめぇん。だって、育ちゃんがあんまりにも幸せそうでさぁ……腹立つじゃん?」  ねぇ?と萌は、森野を見やり、首を傾げた。  森野は尤もだと、首を縦に振る。 「腹立つってなんだよ……」  呆れるように声を放つオレに、萌の後ろに回り込んだ森野は、その身体を抱き締めるように腕を回し、ぽよんぽよんと胸を揺らす。 「こんな魅惑のおっぱいを前にして、平然としていられるお前を俺は信じられんっ」  未知の生物にでも出会ったかのような顔でオレを見やる森野に、萌は、くるりと180℃身体を回した。  森野の首に腕を回し、俺に尻を突き出して見せる。 「森野は、お尻も好きだけどねぇ」  ふりふりと誘惑するように腰を振る萌に、頭を抱えた。 「オレは、ぽよぽよした尻より、きゅっと上がってる方がいいんだよっ」  言ったそばから、疲れが襲う。  なに言わせんだよっ……。  結局、森野と萌が帰ったのは、日付を跨いだ頃だった。  鞍崎さんに折り返しの電話をしようかと考えたが、寝ていたら申し訳無い。  明日になれば、会社で話もできるだろう。  オレはいつも通り、鞍崎さんと2人きりの時間が過ごせるように、朝イチで会社に出社した。

ともだちにシェアしよう!