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第13話 後ろ髪を引かれる
鞍崎さんの背中を追いかけ、自席に向かう。
声を掛けたところで、こんなに人がいる場所で、素っ気ないとか、なにか怒ってますか? なんて、詰め寄ることも儘ならない。
でも、呼び掛けずにはいられない。
「鞍さ……」
「山南 、ちょっといいか?」
また、オレの声に被るように、鞍崎さんが口を開いた。
……避けられてる?
え? 何で……?
鞍崎さんの態度に、オレは首を捻る。
「網野っ」
自席の少し前で立ち止まっているオレに、部長の声が飛んできた。
「はい」
2人を追い越すように向けた視線の先で、部長が苦い顔をする。
「お前、今日から地方巡業だろ? そろそろ出ないと間に合わないんじゃないか?」
滑る視線が捉えた時計は、9時23分。
「あー、ですね」
9時半には会社を出なくてはいけないオレは、自席に戻り、準備に取りかかる。
出掛ける準備を整え、後ろ髪を引かれながらも、会社を後にした。
鞍崎さんに瞳を向けたが、見えたのは横顔だけ。
いつもなら、ちらりとでも視線を向けてくれるのに、瞳は一切、覗けなかった。
仕事が忙しいから…?
だから、オレを見てもくれないのか?
不安な気持ちのままに、オレは2泊3日の出張に出た。
悶々と悩みながらも、オレは、高速道路をひた走る。
避けられている、たぶん……。
何が原因だ?
昨日の夜の電話までは、普通…だったよな?
電話の用件を確認した時だって、少し苛立った声だったけど、あれはたぶん、照れ隠しだろ?
触ろうとしたら避けられたけど、急いでるって言ってたし……。
長距離の移動で、考える時間は山ほどある。
でも、その分、悩む時間も山ほどあるというコトで。
実は仕事がバタついていて、オレを構う余裕がないだけ、なんじゃね?
ふと思いついた理由に、勝手に納得してみる。
その見解は、たぶん間違っている。
間違っているとわかっていても、そんな角度の低い理由にすら、縋りたくなっていた。
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