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第16話 ルーティンに嵌れない朝 < Side鞍崎

 胸の中が、もやもやとする。  避けてたって、解決しない。  嫌なことを先伸ばしにしてるだけだ。  わかってる。  でも、踏ん切りがつかない。  やっぱり女の子の方がいいなんて言われたら、俺はたぶん、2度と、恋愛したいなんて思わなくなる……。  うだうだと出口のない思考の迷路にはまっている間に、家を出るのが遅くなった。  当たり前だが、網野に会いたくないからなんて理由で会社を休むわけにもいかない。  会社に出社し、網野の席を見やれば、出社している形跡はあるが、本人は不在だった。  ほっとした反面で、きゅっと胸が潰される。 「おはよ。今日は随分ゆったりだな?」  始業3分前に自席に辿り着いた俺に、隣席の山南が声を掛けてくる。 「寝坊しました」  愛想笑いを浮かべる俺に、山南の視線は窓の外へと流れていく。 「珍し……。今日は、雪かね?」  物思いに耽るように呟かれた言葉に、俺は首を傾げた。 「いやいや。まだ雪は降らないでしょ」  10月になったばかりだ。  雪が降るには、早すぎる。  くすりと笑う俺に、山南の瞳は、呆れを灯す。 「鞍崎が寝坊するってのは、そんくらい珍しいって話してんだよ」  真面目に返すなよ、と軽い笑い声を添えた山南は、始めていたメールチェックを再開する。  確かに。  こんなに時間ギリギリに出社したのは初めてかもしれない。  時間が無さすぎて、いつものルーティンに嵌まれない。  俺は、少しそわそわしながら、給湯室へ向かった。 「おはようございます」  背中から掛けられた網野の声に、びくりと肩が揺れた。  会いたくなくても、会ってしまう。  話したくなくても、避けられない。  約束しなくても会えるという利点は、裏を返せば、気まずくても会ってしまうということだ。  社内恋愛って面倒くせぇな……。

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