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第23話 あなたは神ですか
頭に浮かんだ単語に、身体がぼろぼろと崩れていきそうな感覚に陥る。
「まだ、ちゅーしか、…バードキスしかしてないのに…。まともに手も握ったことないのに……」
両手をグーパーしながら、しょんぼりと肩を落とした。
オレの言葉に、ユリさんは真ん丸にした瞳を向ける。
「え? あれから1ヶ月は経ってるよね? 相手取っ替え引っ替えしてた育ちゃんが手ぇ出してないの?」
驚きすぎたユリさんは、口が中途半端に開いたままだ。
鞍崎さんは、俺にとって大切にしたい愛おしい存在で。
少しずつ少しずつ進めていきたいのに、まともな恋愛をしてきていないオレは、どうしていいのか、わからない。
でも、一夜限り的な、チャラくて軽い関係が嫌いな鞍崎さんに、オレの本気をわかってもらうには、手順を踏んで、ゆっくりとそういう関係に持っていきたい。
ムードもなにもなく、獣感満載で、えっちに持ち込むのは簡単だ。
でも、それだと身体が目当てだと思われ、嫌われる可能性が、大いにある。
それに、あまりにもガツガツし過ぎれば、引かれそうだし……。
嫌われたくもないし、引かれたくもないオレは、いざとなると、手が出ない……。
変なところがヘタれな自分に、哀しくなってくる……。
考えれば考えるほど哀しくなり、オレの視線は落ちていった。
「あ、大希? ねぇねぇ、なんか新作、出てないの?」
ユリさんの声に、オレは慌てて顔を上げた。
視線の先で、ユリさんはスマートフォンを耳に話を続ける。
「ないのぉ? まぁ、いいけど。話したいことあるんだよね」
ちらりと向けられるユリさんの視線に、鞍崎さんの声を聞ける羨ましさと、避けられている哀しさが胸の中で、ぐちゃぐちゃと混ざり合う。
「いいから来なさいよ。1杯くらいなら奢るから」
電話の先で、鞍崎さんが溜め息をついている気がする。
困った顔をしながらも、ユリさんに呼び出されれば、鞍崎さんは断らない。
たぶん、出掛ける準備を始めているだろう。
「待ってるねー」
明るく声を放ったユリさんは、鞍崎さんとの通話を切り、口を開く。
「本人抜きで話してても埒明かないでしょ。本心、聞き出して上げるから、大希が来たら、育ちゃんはトイレにでも隠れてなさい」
ユリさんの指先が、トイレを指す。
週の真ん中、水曜日。
時間もまだ21時台。
バーにいる客はオレだけで、従業員もユリさんとニューハーフのナナちゃんがいるだけだった。
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