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フリップサイド 4

「時間、だいじょうぶ? 君の親、心配してないかな」 「『友達の家で試験勉強して帰る。遅くなる』ってさっきメールした。だから大丈夫」  ははっ。まるで中学生だ。思わず、くくっと笑ってしまう。 「試験範囲、もしわかんないところがあれば教えようか」 「学年トップ3常連の彼氏を持つ特権だな。それよりお前の家は? 俺、まだ居てもいいの?」 「いいよ」  まだ誰も帰って来ないし、誰かが居たって構わない。それより……、  狭いベッドで、いつも僕の左側に横たわる彼のほうを向くために体を起こし、さっきかけたばかりのメガネをもう一度外してベッドの脇に置いた。そのまま伸ばした右腕で彼の頬に触れ、顔を近づけていった。 「それより、まだ帰らないでよ」  柔らかい唇と唇の間から、濡れた2つの舌が顔を出し、くっつき合う。そこから熱っぽい吐息が漏れ、2つの身体の距離がなくなっていく。 「勉強、教えてくれるんじゃ、ないの?」  どちらからともなく唇が離れた瞬間に、彼がふふん、と笑う。 「それは後で……」 「夜になっちゃうよ」 「夜までするの?」 「さぁ……」 「夜でも、いいでしょ」  僕らはいつも、自分たちが気持ちいいことをするのが大好きで、そうしている間は、それ以外のことは全部どうでもよくなってしまう。学校、受験、バイト、クラスメイト、親。  2人だけで生きていくことなんてできないし、そんなことを望んでいるわけではないけれど、今この瞬間、2人が気持ちよければ他のことはどうでもいい。そんな刹那的な悦びを積み重ねて生きていけたらどんなにいいだろう――。……そんなふうに思ってしまう、甘ったれた弱い生きもの。それが「子供」なんだってことをわかってもいる。  わかっているから、余裕もスキルもなくてお互いに傷をつけるようなセックスしかできないのに、そうすることで、痛みに耐えることで、少しでも強くあろうと、自分たちは強いのだと証明しようとしている。刹那の快感に縋りつくようにして。

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