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(6)生きる
誰かに乱暴に背を叩かれ、耳元で怒鳴られていた。
「秀っ、目を覚ませ、秀!」
目を開けるとずぶ濡れの良様がいらした。
「……りょう、さ……!」
強烈な吐き気に襲われ、胃の中のものを戻した。背を良様がさすってくださる。
はあはあと息をしている僕の体を良様がきつく抱きしめられた。
「愛してる」
耳元でささやかれ、体が震えた。
「愛してる。秀がたとえ兄でも、僕の番は秀しかいない。死のうなんてするな」
涙がこみ上げてきた。ぽろぽろと頬を伝う。
「わたくしはもうあなたのものです。あなたがうなじを噛んだその瞬間から、あなただけの――」
僕は白状した。
「わたくしも良様を愛しております」
良様のお顔を両手に包み、唇を合わせた。
それくらいしか今の僕にお返しできる真実はなかった。
良様の腕にかき抱かれた。
「もうどこにも行くな」
「おそばにおいてくださいませ」
僕も良様のお体に腕を回した。
もう一度唇を合わせると、良様が舌を潜り込ませてきた。それに応え舌を絡め返す。
これほどまでに僕を思ってくださる方がいる。
命をかけて助けて下さる方が。
大奥様が何とおっしゃるかはわからない。
しかし、こんな僕でもこの方のためにもう少し生きていようと思う。
――じんちょうげ じんちょうげ 裏 了――
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