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第9話
「ん、もっといっぱい……っ、やあ、それイイ……っ!」
もっと欲しいと訴える体に正直に、ただただ求めることしかできず颯吾の背中を引っ掻いた。それに応じて、颯吾はまるで俺の体を知り尽くしているかのように深く浅く中を擦り上げ泣き出すほどの快感をくれる。揺さぶられるたびに甘い声が洩れ出して、それがわかっているのに止めることができない。
「あーっ……あっ、ああ! あっ」
「俺で感じてる翠めちゃくちゃ可愛い」
ただただバカみたいに喘ぐ俺を見下ろす颯吾の視線にまた感じてしまう。
初めて見る、欲情した颯吾の瞳。欲の炎が燃えるその目で見られると、そこからまた体に火が付くようだ。
「ね、翠。ここ出すよ」
「え、あ」
「中にいっぱい、ね?」
「やっ……やあ、颯吾、それは……!」
「う……くっ」
繋がった場所から辿った指が下腹部をさすり、その意味に背筋が震えたのはどちらの意味か。
上擦った声で止めようとする俺の儚い抵抗なんて少しも気に留めず、颯吾は俺と同じように感じていた証拠を中にたっぷりと注ぎ込んだ。その強烈な刺激に、俺は声も出せずに体を痙攣させるようにイってしまう。目の前に火花が散るくらいの強すぎる快感は、気を失えたら楽だったほど。
「す、っげぇ、中びくびくしてる。ねえ、翠。気持ちよかった? 中出されて、イっちゃうほど良かった?」
「……ん、きもちいよそうご……っ、もっと、して」
颯吾の声にさえ感じてしまい、俺は自分から腰を揺すってもう一度とねだる。だって足りない。もっと颯吾が欲しい。
「……いいよ。翠が欲しいもの、いくらでもあげる」
理性が欠片でも残っていれば、俺はどこかの時点で恥ずかしさで死んでいたはずだ。まさか、よりにもよって弟のように可愛がっていた颯吾とこんなことをするなんて。
つらいと思っていたオメガの発情期だけど、そこにアルファがいることでここまで自分が、そして相手がおかしくなるとは思わなかった。
これじゃあ本当に獣だ。
……だからこそそれに気づいたのはほとんど偶然のようなタイミングだった。
ソファーの上で幾度も体勢を変え、キスをしては奥に颯吾を受け入れ、痺れるほどの絶頂を何度も迎え。
まるで本当の交尾のように後ろから突いていた颯吾が、覆いかぶさるように体勢を変えたなと思った矢先、その吐息が首筋を撫でてオメガの本能がざわめいた。
「あ……や、それは、ダメ」
慌てて手を首の後ろに当てる。その手に、颯吾が唇で触れた。
「ダメじゃない。翠は、ここを俺に噛まれたいんでしょ?」
ヒートの性行為中にうなじをアルファに噛まれるというのがどういうことなのか。
こんなのフェロモンに惑わされてすることじゃないと、必死にうなじを隠しながら首を振る。
「手どかして」
それでも颯吾は無理やり俺の手を剥がすことはせず、あくまで俺の意思で行動しろと促す。手を掴まれるだけで簡単に外れるような弱々しい抵抗を、自分でやめろと。
ダメだと抗う心と、どうしてダメなんだと問う本能と。
「……みどり、だいすきだよ」
その膠着を溶かしたのは、颯吾の一言。耳朶を直接震わす距離で囁かれたその言葉は、俺の力を抜くには十分だった。
ぱたりと下に落ちた手に、颯吾は小さく笑ってから無防備なうなじに唇を寄せて。
「よくできました」
「あッ……」
次の瞬間、予想していたよりも強い力で噛みつかれ、俺は今度こそ真っ白な世界に飛び込むように気を失った。
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