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第3話
「…ここが、鬼ヶ島?」
そこは「鬼が出た」という村から少し山を登った小さな集落でした。
「…本当に、ここで合ってるの?島ですらないんだけど」
「村の人の言う場所はここなんですが…誰もいませんね」
キョロキョロと周りを見回す桃太郎達。すると無人の家が並ぶ道の奥の方を見つめていた雉が呟きました。
「…誰かいるな。…食べ物の匂いもするぜ。俺、ちょっと行って見てくるな」
と、そちらの方に向かって走り出しました。
「あ、ダメですよ、雉さん!鬼がいたらどうするんですか!」
「雉さん、危ないですよっ」
「…もう勝手なんだから」
3人も雉を追って走り出しました。そして人がいるらしい場所の手前で雉を捕まえ、民家の物陰に隠れました。
そこからそ~っと、声がする方を覗いてみると…
「あ、そこの肉焼けてますよ。赤鬼さんどうぞ♪」
「お、悪りぃな。…ん、うめぇ。肉ならいくらでもいけるぜ」
「さすが赤鬼さん。でも野菜も食べて下さいよ。あ、青鬼さんもどうぞ」
と、180cm超えの大柄な男達が焚き火を囲んで焼き肉をしている所でした。
「…頭に角が生えてますね。彼らが鬼なんでしょうか?」
「そうなんじゃない?悪そうな顔してるし」
「…犬さんてば。あ~、でもいい匂い。俺、お腹すいてきちゃいました」
「俺も、俺も。さっき濃いの出したからな~」
「…もう。雉さんたら、何言ってるんですか」
「…なんなら、もっと出させてあげてもいいんだよ?」
「…え?」
「…え?」
そんなその場に関係のない話をコソコソしていると、桃太郎のお腹が急に鳴ってしまいました。
「…ぐうぅぅぅぅ」
慌ててお腹を押さえましたが、鬼達にまで聞こえたらしく誰何の声が。
「誰だ?そこで何をしている!」
桃太郎は恥ずかしさから、物陰から飛び出し鬼達と対峙しました。
「お、俺は桃太郎だ。お前達こそ、そこで何をしてる?その肉は村人から奪ったものか?」
「はあ?この肉は村のヤツらから買ったんだ!奪ってなんかねえっ」
「ちゃんとお金も払いましたよね」
「赤鬼さんと黒鬼くん、強面の鬼二人に村の人達びびってましたけどね♪」
「テメェ、青鬼!テメェの胡散臭い笑顔の方がよっぽど怖がられてただろうがっ」
「あはは♪」
なぜか内輪もめの始まった鬼達に桃太郎が呆気に取られていると、犬達も物陰から出てきました。
「どうやらキミの勘違いだったみたいだね」
「まあ、そういう事もあるさ」
「え、あ、俺…。鬼さん方!勘違いで疑ってしまって、すみませんでした!」
犬達に言われ慌てて鬼達に謝る桃太郎でしたが、鬼達は案外簡単に許してくれました。
「ふん、まあいい。わざわざこんな所まで来たんだ、せっかくだからテメェらも肉を食って行け」
「それがいいですね。さすがに牛一頭は3人じゃ食べきれませんから」
見れば、鬼達の後ろには山のように盛られた肉の塊がまだ沢山ありました。
「え?いいんですか?やった~♪俺、腹ペコだったんですよね」
「いいよ。皆で食べよう♪皆で食べるお肉は最高の味わいがあるって誰かが言ってました♪」
「…誰が言ったんだよ。よしじゃあ黒鬼、コイツらの分もジャンジャン焼いてやれ」
「はい。任せて下さい」
黒鬼と呼ばれた鬼が再び肉や野菜を焼き始めると、それを見た桃太郎が赤鬼の前を横切って黒鬼の側に駆け寄りました。
「あの、俺も手伝います。手伝わせて下さい」
「本当か?じゃあ、こっちを頼む」
「はいっ」
元気に返事をして手伝いを始めた桃太郎でしたが、その側で赤鬼が不快そうに顔を顰めていました。
「………酒、くせぇ」
「…え?」
呟いた赤鬼が桃太郎を睨み付けていました。桃太郎は咄嗟に拘束具に手で触れてみましたが、外れてはいませんでした。
「あ~、悪いな。赤鬼さんは酒飲めないから酒の匂いに敏感なんだ。…でもそんな匂いするかな?」
と、黒鬼が桃太郎の口元に鼻を近付け…端から見ればキスしているようにも見える格好で、匂いを嗅ぎました。
ギョッとする犬達。
「…ん~、するかな。でも気にする程の匂いじゃないから大丈夫だぞ」
ニッと笑う黒鬼でしたが、犬達が間に割って入り桃太郎を遠ざけました。
「キミ。不用意に彼に近づかないで」
「桃太郎~、俺も手伝うからこっちでやろうよ」
「悪いな、黒鬼。桃太郎はちょっと特異な体質なんだ。そういう事されると困るんだよ」
そう犬達に牽制され黒鬼が茫然としていると、その後ろからヒョイと現れた青鬼が、桃太郎の手を取り自分の方へ引き寄せました。
「へえ~。君、随分と大事にされてるんだね♪お酒の匂いに特異な体質?スゴく気になるなぁ♪」
爽やかな笑顔の青鬼。その腕の中で桃太郎がときめいてしまったのは仕方ない事でした。
またしても漏れ出る『ももっしゅ』の香り。
「…ああ、これが」
と呟く青鬼の腕の中、必死で逃れようともがく桃太郎。
「…は、離して下さい。このままではあなたにまで被害が出ます」
犬達も桃太郎を助けたかったのですが『ももっしゅ』の漏れている桃太郎には近付く事が出来ませんでした。
「ふふ、こんな時に僕の心配をするなんて、君はいい子だね♪それに…」
桃太郎を腕の中に綴じ込めたまま、周りに視線をチラリと寄越す青鬼。
「…その体質のお陰でジャマも入らないみたいだし?このままここで君を食べちゃおうかな♪」
そう言って桃太郎に口付けました。
くちゅくちゅと水音をさせ咥内を青鬼の好きにされていた桃太郎。次第に足に力が入らなくなりカクリと崩れ落ちそうになりました。
「おっと危ない」
青鬼がそんな桃太郎を抱き支え、欲を滲ませた目で見つめ舌舐めずりしました。
「…あは。思った以上だ」
「…はぁ、は…、なん で 、あなた…は、へいき…、なんです…か?」
「ん?全然平気じゃないよ♪今すぐに君を犯したい、って衝動でおかしくなりそうだ。…だから、スるよ」
再び青鬼が熱い吐息を零す桃太郎に口付けようとした時、赤鬼の怒号が響きました。
「テメェ!青鬼、いい加減にしろっ!誰もテメェらの情事なんざ、見たくねぇんだよ!」
「…もう、イイトコロだったのになあ」
「っざけんな!テメェならソイツのそれ、何とか出来んだろ?さっさとやってやれ!」
「ふふ、分かりましたよ。これ以上、赤鬼さんに怒られたくないし、行こっか桃太郎君♪」
すると青鬼からコウモリのようなツルリとした羽根と尻尾が現れ、桃太郎を抱き上げるとフワリと浮き上がりました。
そして山の上の方へと飛び立ってしまったのでした…。
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