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第3話

◇  獣人に、人族、魔族にエルフやドワーフなど、この世界は多種多様な種族が生まれる。そしてそれぞれの身体に適した土地に住みつき、国を作り活動していた。  時には諍いが起き、場所によっては国同士の戦争が勃発したりしており、決していつも平和な世界という訳ではない。  それでも色々な種族達が、お互いの特性を活かして同じ場所で助け合って働く姿は、どこでも見られる自然な光景だ。  しかし唯一、獣人社会だけに見られる特殊な性差別問題は、また違う深刻さを生じさせていた。  獣人には男性と女性の二つの基本性の他に、アルファ、ベータ、オメガの第二の性を持ち、分類されるのだ。  三つの性は、明確な生物上の能力と機能に違いが見られ、それが性差別へと繋がっている要因でもあった。  アルファは、リーダーシップに優れ、知力、身体機能も、他の性の者より能力が高い者が多い。 戦闘力や魔力も、鍛えれば間違いなく伸びる。その為、国家を守る上で必須になる聖騎士や上級軍人は、アルファ達にとって人気の職業だ。  魔力が高い者は魔術師にもなったりした。その更に上位の職業である聖魔法騎士や賢者になれた者は、アルファしかいなかった。  ベータはアルファ程、優秀にはなれないが、獣人としては平均的な知能と身体機能を持っている。ベータはベータ同士が惹かれ合い、結婚するのが普通に慣例になっている。他の性と結ばれても、残念ながら破綻する確率がとても高いからだ。  そして最後のオメガ性だが、数的には一番少なく、生きる上でハンデがある性だと言われている。 特に身体機能は、他の性に比較すると弱く、小柄な者が圧倒的に多かった。  その為、草食獣人や小動物系獣人は、総合的にオメガに生まれる確率がぐんと高くなる。 魔力だけはベータよりも高いが、それも一定期間は、がたっと使えなくなる。  その理由が、一ヶ月に一度訪れる「発情期」だ。 発情期は、体内から強くフェロモンを発し続けて、発情抑制剤を飲まないと自身の意識も朦朧として体調を崩してしまうのだ。それだけではなく、そのフェロモンはアルファにも強制的に発情をもたらし、性的欲求を爆発的に起こさせる為、厄介な物だと思うアルファ達が少なくなかった。  というのも、発情期間中にアルファがオメガに種付けすると、ほぼ間違いなく妊娠させてしまうからだ。男女関係なく、オメガは子を成せるという、他の種族からすると不思議な生体を持っていた。  また魔力と生命力の強い上級魔族にも、フェロモンに惹かれる者がいるらしく、そのまま拐われる事件も多発している。  オメガの発情期は、他の者にも悪影響を及ぼす。それが一般的なオメガに対する悪い印象だった。しかしそうは言っても、アルファの子を産めるのは、唯一オメガだけという貴重な存在でもあった。  ラシャは、厄介だが貴重なオメガ性を持つ魔術師だ。同時にオメガという理由で、このコルーゼランダーク国の王位継承権を剥奪された、かつては第二番目の悲運な王子でもあった。  そしてドラグは優秀なアルファの一人であり、空軍師団に所属する軍人として国を守っている、ラシャの従兄弟であり大切な恋人である。 ◇  ラシャとドラグの身長差は、種族の違い故に半分近くあったが、仲睦まじい二人の間には、些末な事だった。  トトカモ肉のトマトソーススパゲティを美味しそうに、綺麗に整った魅力的な大きな口を開けてもの凄い速さで食べる彼に、ラシャもついポカンと口を開けて見てしまった。量もラシャが食べる小動物系用よりも、五倍は軽く超える量だ。 「食うか?美味いぞ」  見られているのに気づいたドラグは、ラシャも食べたいのかと思い、クルクルと小さめにフォークでスパゲティを巻き付けると、彼の口元に持って行った。 「い、いいの?」 「少し行儀悪いが、一口くらいならいいだろう。」 「あ、ありがとう。ちょっと食べてみたいなと思ってたから」 「ん。口開けて」  笑いを堪えるような顔の恋人に、食べてみたいのがどうして分かったんだろうと思いながらも、誘惑に勝てず、おずおずと口を開けた。  口に入ってきたスパゲティを咀嚼して味わうと、トトカモ肉のくどく無いがコクのある味に、トマトソースとハーブの爽やかな香りが口の中を駆け巡った。一言で言うと……。 「んーっ、美味しいっ」  ウサギ耳をピクピクさせて小さな口を一生懸命モグモグする可愛らしい恋人に、ドラグは堪え切れずに吹き出した。 「そうか、良かったな」 「んー?むんんーっ」 「な、何言ってるか分かんないって……。ゆっくり飲み込んでな」  ドラグの使っていたフォークが小動物用じゃなかったから、自分にとってはかなり大きな一口だったのに、笑うなんて。でも美味しい……。  ひたすらモグモグ口を動かしているラシャを見て、くっくっと楽しそうに涙を滲ませている。 「ほら、水も飲んで」  水の入ったグラスを差し出す気の利く彼に、有り難く両手で落とさないように受け取った。グラスのサイズは、顔より大きかったけど、この際我慢だ。  テーブルの上にコップを置いて、そのまま傾けるようにして飲む、幼児みたいな真似を見て、必要以上に和んだ目で見るドラグには、後で説教だ。

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