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第4話

 ラシャは水をゴクゴク飲み、グラスを置いてから、わざとらしく神妙な顔つきをして言った。 「とっても美味しかったけど、色々失礼でしょ、ドラグ君」 「ごめん。でも口の周りにソースが付いてる、ラシャさん」  そう謝りながら、丁寧にペーパーで口元まで拭ってくれる彼氏は、もしや同僚が以前教えてくれた、「天然おかん属性」というのかもしれない。 「あと、スパゲティだけじゃ物足りないから、肉料理も追加してもいいか?」  うん。彼氏天然説、濃厚だ。  ラシャはそう思いながら、無言で手を上げて、忙しく歩き回っている給仕のお兄さんを呼び止めてあげたのだった。 ◇ 「そう言えば、団長から五日後に魔法軍師団と空軍師団で、実践戦闘演習をやるって聞いたんだけど。ドラグ、何か知ってる?」 「ああ。他の翼獣人達からいくつか聞いている。実は何故か少しずつ、死霊竜王の魔力が強まってきているらしい。その影響で魔物達の活動が活発になってきているとの報告が、近隣諸国から出始めているんだ」 「そんな……。大丈夫なのかな?」 「この国は山脈に守られているから、民が襲われたと言う事件はあまり聞かないからな。でも実被害が起きるのも時間の問題だろう。『死霊竜王の呪い』は決して消えない物だから」  『死霊竜王の呪い』とは、数千年前に起きた、アルファとオメガのある悲しい事件が発端になった。 そのせいで悲惨な戦争が始まったとされている。  賢王と呼ばれていた竜王は、己の掛けた呪いで死霊竜となり、死ぬことなく今も山脈を超えた魔国で独り、魔物を生み出しながら眠りについている。  死霊竜王の話しが出る度に、ドラグはどこか辛そうな表情をする。  それは自分も彼と同じ竜人族だというだけではなく、彼の遠い先祖でもあるからだろう。  ドラグは現在の王様の甥に当たり、ラシャの従兄弟でもある。いわゆる傍系親族だ。  ドラグが子供の頃にラシャに話してくれたのだが、死霊竜王の言い伝えが浸透していて、彼の家族から竜人族は、あまり王族と仲良くしてはならないと教えられているらしい。  竜人は、特に王になってはいけない種族だとされてもいる。王家に竜人が生まれた場合、その者が例えアルファだったとしても、王子として認められないと法律で定められているのだ。  その為、竜人族達側も、王族を敬遠し避ける者がかなり多いと聞く。 ラシャはオメガだが、彼らの気持ちが痛いほど理解できた。  自分も王家の子供として生まれて来たのに、オメガというだけでアルファの王や、王妃に実子とみなされず、父や母と呼ばせてもらえなかった。  今は第一王子のファランが保護者になって、住居などの面倒を見てくれているのが現状だ。  そういうわけで、オメガが多く所属している魔法軍師団と、竜人族が幅を利かせている空軍師団は、かなり相性の良い組み合わせなのだった。  『死霊竜王の呪い』の活性化の報せは、世界中に悪い意味で、甚大な余波を生みそうだ。  そうは言っても、とドラグは不安そうなラシャの手を握った。そして優しい笑みを浮かべて、安心させる低い美声で励ますように言った。 「父さんが団長を務めている限り、この国の安全は保障する。それに俺も命に変えて、必ず守るから」 「ド、ドラグ……」 「本当に、ラシャをずっと大切にしていきたいと思ってる。この世界で一番愛してるから」 「うぅ……。ドラグ、恥ずかしいよ。周り見て……」  顔を近づけて愛を囁く彼に、ペシャンとウサギ耳を下げて、赤い顔を俯けたまま、小さく言葉を溢した。 「え?」  ドラグが周りを見ると、皆、動きを止めてこちらを見ていたのを、あからさまに一斉に目を背けたので、鈍感なドラグでも漸く皆に聞き耳を立てられていたのに気づいた。 「参ったな……」 「ドラグ、すごい大きくて格好いいから。皆に注目されてるの、いい加減気づこう?」 「そんな事言われてもな……。俺はお前が可愛くて堪らないんだって事に、もうちょっと気づいて欲しいんだが」  微妙に話しが噛み合わない天然彼氏に、ラシャは無言でテーブルの上に置いてあった注文明細書を、ふるふると握りしめたのだった。

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