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第5話

 あれからドラグは肉料理を頼み、しっかりデザートまで食べて御満悦で食事を終えた。ラシャは周りからの生温かい視線を振り払いながら、動じない彼を引っ張るようにして、カフェを出たのだった。  暫く二人は通りを歩き、近くの馬預かり所でドラグの愛馬を受け取った。そしてラシャを先に前に乗せると、ドラグはゆっくりと馬を歩かせた。ラシャはドラグの逞しい胸に身体を預け、彼の温もりに密かに胸を高鳴らせながら、おしゃべりを楽しんだ。  ドラグは彼の話しに相槌を打ちながら馬を操り、第一王子で王太子である兄のファランが住む王宮へと送ってくれた。  王城に辿り着き、正門を通る。そして緩やかな坂を東の方向へぐるりと回り登って行くと、再び大きな門が見えてきた。  門の傍には数人の門番達が警護にあたっていた。ラシャ達は、すっかり顔馴染みの門番達と気安く挨拶を交わし、門を通り抜けた。すると前方に立派な庭園が視界に広がった。  ここから真っ直ぐ一本の道が続き、遠くに宮殿が建っているのが見てとれた。  脇には見事な造形庭園が高い壁となって、宮殿を護るように四方を囲んでいる。広くない道が一本しか無いのは、敵の大群に強襲をかけられない為の策なのだという。自然と芸術の防壁になっており、美意識の高いファラン王子らしい防戦術と言えた。  奥に見える宮殿は、美しくも雄々しい騎士や獣人の白い彫刻が壁に彫られていて、荘厳な佇まいだ。  既に地上に傾きかけた夕陽が、宮殿の屋根を暖かく照らしている。 「あーあ。もう着いちゃった……」  宮殿が近づいて来ると、ラシャが寂しそうに呟いた。 「今日は楽しかったか?」 「勿論!すごい楽しかった!」 「そうか。良かった。俺も楽しかっよ」  ドラグは造形庭園の壁から出る手前で馬を止めた。丁度、宮殿から視界になる位置だ。そして馬上から降りると、ラシャと目を合わせた。竜獣人特有の光彩が縦に細く走っている蒼い瞳にじっと見つめられ、彼は心臓がキュッと鳴るのを感じた。 「あっと言う間の時間だった」  低く腰に響くような声で囁きながら、両肩をそっと掴んだ。何かを辿るように頬や眦を優しく、何度も口づけを落とす。  ラシャは、彼の羽のような柔らかいキスに自然と瞳を閉じた。軽いキスが繰り返され、自分を慈しんでくれる彼の愛情を感じた。  気持ちいい……。でも、もどかしい。何か、もっと……。  ラシャは閉じていた瞳を薄く開けると、ドラグの肩に手を乗せ、彼の耳元にそっと囁いた。 「ドラグ……。ちゃんと、大人のキスして……?」 「ラシャ……」 「お願い……」  誰にも聞かれないように。自分達だけにしか聞こえないように。  ラシャの熱い吐息が、ドラグの耳にかかる。ラシャの甘い懇願に、彼は僅かに目を見張り、驚いた表情を浮かべた。しかしすぐに瞳に燃えるような光を宿し、ラシャの顎を掬い上げた。夕陽の逆光で良く見えない表情の顔が、近づく。 「んっ……」  唇と唇が触れ合い、何度も離れてはまたくっつく。チュッと微かなリップ音が、静けさに沈んだ庭園に大きく響いた気がした。小さいのに誰かに聞かれそうで、ラシャは急に恥ずかしくなって、唇を強く押し当てた。 「はむっ……。あむっ……」  拙いながらも、積極的とも取れそうなラシャのキスに、ドラグも容易く火を付けられる。小さな彼の背中を抱き締めると、閉じたままの唇を舌先で舐め、誘った。 「ラシャ、口を少し開けて……?」 「んんっ、んぅ……」 「そう、いい子だ……」  おずおずと開いたラシャの口唇の隙間から、舌をそろりと挿し入れた。そして大きな舌を口腔の中でぐるりと回しながら、ラシャの可愛らしい舌に絡ませ、翻弄していく。 「ふぁっ、んぁっ、あむっ……、はぁ、ぅんっ……」 「ふっ、んっ……」  敏感な口蓋を優しく擽られたり、舌で激しく掻き回せられると、ピクピクと耳が震え、ジンと脳内が熱くなり、感じ入った声が漏れ出す。  激しいキスにラシャも堪らず、ドラグの肩にしがみついた。 「はぅっ、ふっ、んっ……、ぁんっ、あむっ、はぁっ、ぁんっ……」  お互いの舌と体液が絡み合い、クチュクチュと淫らな音が、二人の官能を刺激する。大きく開けさせられたラシャの口からは、飲み込めずに溢れ出した体液が次々と顎へ流れ落ちた。  ドラグは彼の濡れた顎を舐め啜っては、まるで飢えた者のように貪欲にそれを飲み干していく。そしてラシャの咥内を犯すように舌を蠢かせ、絡め取った。  淫らな水音を立てて咥内を愛撫され、舌を絡めながらジュッと吸われ続ける。ラシャもそれに応えようと必死で彼の舌を舐め、きつく吸いつき返した。 「はぁっ、はむんっ、んんっ……、んっ、はぁっ、あぅんっ……、」 「はっ、はぁっ……、んっ……」  ドラグは、ラシャに舌を吸われて、漸く名残惜しそうに唇を離した。  ラシャは、彼の広い肩に頭を乗せ、荒く呼吸を繰り返した。 「すまない。つい熱中し過ぎてしまったな……」  くったりとしたラシャの艷やかな白い髪を労るように撫でながら、ドラグは謝った。 「ううん。とっても気持ち良かった……」  ラシャは彼の肩に甘えるように頭を寄せた。  もっとドラグとこんな風に一緒にいたい。キスだけじゃなくて、同僚や先輩達が噂していたみたいな大人がするようないけない事とか……。 「早く、発情期来ないかな……」 「ラシャ?」 「そうしたら、発情期の間はずっと一緒にいられるのに……」  切ない表情で落ち込むラシャに、彼はラシャのウサギ耳にキスを落としながら、励ました。 「ラシャの身体はラシャなりの早さで大人になればいい。焦らずに成長していけばいいさ」 「ドラグ……」 「俺はお前の為なら、いつまでも待っていられる」  ドラグはそう言うと、優しく微笑んだ。  ラシャはこみ上げる想いに、ドラグの首に飛びついた。 「あぁ、もう……!やっぱり早く大人になりたい!」 「ラ、ラシャ?」 「もし発情期になったら、ドラグを呼んでいいって、やっとファラン兄様に許しを貰えたから……。そうなったら、来てくれる……?」  恥ずかしそうに見上げるラシャに、ドラグは嬉しそうに抱き締めた。 「あぁ、勿論だ。その時はどんな時でも、どんな遠くにいても駆け付けるから。ずっと一緒にいよう」 「うん……。ありがとう」  日が完全に落ちて、空に小さく星がかかり始めるまで、二人はお互いの温もりに浸るのに没頭するのだった。

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