9 / 13

第9話

◇  ファランに薄手のガウンを脱がされ、ラシャはワンピース状の純白の寝着一枚の格好になった。  彼の白く細い首元が露になり、そこには銀糸で細かく刺繍模様に編み込まれた首輪が填められていた。  その首輪は、星糸と呼ばれる光沢のある艶と聖なる光を発する特別な銀糸を用いられている。  魔物の寄り付かない聖域でしか育たない、「星木霜」という木の樹皮から採れる繊維を糸に加工して、特別な製法で作られる。  丈夫で汚れに強く、伸縮性も優秀で、身体にぴったりと馴染むのが特徴だ。  オメガは、アルファにうなじを噛まれると、無条件に無二の番として身体が承認し変化する。噛まれたアルファにしか欲情しなくなる。例え他に愛するアルファが現れたとしても、身体が拒絶反応を起こし、そのアルファとの性行為を受け入れられなくなるのだ。その為、未婚のオメガは必ず首輪を付け、アルファからの意に沿わぬ暴挙から身を守るのが必要とされている。 「どうやらここは、ドラグに触らせていないようだね」 『ラビトーの恋雫』が効き始め、漏れ出したラシャのオメガのフェロモンに触発されたのか、悩ましい溜め息を吐きながら、ファランは彼の首輪の刺繍に指を這わせた。 「んっ……」 「この首輪は、いくら彼でも簡単には触れさせてはいけないよ。外したりなどしたら、どうなるか言ってあったね?」 「はっ……。罰として、この宮殿に監禁されるって……」 「そう。冗談ではないよ。約束を守らない悪い子は、お仕置きされてしまうからね。しっかり覚えておくんだよ」  私の大事な弟は、誰にも代え難い存在だ。ずっと大事にして可愛がってあげたいんだ。  頰にキスを送りながら囁く兄の声に身体が反応して、ゾクゾクと背中に震えが走る。身体がふわふわと浮遊感を感じ始めて、堪らずにファランの手を掴んだ。 「はぁっ、ふっ……、兄様…」 「気持ち良くなってきたかい?少し移動しようか」  そう宥めるように言うと、ファランはラシャの背と腿に腕を回し、持ち上げた。そしてベッドに上がり、王族の象徴カラーに染まった赤いシーツに彼をそっと横たえた。  金糸で刺繍された豪奢な枕に、頭を乗せたラシャは、朦朧とした意識の中、覆い被さってこちらを見つめている兄の顔を見上げた。  艷やかな金色の髪を流れ落ちさせながら、男性らしさを兼ね備えた美貌を魅力的な微笑みで輝かせながら、うっとりとした声を降らせた。 「あぁ、私のラシャ……。綺麗だよ」  ウサギ耳を小さく震わせ、顔は赤く火照らせて、銀色の瞳は泣きそうに潤んでいる。呼吸をする為に唇を薄く開け、力を抜いた状態でしどけなく横たわっているラシャを食い入るように見つめる兄。  ファランは堪えきれないというように顔を寄せると、彼の唇を塞いだ。 「あむっ、んっ、ふぅっ、んっ……」 「ふっ、んっ……」  兄の熱く滑らかな舌が、ラシャの咥内を情熱的に侵略する。震える小さな舌を絡め取り、擽るように口の中全体を舐め尽くしていく。ドラグの優しい強引さとは違った愛撫のされ方に、今までされてきた違いを見つけてしまう。  ドラグがいるのに、僕、いけない事しているみたいだ……。  ドラグの愛しい顔が浮かび、彼への奇妙な罪悪感が心の中に浮かび上がる。  しかしそんな考えがよぎると同時に、ファランの愛撫がそれを綺麗にさらっていく。 「あっ、あふっ、んっ、むぁんっ……」 「ラシャ、何を考えているか、んっ、分かっているよ……」  ファランはねっとりとした舌遣いで、彼の戸惑いに気づきながら、更に攻めを強めた。口蓋を速めた舌先で擽り続け、彼の舌に吸いつく。 「あぁっ、あぅっ、んんっ……!」 「悪いけど、彼との思い出を塗り変えさせる程に、今日は君をいつもより気持ち良くさせてあげるから」  ファランは彼にそう囁くと、うっとりと微笑んだ。しかしその金色の瞳は燃えるような情欲の色を隠せていなかった。 「に、兄様……」   そんな兄に快感に身体を侵されながらも、怯えた瞳を見せるラシャは、いけないと思いながらも毎回乱れてしまう未来を想像して、頼り無く身体を震わせるのだった。

ともだちにシェアしよう!