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第2話

「あいすまぬが、品を見せてもらっても構わぬか」  その日は雨脚自体は軽いが、雨が1日中、降りしきるような日だった。  この商人の町でも雨が降れば、客足はそれなりに遠のく。一応、町全体には屋根があり、屋根伝いに店から店へ出入りをすれば、軽い雨風なら傘などは要らない。  だが、それにしても、こんな日に客とは……と胤は思うと、「ああ」と短く答え、店に入ってきた客を帳簿越しに見た。  右目が隠れるように黒い頭巾を被り、それ以外の箇所は布で覆われているのが分かる。どうやら手にも包帯が巻かれているのか、黒地に花や葉を華美にならない程度にあしらったローブから覗いていた。 「さぞ気味が悪いであろうな。買わぬものは触れぬから許してくれぬか」  声を聞く限り、落ち着きがあり、20代前半の胤よりも幾分かは年上のように聞こえるが、随分と老熟した口調だった。  ただ、顔はおろか、表情もあまり分からないので、商いを生業とする胤も正確には分からないが、おそらく40手前ぐらいの男だろう。  ただ、客がどのような者であっても、胤はいつも通りに接した。 「……些細なことは気にせず、好きに見て行くと良い」  胤は何も理由なく、客を追い返している訳ではない。ハナから品物を買う気のない者や売物を乱雑に扱う者、店の中で関係のない話をする者が許せないだけなのだ。  現に、目の前の客のように品物を買おうとし、丁寧に売物を扱おうと心を配る者であれば、包帯が巻かれていようが、いなかろうが、商品を手に取って見ることなどは構わなかった。 まぁ、この客がまさか神経を逆撫でするような話をすれば、話は別だが、男のどことなく醸し出している仙人か神仏のようなどこか格の高い雰囲気から考えると、その可能性も低いと胤は思った。 「それはありがたい、では、見せてもらおう」  それから小1時間ほど、その黒い頭巾の包帯を巻いた男は店にいて、数冊、巻子と何種類か茶葉を買った。

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