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第9話

「今では薬師などをしているが、昔は火薬師をしていてな。自身で言うのもなんだが、結構な腕だった。だが、火薬庫が攻められて、全身、火で焼かれた。生きているのが不思議なくらいの状態だったという」  茶の支度が整うまで、胤は土間と百目だんすや薬研の置かれた剤の仕事場を区切るギリギリにところに腰をかけ、剤の話に耳を傾ける。  確かに、師父と奥方のことや、昨日、剤と出会ったことがなかったことになっていた点は気になるが、剤の頭巾と包帯の理由も気になっていた。 だが、あまり軽く持ち出せない話題であるが故に、この機を逃せば、胤は永遠に理由を知ることは叶わない気がしていた。 「この店は我の一命を取り留めた薬師の持ち店で、薬師が亡き後、譲り受けたのよ。まぁ、天が授けた報いかも知れぬな」 「報い……」 「自身が生き長らえる為だったとは言え、敵味方なく火薬で散らした。裁かれはしなかったが、今からでも責め立てられたら、首を刎ねられても仕方ないであろうな」  時間はかかってしまったが、茶が入ったと、剤は胤に茶碗を差し出す。  この辺りではあまり見ない、真っ白な土で焼かれ、薄っすらと金の装飾が入った茶碗に品良く淹れられた赤茶色の茶。  胤からすると、以前、出されたものと同じだった。 「……」  胤が茶を飲むと、幾分か、巻子やその他様々なものを階段を上り運んだ疲労感も消える。  だが、疲労感は消え去っても、疑問までは消え去らなかった。 「浮かない顔をしておられる。我の茶は口に合わぬかったかな」 「いや、そんなことは……」  胤は茶碗を置くと、「体が軽くなったみたいだ」と言い、腰を上げる。  確かに、奥方や師父らの死はなかったことになり、薬師を恨む理由はなくなった。目の前にいる剤も薬師ではあるものの、残念だと思う理由もなくなる。  しかも、剤は過去の過ちの報いとして、薬師をしているという。  もし、あの過去をなくしてしまえる丸薬があれば、自らが服用し、火薬で焼かれる前の身体に戻ることも、火薬を作って、10人、100人と殺した過去をなかったことにできた筈だ。

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