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第6話

 次の食事の時も、その次の食事の時も、雪政は口を引き結んで透という存在が見えていないかのようにふるまった。  あれほどおびえた愛をささやく言葉が雪政の口から出なくなって、透は無性に切なくなる。そしてそんな自分に混乱する。声をかけてもこちらを見ない。一瞬目が合った時、透の心は凍り付いた。  何の感情も読み取れない、まるで物でも見るような目だった。  透は自分が人形になり果ててしまった気がした。  すうっと頬を涙が滑り落ちていく。  透は声も出さずに泣きながら、部屋を出ていく雪政を見送った。 「ねえ」  静かに苦し気につぶやくように小さな声で雪政を呼ぶ。 「ねえ、兄さん」  雪政は顔を上げずに乱暴に透の体を揺さぶっていた。  ただ処理するだけのようなセックスが何度続いたのか。  あれほど言葉にしてくれた愛情はもうすっかり消え失せてしまったのだろうか。それではなぜ、自分は抱かれているのか。  中心を貫く雪政の熱を感じながら透は兄の背に爪を立てた。 「何か言ってよ!」  どん、と肩に拳を打ち付けても雪政が顔を上げることはなかった。荒い息を吐きながら小さく呻いて雪政が自身を抜き去ろうとする。思わず体にしがみついて大声を上げた。 「ねえ、なんで? なんで何もいってくれないの?」  しかし雪政はそんな透の体をぐいっと突き放すと、深く息を吐いて体を起こした。さらりと前髪が垂れ、隙間から雪政の瞳がのぞく。  その瞳の色の無さに透は絶望した。  押し返されてもしがみついて腕を引っ張りそれでも雪政は透を突き放そうとする。 「愛してるって言ったじゃないか!」  うんざりしたようなため息が雪政の唇から吐き出された。びくりと体を強張らせるも必死でしがみつく。 「何か言ってよ! ねえ! 僕ってなんなの?」  雪政は静かに立ち上がるとそのまま部屋を出て行った。 「兄さん!」  無情にもバタンとドアが閉じてしまう。薄闇に包まれながら透は何度もつぶやいた。 「愛してるって言ってよ。愛してるって言ってよ。愛してるって言ってよ!」  力任せに投げつけた枕が食事が入ったままの皿にぶつかり音を立てて床に落ちる。大きな声も大きな音も聞こえているはずなのに雪政は戻ってこなかった。

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