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第8話
それからの日々は幸せ一色だった。完全に落ちた透は雪政の愛に体中で応え、それに雪政も満足しているように見えた。
そのはずなのに。
ある日を境に唐突に雪政は部屋に入ってこなくなった。気持ちが通じ合ったのではなかったのかと、何度も泣きわめき兄を呼ぶが、人がいる気配すらない。
それが何日にもおよび、次第に透は衰弱していった。水はかろうじてあるものの、食べ物は雪政が持ってこないと何もない。手を必死で伸ばしてもドアノブには届かない。徐々に力が入らなくなった体で、しかし指だけでしきりにドアをひっかいた。
カリカリと、その音だけが部屋に充満していた。
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