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第5話 年の瀬 ①
飛鳥井建設 年末恒例大掃除
今年は年号が変わってから初めての年の瀬と謂う事もあって、副社長は今年は特に綺麗に掃除をしましょう!と言い出したから‥‥‥
社員はネットで凄く落ちてピカピカ‥‥と謂う洗剤を私財を投入して買い込む程となった
最近社員は口を開けば
「うさポン印のマイクロファイバーの雑巾、めちゃくちゃ綺麗になるって謂ってたから僕買っちゃったよ」
だの
「キレキレ本舗のお掃除ポイポイ買ったよ俺!
吹き掛けると凄い落ちるってレビュー見たから買っちゃったよ」
「私はツルリン印のキュピカスポンジ買ったわ!」
と、大掃除に役立つアイテムを持ちより協議を重ねていた
そうして迎えた大掃除の日
社員は会社正面玄関の中に整列して掃除が始まるのを待っていた
副社長が姿を現すと、皆、固唾を飲んで姿勢を正した
「今年も大掃除の時期がやって来ました!
皆さん、掃除道具を用意して迎えたと聞きました!
領収書を提出して下されば掛かった費用はお支払致します
そして今年は掃除のペナルティの強化をします!
くれぐれもペナルティ金を支払わぬ様にして下さいね
そして今年から一番綺麗だった部所に【一番綺麗だった賞】を授与します
皆さん、こぞって磨きあげて下さい」
副社長の榊原伊織は皆に必要事項を伝えると、次は真贋が口を開いた
「皆様、今年も一年 ご苦労様でした
飛鳥井建設は常に台風の目になる事も多く、今年も色々な妨害等困難な事ががあった
だけど我等は絶対に負けない!
決して負けぬ闘志で今年最後の大仕事、大掃除で会社を磨き
来年も一致団結して苦難を乗り越えて行きましょう!
来年はペナルティのお金を利用して有志だけで旅行も計画しております!
皆さん 頑張って下さい!」
康太が話を終えると翔が姿を現しペコッとお辞儀をした
その横には兄弟も整列していた
康太は「飛鳥井家 次代の真贋だ!
皆、宜しく頼む!」と翔を皆に紹介した
社員は深々と頭を下げた
「今年は我が子が掃除の監督をする!
皆、ガキだとナメると痛い目を見る事になるかんな!」
康太はそう言うと笑った
そして「栗田!」と名を呼んだ
名を呼ばれ栗田は「はい!」と康太の前に出た
「翔、栗田と行け!」
「あい!わかりまちた!」
翔は栗田の横に並ぶとキツい瞳を栗田に向けた
「よろちく!」
「真贋!宜しく御願いします」
挨拶を交わす
康太は「陣内」を呼んだ
陣内は康太の前に出ると
「烈だ!一生をサポートに着けるから連れて行け!
烈は結構手厳しいからな覚悟しとけ!」
とニャッと嗤って烈の背中を押した
烈は貫禄な笑顔で陣内の傍に立った
康太は「蒼兄」と呼ぶと蒼太が一歩前に出た
「太陽だ!太陽は綺麗好きだからな、手を抜くとネチネチ言い出すかんな!」
「解りました、では太陽、宜しく」
太陽は「あい!」と返事をした
康太は「水野」を呼んだ
水野は「はい!」と一歩前に出た
「流生だ!」
「宜しく流生君」
流生はペコッと挨拶をした
「城田、音弥を連れて食堂の手伝いに行け!」
城田は一歩前に出ると「解りました!」と了承した
「ラストは愛染、瀬能」
名を呼ぶと愛染と瀬能は一歩前に出た
「お前達は大空を連れてレストランへ行け!」
「「はい!解りました!」」
康太は息を吸い込むと
「では、掃除スタート!」と叫んだ
康太が謂うと一斉に各部署へ皆が散らばった
栗田は翔を連れて建設 施工 設計図部門へとやって来た
翔は掃除を始めた部署を見渡していた
厳つい男供が綺麗に磨き上げて逝く様を見ていた
建築 施工 部門の男達は妻帯者が多い
子持ちも多い部署の男供は、翔に声をかけた
部署の皆は知っていた
翔が普通の子供ではない事を‥‥
この年にして重い荷物を背負わされているいる事を‥‥
翔の腕は包帯が巻かれ布で吊られていた
九頭竜遼一は翔に近寄ると
「痛くねぇのかよ?」と声をかけた
「りょーいちくん、いたいけど‥‥らいじょうびです」
姿勢を正して立つ姿は何処から見ても隙のない真贋だった
遼一は翔の頭を撫でた
「俺には弱音謂っても構わねぇぞ‥‥」
「りょーちくん‥‥かけゆは‥‥にゃさけにゃいにょね‥‥らから‥‥」
弱音は吐けないと翔は謂った
「おめぇは頑張ってるさ
おめぇが康太に変わる時、俺はおめぇの為に動く事を誓う程にな!」
遼一はそう言い翔の頭をグリグリ撫でた
部署の男達は遼一に近寄ると
「遼一さん、翔さんと顔見知りなんですか?」
と声をかけて来た
「現場で何度かあってる」
翔は建築 施工 設計部の人間に人気があった
翔は笑っていた
栗田は「掃除しないとペナルティだぞ!そろそろ掃除してくれ!」と皆を散らした
皆は笑って散らばり掃除に専念した
翔は視ていた
「くりちゃ まどと、たなはねんいりに」
「でないとペナルティ?」
翔は頷いた
栗田は「窓と棚は特に念入りにやれよ!」と発破を掛けた
翔は栗田を視ていた
「くりちゃ」
「何ですか?」
「くりちゃは‥‥かぁちゃいにゃくなったら‥‥ろーする?」
栗田は驚愕の瞳を翔に向けた
「どうする?とは?」
「きっちょ‥‥くりちゃはかけゆのためには‥‥うごかにゃいよね」
あぁ‥‥‥そう言う事か‥‥‥
栗田は覚悟を決めた瞳を翔に向けた
「栗田一夫は康太の駒です!
彼が‥‥君と出逢わせた瞬間、俺は貴方の駒でもあると告げたのです
ですから‥‥俺は‥‥‥康太がいなくなったとしても、貴方を支えて逝くと約束します!」
栗田は泣いていた
康太が翔と出逢わせたと謂う事は果てを見て出逢わせているのだから‥‥
子供の康太に仕える為に飛鳥井建設に来た
これからも康太の駒として生きて逝くと決めていた
だが‥‥‥康太は長生きは出来ないと常に謂う
その為の布石だとすれば‥‥次代の真贋との出逢いは必然的に‥‥‥
次代に仕えろと謂う事なのだろう
康太がいなくなったとしても揺るがない飛鳥井建設を護る事こそ栗田一夫の願いだった
翔は栗田の手を握ると
「にゃくな‥‥くりちゃ」と慰めた
「翔が泣かせたんです!」
栗田は大人げなくそう謂った
「‥‥ぎょめん‥‥くりちゃ‥‥」
「翔はオジさんを虐めて‥‥オジさんは泣けて来ます」
めそめそ泣く栗田をどうしていいか解らずに翔は困った顔をしていた
恵太が仕方なく助け船を出してやる事にした
恵太は翔の前に逝くと
「翔、そのオジさんは大人げないから気にしなくて良いんだよ」と声をかけた
翔は恵太を見て笑った
「けーちゃ」
「その手、痛そうだね
三通夜の儀式が近いんだ」
こう言う事がサラッと出る辺り恵太は飛鳥井の人間だと栗田は想う
「ちょー!もうじきにゃのね」
「そうか、康太はその儀式前に足を折った
源右衛門でさえ無傷ではなかったと謂うからね、腕を折ったからって気にしなくて良いんだよ」
恵太は何でもない風に翔に謂った
「けーちゃ‥‥」
「歴代の真贋だって無傷じゃなかった
きっと康太はこう言うアドバイスを翔に出来る存在を遺したかったんだと想う
それが僕の飛鳥井での役割だと想うから謂うよ
歴代の真贋だって血反吐を吐いて日々修行して今を迎えているんだ
翔の日々は辛いモノなんだろうけど、歴代の真贋もそうやって生きて来たんだよ」
恵太の言葉は重かった
だが確実に翔の雁字搦めの心の鎧を外す役割を果たしていた
翔は気負っていた
気負っていたから出来ない自分が情けなくて仕方がなかった
だから痛いと謂えなかった
翔は泣いていた
恵太は翔を抱き締めた
栗田は翔が泣くなんて想ってもいなかった
子供らしさを何万光年彼方に置き忘れて来てしまったかの様に‥‥‥
翔は子供として生きていなかったからだ‥‥
翔は一頻り泣くと涙を拭いて恵太から離れた
そして照れ臭そうに頬を染めると
「あいがとう、けーちゃ」と礼を謂った
恵太は笑っていた
栗田が惚れ惚れする顔で笑っていた
恵太は「翔は痛いって駄々を謂える存在が必要だね!そこの栗田ならどんな駄々を謂ったって我が儘を謂ったって揺るがないよ
何たって主に仕えたNO.1の駒だからね
だからさ痛いって弱音を吐きなよ
栗田は君が弱音を吐いたって揺るぎないよ!
少しだけ大人げないけどね!」
恵太はそう謂い翔にウィンクを飛ばした
翔は笑っていた
少しだけ楽になったから我が儘を謂う事にした
「くりちゃ いたいにょ!」
「大丈夫ですか?」
「おんぶゅ!」
翔は笑っていた
栗田はしゃがんで翔に背を向けると、翔は栗田の背中に抱き着いた
皆は微笑ましい光景を見守りつつ、掃除に余念がなかった
ペナルティは避けねば!!
ペナルティは別に良いが‥‥ペナルティに伴う副社長の威圧感半端ない視線に晒されたくはないのだ‥‥
栗田は翔を背中におんぶしたまま奮闘して大掃除を乗り切る事にした
翔は時々栗田に的確なアドバイスを送って、栗田は指示を出した
建設 施工 製図部 統括本部長はほくそえむ
我が部が一番綺麗で賞が視野に入って来た!!
燃える栗田に翔は「おちつくにょ!」と声をかけたが‥‥‥聞いちゃいなかった
烈は一生と手を繋ぎ、陣内と共に人事 経理 人材管理へとやって来た
社員は小さいが貫禄な子供に目を向けた
「統括本部長‥‥その子は‥‥」
社員の一人が陣内に声をかけた
陣内は「真贋の6番目のお子だ」 と烈を紹介した
「うわぁ可愛い」
女性社員から一斉に声が上がった
だが‥‥立っているだけで存在感が半端ない‥‥
まだオムツをしているであろう子供だが‥‥それだけに非ず‥‥
烈の瞳がそれを物語っていた
烈は空気を読む
人を見る
それは歴代の真贋が兼ね備えている力だった
そして烈は人を視る眼を持つ
その眼で視られるのは結構‥‥‥重圧はあるかも知れない
だが陣内は烈を膝の上に乗せて
「一生、指示を出してくれ!」と言い烈と共に座って社員を視ていた
一生は「陣内、あんた仕事はしない気ですか?」とボヤいた
陣内は嗤って一生を見ると
「烈が来たって事は、これで正解なんだよ!」
と訳の解らない事を口にして、一生は仕方なく掃除の指揮に当たった
陣内は烈に「どうよ?我が部の社員は?」と問い掛けた
「よきゅない」
烈は言い捨てた
「‥‥どこら辺が?」
「あたみゃごなち」
痛い所を突かれて陣内は烈を見た
「頭ごなし‥‥キツい所を突くね君‥‥」
「あたみゃをおしゃえれば、ふみゃんはいちゅかばくはちゅしゅる」
頭を押さえ付ければ不満は何時か爆発する‥‥
何ともなお言葉を頂戴した陣内は「気を付けるよ」と烈に謂った
烈は社員を指差して
「ばらばりゃ!」と謂った
陣内は社員を見た
社員は必死に掃除はしているが、やってる事は団結力はなくバラバラだった
陣内は人を纏めるのは苦手だった
痛い所を突いて来るな康太は‥‥
陣内は苦笑した
烈は陣内の膝から下りると、一生の所へと近付いた
「かじゅ!」
烈に呼ばれて一生は烈を抱き上げた
「どうした?烈」
「あにょね、ふぁとぉーおー!やりちゃいにょ!」
「‥‥‥ファイト!オー!ってお前ら兄弟が何かやる前に必ずやる、あれか?」
「ちょー!らめ?」
「社員を集めれば良い訳ね」
一生が謂うと烈は頷いた
一生は烈の手足となり付き添えと康太に指示を出されていた
だから烈の謂う事なら何でも聞いてやるつもりでいた
「社員の方々、手を止めて一旦集まって下さい!」
一生が謂うと社員達は一生の前に集まって来た
烈は一人一人の顔を視て‥‥嗤った
背筋が凍る笑みを‥‥‥オムツしてる子供がやると‥‥それはそれで恐怖だった
烈は一歩前に出ると
「だんけちゅりょくにゃいね」と口にした
社員達は驚愕の瞳を烈に向けた
オムツしてるガキの癖に!!と反感を抱いた社員が烈を見て‥‥‥動きを止めた
それほどに烈の瞳は有無を謂わせず‥‥威圧感も半端なかったからだ‥‥
一生は社員達に「烈をただのオムツしてるガキだと想うと‥‥痛い目を見ますよ?
烈は飛鳥井の『眼』を持つ二人目の子供ですから!」と言い放った
社員達は言葉もなかった
社員達の心に不安を煽り
揺さぶり、目を醒まさせる
そして告げるのだ
「みんにゃ、ふぁとぉーおーするにょ!」と。
ニコッと笑えば天使に早変わり
「みんにゃでやれば、はやいにょね!」
一生は頃合いを見て
「では皆で手を重ねてファイトオー!やりますか!」と謂うと社員達は自発的に手を重ねて
【ファイトオー!】と盛り上がった
何事もなかったように掃除に取り掛かる
烈は「うし!」と陣内の膝の上に戻った
「じんにゃい」
「何ですか?烈」
「ちゃんとみりゅにょ!」
烈はそう言い社員を指差した
「肝に命じておきます!」
「ときろき てちゅだってあげゆ」
「それはそれは俺は無敵じゃないか!」
陣内はそう言い笑った
バラバラだった社員が協力しあって掃除をしていた
烈はそれを何時までも陣内の膝の上で視ていた
陣内は烈に「一番綺麗で賞」は我が部のモノですね!と言い笑った
「ぎゃんば!じんにゃい」
一生は末恐ろしい烈の存在を目にして、烈の背負うモノの重さを感じずにはいられなかった
こんな小さいのに‥‥‥
それが飛鳥井の家に生まれて来た宿命だとばかりに‥‥過酷な果てへと逝かねばならない
一生は社員に発破をかけて、綺麗に磨きあげた
蒼太に連れられて太陽は総務部に来ていた
総務部は綺麗好きな蒼太の部署だけあって、結構綺麗だった
太陽は蒼太から離れると、部署を見渡した
「きれーらけど、ほこりありゅね」
「え、埃ありますか?」
「ひなね、ほこりあれるぎーにゃのね」
ガーン
埃あるのね‥‥
いきなり始まった埃ある発言に社員達は唖然として太陽を見た
顔は俳優の榊原笙を子供にした様な顔なのに‥‥‥
太陽はグーんっと伸びるマイクロファイバーの隙間用の棒を手に何本も持っていた
太陽はその棒を最大限伸ばして棚の隙間をチェックし始めた
「そーちゃん これ!」
蒼太は太陽の手にしてるマイクロファバーの隙間用の棒を目にした
結構埃が着いてて汚れていた
社員達は‥‥‥あぁ‥‥‥そこまでやるのねぇ~と小姑さながらの掃除のチェックに目眩を覚えていた
そしてその埃に蒼太が燃えて、大掃除の開始となった
「ひなね、ほこりちらいにゃのね
おとたんのせきでるし、ほこりはらめらのね!」
と兄弟想いの発言に蒼太は更に
「ならば我が部は塵や埃を総て取り払わねばなりませんね!」と燃えていた
社員達はトホホ‥‥となり、掃除の鬼と化した蒼太の厳しいチェックを重ねるのだった
「くうき、ちれーだときもちいいにょね!」
天使の様な太陽が謂う
ニコッと笑って癒し系の顔で社員を労る
蒼太はこの年で‥‥友に似た処世術に驚きを隠せなかった
あぁ‥‥そうか‥‥
太陽をこの世に誕生させたのは、我が友の母上だったな
今更ながらに想う
そう言えば笙も『埃で俺は死ねるわ!』と謂っていたっけ‥‥
蒼太は「一番綺麗で賞は僕達の部署に決まりですね!」とピカピカに磨きあげられる部署を見て想った
流生は水野と共に公報宣伝部に連れられて来ていた
一色は何処かで見た事のある顔に‥‥‥苦笑しつつも社員に
「真贋の次男の流生君だ!」と社員に紹介した
「いちき」
流生は一色を呼んだ
「何ですか?」
「きたにゃい!」
強烈なアッパーを食らわせれ一色は想わず頭を抱えていた
「だしたにょは、もどさにゃいとちらかるにょ!」
年末ギリギリまで仕事に終われていた部署はお世辞にも綺麗とは謂えないけど‥‥
水野は流生に「今片付けるね!」と謂い机の上のモノを片付け様とした
それを流生は止めた
「らめ!」
「流生君?」
「まず、ぺんをしまうにょ!」
机の上に出しっぱなしのぺんを元にあった場所に戻す
「つぎはいすをあげるにょね」
流生はテーブルの上に椅子を上げる様に謂った
流生は携帯をポケットから取り出すと短縮番号①を押した
「しんいち、へるぷにゃにょ!」
電話に出るなり謂われて慎一は笑った
『公報宣伝部でしたね、今すぐに行きます』
暫くすると慎一が公報宣伝部に顔を出した
流生は慎一に飛び付いた
「しんいち、きたにゃいにょ!」
あまりの謂われように一色は「みすません!」と謝った
慎一は流生のヘルプに協力して
「では業務用の掃除機を持って来ます」と言い掃除機を取りに行った
水野は流生に「汚くてごめんね」と謝った
「みじゅの、きれーだとしごとはもっとはどるにょね」と諭した
社員達は背筋に冷たいモノを感じていた
汚いかと想ったが大掃除もあるし良いかと‥‥目を逸らして来たツケが纏めて来たよぉ~と想った
慎一は業務用の掃除機を持って来ると、掃除機かけ始めた
そして的確に指示を出す
「棚の埃や隅の掃除
棚の散乱したモノの片付け
ポップを整頓
散らばって始めて下さい!」
流生も必死に片付けをしていた
一色は慌てて流生に近寄り片付けを手伝った
「いちき」
「何ですか?」
「へやのすさみは、ひとのこころもすまみゃせりゅにょ!」
「気を付けます」
「あさ、へやにきて‥‥かんじるかんそうがこたえらって、かぁちゃいってた」
「‥‥‥っ!!」
小さくとも真贋の子供なのだ
甘くはない
真っ直ぐ人を見る瞳はキラキラ光って美しく輝いていた
「ふきょーわおんは ささいにゃところからうまれりゅんらって」
「やはり真贋のお子は手厳しいです」
流生はニコッと嬉しそうに笑った
「りゅーちゃ かぁちゃととぅちゃのこらから!」
胸を張りその台詞を謂う
「紛う事なく副社長と真贋のお子ですよ君は!」
一色は誰の子かは薄々気付いていて、その台詞を謂う
飛鳥井家真贋の子でしか生きられない子なのだと実感させられたから‥‥
その台詞を謂うしかなかった
慎一は流生の想いを汲み取り、掃除の指揮をする
ある程度綺麗になったら流生は慎一に
「あいがとう!しんいち」と礼を謂った
「流生は綺麗好きだからな
どうやって手を着けて良いのか解らなくなったんだろ?」
慎一に謂われて流生は頷いた
慎一は流生の頭を撫でた
「この位で良いか?」
流生は頷いた
「なら俺は社長室を手伝わないとダメだからな逝くぞ?」
「えーちゃにがんばっていっといてね」
「あぁ、伝えておく」
慎一はそう言うと公報宣伝部を後にした
社員達は流生を悲しませない為に部署内をピカピカに磨きあげてた
水野は「ひょっとしたら一番綺麗で賞は僕達の部署に輝くかとね!」と嬉しそうに謂った
社員達は絶対に取らねば!と頑張って掃除をした
「いちき」
「はい!何ですか?」
「たなをつかいやすくしゅると、かたづくかもね」
「棚ですか?
解りました!真贋に話を通しておきます」
「いちき、らっこ」
一色は流生を抱き上げた
流生は部署の隅から隅まで一色に抱っこさせてチェックした
水野は一色が慣れた風に流生を抱く姿に‥‥‥
一色の亡くした子達を想って胸を痛めていた
「みじゅの」
「何ですか?」
「ちんぱいしなくても、いちきはみじゅのらから」
流生の言葉に水野は頬を赤らめた
「流生君‥‥」
流生は水野の頭を撫でた
康太に良く似た撫で方に‥‥‥流生の中に康太を感じていた
飛鳥井建設を引っ張っていく存在に確実になるであろう流生だった
水野は「君はお母さん似ですね」と優しく笑った
「りゅーちゃね、かぁちゃらいすきらから!」
流生は笑っていた
ムードメーカーの流生の回りには何時も笑いが絶えなかった
音弥は城田に連れられて社員食堂に顔を出した
社員食堂は年内の業務を総て終えて、機材の掃除や点検をしていた
社員食堂のおばちゃん達は音弥を見付けると
「音弥君が監視役かい?」と訪ねて来て
「ちょう!かぁちゃのみょーらいできたにょ!」
音弥は康太の名代で来たと告げた
城田は音弥に「何処から始めます?」と問い掛けた
「きょれは‥‥こまっちゃにゃ!」
音弥は携帯を取り出すと短縮番号③を押した
「そーちゃ へるぷ!」
音弥が謂うと聡一郎が直ぐにやって来た
「どうしました?音弥」
聡一郎に聞かれ音弥は取り敢えずこの窮地を打開すべく訴えた
「そーちゃ どきょからやれば‥‥ちれーになる?」
音弥に謂われて聡一郎は辺りを見渡した
社員食堂の座席数は200
10人掛けの長テーブルが20
何処から手をつけるか?聡一郎だって解らない‥‥
聡一郎は城田を見た
「城田、君ならどう掃除をします?」
「‥‥‥取り敢えずテーブルの上に椅子を乗せますか?」
「それしかありませんね」
椅子を200テーブルの上に乗せるのは容易ではない
聡一郎と城田はひたすらテーブルの上に椅子を乗せた
たかが椅子を乗せるだけだけど‥‥めちゃくそ体力を奪われる‥‥
「城田‥‥キツくありませんか?」
聡一郎は、はぁはぁ‥‥と息を切らしていた
城田も、はぁはぁと息を切らしていた
城田は「埒があきませんね!」とボヤくと聡一郎も「ですね」と答えた
食堂のおばちゃん達は大釜の掃除に余念がなかった
おばちゃんは「聡一郎君、食堂に新しく入ったこの子達にも手伝わせようか?」と声をかけた
食堂の奥には体操のお兄さんばりの爽やかな青年が笑顔を浮かべて立っていた
「梓澤と謂います」
「武藤と謂います!」と二人の青年はご挨拶をした
聡一郎は「四宮聡一郎と謂います」とご挨拶をした
城田は「城田と謂います!」と自己紹介した
二人はテキパキと椅子を上げて行った
聡一郎はその早さに「凄いっ!」と感激していた
おばちゃん達は聡一郎と城田に
「その子達はね真贋がスカウトして来た子達なのよ」と社員食堂に来た経緯を話した
「え?康太がスカウトして来たんですか?」
聞いてはいなかった
だから聡一郎は驚いた風に問い掛けた
「そうだよ!
細かい所は解らないけどね」
おばちゃんが話すと背後から
「梓澤と武藤は力仕事が出来るスタッフを探していたらホテル・ニューグランドの副社長から声をかけてくれたスタッフなんだ」と声がした
聡一郎が振り替えると、そこには康太が立っていた
「康太‥‥」
康太の姿を見付けると音弥は母目掛けて走って飛び付いた
「かぁちゃ!」
康太は音弥を抱き上げると
「頑張ってるか?音弥!」と声をかけた
「おとたんね、こまってる」
「そうか?」
「しょくろーっていしゅおおいね」
「飛鳥井建設の食を支えているのは、この食堂だかんな!」
「しゅごいね」
「桜林の食堂はおばちゃん達が支えていたんだぜ?
お前達がこれから入る桜林の初等科も、そんなおばちゃん達の力があるからこそ、支えられているんだぞ」
「かぁちゃ‥‥」
音弥が母の言葉を胸に刻んでいると、聡一郎が
「どうしたのですか?康太」と声をかけた
「梓澤と武藤の弟が井筒屋の手伝いをしてくれるって謂うからな、確認に来たんだよ」
「井筒屋にですか?」
「梓澤と武藤の弟達は有名レストランのシェフだったんだけどな
やりたい事に迷いが出て日本に戻って来たんだよ
そこで井筒屋の後継者を探していた事だし、聞いてみたんだ
そしたら了解を貰ったからな」
聡一郎は嬉しそうに「それは良かったです!」と胸を撫で下ろした
「まぁ井筒屋だけだと食って逝くのは大変だからな
飲食店も併設して作る予定だ
勿論、梓澤と武藤も協力してくれるからな
存続へ第一歩を踏み出せそうなんだ!」
井筒屋のある通りはシャッター通りになってしまっていた
康太が商店街の会長と手を組み、シャッター通りになってしまっている通りの店の再建に乗り出したのだ
そう言えば康太の隣には榊原の姿はなかった
聡一郎は康太に
「伊織はどうしたのですか?」と問い掛けた
「伊織なら各部署のチェックに行ってる
オレは食堂に逝かせた音弥が気になったなら見に来たんだよ」
「そうでしたか‥‥」
音弥は母が来てくれて嬉しそうだった
暫くすると榊原が食堂にやって来た
椅子を上げ終わり、掃除機をかける
梓澤と武藤が慣れた手つきで掃除をする
榊原は康太に「どうですか?」と問い掛けた
「音弥が手がつけられなくて聡一郎を呼んだみてぇだ」
聡一郎は「非力な僕ではあまり役には立てませんでした」と椅子上げでくたばってしまった現実を口にした
城田も「それを謂うなら俺も‥‥あまり役には立てませんでした」と情けなく呟いた
「聡一郎、城田、お前ら二人は戦闘向きじゃねぇかんな」
あまりな謂われように聡一郎と城田は苦笑した
「ならば何故城田と共に食堂に逝かせたのですか?」
「新年早々、食堂はリフォームに入るんだよ
もっと機能的にするためにリフォームを入れる!
その絵図を城田に引かせようと想ってな、下調べに出したんだよ」
聡一郎は驚いて康太を見た
「この会社って建ってまだそんなに経ってないですけど、リフォームするんですか?」
「だだっ広いだけの食堂じゃ味気ねぇかんな
梓澤と武藤はカフェ系全般淹れられるし、カフェを併設して寛ぎの空間にするんだよ」
成る程、聡一郎はやっとこさリフォームの意味を理解した
城田は「そう言えばそんな事仰ってましたよね?」と最近上がって来たばかりの仕事を思い浮かべていた
「城田、おめぇはどんな空間を作るよ?
めちゃくそ楽しみにしてるぜ!」
「真贋、今から想像をフルに生かして引かさせて貰います」
「楽しみにしてんぜ!
取り敢えず、掃除もあと少しだ頑張ってくれ!」
「はい!」
城田は音弥と共に掃除に取りかかった
康太は梓澤と武藤と話をして社員食堂を後にした
掃除機をかけ終わると椅子をおろ、机を拭き出した
音弥も靴を脱いで椅子に乗るとテーブルを拭いた
何とか出口が見えて来て、城田と聡一郎は胸を撫で下ろした
愛染と瀬能共にレストランにやって来た大空は、レストランに入ると既に掃除を始めているスタッフと合流した
大空は愛染の服を引っ張ると、愛染は「どうしました?」と問い掛けた
「まど、じぇんぶあけるにょ!」
「窓を開けるのですね」
愛染はレストランの窓を全部開けた
「せのぉー!」
「何ですか?」
「くさい」
「え?どんな臭いがします?」
「たばこ」
「え‥‥レストランですよ?此処」
愛染と瀬能は鼻をクンクンさせて臭いを確かめた
すると仄かに煙草の薫りが鼻先を捉えた
愛染はレストランの責任者の前に逝くと
「誰か煙草吸ってますか?」と問い掛けた
するとスタッフはサーッと顔色を変えた
瀬能は「レストランでして良い匂いではない!」とビシッと言い捨てた
大空は携帯を取り出すと短縮番号①を押した
『大空どうしたよ?』
電話に出たのは康太だった
「かぁちゃ‥‥どーしょう?」
『直ぐに逝く待ってろ!』
康太はそう言い電話を切ると直ぐ様レストランへと向かった
レストランへ入るとスタッフの前に愛染と瀬能は立っていた
大空は康太を見付けると走って飛び付いた
「かぁちゃ!」
「どうしたよ?大空」
「くさかったにょ!」
「煙草か?」
大空は頷いた
飛鳥井の家で煙草を吸う人間はいなかった
榊原の家でも煙草を吸う人間はいなかった
だから敏感に察知してしまうのか?
大空は煙草の匂いが大嫌いだった
康太は愛染と瀬能に「何故大空を寄越したか解るか?」と尋ねた
愛染は「大空君は鼻が相当宜しいかと?」と謂うと瀬能も「最初認識出来ない程の臭いでしたが、凄いですね」と感心して謂った
「飛鳥井玲香がレストラン全般の管理をしている
昔、部署で不協和音を出して気に病んで倒れたからな!
だから大丈夫なレストラン事業部に着けたのに‥‥‥これはねぇよな?」
康太は怒りに身を震わせていた
スタッフ達は青褪めて何も言えずに立っていた
そこへ妻の異変を感じ取った榊原が、妻の覇道を手繰り寄せやって来た
「康太、どうしました?」
康太は振り向く事なくスタッフを視ていた
愛染と瀬能が榊原に事の経緯を話すと、榊原は大空を抱き上げた
「大空の鼻は絶対嗅覚の持ち主なんですよ
だから康太は大空をレストランへ逝かせたのです
此処最近レストランに来た客から料理は美味しいけど臭いが‥‥食欲を減退させている!との感想が多く寄せられてます!
普通の人には解らないでしょうが、大空の鼻は誤魔化せません」
榊原は言い捨てた
「とぅちゃ」
大空は泣きそうな顔で父を呼んだ
榊原は大空の頭を撫で
「大空、どの人から臭うか、教えて下さい!」
そう言い大空を下ろした
大空は父から離れるとスタッフの傍へと近寄りクンクンと臭いを嗅いだ
するの一人の男の前で立ち止まった
「その人ですか?」
大空は頷いた
「大空、戻って下さい」
戻ろうとする大空を男が掴もうとした
‥‥‥が、それよりも早く愛染と瀬能が男の手を掴み捻り上げた
男はシェフの一人だった
康太は男の前に出ると
「煙草ばかり吸ってれば味覚も狂うわな!」と嗤った
男はガクッと崩れ落ちた
女性スタッフが康太の前に出ると
「菅生さんは‥‥奥様を亡くして‥‥‥」と取り成そうとした
「ならリハビリが必要なんじゃねぇのか?」
そう言われ女性スタッフは黙った
「菅生、明日からレストランに出なくて良い」
「え?クビですか?」
菅生は覚悟はしていたけど、クビを宣告され信じられない想いで一杯となった
「クビにするかよ!
まぁ、あれだ!心の治療をして立ち直るまで遣って貰いてぇ事があるんだよ
給料は変わらず少しだけ外で働いたらどうだ?」
「真贋‥‥俺はクビにならなくて良いのですか?」
「まぁ3つ星レストランならクビだろうが、うちはそう言うのは目指してねぇからな!
当分は社員食堂の梓澤と交代だな!
シャッター通りを甦らせるプロジェクトを新年早々発起させるからな、お前も一枚噛んでくれ!
若い奴等と共に一つのモノを立ち上げて作れば、亡くしたモノを埋めれる様になるかもな」
「真贋‥‥ありがとうございます‥‥」
「社員食堂は来年早々リフォームに突入する
一人でも多い人材が欠かせねぇ状態だからな!
楽しようなんて想ってもらっちゃぁ困る」
「頑張ります」
「酒に明け暮れ‥‥吸えねぇ煙草に手を出して自分を痛め付けたって、その虚無感や喪失は埋められねぇぞ!
視ていて本当に痛々しいな菅生‥‥
妻を亡くしてからちゃんとしたメンタルのケアがなされねぇって事だな
久遠に何処から良い医者はいねぇか聞いておいてやるから、近いうちに紹介状を渡せる様にしとくから逝け!」
「真贋‥‥何故そこまでしてくださるのですか?」
菅生は信じられずに問い掛けた
「飛鳥井は今未曾有の人手不足なんだよ!
来年早々、宮瀬建設と蕪村建設と共同してシャッター通りの再開発に着手する
煙草も直ぐには止めれねぇだろうしな、違和感のない場所から始めれば良い!
居酒屋とか小さいが洋食レストランとか昔ながらの店が立ち並ぶ商店街から始めるのも手だな
取り敢えずメンタルをケアして戦力として走り続けて貰わねぇとならねぇって事だ」
菅生は涙を押さえきれずに俯いて泣いていた
ガクッと崩れ落ちた菅生を支えたのは大空だった
「ひとはよわいけど、ささえあえばひゃくにんりきらって、かぁちゃがいちゅもいってる」
「大空君‥‥」
「なおっちゃら、おいちぃーのたくさんたべさせてね」
大空の言葉に菅生は涙が止まらなかった
榊原は菅生の腕を取ると立ち上がらせた
「多分、君は不摂生で体躯も弱ってそうですね
取り敢えず医務室に行きなさい!
帰りには誰かに乗せて行かせます」
「すみません‥‥」
「愛する存在を亡くして気丈でいろと謂う方が無理なんですよ
君は少し人を頼り楽になる道を選びなさい」
榊原はそう言い菅生を医務室に連れて行った
静まり返ったレストランに康太の声が響いた
「母ちゃん、さぁ飛鳥井の女の底力を見せてくれよ!」
いつの間に来たのか飛鳥井玲香が立っていた
「すまぬな‥‥大空に辛い事をさせた」
「大空の鼻で済んでるうちは良い
大事になる前に手を打つのがオレの仕事だかんな!
母ちゃんは何も気にしなくて良い」
「康太‥‥」
「んじゃ後は母ちゃん頼むわ
大空、ばぁばと共に掃除を頑張れ!」
「あい!わかりまちた!」
スタッフは散らばり掃除を始めた
「ばぁちゃ」
「なんじゃ?大空」
「かぁちゃはいちゅもばぁちゃのことちんぱいしてるにょ!」
「そうか‥‥ありがとうな大空」
「かなもね、ばぁちゃすきらからちんぱいしてるにょ!
げんきでいてほちぃーし、なぎゃいきしてほちぃーにょね」
玲香は大空の言葉に泣きそうになった
スタッフは皆、癒し系の祖母と孫の姿を見ながら掃除に勤しんだ
昼休憩に入り、社員全員にお弁当が配られる時間となった
榊原が率先して部署の人数分ずつお弁当を渡した
全員分渡し終えると榊原は
「医務室に菅生がいるので、運んでくれませんか?」と慎一に頼んだ
社員達は口々に「副社長、今年も同じ所の仕出し屋さんですか?」と尋ねた
「はい。何処か良い所がありましたら教えて下さい」
「副社長、この仕出し屋さん以上に美味しい所なんて知りませんよ!」
社員は副社長と楽しそうに話をして持ち場にお弁当を運び込んだ
榊原は慎一と一生と力哉に手伝って貰いお弁当を会長室へと運び込んだ
会長室には子供達も戻って来ていた
少し‥‥‥狭いと感じるのは否めない‥‥
康太は「やっぱ家族総出だとせめぇな‥‥」とボヤいた
榊原は「なら子供達と共に副社長室に逝きますか?」と提案した
それに瑛太が却下した
「父さんと母さんが孫と触れ合う時間を邪魔すると父さんだってたまには怒りますよ!」
康太が生きている間に清隆が怒った姿を見た事がなかった
「‥‥‥瑛兄、父ちゃんが怒るなんてないない!」
と康太は謂った
清隆は目尻を下げて孫と既にお弁当を食べ始めていた
そしてギロッと眼光鋭く「孫といる時間が一番の至福です!邪魔するなら容赦はしませんよ!」と言い捨てた
康太は「会長室もリフォーム入れるか?」とボヤいた
榊原は「来年早々副社長室はリフォームに入りますからね、良いかも知れませんよ、それは!」と嬉しそうに謂った
瑛太は「副社長室のリフォームですか?聞いてませんけど?」と問い掛けた
「書類はとうの昔に上げてありますよ?」
瑛太は父を見た
「父さんはその書類知ってますか?」
「あぁ、決済をしたのは私だからね」
瑛太は康太を見て「兄に事情は聞かせて貰えないのですか?」と問い掛けた
「瑛兄はこの階の空室が幾つか在るのを知ってるやん
その空室をやっとこさ生かせる時期が来たって事だ
会長室の横には使ってない部屋がある
壁をぶち抜いて一部屋にすればかなり広くなる
そして真贋の部屋の横にも使ってない部屋があるんだよ!
学校を終えたらその部屋で英才教育をしていくつもりだ
教育係には竜ヶ崎の一番下の息子が当たる
名を竜ヶ崎 天王と言う」
瑛太は「天王とは‥‥一番下が後継者ですか?」と尋ねた
「竜ヶ崎斎王の始祖の血が一番濃く出ているのは天王だかんな、斎王は適材適所配置してくれと頼んだから配置してやったんだよ」
「‥‥‥そんな後継者を教育係りに借りて良いのですか?」
「‥‥‥天王はまだ10歳にもならねぇ子供だ
まぁ外見は子供だ、頭脳は天才と気取ってる大人なら数分で負かせられる天才とはアイツの為にある言葉だってヤツだ!」
そんな凄いのが‥‥‥来ちゃうの?
来ちゃっても良いのぉ~
瑛太は何か謂うのを辞めた
清隆は孫との時間に嬉しそうに笑っていた
玲香も孫の世話を焼くのは楽しくて幸せだった
子供達は大人しく仕出し屋のお弁当を食べていた
音弥は「おいちぃね」と頬をハムスター並みに膨らませてそう言った
烈はガツガツと康太顔負けの食欲ぶりで食べていた
「ちゃーほちぃ」
熱いお茶がご所望だから慎一は烈にお茶を淹れてやった
熱々のお茶に舌鼓打って啜る
康太は「んとにおめぇは一番じじむさいな!」とボヤいた
烈はふんふん!と鼻息荒くお弁当を食べていた
大人用のお弁当だけど、子供達は少しだけ物足りない感じでお箸を咥えていた
流生は「ばぁたんといくれすとらんらとちびっとなにょよね‥‥おいちぃとすこしなにょかな?」と至極真面目な顔で呟いた
ばぁたんといくれすとらん‥‥‥って事は真矢が孫達を高級レストランへでも連れて行ったのだろう
あんまりな謂れ方に榊原は苦笑した
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