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第6話 年の瀬②

榊原は「ばぁたんと逝くレストランはかなり高いんでしょうがね‥‥」と苦笑した 康太は「仕方ねぇよ、食い盛りの子供がフレンチレストランの量じゃ足りねぇだろうが‥‥」 きっと「たらないにょ!」と言って真矢を困らせたのだろう‥‥ 流生は泣きながら一心不乱にお弁当を食べていた 康太は流生を抱き上げると 「どうしたよ?塩っかれぇ弁当になっちまうぞ!」と流生を撫でた 「かぁちゃ りゅーちゃね‥‥やくだたなきゃった」 それが悔しくて泣けて仕方ないのだと訴えた 「んな事はねぇぞ、流生はちゃんと仕事した 流生の助言で棚を入れる事になったし、どうしたら動きやすく仕事できるかアドバイスして棚を入れる所までやるんだ」 「りゅーちゃにれきるかにゃ?」 「流生なら出来るさ! 母ちゃんの自慢の息子じゃねぇか!」 康太がそう言うと子供達の耳がピクッとなって立ち上がった 皆が康太に抱き着いた 康太は笑って我が子を抱き締めていた 「お前達6人はオレの自慢の息子だ!」 烈を抜かした我が子は皆、泣き出した 初めての大役に緊張していた そして父と母の子として恥ずかしくない行動を取らねばと自分を奮い立たせていた 榊原は音弥と翔をピョいっと抱き上げると膝の上に乗せた 音弥と翔は父に甘えていた 母にも甘えたいが、父にも甘えたい流生と太陽と大空と烈が‥‥父の方を見ていた 榊原は「おいで!」と謂うと流生と太陽と大空と烈が父の上に乗り甘えた 康太は何故か瑛太の膝の上に乗り 「ならオレは瑛兄に甘えるわ!」と言い甘えていた 瑛太は嬉しそうに康太を膝の上に乗せていた 京香も康太を撫でて、この夫婦は何時だって康太には甘かった 京香の腹は、はち切れそうになっていた ゴールデンウィークの時、明日菜から分けられた子がスクスク育って今か今かと飛び出して来そうだった 康太は京香のお腹を擦り 「もうそろそろ生まれるか?」と問い掛けた 「明日菜の所はもう産まれておるからな そろそろだと想うが‥‥解らぬのじゃ 何せ排卵日の項目とか書けなかったからな‥‥ 村瀬医師もまさかの妊娠に驚いておったわ 何時妊娠しました?と聞かれてもな、明日菜の子を譲り受けたのじゃ!と謂うしかなかったからのぉ‥‥」 「まぁ母ちゃんの身内だかんな融通は効かせてくれるかんな心配するな」 「康太‥‥我はまた子を授かった‥‥ 種は何だが、それでも瑛太と共に育てると決めておる」 「あぁ、大切に育ててやれ! その子は亡くした子の魂を抱いて生まれる子だかんな」 「康太‥‥‥」 「まさか明日菜の子になるとは想ってもいなかった‥‥ 丁度明日菜が不安定だったからな、子を引き離せられた」 「康太‥‥狙っておったのか?」 「狙ってはいなかったがな、明日菜の子として生まれてしまえば‥‥取り上げられなかったからな‥‥またやっちゃいけねぇ事だって解ってるさ」 「康太‥‥‥ありがとう この子は‥‥‥あの子なのか?」 「そうだ、早く転生させ過ぎて落ちる場所を間違えたみてぇだが、結果オーライって事で、良いよな」 「我の子なれば結果オーライで良い!」 京香はそう言い泣いた 瑛太が妻を抱き寄せ 「魂はあの子なら私もヨシとします!」と笑った 瑛太夫婦に抱かれて康太は笑っていた 榊原は我が子を玲香と清隆の膝の上に乗せると、妻を抱き上げた 「君の夫は僕でしょ?」 「伊織しかいねぇよ!」 「なら僕に甘えなさい!」 ほらほら!遠慮せずに甘えなさい! そう言われ康太は榊原に抱き着いた スンスンと愛しい男の匂いを嗅ぐ 瑛太は「伊織、小さい男は嫌われますよ?」と一応苦言を呈した 「大丈夫です! 妻は僕を愛して止みません!」 康太の背は震えていた 笑っているのかと思えば‥‥そうではなかった 榊原は家族に 「今年の年末はホテルを取りましたので、子供達と迎えます」と宣言した 玲香と清隆は驚愕の瞳を榊原に向けた 瑛太も驚きを隠せなかった 京香も苦しそうに‥‥‥瞳を閉じると堪える様に震えていた 瑛太は妻の体躯を優しく抱き締めた 玲香は「その時が来たのじゃな?」と確認の言葉を発した 「来年、我が子は初等科へ入学します 康太は我が子が初等科に入る年、総てを話すと決めています」 家族は言葉もなかった 一生は「もう少し‥‥‥大きくなってからじゃダメなのかよ?」と訴えた 康太は一生の問いに 「オレの子はどの子も知能指数が高いかんな! 今現在、多分、オレ等が親なのを不思議に想っているかも知れねぇ‥‥ だからな話すんだよ! 他の口から聞かされる前に話す それが親としてのオレの義務だ!」 と言い捨てた 絶対に口を挟むな!と暗に謂われたも同然だった 一生は黙った 瑛太は「此処でする話ではありませんよ?」と注意した 子供達は怯えた様な瞳をしていた 康太は榊原の膝から下りると両手を広げて 「んな泣きそうな顔をすんじゃねぇよ! 男の子だろうが!来い!」と言い 康太の胸に飛び込んできた我が子を抱き締めた 「「「「「かぁちゃ!」」」」」 康太は5人の我が子を抱き締めて烈に 「お前は全部知ってるよな? 」と問い掛けた 烈は「おいちぃーにょくえりゅならいきゅ!」と答えた 「なら行って兄弟を支えやれ!」 「やら、れちゅちぃさい!」 烈はふんふん!と緑茶を啜りつつ小さいと訴えた 榊原が康太に手を伸ばすと、康太はそれをやんわり押し退けた 榊原は康太の腕を掴むと立ち上がらせて抱き抱えた そして副社長室に向かうと部屋の中に入り鍵をかけた 「僕を否定しますか?」 「してねぇよ!」 「君が拒むなら‥‥‥僕は‥‥‥狂います」 康太をソファーに押し倒しのし掛かる 康太は優しく榊原を抱き締めた 「伊織」 「何ですか?」 「オレは何時だってお前を拒んだりはしねぇ!」 「だって‥‥さっき‥‥‥」 「あぁ、あれか、早く飯を食って午後からの掃除を始めねぇとならねぇじゃねぇかよ? だからやんわり飯を食わせろと合図したつもりなんだが‥‥」 「君、お弁当食べ終えてましたよね?」 「2個目を食べてたんだよ」 2個目ね‥‥‥食欲の戻った康太はよく食べる 「僕を愛してるって謂って下さい」 「愛してる伊織 オレの蒼い龍‥‥お前しか愛せねぇよ」 「下半身に来ました」 熱く滾る熱を押し付けられ康太は 「掃除があるぞ?伊織」と現実を突きつけた 「君が拒むから‥‥僕は‥‥」 「ごめんな」 康太は榊原の頭を撫でた 「今夜、徴収させて貰います」 榊原は立ち上がると、物凄い精神力で暴れそうな息子を押さえつけストイックに立っていた 「伊織、オレまだ弁当食える?」 「食べれば良いです」 そう話しているとドアがノックされた 榊原が開けるとそこには瑛太が康太のお弁当と飲み物を持って来ていた 「おっ!瑛兄サンキュー」 「はい、伊織も食べないと後半戦は戦えませんよ」 「はい。」 弁当を受け取りソファーに座り食べ始める 慎一が康太と榊原の為にお茶を淹れると二人の前に差し出した 副社長室を一生が覗き込み 「新婚がぬけねぇな!」と揶揄した 「放っておいて下さい 僕は康太に拒否られる事が一番ダメージを食らうのです! 僕を殺したいのであれば、康太の口から嫌いになったと謂わせれば良いのです そしたら僕は‥‥‥」 言葉を続けようとする榊原を康太が止めた 「伊織、昼からも掃除は待っちゃくれねぇぜ!」 「解ってます」 「今夜、徴収すんだろ? なら頑張らねぇと夜は迎えられねぇぞ!」 康太の言葉に榊原は俄然頑張らねば!と力が湧いてきた 物凄いスピードでお弁当を完食すると、冷蔵庫から康太のプリンを出した 蓋を開け康太の前に置く 康太は二つ目の弁当を完食しプリンに手をつけた 美味しそうに食べる康太の顔が好きだ 康太のすべてが好きだ 愛して止まない プリンを食べ終わると榊原は立ち上がった 弁当の容器を手にして康太と手を繋ぎ副社長室を出て行った その足取りは‥‥‥スキップせんばかりの勢いだった キリッと整った顔を隙もなく引き締め午後の部に突入する 榊原はお弁当のゴミを入れる場所を一生と慎一とで作り 聡一郎に館内放送をさせた 「お弁当のゴミは3階階段側に用意した場所まで持って来て下さい」 榊原は会長室に出向きお弁当のゴミを集めた 流生が父の姿を見て飛び付いた 「とぅちゃ!」 「どうしました?流生」 「けんか‥‥らめらから‥‥」 「喧嘩はしてませんよ? 少しだけ感情がセーブ出来なかっただけの事です 父も修行がたりませんね」 流生は父を小さい手で一生懸命抱き締めて 「とぅちゃ ぎゃんばってる」と謂った 榊原は流生のその思いが嬉しくて流生を抱き上げた 「りゅーちゃね とぅちゃみたいなおときょになりたいにょ!」 「そうですか?ならばライバルになる様に男前になりなさい 容姿だけが男前の基準ではありませんよ? 人に優しく出来て‥‥この場合僕は‥‥康太にしか優しくないので当てはまらないのですがね‥‥ 流生は誰にも優しい男になりなさい そして誰よりも厳しい男になりなさい」 「ぎゃんばる!」 「良い子です」 榊原は流生を撫でた その時康太が「伊織、一時間後にチェックだ!それまで最終確認しておきなさい!と放送入れろよ!」と声をかけて来た 「僕がですか?」 「副社長が謂うのが一番効果あるだろ?」 「君が来てくれるなら‥‥放送を入れます」 今は離れたくなかった 「なら一緒に逝くか! 慎一、子供達を各部署に送り届けてくれ!」 「解りました!」 慎一が答えると康太は榊原の手を繋いで 「伊織、放送室にいかなくても放送出来る場所に逝こうぜ!」 「あの隠し部屋ですか?」 「そうだ、彼処は放送も出来るようになってるかんな!」 康太はそう言い隠し部屋に榊原を連れてやって来た 部屋の壁一面にテレビモニターが角度を切り替え移り変わっていた 康太は榊原を抱き締めると「少しだけかがめ」と謂った 榊原は康太の目の高さまでしゃがむと、康太は榊原に口吻けを落とした 「康太‥‥」 「不安がらせてごめんな オレが弁当を二個も食わなきゃ時間を気にする事もなかったのにな」 「僕の総ては君がいるか?いないか?だから‥‥‥拒否られたら狂いそうになるのです 君をなくしたらどうやって生きて逝って良いか解りません‥‥」 「魂を結び付けてあるやん オレが死んでもお前と離れる日なんて来ねぇよ」 「康太‥‥」 「愛しているって謂わなかったか?」 「聞きましたけど少しだけ不安が残ってました でももう大丈夫です 君の愛さえあれば僕は生きていけますから‥‥」 「なら伊織、サクサク放送しねぇと携帯に怒りの電話が掛かってくるぞ」 「解りました」 榊原は館内放送のボタンを押すとマイクに顔を近づけ 「此より各部署の方は最終確認を行って下さい 一時間後に確認部署にチェックに参ります!」 榊原は二度繰り返し放送を終えた 康太は榊原の手を握ると 「どの部署が一番綺麗で賞を貰うんだろ?」と楽しそうに話しかけた 「今年は掃除のチェック項目を設け審査基準を事前に社員に解るように示しましたからね どの部署も平行線じゃないかと想っています」 「なら全部綺麗で賞貰う可能性もあるのかよ?」 「そうなりますね 優劣つける掃除ではないので綺麗にした部署に与えるのが相応しいかと?」 「やっぱさ伊織は凄いな 準備ももうしてあるんだろ?」 「ええ。そこはぬかりありません!」 隠し部屋を出ると榊原は康太を副社長室に連れ込んだ 「今年はあまり綺麗に磨きあげる時間がありませんでした」 ピカピカになってるのに榊原は不本意だと口にした 「伊織」 「何ですか?」 「こんだけ綺麗なら大丈夫だろ?」 「まぁ役員室は対象外なんですけどね 社員に掃除しろと謂うならば己もやらねば不公平ですので‥‥」 「いやいや大丈夫だろ? オレの部屋はどうなってる?」 「今年は手をつけれないので‥‥そのままです 荷物は既に他の部屋に入れてあります」 「年開けたらリフォームだもんな」 「そうです」 「伊織」 「何ですか?」 「落ち着いた?」 「‥‥‥はい。もう大丈夫です」 「ならオレは子供の所を見て来ようかな?」 「僕と一緒に回れば良いです だからもう少し一緒にいて下さい」 甘えるように謂う男が愛しい 康太は榊原の膝の上に座ると口吻けた 「愛してるオレの蒼い龍」 「愛してます奥さん」 「オレらは互いを亡くしたら生きて逝けねぇかんな‥‥お前だけじゃねぇって解ってる?」 「解ってます」 榊原は康太を抱き締めた 「伊織、太陽の奴お掃除棒を持って逝ってるぜ!」 「それって太陽が母さんに謂って商品化させたマイクロファイバーのグーんっと伸びる奴ですか?」 「そうそれ!小舅かよ?ってーの!」 「綺麗好きは似てしまいましたかね?」 「やっぱお前の血が流れてるって想うと嬉しいな」 「‥‥‥僕はあまり嬉しくありません 僕の潔癖症の所為で寮では同室者はいませんでしたからね‥‥ クラスメートからは埃を見つけると黙ってられずに掃除するから結構嫌がられました」 「青龍って潔癖症だった?」 青龍の頃は眺めているだけで良く解らなかった 近付きたいけど近付く事すら叶わぬ人だったからだ‥‥ 「根本的な所は変わらないですね モノが増えるのが嫌で最低限しか置かなかったらあんな寂しい家になってしまいましたからね‥‥」 「青龍の頃‥‥オレは遠くからお前を見るしか出来なかったからな‥‥ オレの知らない青龍も知りたくなったんだ」 そんな事謂われたら愛しさが募って‥‥堪らなくなる 「あの頃の僕は‥‥君以外に執着する事がなかったんです だけどそれを認められずにいました 君は黒龍のだと想っていましたからね‥‥」 「皆そう言うのな‥‥それ程にオレは可哀想な子だったんだろ? 兄者は全身で庇ってくれていた 友の黒龍は兄者同様‥‥庇われていたんだよ」 「今はそれが解ります 君が処女だったって‥‥解ってますから」 榊原は嬉しそうに笑った 康太は榊原を抱き締めた 榊原は康太を膝から下ろすと立ち上がり手を繋いだ 「逝きますか?奥さん」 「おー!家に帰ったら家の大掃除もあるかんな‥‥」 「ですね‥‥今年は疲れました なので各自頑張って貰います ワン達もカットして新年を迎えさせたいし やるべき事は山積してますね」 「でも皆で協力すれば早く終わるさ」 「逝きますよ康太」 二人は副社長室を後にした 各部署のチェックに向かう 社員は6階食堂前の通路側に並んでいた 康太は一歩前に出ると、はぁーっと息を吸って 「お疲れ様です! これより掃除のチェックに入ります 今年は副社長が掃除のチェック項目を定めたのでそれに乗っ取りチェックして逝くつもりです 皆様は新しく入りました食堂スタッフの淹れてくれた珈琲でも飲んで待ってて下さい」 とチェックの宣言をした 榊原は「梓沢君、武藤君、準備は出来てますか?」と問い掛けた 食堂の長テープルには紙コップだけど珈琲が淹れられ、テーブルにはお菓子も用意してあった 呼ばれたら直ぐに移動できる様に、部署ごとに行儀良く並んで珈琲を口にする とても美味しい珈琲だった 飲んだ者は「美味しい!」と称賛する程の腕前だった 珈琲に舌鼓を打って閑談していると総ての部署のチェックを終えた康太と榊原がやって来た 榊原はチェックボードを眺めながら 「各部署、甲乙付けられない程に綺麗に仕上がってました」とまずは皆の頑張りを誉めた 「建築 施工 製図部はモサい男供ばかりなのに、よくぞそこまで磨きあげた!って事で【真贋賞】は建築 施工 製図部に決定だ! だけど一番綺麗で賞を逃したなんて思うなよ! 総ての賞を総ナメするかも知れねぇんだかんな!」 康太が謂うとわぁぁぁぁ!と歓声が上がった 「では続て【副社長賞】も先に発表します! 副社長賞は想ったよりも凄く綺麗だったので、人事 経理 人材管理部に決定です!」 こちらは、えぇぇぇぇぇぇぇ!!!とブーイングが飛んだ 「静かに!では一番綺麗で賞は‥‥総務部に決定です! 息が詰まる程の綺麗さに‥‥此処に与えるしかなくなりました」 皆も納得の総意だった 彼処の部署は日頃から掃除が徹底されているのだ、汚い訳などないのだ 「ですが、今回は本当に甲乙付けがたい闘いでした なのでもう少しだったで賞を総ての課に渡したいと想います 本当に皆さん常日頃から頑張って綺麗さを維持して来ましたね」 榊原はそう言い後ろに下がると清隆と瑛太が前に姿を現した 榊原が瑛太にもう少しだったで賞の目録を渡した 「人事 経理 人材管理部 」 瑛太が読み上げると代表者が目録を取りに来た 陣内はメラメラと燃えて 「来年は烈の協力を得て更に頑張ります!」と宣言した 瑛太は頷き目録を渡した 「建築 施工 製図部と人事 経理 人材管理部は後で会長から副社長賞と真贋賞も貰って下さい 広報 宣伝部前に出て下さい」 瑛太が謂うと流生が瑛太の横に立った 水野は瑛太の前に立つと目録を受け取った 「ありがとうございます」 水野が謂うと瑛太は「彼からもありますよ」と流生を示した 「きょれ!どーじょ!」 水野は流生から目録を貰い受けた 「ありがとう流生君」 「みじゅの らいねんはりゅーちゃ、せんりょくになりゅから!」 「ありがとう」 水野は嬉しそうに笑うと一色の横に戻った 瑛太は「次は食堂とレストランです、前に来て下さい」と謂った 城田と愛染と瀬能が瑛太の前に立つと瑛太は 「ご苦労様でしたね」と謂い二人に目録を渡した 自分の渡す責任を果たすと瑛太は後ろに下がった 変わって清隆が 「それでは【副社長】人事 経理 人材管理部」 もう一度陣内が出向いて目録を受け取る 清隆は「頑張りましたね」と労いの言葉をかけた 陣内は目録を受け取った後、深々と頭を下げ後ろに下がった 「次は【真贋賞】建築 施工 製図部前に出て下さい」 栗田が前に出ると清隆は目録を栗田に渡した 栗田は一礼すると後ろに下がった 「では【一番綺麗で賞】は総務部です」 皆がら拍手が送られて蒼太は前に出た 「綺麗好きな君らしい手腕でしたね、おめでとう」 「ありがとうございます」 そう言い深々と頭を下げた そして体躯を起こすと姿勢を正した 目録を受け取り後ろに下がった 康太は前に出ると 「目録を見てみろよ!」と笑って謂った 目録を部署の皆と共に開き‥‥‥‥皆は驚愕した 目録の商品は今、各部署が欲しているモノだったからだ! 陣内は副社長賞の目録の先に開けた 目録のど真ん中に【副社長賞 バリスタ】と書いてあった うちってバリスタ欲してたっけ??と思案した 烈が翔に「にーにーたにょむ」と言うと翔が陣内の前に出た 「じんにゃいはコミュニケーションがすくにゃいので、それをきっきゃけにしんぼきゅをはかれと、れちゅがいってます」 陣内は「肝に命じておきます」と謂い深々と頭を下げた 「康太の子はどの子も手厳しいな! 少しはオジサンを労ってくれないかな?」 陣内が謂うと笑いが巻き起こり、一気に柔和な雰囲気になった 陣内はもう一つの【もう少しだったで賞】の目録を開けた 【お掃除グッズ一年分】後で倉庫に取りに来る様に!との事だった 副社長らしく抜かりのない采配だった 栗田も目録を部署の者と見て驚いた瞳で翔を見た 目録の内容は現場で必要な機材は三度だけ優先的に用意しましょう‥‥‥と文言が入っていた 「これは?」 栗田は信じられない想いで呟いた 足りない機材や壊れた機材は申請して何日も待たねばならなかったからだ‥‥ 「それを考えたのは翔だ!」 と康太は目録にしがみつく栗田に声をかけた 「翔君がですか?」 「あぁ、翔は常々備品の補充に時間が掛かりすぎるとボヤいていた モノによっては、んなに直ぐに用意は出来ねぇかも知れねぇけど優先的にその紙を見せれば用意させよう! まぁ丁寧に扱って貰うのが一番だが、気性の荒い猛者の集まりだからな 栗田の胃痛を和らげる為にお願い!と翔にお願いされたら‥‥聞かざるをえねぇだろ?」 栗田は翔に「ありがとう翔」と礼を謂った 「くりた よきゃったな」 「はい!」 水野も社長から貰った目録を開いた 一色や部署の者も覗き込んだ 【会社地下にある多目的発信空間の使用許可証とID】が入っていた 一色は「会社地下?この会社に地下っ駐車場以外にあるのですか?」と呟いた すると康太は「一色、この会社の正式な図面は真贋しか把握はしてない! なので軽はずみな事は不用意に口にするな!」と釘を刺された 一色は「すみませんでした」と謝った 暴漢に押し込まれたり、会社内部の情報が漏洩したりしたのだ 人一倍神経質になって当たり前だった 水野は流生から貰った目録を広げた 「使いやすい棚」と書かれていた 流生が「ぶしょのみんにゃではなちあうのね、そしてどうしぇんをつけてやれば、うごきやしゅくなりゅにょね!」と説明した 一色は「成る程、今うちの部著には動線は皆無に等しいですからね、流石です流生君」と誉めた 社員食堂へ助っ人に行った城田は梓沢と武藤と共に目録を開いた 【スタッフヘルプ券】なるモノが12枚綴りで入っていた 城田は「これは?」と康太に問い掛けた 康太は「それはそのまま梓沢と武藤に渡しておいてくれ!急なスタッフの不足の時のヘルプ券だ! 足らない時は何処かで借りて来るしかねぇだろ! 各部署で食堂の応援しても良いって奴がいれば別だけど、中々難しいからな 伊織が竜胆先輩に人材会社なるモノを興させたんだよ まぁ竜胆先輩もSPの会社を作る時も駆り出されて災難だけど、あの人は何故か動いてくれるんだよな」 康太が呟くと社員は全員‥‥‥それは弱味を握って脅しているんじゃ‥‥‥と想った だが桜林時代から何事も弱味を掴めなかった男、竜胆先輩は不思議な存在だった 一生は「俺は旦那と竜胆先輩の関係性が不思議でならないわ‥‥」とボヤいた 康太は笑っていた 隠し事のない夫婦は何でも知っているのだろう‥‥ レストラン部の目録を愛染と瀬能が開けた 「次のシェフ武藤」とだけ書かれていた レストラン部のシェフは武藤と謂う事なのだろう 玲香は「武藤頼むわいな!」と商品化されトホホな気分なのに追い討ちかけられ 「はい!頑張ります ですが俺はシャッター通りの開発プロジェクトにも加わりますよ?」 と武藤は心配して謂った 「大丈夫だ、少し代打してくれ! 人材の要請は色んな所にだしてあんだよ!」 「解りました! あのキャパのレストランならば慣れてますから!」 「武藤はな、イギリスのリッチモンドホテルの主任シェフをしていた腕前だ」 康太が紹介すると、社員達は何故にそんな凄い御方が‥‥‥来ちゃうのぉ?と想った 武藤は「俺は客の反応が見える場所で仕事がしたかったんだよ!」と豪快に笑った ぱっと見、建築にいてもおかしくない猛者だった 榊原は一歩前に出ると「これで全部署渡りましたか?」と確認した 一応全部署渡ったみたいで、新元号最初の年の大掃除は幕を下ろした 大掃除を終えて康太は一生の背中によじ登り 「家の大掃除どうするよ? オレはライトアップやクリスマスで精魂尽き果ててる‥‥」 康太がボヤくと一生は 「応接間は客が来るからなやらねぇとならねぇけど、他は旦那の怒りに触れなきゃ、それぞれで良いんじゃねぇのか?」 「オレ、年かな」 「おい!そんな事謂うと本当の年寄りに恨まれるぞ! 飛鳥井には大人げないオジサンが沢山いるんだからよぉ!」 一生がそう言うと瑛太が 「それは私の事ですか?」と尋ねた 「ちっ‥‥違います‥‥」 一生はたらーんとなった 康太は京香の手を掴むと、そーっと前へと出した 「皆、聞いてくれ! 社長の奥さんがもうじき出産なんだよ!」 康太が謂うと社員は【おめでとうございます!】と一斉に祝福の言葉を述べた 「義姉は去年‥‥辛い出産を体験しました 生まれて来た子には、産まれながらの疾患があり‥‥ずっと機械に繋がれて‥‥腕に抱く事も出来ずにいた その腕に抱き締めた時‥‥我が子のお別れの日だなんて‥‥惨くて辛い出産をした 義姉は自分を責めて倒れる程泣いて過ごした そんな悲しみの果てに手にしたお子だ 皆、義姉の出産を祈ってやってくれないか?」 京香は大きなお腹をして美しく佇んでいた 女性社員は京香の前にやって来ると 「お腹触らせて貰って宜しいですか?」と声をかけられた 京香は「そっとなら‥‥」と頷いた 「京香さん‥‥私もね去年‥‥流産したんですよ‥‥」 とある女性が謂うと 「京香さん私は今年の頭に死産しました」 と同じ痛みを持つ女性社員が京香の出産を本当に喜んでいた 「元気なお子を!」 社員が同じ思いをして京香を取り囲んでいた 康太は京香に「良かったな」と声をかけた 京香は嬉しそうに微笑んでいた 社長婦人と謂えど、苦しみのたうち回り‥‥立ち上がろうと頑張っているのだ 社員達は薄々ながら知っていた 翔も京香の子なのだろうと‥‥ 我が子を手離さねばならない過酷な境遇でも京香は誰よりも美しく凛として微笑んでいた 男性社員からも女性社員からも憧れ的な存在として京香は飛鳥井建築で輝いていた 榊原は一歩前に出ると 「それでは今年の大掃除はこれをもって終了とさせて戴きます! 皆さん掃除道具を片付けた後、気を付けて帰宅して下さい! 来年も皆さん、元気な顔で初出勤御願い致します!」 良く通る声で解散を告げると、皆バラバラに散らばった 京香の顔が少しだけ青褪めて逝くのを康太は見逃さなかった 「伊織、母ちゃんに謂って京香を病院に連れて行って貰ってくれ 此よりオレは京香には近寄れねぇからな‥‥」 「解りました、君は何も心配しなくても良いのです! 君の望むべき事は総て僕が片付けて差し上げますから!」 榊原はそう言うと玲香の傍へと向かい、京香を病院に連れて行ってくれと頼んだ 玲香は「瑛太、京香の出産準備のバックを持って村瀬の病院に来るが良い 我は先に京香を連れて行こうぞ!」と瑛太に告げた 「え?京香、生まれますか?」 瑛太は驚いて問い掛けた 「康太が申しておる、ぬかりはないわい」 「解りました! 家に帰り次第バックを取って病院に運びます」 瑛太が家に還ろうとすると康太が「一生、頼む!運転はさせんな!」と一生に頼んだ 「了解!産まれたら連絡入れるわ!」 一生がそう言うと玲香は 「なら我は先に行っておるからな!」 言い京香を連れて会社を後にした 目撃していた社員達は「大丈夫かしら?」と心配の声が上がった 取り敢えず榊原は 「新年一発目に目出度いニュースが謂えるように義姉さんは頑張ってくれます 義姉さんの出産は辛い事ばかりでした これ以上辛い経験などさせないと飛鳥井家真贋が約束してくれました なので大丈夫です! 皆さんも待っている人がいるなら、早く帰りなさい! 待っている人がいないなら、久しぶりに家族に逢いに逝きなさい 友に逢うのも良い‥‥寂しい時間でなくば良いと想っています では解散して下さい!」 社員達は榊原に頭を下げてそれぞれほ部署へと散らばって行った 部署で解散となるのだった 榊原は康太や慎一と共に食堂のカップを片付けた 食堂を綺麗に整えると、新年早々リフォームの最終確認を取って、細かいスケジュールの打ち合わせをして今年最後の仕事は終えた 榊原は慎一に「菅生を久遠先生の所へお連れして体躯の検査を受けさせて下さい 今日は休みですが久遠先生は病院にいられるそうなので頼めますか?」と頼んだ 慎一は「解りました!菅生さんを連れて病院に行きます 何か買うのとかあったらまた連絡下さい」と謂い食堂を後にした 榊原も康太と共に食堂を後にした 副社長室に向かうと子供達が聡一郎に連れられてソファーに座っていた 榊原は我が子に「お疲れ様でしたね、大役ご苦労様でした」と労いの言葉を掛けた 子供達はもう眠そうだった 榊原は「そう言えば隼人は?」とそこに姿がないから問い掛けた 「隼人は‥‥‥神野が迎えに来て新春特番に清四郎さんと出るらしくて撮影に出向いてます 本人は今年の仕事は終わったのだ!と行きたがらなかったのですが‥‥清四郎さんに説得されて‥‥渋々行きました 何でも神野が忘れてて、もう仕事納めだと謂っちゃった後でしたからね」 「一本、残っていたのかよ?」 「そうみたいです」 「なら家に帰るか 今年はもう修行もねぇしスイミングも塾も休みだかんな」 子供達はわぁーいと喜んだ 康太は聡一郎に「車で来たのかよ?」と問い掛けた 「いいえ、僕は慎一の車に乗って来たので‥‥慎一いないのですか?」 「なら今日は大所帯だからなベルファイアで来てんだよ オレが烈を膝に抱っこ‥‥‥嫌一番軽い大空を膝に抱っこすれば楽勝だろ?」 烈は母の足を踏んづけた 「痛てぇっな!」 烈はフンッとそっぽを向いた 「ごめんな烈」 「かーかー いじょわる」 「ごめんごめん!」 「にゃらおにく、たくしゃん」 「それはダメらしいぞ烈 とぅちゃが烈の肥満体型を気にしてるかんな」 「ひみゃん!!!!!」 烈はショックで倒れた 榊原は康太をめっ!と怒った 榊原は「大丈夫です烈、もう少しノブタらしくなったら切り落とせば良いだけの事ですから!」と追い討ちをかけられ 「う~ん う~ん う~ん‥‥」と魘されていた 康太は榊原を、めっ!と怒った 榊原は笑い「嘘ですよ烈!さぁ帰りますよ!」と言い立たせた すっかりブスッと拗ねた烈をお兄ちゃん達は優しく撫でた ベルファイアに乗り込み康太は烈を膝の上に抱っこした 「ごめんって烈」 烈は唇を尖らせて兄達と同じ様に拗ねていた 康太はポケットを探るとクッピーラムネを取り出した 「ほら、食べて良いぞ」 「にーにー にょは?」 「聡一郎が渡してくれてるさ!」 そう言い康太はポケットの中の駄菓子を聡一郎に渡した 榊原は「どうしたんです?そのお菓子?」と尋ねた 「社員の皆がオレの子にってくれたんだよ 大丈夫だ、変なの混ざってねぇか翔に視させてあるから!」 康太はそう言うと烈の手にお菓子を沢山乗せた 烈はハムスター並みの頬をして、お菓子を食べていた 榊原は飛鳥井の家へと車を走らせた 地下駐車場にシャッターをリモコンで操作して開けると、車を走らせた 所定の位置に車を停めると運転席から下りて後部座席のドアを開けた そして助手席に向かいドアを開けると烈を抱っこして下ろして康太も下ろした 地下から上に上がる階段を上がりドアを開けると応接間の前に出た 応接間には誰も戻ってはいなかった 康太は「伊織、ワンのカットに逝くか?」と問い掛けた 「そうですね、子供達はどうします?」 「乗せて逝けば良いやん 聡一郎には一生と慎一と隼人との連絡を取って貰って帰りにファミレスに逝けば良いやんか!」 康太がそう言うと聡一郎は 「なら一生と慎一に連絡を取ります」と答えた 康太は少し考えて 「‥‥‥榊原の両親にも頼む‥‥ 笙夫妻は複雑だろうから‥‥せめて義父さんや義母さんには伝えておいてくれ」と聡一郎に頼んだ 「解りました 慎一と一生に連絡を取った後、連絡を入れます」 「頼んだ、何かあったら謂ってくれ オレは逝けねぇけど誰かを呼ぶ事は出来る」 「大丈夫ですよ康太‥‥」 「なら頼むわ! 伊織、ワンのリード手伝ってくれ」 康太が言うと音弥と流生がリードを持って来てコオとイオリのリードを慣れた手付きで繋いだ 翔と太陽がガルの首にリードを繋いで 大空はシナモンを撫でながら 「かぁちゃ しにゃもん どーしゅるの?」 「キャリーに入れるか?」 大空はキャリーを取り出すと蓋を開けて 「はいるにょ!」とお尻を押した 迷惑そうに欠伸をしてシナモンはキャリーに入った 榊原はワン達の美容院に連絡を入れて 「これから来て下さい!との事です」と伝えた 榊原はシナモンのキャリーを持ち上げると 「さぁ逝きますよ!」と急かした 康太はガルのリードを持つと榊原に続いた 音弥と流生がイオリとコオのリードを持ち応接間を後にした 榊原はベルファイアに我が子とワン達を乗せて運転席に乗り込んだ 康太は助手席に乗り込み子供達に「出発すんぞ!」と告げた 子供達は車でのお出掛けが大好きだった

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