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第8話 新年

榊原伊織は我が子と康太と共に、大晦日から家に還る事なく、ホテルに泊まっていた 今回のお泊まりは飛鳥井の家族や榊原の家族には遠慮して貰い出掛ける事にした 当然、一生や聡一郎、隼人に慎一にもお泊まりには遠慮して貰う事にした 祖父母や一生達はお留守番となったお泊まりを、子供達は何やら感じていた 大晦日の夜は早めに子供達と寝て、朝早く初日の出が出るのを窓を眺めながら待っていた そのホテルの部屋は康太が我が子が7つになったら総てを話すと決めた3年前に予約入れた そして迎えた年だった 子供達は窓に張り付いて初日の出を待っていた 初日の出が見える部屋を予約した 大晦日の晩は美味しいご飯を沢山食べて早めに寝て初日の出を見てから総てを話すと決めていた そして迎える当日だった 康太は窓の外を眺めて 「めちゃくそ雲が多くね?」とボヤいた 「鯨の背中だと見えないかも知れませんが、このホテルからだと見えませんかね?」 榊原も窓の外を見ながら答えた 雲が朝焼けに染まり、日の出が始まったであろう事は伺えられた 「このホテルの部屋 めちゃくそ高いんだよな 初日の出を見ねぇと採算が取れねぇじゃねぇかよ!」 康太はボヤいた 榊原は天候任せだから無理難題でしょそれは‥‥と想った 太陽は窓の外を見て 「くも‥‥おおいにょね」と呟いた 大空も「もにょもにょなのね」と雲の多さに言葉にした 翔は姿勢を正して、その時を待っていた 流生は「かぁちゃ おいちそうね、くも」と綿菓子みたいだと食べたそうに謂った 烈は「ちゃ!」とお茶を催促し、榊原にお茶を淹れて貰っていた 音弥は「かぁちゃ ひかってるにょ!」と朝陽が雲を金色に染めるのを瞳を輝かせて見ていた 初日の出のチャンスを雲で見逃してしまったが‥‥ 朝陽が出て金色に光り輝く光景を目にして感嘆の息を飲んだ 康太は子供達の前に座ると 「話があるから聞いてくれ!」と切り出した 子供達は康太の前のソファーに並んで座った 「お前達は賢い 普通の子よりも知能指数も高いから‥‥もう解ってると想うが‥‥オレはお前達の母だが血は繋がってはいない そして何よりオレは男で、伊織も男だ どうして男同士が両親なのか‥‥不思議に想う時が来ると想う それを今から話そうと想う」 康太は単刀直入に切り出した 子供達は予め予感は有ったのか、然程取り乱す事なく話を聞いていた 「翔」 「あい!」 「お前はもう解ってるんだよな‥‥自分の両親が誰か?」 「えーちゃとままれすか?」 「そうだ、お前は瑛兄と京香の子だ 何故オレの戸籍に入ったかと謂うと、まだお前には難しいかも知れねぇ‥‥解る時が来たら話そう」 「かけゆはたぶん‥‥しってます」 「え?‥‥知ってるのか?」 「おとたんとてをちゅないでねてりゅと‥‥いちゅも‥‥ゆめをみたきゃら‥‥」 「どんな夢だ」 「ままがいえをでて‥‥ままのこはしんだって‥‥かけゆはおなかにいて‥‥ままはぺなるちぃーをうけたって‥‥」 「琴音が見せたのか?」 康太は信じられない想いで呟いた 「さいごにかならじゅ‥‥ままをうらまないでね‥‥っていうの なんどもなんども‥‥ないていうのね、あのこ」 康太は翔を抱き締めた 「全部悪いのはオレだ‥‥」 「ちがうよ‥‥あのこはいちゅもいってりゅ こうたちゃんはわるくないのよ!って‥‥」 康太は耐えきれず泣いていた 榊原が康太を引き寄せて抱き締めた 「伊織‥‥琴音が‥‥」 「あの子は飛鳥井の女ですからね‥‥ 翔、君はこの先、どうしたいですか?」 榊原は康太を抱き締めて翔に問い掛けた 「かけゆは、あすかいのしんがんれすから! かぁちゃのあとをつぐのはかけゆだけれす!」 「そうですね‥‥君はもう次代の真贋だと御披露目しましたものね」 「なのでかわらにゃいです!」 「解りました!」 榊原が答えると、康太は顔を上げて榊原から離れた 「なら次は流生だな」 康太が謂うと流生は 「りゅーちゃ?」と問い掛けた 「そうだ。お前も賢い子だ 薄々勘づいているんじゃねぇか?」 「りゅーちゃね、とぅちゃとかぁちゃのこらよ?」 「流生の父は緑川一生だ! 母は戸浪亜沙美‥‥二人の間に出来た子がお前だ! 二人はお前を捨てたんじゃない‥‥オレに託してくれたんだ」 「かぁちゃ‥‥りゅーちゃね‥‥かじゅもあしゃみも‥‥‥じゅっとたにんらから!」 「流生‥‥」 「りゅーちゃね、かぁちゃととぅちゃのこらから!」 流生の瞳には覚悟の光が灯っていた 榊原は「それで良いのですか?」と問い掛けた 「りゅーちゃはね、りゅーちゃにしかならにゃいの! あしゅかいりゅーしぇー!」 「そうです、流生は流生です 生い立ちを話したからと謂って、親子の関係がなくなる訳ではありません! でもケジメです‥‥この先君達を騙して育てる気はないと謂うケジメです それだけは解って下さい」 「りゅーちゃ たいちぇちゅにされてりゅよ?」 「これからも大切にして逝きます」 榊原は流生を抱き締めた 康太は「緑川一生の想いと戸浪亜沙美の想いだけは否定はするな!良いな?」と謂った 流生は頷いた 「次は音弥だ!」 「おとたんね、ちってる はやととにゃにゃこのこ、なんらよね? れもおとたんはね、やっぱしとぅちゃとかぁちゃのこらよ?」 「琴音か?」 「ちがうにょ!おとたんね、みえりゅにょね にゃにゃこ‥‥おはかまおいりちたとき‥‥みえた それでなんとなく‥‥わかった」 「そうか‥‥お前は修行中だったもんな」 「しょうにゃにょ! れもね、おとたんねかぁちゃらいすきよ! とぅちゃもらいすき! おとたんね、きょらいもらいすきよ!」 「飛鳥井音弥、この先もお前はオレと伊織の子で良いのか?」 「すてにゃいでね!」 「捨てるかよ!」 康太は音弥を強く抱き締めた 音弥を離すと太陽と大空と烈に向き直った 「太陽と大空と烈は誰が両親か知ってるか?」 太陽は「ちらにゃいし、ちらにゃくていー!」と答えた 知っていて謂う確信犯、それが太陽だった 大空は「くえにゃいはなちはいらにゃいー!」と答えた 「食えねぇのはおめぇの性格だろうが!」 烈に至っては「ちゃ!」とお茶の催促をし 榊原は熱々のお茶を淹れて烈の前に出した 「お前は伊織の両親、榊原清四郎と真矢夫妻がオレに託してくれた子なんだ」 「かぁちゃ かなのほうぎゃ おときょまえよね!」 と大空はんな事は知ってると謂う風にそう言った 「ひなのほうぎゃ おときょまえよね!」 烈はふんふん!胸を張った 榊原はブチッと切れて 「僕が一番男前です!」と宣言した 大空は康太の膝の上に乗って頬を撫でながら 「かぁちゃ かな すき?」 「大好きだよ!」 「かなもかぁちゃらいすきよ!」 とチューした 榊原は大空をポイッと子供達のソファーに放り お口直しのキスをした 大空は「ちっちゃい!」とボヤいた 音弥は母の膝に甘えて 「かぁちゃ おとたんのことちゅき?」と問い掛けた 「大好きだぞ音弥 おめぇは兄弟の中で一番体躯が弱かったし 家に来るのも一番遅かったからな‥‥めちゃくそ心配して育てたからな」 「おとたんね かぁちゃらいすきよ! これきゃら おときょまえになるからね!」 「隼人よりか?」 「あたりみゃえ! おとたん、はやちょよりおときょまえよね!」 康太は音弥を撫でた 音弥は母の膝の上に甘えて抱き着くのが大好きだった その横に翔が遠慮して抱き着いていた 康太は音弥と翔を抱き締めた 「翔」 「なんれすか?」 「お前を誰にも負けねぇ真贋にするのがオレの務めだ‥‥辛い想いを沢山させるが‥‥オレの子だ!絶対にオレを乗り越えて逝けると信じてる‥‥」 「かけゆはあちゅかいのしんがんらから‥‥ らいじょうじれす! かぁちゃにまけにゃいちんがんになりましゅ!」 「心強いな‥‥頑張れ! お前はオレの誇りだ!」 翔は康太の膝に顔を埋めて甘えていた やはり母に甘えたい子供は‥‥ 康太の背中によじ登り烈は甘えようとした 太陽も大空も母に抱き着いていた 榊原は少しだけ寂しくて 「父は要りませんか?」とボヤいた お母さんパワーには負ける 何時だって子供達はお母さんを独占しようとするのだ だけどお父さんだって甘えられたいのだ 烈が榊原の膝にドスンッと座った 「烈‥‥」 「とーとー」 榊原は烈の頭を撫でた すると、さぁ大変だとばかりに子供達は皆、父に抱き着いた 「りゅーちゃ とぅちゃににて おときょまえね!」 と言い父に抱き着いた 榊原は我が子を手に笑っていた 「康太‥‥僕達はこの子達の父と母にしかなれません! 性別が少しだけ世間様と違いますが、それは愛情でカバーして逝こうではないですか!」 飛鳥井家真贋の伴侶として生きて逝く 今までも‥‥‥これからも! 康太を支えて子供達を愛して育てて逝く この愛しき世界に身を置く 康太は榊原の覚悟を受け取って 「あぁ、オレらはこの子達の親にしかなれねぇならば、愛し貫くしかねぇかんな! この先も共にオレと生きてくれ!伊織」 と笑った 榊原は康太に口吻け 「受けて立ちます」と笑った 父と母に抱かれて子供達は幸せそうに笑っていた 康太は榊原に「このホテルに榊原の家族と飛鳥井の家族と一生達が宿泊してるの知ってる?」と問い掛けた 榊原は驚いた瞳を康太に向けた 「あの心配性の瑛兄が大人しく待っててくれる訳がねぇだろ?」 「あの人の心配性は鋼鉄よりも熱いですからね‥‥ なら電話をしますか?」 「少し位虐めても大丈夫かな?」 「少しにしておきなさいよ?」 「解った」 康太はテーブルの上に置いてある携帯を取り出すと瑛太に電話を入れた ワンコールで出た瑛太に 「明けましておめでとうございます」と新年の挨拶をした 『康太!』 「瑛兄、オレは新年の挨拶をしたんだぜ?お返しは?」 『明けましておめでとう康太‥‥』 「瑛兄、オレはこれから帰ろうと想ってるんだけど? 瑛兄は当然、飛鳥井の家にいるよな?」 『え!康太‥‥‥兄は‥‥‥』 「オレの子はお年玉も楽しみにしてるけど、当然作ってあるよな?」 『康太‥‥』 瑛太は汗汗と何か言おうとするが、あたふたとして何も話せないでいた 榊原が『康太』と嗜めると電話を変わった 「義兄さん、伊織です ホテルにいるのですよね? なら部屋に来たらどうですか?」 『伊織‥‥話しはしたのですか?』 「今終わりました」 『子供は?』 「変わりません! 今まで通り僕達の子です」 『そうですか‥‥』 瑛太は安堵の息を吐き出した ずっと気になって 気になって‥‥気になって何も手に着かなかった 玲香が一生にホテルに部屋を取る様に言い、空いてる部屋を取って待っていたのだった 急だからあんまり良い部屋は取れなかったが‥‥ 家で待つよりはマシだと想った 榊原は部屋番を告げると電話を切った 暫くしてドアがノックされドアを開けると 飛鳥井の家族と榊原の家族と一生達が心配した顔で立っていた 皆を部屋に招き入れると榊原はドアを閉めた 音弥と流生は真矢と玲香を見ると 「ばーちゃ、ばーたん」と甘えて呼んだ 子供達は何一つ変わらず笑っていた 烈はふんふん!とソファーに座って手を振っていた 「とーとー」 烈が謂うと「お茶ですね!」と言い熱々のお茶を差し出した 音弥は歌を歌っていた 「もくもく もくもく」 そう歌うと烈が「くもたん!」と続けた 「あさひはみえにゃい」 「くもたん!」 一生は「なんつう歌よ?それは?」とボヤいた 康太が「初日の出、雲が多くて始めの方見えなかったからな、それでだろ?」 康太の借りてる部屋はクィーンサイズのベッドが入ったファミリータイプの部屋だった 真矢は「良くもこんな良い部屋がありましたね?」と問い掛けると慎一が 「康太は3年前から予約を入れてましたからね!」と答えた 3年前から予約を入れて‥‥‥ それならこれだけの部屋に泊まれるだろう 康太は「かなり高い部屋なのによぉ‥‥初日の出が見えなかったから採算が取れねぇと想ってた所だ」と何事もない風に言っていた 聡一郎が「相手が天気なら‥‥採算は度外せねば腹が立つだけですよ?」と至極真面目に返していた 「そうなんだけどな、母ちゃん達部屋を引き払ってこの部屋でもう一泊すると良い この部屋は主賓室とゲストルームが二つあるかんな みんなが入ってる部屋よりも広いぞ?」 そう言われ玲香はすっかり泊まる気満々となった 真矢も清四郎と共にすっかり寛いでいた 瑛太は「この部屋の支払いは私がしましょうか?」と高いを連発する康太に問い掛けた 「支払いは3年前に終わってる だから帰れねぇで連泊してるんだろうが‥‥」 大晦日の夜に一泊、そして今夜一泊して明日還る予定なのだ 「父ちゃんと母ちゃん、真矢さんと清四郎さんはゲストルームを使うと良い 一生達はオレの部屋で雑魚寝で構わねぇだろ?」 康太が謂うと一生が「あぁ構わない」と答えた 康太はソファーにドカッと座って怠そうにしていた 瑛太は「怠そうですね?体調でも悪いのですか?」と問い掛けた それに答えのは流生だった 「とぅちゃとかぁちゃはらぶらぶらだから!」 「‥‥‥え?子供の前で‥‥犯りましたか?」 瑛太は‥‥まさか‥‥と呟いた 「かぁちゃ しゅごいねじょーらったのね とぅちゃ‥‥べしっとされても、らいじょうびらって‥‥らぶらぶららったの! んでね、かぁちゃはべっとからおちたにょね!」 流生の話だと‥‥何だか榊原が可哀想になって来る‥‥ 康太は「あんな乗るのもやっとなベッドなんて、あんで作るかな?」とボヤいていた 「義兄さん、幾ら僕でも子供の前では犯りません! どこら辺がラブラブなのか解りませんが‥‥ラブラブ要素が全く感じられないのが現実です 康太はベッドから落ちて打撲してるんですよ」 「大丈夫なのか?康太」 瑛太は心配そうに問い掛けた 「怪我はしてねぇけど、無防備な睡眠時に落ちたからな‥‥ダメージは半端ねぇけどな」 キングザイズのツインベッドから落ちるって‥‥ それは相当痛いだろう‥‥ 玲香は「総て‥‥遺恨は遺さぬ決着となったのかぇ?」と問い掛けた 「あぁ、でもよぉうちの子はやっぱし賢いわ 話すまでもなく自分と謂うのをちゃんと知っていた」 ‥‥っ!‥‥‥玲香は息を飲んだ 清隆も苦しそうに息を飲み‥‥姿勢を正した 「辛い‥‥事をさせてしまいましたね」 父の優しい手が康太を撫でた 「父ちゃん‥‥オレには父ちゃんがいてくれる 母ちゃんや、瑛兄が‥‥そして仲間や伊織の家族も支えてくれる だから乗り越えて逝かねぇとならねぇんだ! 明日へ繋ぐ為にオレは生まれて来たんだからな!」 「私は何時も‥‥お前が笑っていてくれるなら‥‥と想っているよ」 「父ちゃん‥‥」 清隆は康太を抱き締めた 父は寡黙で己から動作を起こす人ではない なのに‥‥清隆は康太を抱き締め背中を撫でていた 康太は父に抱かれて‥‥懐かしい胸で父の匂いを嗅いで‥‥眠りに落ちた 相当緊張していたのだろう‥‥ 「頑張った我が子を誉めぬ父はいませんよ」 清隆は康太をずっと撫でていた 康太の眠りは浅い 少し眠って康太は目を醒ました 起きた康太に瑛太は「お腹減ってませんか?」と尋ねた 「めちゃくそ腹減った‥‥」 「ルームサービス取りますか? それとも何か買い出しに行きますか?」 「ルームサービスは食い飽きた」 康太が謂うと瑛太は立ち上がり 「誰か荷物を持つ為に来て下さい」と声をかけた 一生と慎一が立ち上がると隼人も何故か笑って立っていた 聡一郎も「僕も行きます」と言い大人数で買い物に出掛けた 静まり返った部屋に康太は母玲香に 「母ちゃん、琴音が翔に教えていたんだよ」 と翔が夢を見ていた話をした 真矢は「琴音と謂う子は?」と初めて聴いた名だと問い掛けた すると玲香はバッグから琴音の七五三の時の写真を取り出して見せた 「瑛太と京香の初めての子じゃ」と教えた 京香に良く似た凛々しい男前が伺えれる1枚だった 「琴音はもうこの世にはいねぇ‥‥だが音弥の中に入って今も生きている‥‥」 真矢は琴音の写真を見て 「そう‥‥この子が琴音なのね」と謂った 京香は子を事故で亡くし 親と名乗れずに翔を生んだ そして瑛智を育てて‥‥また子を亡くした‥‥ その生涯は厳しい試練の連続であろうに‥‥‥ それよりも昔よりは幸せだと京香は笑うのだ 康太は真矢に京香の生い立ちを話して聞かせた 「義母さん、貴方には京香の生い立ちを聞いていて貰いたいのですが‥‥」 「私が聞いて‥‥京香は嫌な想いはしませんか?」 「支えて‥‥やって欲しい‥‥だから話すのです」 「では聞きましょう」 康太は真壁の家の話をした まだ飛鳥井の家の近くに真壁の屋敷が建っていた時からの話をした 真壁の当主は美しい三人姉妹を商品として、取引先の相手に与えて来た 幼少の時より男の慰み者として、心を殺して生きて逝くしかなかった‥‥ 傷だらけで何時もお腹を減らしていた康太と 優しい真壁の三人姉妹との話を‥‥真矢は涙を堪えて聞いていた 想像を絶する話だった 真矢も施設に入るまでは親戚の叔父さん達の慰み者として生きるしかなかった こんなに似ていたなんてね‥‥真矢は想った あの永遠にも想える時間を耐えて‥‥やり過ごした者にしか解らぬ苦痛‥‥ 地獄だと想える時間を知っている京香ならば、昔よりは幸せだと想えて当たり前だと想った 康太は真壁の三人姉妹を助ける為に真壁を破滅に追いやった‥‥ そして適材適所、振り分けて今の京香が在る事を‥‥話した 真矢は堪えきれず嗚咽を漏らして泣いていた 「京香を支えましょう! 幸せにならねば‥‥ね?」 真矢は康太の横に座ると優しく康太を抱き締めた 「義母さん‥‥辛い想いを‥‥思い出させてしまいましたか?」 「大丈夫よ、私には清四郎がいる そして我が子や康太がいてくれる 家族がいなかった私達が‥‥今じゃ大家族なんてね、人生捨てたものじゃないわ」 「やはり貴方も飛鳥井の女ですね! 気高くて強い‥‥飛鳥井の女です!」 「姉さんの妹ですからね!」 真矢は笑った 誇り高く 気高くて美しく凜と咲く花のように‥‥ 太陽は真矢に近付くと 「ばぁたん ちれーね!」と誉めた そして手を出した 真矢はピキッとなり 「綺麗ね!と誉めたばかりで、この手は何かしら?」 「ばぁたん ぼけちゃにょ?」 ピキッ! 「太陽!」 真矢が怒ると太陽は 「おきょるとしわ ふぇちゃうにょ!」と謂った 真矢はニコッと笑った 「そー!そー!えぎゃお!えぎゃお!」 「んとに、そんな調子の良い所、笙にソックリね!」 とボヤいた 太陽は嫌な顔をして 「ばぁたん、ちょーはこもの!」とトドメを刺した 真矢は爆笑した 「やっぱ康太の子は一味違うわね!」 榊原は兄を小物扱いされ‥‥でも怒るに怒れず‥‥ 「太陽の怖いのは康太だけですからね」とため息を着いた 「太陽、康太が怖いの?」 「康太は怒ると背を向けますからね 怒られたりしない分キツいんでしょうね」 あぁ、そう言う事ね ガミガミ怒られた方が楽な時もある 何も謂われずに背を向けられるのは結構キツいだろう‥‥ 太陽は康太にピタッと抱き着いた 康太の手が太陽の頭を撫でるとと、本当に嬉しそうに母にすり寄った 大空は少しだけ羨ましそうに母を見ていた 調子の良い太陽と要領の悪い大空 康太は「大空」と呼ぶと、大空は母に抱き着いた 康太は二人の頭を撫で耳元で何やら囁くと、二人は瞳を輝かせ母から離れた 「うし!お年玉だ!」 すると烈がふんふん!と鼻息荒く康太に手を出した 「烈、順番だ!」 康太が謂うと烈はブーブー!怒っていた 「今年は父と母からダブルであるぞ!」 「「「「「「やったー!」」」」」」 子供達は大騒ぎだった ちゃんと名前を書いたポチ袋を父と母から手渡して貰うと、この日の為に容易したお年玉袋の中に入れた 清四郎と真矢から貰い 買い物から戻った清隆からも貰い 玲香から貰い、瑛太から貰った そして一生、聡一郎、隼人と慎一からも貰った 烈は「みっか、みっか」と鼻唄を歌っていた 一生は「3日は何があるのよ?」と問い掛けた 「3日は一族総出で初顔合わせだ!」 あぁ、そう言う事ね お年玉を貰った子供達は、慎一の所へ詰め掛けていた お年玉袋を慎一に預けて、お正月が終わったら貯金へ逝くのだった 子供達はすっかり飽きてゲームで遊んでいた 子供達のゲームは自分の小遣いとお年玉を貯めたお金で買っていた 欲しいモノがある時の為の貯蓄だった 烈も母とSwitchで対決していた 玲香と清隆は昨夜あまり寝てなかった事から、ゲストルームへと移り寝る事にした 真矢と清四郎もゲストルームへ行き寝る事にした 瑛太はソファーの上で眠っていた 翔は瑛太にフカフカのブランケットをかけてやった この人の子供だと謂う事はかなり前から知っていた だからといって口に出したら、総てが変わりそうで‥‥‥怖かった だけど‥‥総て解っても父と母の子でいて良いと謂われた 翔はそれが凄く嬉しかった 「えーちゃは‥‥ぶきようらからね」 翔の呟きが瑛太の耳を掠める 「らから‥‥かけゆがれきることは‥‥ちてあげゆね」 翔の想いが‥‥優しくて‥‥瑛太は知らず知らずのうちに泣いていた ブランケットを頭からかけて‥‥瑛太は泣いていた 翔は清々しく笑っていた 流生はゲームを止めて窓の外を眺めていた 今日が終わって一番ホッとしたのは流生だった 流生は薄々と自分が康太と榊原の子でないのは解っていた 物心つく頃から‥‥たまに見る女の人に懐かしさ以上の想いを抱いていた そして一生に同じモノを感じて、傍に行ったらダメだと想っていた 認めるのが怖かった だけど最近は自分は自分にしかなれないと想う様にした 師匠から‥‥お前は何になりたい?と尋ねられた 一番先に想ったのが‥‥飛鳥井康太の子になりたいと謂う想いだった 子になれてないのか? 師匠は笑った お前は生まれた瞬間から飛鳥井康太の子であろうが! ならりゅーちゃは、りゅーちゃいがいにならなくていいにょ? 師匠に問い掛けた時 それ以外になれるならなるが良い!と返された 飛鳥井流生 以外になれるならなるが良い! それ以外になれぬのなら、生涯、飛鳥井流生で生きるしかないであろうが! 戯け!と怒られて‥‥流生は笑った 気が楽になった 流生が「ちちょー!」と呼ぶのは城之内 優 菩提寺の住職だった 流生は優しくて強い城之内が大好きだった 教えを乞うなら城之内から!と、決めて師匠になって貰ったのだ 一生は流生に近寄り「流生」と名を呼んだ 流生の背中がビクッとなって、一生は後悔した だが流生は振り返ると不敵に嗤って 「かじゅ」と名を呼んだ 「どうした?外ばかり見て‥‥」 「ししょーにょこと、おもいだちてた」 「師匠?城之内の事か?」 流生は頷いた 「りゅーちゃはあすかいりゅーせーにしかなれないにょ!」 「それで良いやんか」 「うん!らから‥‥りゅーちゃはかじゅとはたにんでいい」 子の口から告げられる言葉は‥‥‥辛く‥‥厳しい現実だった 「あぁ。流生がそう決めたのなら、それで良い 元々俺は告げる気なんてなかったしな!」 「れもね、ひていはしにゃい」 「そうか‥‥‥」 「いちゅか‥‥かじゅのとしをおいぬいたら‥‥ そしたら‥‥かじゅをみりゅ それまでは‥‥りゅーちゃはりゅーちゃとしていきてゆきゅ!」 一生は何も謂わず流生を見ていた 大きくなった 本当に大きくなった 我が子が総てを知って‥‥どうするか予想も着かなかった 何故謂うんだよ?と想ってた 黙ってれば解らないのに‥‥と想った だが‥‥薄々と知っていたならば‥‥己のルーツを知る時が必ず来るであろう道だったのだ 今、流生は総てを知って一生とは他人で良いと答えを出した ならばそれで良いと一生は想った 流生は一生の何も言わぬ優しさを知っていた 見守り続ける強さも知っていた 「かじゅ」 「何だ?」 「りゅーちゃね、うえにあがりゅの」 「初等科に入学だもんな、おめでとう」 「いまにょめせんらと‥‥みえにゃいことおおいにょね」 「なら大きくなれば良い」 「らから‥りゅーちゃはおおきくなるにょ」 「あぁ、なれるさ お前の父くらいには大きくなれるさ」 流生、お前の血を分けた男は誰よりも苦しく険しい道を逝く そんな男を否定だけはしてやるな ししょー!わかっちぇるよ! 「りゅーちゃはいいおときょになるよ! そして‥‥‥あいちたひとを‥‥しあわせにしていきていきゅにょ!」 流生はそう言い笑った 一生は目を手で覆った 「あぁ、絶対に離すんじゃねぇぞ‥‥」 後悔が滲む言葉を聞ければ十分だった 「かじゅはかじゅのままでいいにょ!」 「え?‥‥」 「りゅーちゃはりゅーせーにしかなれないのといっちょ!」 「流生‥‥」 「りゅーちゃはね、たくしゃんおやきょーきょーしゅるよ!」 「あぁ、沢山してやれ」 「かじゅにもすこしらけしてあげゆね」 一生は堪えきれなくなってその場に崩れ落ちた 康太が傍に近寄ると一生は康太に抱き着いて泣いた 「俺は許されたらダメなのに‥‥」 一生は呟いた 「もう良い一生‥‥贖罪の日々はもう終わって良い‥‥」 「康太‥‥」 「もう良いんだ一生」 康太が謂うと流生が一生の頭を撫でた 一生は泣いていた 「お前の子はどの子も優しいな」 「だろ?天使なオレの子だかんな!」 「言ってろ!」 一生は涙を拭きながらそう言った 榊原は一生を起こすと妻を抱き締めた 聡一郎は一生の傍に来ると涙を拭いてやった 「世話のかかる人ですね」 「聡一郎、そう言う言い方すんじゃねぇよ!」 「飛鳥井に還ったら一族詣での準備をせねばなりませんよ?」 「解ってるよ、今は忘れさせてくれ! それでなくても馬の出産が続いて俺も慎一もクタクタなんだからよぉ!」 一生はボヤいた 聡一郎は笑って一生の手を引きソファーに座らせた ソファーに座った一生は子供の数が少なくて 「あれ?烈と太陽と大空は?」と問い掛けた 聡一郎は「榊原の両親とお昼寝です」と伝えた この展開で共にお昼寝なのは定かではないが‥‥ 一生は黙った 清四郎と真矢も共にゲストルームに来た太陽と大空と烈はソファーに座ってニコニコと二人を見ていた 太陽は「ひなね、ちょーににてるいわれりゅのね」と謂うと 大空は「だね」と相槌を打った 「ひなね、いやなにょね。それ」 「だね!」 ニコニコ嫌だと謂われても‥‥真矢と清四郎は困って聞いていた 「じぃたん、ばぁたん、ちなねぜんぶちっていたにょね」 「だね!」 「れも‥‥これからも、かわらにゃくても‥‥らいじょうび?」 「だね!」 大空はもう同じ事しか言えなかった 真矢は優しく太陽と大空と烈を撫でると 「何も変わらないわ 貴方の両親は飛鳥井康太、そして榊原伊織 永遠に変わらなくても大丈夫よ!」 真矢が謂うと大空が 「こうきゃい‥‥ちてにゃい?」と問い掛けた 「してないわ!」 真矢は即答で答えた 「じぃたんも?」 「してないよ!」 清四郎の言葉を聞き、大空は安心した風に肩の力を抜いた 真矢は二人に言い聞かせる様に 「一度も後悔した事なんてないわ! 私達は貴方を康太と伊織に託した そして見守り続けると心に決めたの! 私は貴方達の祖母、それで良い 清四郎も貴方達の祖父として恥じない生き方をしている」 凜と胸を張り真矢はそう言った 太陽は「やっぱ‥‥ばぁたんはちれーねぇ!」と言葉を贈った 「ありがとう太陽」 大空も「ばぁたんはうつくしーよ!じぃたんのせにゃかはおおきい‥‥そしておときょまえらよ!」と賛辞を贈った 真矢は大空のおでこに口吻けを落とすと 「やっぱり‥‥康太の子ね 伊織ならば、そんな事は謂わないもの」と笑った 「とぅちゃはぶちよーらから」 大空が謂うと真矢は「あら?」と笑った 太陽も「とぅちゃはぶちよーらもんね、でもしょこがいい」と謂った 真矢は太陽の頭を撫でた ただのズルい子でなくて良かった。そんな想いで‥‥ 烈はそんな兄達と真矢と清四郎を視ていた 清四郎は「君は謂う事はないのですか?」と問い掛けた 「にゃい!」 そう言いゲストルームを出て行こうとした 「何処に逝くのですか?」 慌てて清四郎は烈を呼んだ 「ちゃ!」 「ちゃ?それは何ですか?」 烈はドアが開かなくて体当たりをしていた 清四郎はドアを開けて烈を出してやった そして追い掛ける 烈は榊原の所まで来ると 「ちゃ!」と謂った 「なら座りなさい!」 父に謂れ烈はソファーによじ登り、座った 「気を付けて飲むのですよ?」 熱々のお茶を注いで烈の前に置く 烈はずずっと熱いお茶を啜った 翔が烈の前に最中を出してやると、烈は嬉しそうに最中に口をつけた 隼人は「なんなのだ?このじじむさい兄弟は‥‥」とボヤいた 清四郎は唖然として立っていた 榊原は清四郎に「お茶飲みますか?」と問い掛けた 「あぁ、戴こう」 清四郎は烈の横に座ると 「良く火傷しませんね?」と感心して謂った 榊原は笑って「この子は熱々のお茶しかダメなんですよね! 僕も良くもまぁ火傷しないなって感心する時があります」そう言った 「とぅちゃ かけゆも」 熱々のお茶が欲しいと謂うと榊原は翔の為に熱々のお茶を淹れてやった 「気を付けて飲みなさい」 「あい!」 翔は烈と一緒に熱々のお茶を飲んでいた 翔は父に「とぅちゃ かけゆはあすかいのいえがすきれす」と謂った 「父も飛鳥井の家が好きですよ」 「かぁちゃがね、いちぞきゅもうでのひ とぅちゃにたのんだからって、言ってた」 「嫌です!自分の一族は自分で管理なさい!」 榊原は即答した 康太は「ちぇっ」と拗ねた様に謂った 「ドサクサに紛れて翔に謂わせようとしないの!」 「チャンスだと想ったんだけどな」 康太は笑っていた その夜、皆で過ごし朝まで飲んでいた過ごした そして翌朝、飛鳥井の家へと還って行った 新しい気持ちで迎えた新年だった 朝陽はなんだったけど皆の心に忘れられない一ページが刻まれたのは謂うまでもない あけましておめでとうございます 今年も宜しくお願いします!

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