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第9話 明日へ

飛鳥井悠太は大腿骨粉砕骨折 肋骨骨折 脛椎骨折 等々 身体中の骨が暴行に因りペキペキに折られて瀕死の重症だった 気力で何とか治して復学したが‥‥ 骨折した骨が成長に追い付けず‥‥‥軋んで新しい骨の形成に影響を及ぼしモロモロに崩れて来る事態がおきて‥‥ 悠太は入院した 久遠は悠太を骨の治療で有名な病院へと転院させ治療に当たる事にした それ程に悠太の体躯は限界を迎えていた まずは弱った骨を強化する為にロサンゼルスまで行き治療に当たった 粉砕した骨を取り除き新しい骨を強化する 何度も何度もオペをして 何度も何度も辛い治療を受けた 桜林学園 高等部 を卒業したい想いは大きかった だが現実は一人で歩く事さえ困難になり‥‥ メキメキと成長に追い付けない骨が悲鳴を上げて激痛をもらたした 悠太は飛鳥井記念病院に連れられ入院した そして何度も何度も康太は久遠と協議を重ね、悠太の治療を有名な専門医に託す事にした 聡一郎が付き添ってくれた 聡一郎が来ない時は一生や慎一や隼人が付き添ってくれた そしてオペの時は必ず康太と榊原が付き添ってくれた オペの後は母 玲香や父 清隆が付き添ってくれた 骨を強化して粉砕された破片を取り除くのに1年を費やした その後、悠太はハワイに渡り大腿骨のオペを受けた 転子部骨折はプレート等を用いて固定 リハビリを受けて歩行訓練を始めた 脊椎圧迫骨折のオペもその後に始まり、メッシュ袋内に特殊人工骨(骨セメント)を入れる方法で、骨セメントが注入され、土嚢が詰められたように安定させる手法を取られ 此処でもオペの繰り返しと血反吐を吐くリハビリを行った 足の骨の具合を見て 大腿骨骨折 脛椎骨折の処置を受けた後 再びロサンゼルスに移り術後の骨の強化治療を受けた その治療に2年の歳月を費やした 総ての治療に3年の年月を費やして、悠太はやっと自分の足で歩ける様になっていた だが悠太も大人しく入院していた訳ではない 入院中はアメリカで高校に入りスキップしまくって大学に入り建築の勉強をしていた 治ったら日本に還り、再び脇田誠一の弟子として図面を引く そして飛鳥井建設で図面を引きまくる その為に悠太は時間を無駄にする事なく勉学に励み、治療に励んだ 葛西繁樹は悠太が入っている病院の近くに留学して来た 悠太と同じ大学に通っていた 悠太は建築で葛西は経済学部に通っていた 「悠太、久し振り 本当は桜林をお前と共に卒業するのは俺の願いだったけど‥‥無理だったからな この大学で共に卒業しようぜ!」 共に大学を卒業したいと言う想いで葛西はアメリカまで来て悠太と共に大学へ通い初めていた 悠太にとって葛西の存在は大きかった 聡一郎が来ない時だって葛西は傍にいてくれた ハワイに移った時だって、大学を休んで葛西は悠太と共にハワイに行っていた 悠太は何故自分と共にいてくれるのか? はっきり謂って解らなかった 悠太は葛西に問い掛けた 「なぁ葛西」 「何だ?悠太」 「何でお前は俺と共にいてくれるんだよ?」 「それは腐れ縁と言う鎖で繋がれているからだろうが!」 葛西はそう言い笑った 「康兄に頼まれたのか?」 悠太が問うと葛西は悠太の頭をバシッと叩いた 「あの人がそんな事を俺に頼むか!」 飛鳥井康太ならば頼みはしない 人の犠牲の上に成り立つ人生など送りたくはない!と謂ってしまえる康太ならば、葛西を犠牲に出しはしないだろう‥‥ 解っているが‥‥‥ 「なら‥‥‥何でお前は‥‥?」 此処にいるんだ?とは聞けなかった 「悠太、俺は桜林の初等科で初めてお前に逢った時、お前とは友達にならないだろうと想った お前はかなり尖った奴だからな だがお前を知れば知る程に、お前の良さが解ったよ 中等部でお前を執行部の部長に据えた時、俺は生徒会長になった このままお前と高等部でも共に闘えると想ったら俺は楽しくて仕方がなかった だから今も‥‥あの事件の事が悔しくて堪らないんだよ悠太‥‥‥ 俺はお前との学園生活を失った‥‥ また明日って謂って当然に来る明日は来なかった‥‥‥ 俺はそれでもお前の傍にいたかった 共に学べれるならば‥‥共に学びたかった それだけなんだよ‥‥‥」 「葛西‥‥‥」 「あの頃俺は‥‥‥高校生活が最後の時だと必死に生きていた‥‥ あの事件を切っ掛けに俺の家庭は空中分解となりバラバラになった そんな俺の‥‥‥最後の望みなんだよ悠太 俺はあの人に悠太と過ごせる時間を下さいと謂った そしたら飛鳥井建設に入って貴方の役に立つから‥‥そう言ったんだ だけどあの人は‥‥俺の役に立とうなんて思わなくて良い お前はお前の道を悔いなく進めば良い!と謂って俺を望む場所に送り出してくれた 俺はずっと決めているんだよ! 無償の愛をくれたあの人の役に立とうって‥‥ そして会社に入っても悠太、お前と共に逝こうって‥‥ だから来たんだよ悠太! 俺は‥‥‥この先もお前と共にいたいんだ!」 葛西は泣いていた 永遠に続くかと想っていた夢のような大切な時間を‥‥‥あの事件が切り裂いた 悔しくて‥‥悔しくて堪らない 桜林の学園生活は‥‥二度と戻っては来ないのだから‥‥‥ だが共に行ける希望があるのなら‥‥傍へ逝こうと想った 「葛西‥‥俺だって‥‥悔しくて堪らないよ あの事件で‥‥俺は総てを失くした‥‥ 康兄の為に図面が引けなくなる自分なんて想像したくなかったから‥‥無理矢理治して学園生活に戻ろうとした‥‥‥ だけど‥‥学園生活に戻っても‥‥軋む痛みに普通の生活を送る事さえ無理なんだって想った ‥‥俺は総てを失くしたんだって想った‥‥‥‥ そう想ったら自分がどうしょうもなく許せなくなく想えて‥‥聡一郎に別れようと切り出したんだ そしたらアイツ俺を殴ったんだ 『康太の弟ならば弱音は吐くんじゃありません! 僕は君がどんなになったって別れる気は皆無です! そんな無駄な事を垂れる暇があるならば、治す為に全力を投下なさい!』って怒られたよ 聡一郎らしくてさ‥‥俺はこの人を失くさない為に頑張ろうって想ったんだ そして何より康兄の所へ還る為に頑張ろうって想ったんだ その為なら‥‥どんなに苦しくても頑張ろうって想ったんだ そんな時葛西が来てくれたから‥‥俺は凄く救われたんだ でも何故葛西はいるのかな?そう想うと‥‥何か不安になったんだよ」 葛西は悠太の背中をビシッと叩いた 「治療、順調なんだろ?」 「あぁ、大学を卒業したら日本に還るつもりなんだ そして俺は桜林の大学に入学し直そうと想っているんだよ」 「桜林の大学?」 「あぁ、やっぱさ何年掛かっても桜林を卒業したいからな!」 「なら俺も桜林の大学へ上がる 飛鳥井でバイトしつつ大学に通うよ そして俺は正式に飛鳥井建設に入る前にやらないといけない事があるんだよ それを片付けようと想う‥‥」 「旅館の再建か?」 葛西の夢だった 取り潰された旅館の再建をする事こそ、葛西として生きて来た証だと想っていた 「そう。やっと‥‥俺は経済に関わる力を付けられたと想うんだ その為に日々勉強して来たしな 飛鳥井にいる師匠がPCで勉強を送って来るから‥‥更に腕を磨けている だから動こうと想うんだ」 「飛鳥井にいる師匠って誰?」 「綾小路綾人さんだ」 「歩く電子計算機の威名を持つ方か あの人さ綾小路財閥の人なのに飛鳥井で仕事してるんだって何時も想ってた」 「恋人が飛鳥井にいるからだろ?」 サラッと謂う葛西に悠太は 「お前‥‥誰か恋人を作らないのか?」と問い掛けた 「俺は今は夢の為に動いているからな 構ってやれない状態で人を愛すのはそれは失礼だろうと想うんだ それに‥‥‥あの人への想い以上には恋せないからな‥‥‥」 「誰か見付けろよ‥‥そのうち」 ずっと一人で生きて逝くのは悲しすぎるから‥‥‥ 「全部片付いたら考えるさ」 「そうしろ!」 「でもさ俺‥‥壊れていく家庭を目にして来たからな‥‥‥ 結婚に夢も‥‥‥希望も何も抱いていないんだよ」 「そうか‥‥」 悠太は言葉もなかった 「愛のない結婚は嫌と謂う程に見て来たからな‥‥‥‥ 俺は誰かを愛せるのか‥‥不安はある」 「恋に落ちたら、そんな事、どうでも良くなるって康兄が謂ってた」 「そうか‥‥なら頑張って生きて逝かないとね」 葛西はそう言い笑った 「悠太、一年で卒業するぞ!」 「解ってる そしたら還ろう‥‥康兄の元へ‥‥」 葛西は泣きそうな‥‥‥それでいて嬉しそうに笑った 四宮聡一郎が悠太の病室にやって来て葛西を見て笑って入って来た 「葛西、来てたんだ 何時も悪いね」 聡一郎はそう言うと悠太の世話をした 「俺も好きで来てるんで大丈夫です」 「葛西、もうじき悠太は退院なるからさ そしたら悠太とシェアして大学の近くに住みなよ 多分、康太が用意してくれると想うよ」 聡一郎が謂うと葛西は意外な顔をした 「え?聡一郎さんが一緒に住むんじゃないんですか?」 「僕は飛鳥井から出て一年もアメリカに住むのは嫌なんでね! 康太の傍に住めないと健康じゃなくなるんで、葛西、君が住みなよ」 なんも謂う言い種‥‥‥ 悠太を見ると笑っていた 「だよね、聡一郎は飛鳥井から死んでも出ないからね なのに俺に3年も付き添ってくれてありがとう」 「悠太はさ見張ってないと無茶ばかりするからさ 僕も早く飛鳥井に還りたかったから、見張ってただけだよ 何たって康太が撃たれたって聞いたら重体でも逢いに逝く無茶振りさんだからね!」 聡一郎はそう言い笑った 悠太は「あははっ‥‥ごめんね」と笑っていた 「葛西、僕は悠太が元気になれば離れていても構わないんだよ 頑張って還って来るのを待てるんだよ だからさ葛西、君は悠太を見張っててくれないかな?」 聡一郎が謂うと葛西は大爆笑して 「解りました! 俺はあの人の代わりに悠太を見張ってます! 還るのは一緒だと決めたので‥‥丁度良いです」 「頼むよ」 「はい!無茶しようなら言いつけてやります」 葛西はそう言い胸ポケットから携帯を取り出し悠太に放った 悠太は携帯を手にして 「何?」と問い掛けた 「着信があったら出ても良いよ」 「え?誰から?」 悠太は携帯を持って訳の解らない顔をしていた 葛西が放った携帯がバイブでブーブー震え、悠太は「うわぁ!」と慌てて携帯を落としそうになった そして謂われた通り通話ボタンを押すと、耳に当てた 『悠太か?』 懐かしい‥‥そして愛しい声がする 「康兄‥‥」 『葛西の謂う事を聞いて大学生活を楽しめ!』 「康兄‥‥ありがとう 康兄がいてくれたから‥‥俺は‥‥再び立つ事が出来たんだ‥‥」 『お前の努力と聡一郎の愛とか謂えよ』 「聡一郎には本当感謝してるよ でも俺の努力はまだまだ足らないから謂えない‥‥」 康太は爆笑した 『大学の近くにアパートメントを借りてやった! 葛西とシェアしても余る部屋を借りてやったから誠一の宿題はそこで引くと良い』 「ありがとう康兄‥‥」 『やっとスタートラインに立てたな 俺はもうアメリカに逝く事はない! だからお前が還って来い!』 「うん!還るよ‥‥康兄の所へ還って逝くから‥‥」 『待ってる! 葛西と変わってくれ』 悠太は葛西に携帯を渡した 「もしもし康太さん」 『葛西か?』 「はい!俺を悠太の所へ逝かせてくれてありがとうございました!」 『二人で仲良く還って来い』 「はい!」 『葛西、俺はな、お前はお前の道を逝けば良いとずっと想ってる だから悔いのない人生を送れ!良いな』 「康太さん俺は何もかも失くしました それでも立っていられるのは貴方がいたからなんです! 俺は好きな道を逝きます 飛鳥井悠太と共に‥‥飛鳥井建設に入って共に逝く それこそが俺の望むべき道なのです」 『んとに‥‥おめぇは頑固だな』 「好きな人に似るのです」 康太は爆笑した 『葛西繁樹、日本で逢おう!』 「はい!必ず貴方のいる場所へ還ります!」 康太は電話を切った 葛西は携帯を大切に胸に抱き‥‥‥胸ポケットにしまった 悠太は「あんで康兄が葛西の携帯に電話をしてくるんだよ?」と納得がいかないと問い掛けた 「あの人に作って貰ったんだよ 俺は今‥‥‥親がいないからな‥‥携帯一つ自分では作れないんだよ まぁ携帯はそれ程に重要視してなかったけど、あの人が連絡取れねぇと不便だろ?と謂って作ってくれたんだ」 納得‥‥そうか、葛西には親族も頼れる人もいないから必然的なのかも知れないが‥‥‥ 悠太は聡一郎に 「聡一郎、俺の携帯はどうなってる?」と問い掛けた 「解約しましたよ? 君は今の今まで携帯の事も忘れていたでしょ? 康太は支払い続けていたけど、僕が解約しときました!」 「そんな‥‥康兄に電話出来ないじゃいないか!」 悠太は少しだけ我が儘を謂った 聡一郎は仕方がないなぁ‥‥とばかりにバックから携帯を取り出すと悠太に渡した 「退院して大学に逝くなら携帯は要るから貰って来たよ」 「聡一郎が作ってくれたの?」 「違うよ、康太が謂って伊織が国際電話使用の携帯を作ってくれたんだよ」 「後で義兄さんにはお礼を謂っておくよ」 「そうしなさい!」 「康兄には沢山沢山お金を使わせたから‥‥日本に還ったら頑張って製図を引きまくるよ!」 「あ、それなら康太が『大学主催の国際コンペで優勝取って来い!』との事です 少しでも多くの賞を総ナメして名を売って還れ!との事です なので勉強も忙しくなるし、図面も引かないといけないので、僕は飛鳥井の家で君を待つ事にします!」 それを聞いた悠太が寂しそうな顔をして聡一郎を見た 「退院したら‥‥逢えないの聡一郎?」 「僕は飛鳥井で待ってるので還って来て下さいね!」 「解った!絶対に還るから!」 「あ、そうそう、長期の休暇は飛鳥井に還れって謂ってたよ 葛西もね、一緒に還っておいで!」 聡一郎が謂うと葛西は「え?俺?」と信じられない風に呟いた 「当たり前じゃないか! 葛西はもう家族も同然だって飛鳥井の家族は想ってるんだよ?」 聡一郎に謂われて葛西は堪えきれずに涙した 聡一郎は優しく葛西を抱き締めた 「ありがとう葛西 君の存在は本当に悠太に力を与えて、支えになった 悠太の友達が君のように優しい子で良かった」 「俺の方こそ‥‥悠太の恋人が貴方で良かった でなくば‥‥俺はこんなに悠太の近くにはいられなかった」 「僕も悠太も葛西、君も康太第一でしょ? それが解るなら君を弾いたりはしないよ ずっと一緒にいなよ悠太と‥‥ 旅館の再建を片付けたら飛鳥井の近くに住みなよ 歩いて逝ける距離においでよ」 「良いんですか?」 「悠太と君は切っても切れない仲ならさ それもう一緒にいるしかないじゃない! 僕は康太と一緒にいたから友の有難味も楽しさも知っている 悠太にとって君は大切な友達なら、この先も共に生きて逝けば良いと想っている それには近くに来なきゃ解らない楽しさもあるんだよ?」 「なら飛鳥井の傍で住みます コオみたいな犬を飼って過ごすのが夢です」 「それ良いね 君の猫‥‥‥お茶漬け‥‥‥先月神に召されたから‥‥ 還ったらお墓参りに行ってあげなよ」 「お茶漬け‥‥貴方が面倒を見てくれていたのですか?」 「そうだよ!猫をね2匹飼っていたんだよ 物凄く仲良く過ごしていたからね‥‥寂しそうなんだ‥‥もう一匹が‥‥」 葛西は聡一郎に深々と頭を下げた 「ありがとうございました」 「老衰で大往生だったよ 君が犬を飼うなら康太がきっと君の欲しい犬をくれるよ!」 聡一郎はそう言い葛西の肩を叩いた 聡一郎は悠太に向き直り 「最終検査の結果が出たら退院だから! 良く頑張ったね悠太」と告げた 「ありがとう聡一郎」 「じゃ僕は今日は還るよ! 隼人と約束してるからね!」 聡一郎はそう言い病室を出て行った 葛西は「ごめんな悠太」と謝った 悠太は「何謝ってるの?」と慌てた 「恋人が来たなら俺は帰らなきゃ行けなかったのに‥‥邪魔した」 葛西がそう言うと悠太は爆笑した 「構わないよ! 聡一郎と俺はそんなに康兄んとこみたいにベタベタな恋人同士じゃないもん 葛西が気が引ける程にベタベタな時ってあった?」 逆に聞かれて葛西は困った 「ないね、そう言えば‥‥‥ なぁ悠太、俺は邪魔なら出るから恋人とベタベタしても良いんだぞ!」 「気にしなくて大丈夫だよ! 聡一郎と俺は昔からこんな感じだから 昔から俺は聡一郎に世話を焼かれて来たんだよ 恋人になる前も、恋人になった今も、そんなに対して変わらないから気にしなくて大丈夫だ」 何と謂って良いのか‥‥ 取り敢えず「退院出来ると良いな」と言葉にした 最終検査の結果が出た 定期的なメンテナンスは必要だが、退院しても良いとの事だった 悠太の長い長い入院生活は幕を閉じた 退院が決まった日、悠太は康太に電話を掛けた 「康兄ですか?」 『おー!どうしたよ?悠太』 「今、少しだけ宜しいですか?」 『おー!大丈夫だ』 「退院が決まりました!」 『おめでとう悠太!』 「ありがとう‥‥康兄」 『お前が挫けずに頑張ったからだ!』 「俺もっともっと頑張るよ! 賞を総ナメ出来る位に頑張るから!」 『んなに頑張らなくても良い‥‥ おめぇが生きていてくれれば飛鳥井の家族も榊原の家族も満足なんだよ』 「義兄さんにも電話しなきゃ!」 『伊織か?横にいるから変わるな』 康太はそう言い榊原に携帯を渡した 『悠太ですか?』 「はい!義兄さん! 退院が決まったので電話しました!」 『良かったですね おめでとう‥‥‥ずっとこの日を心待にして今した』 懐かしい義兄の声だった 「義兄さん‥‥ありがとうございます‥‥ やっと俺はスタートラインに立てました」 『退院したらどうするのですか?』 「大学を卒業するまではアメリカにいます 大学を卒業したら飛鳥井に葛西と共に還ります! そしたら桜林の大学に入り直そうと想っています」 『そうですか、なら君が還る日を待っています 悠太、長期の休暇には還ってらっしゃい』 悠太は堪えきれずに泣き出していた 鼻を啜りながら「はい!はい!」と返事をした 「悠太、葛西君はいますか?」 きっといると想い問い掛ける 悠太は「はい。います!」と答えた 『葛西君と変わって下さい』 悠太は葛西に「義兄さんか変われって」と言い電話を渡した 「もしもし、お電話変わりました」 『葛西君ですか?』 「はい!」 『今まで本当にありがとう葛西君 君の存在は本当に悠太に勇気を与えてくれました』 「伊織さん、俺は悠太と共に逝きたかったのです」 『ならずっと一緒に逝きなさい そして飛鳥井に還ってらっしゃい 君はもう家族ですから、それだけは忘れないで下さい』 「はい‥‥ありがとうございます」 『退院の日、聡一郎が逝きます』 「はい、待ってます」 『また電話して下さいね』 「はい、また連絡します」 葛西はそう言い電話を切った 悠太は葛西を抱き締めた 葛西も悠太を抱き締めた 二人は‥‥現実を噛み締めて‥‥互いの存在を確かめるように抱き合っていた 退院当日 朝から葛西は病室に出向き、荷造りをしていた 悠太はやっとパジャマ以外の服に袖を通した 「服、めちゃくそ久しぶりだ」 着心地を確かめるように服を着ていた 聡一郎は清算を済ませて病室にやって来た その時、弁護士の天宮東青も一緒にやって来た 天宮は「悠太さん退院おめでとうございます」と顔を見るなり嬉しそうに、そう言った 「天宮さん、ありがとうございます」 「此よりお二人は大学近くのアパートメントへお連れ致します アパートメントは真贋からの御意向で御用意致しました これよりお連れするので大学卒業まではそのアパートメントでお過ごし下さい」 悠太は深々と頭を下げ 「ありがとうございます東青さん」と礼を謂った 悠太は聡一郎を見た 「聡一郎ありがとう」 「大学生活を楽しんでおいでよ」 「それは無理だな、康兄の宿題あるし 大学生活を楽しむのは桜林の大学に入ってからで良いよ」 「そうか、でもあんまり頑張らなくて大丈夫だよ!」 「一日も早く聡一郎に逢いたいし、飛鳥井の家族や榊原の家族にも逢いたいし‥‥ やっぱ康兄の傍じゃなきゃ‥‥泣きたくなるから早く帰れる様に頑張るよ」 「待ってるからね」 悠太は頷くと荷物を持って歩き出した 葛西も重い荷物を持つと悠太の後ろを歩いた 聡一郎は悠太を葛西を見送った 悠太と葛西は天宮と共にアパートメントへと移動する為に病室を後にした 聡一郎は携帯を取り出すと 「悠太は退院しました!」と告げた 『ありがとうか聡一郎』 「僕よりもやはり葛西が悠太を支えてましたからね 葛西にそれは譲ります!」 康太は笑って 『葛西にも謂うし、やはり聡一郎、お前にも謂うぜ! 悠太を支えてくれてありがとう 気の遠くなる程の日々を悠太を支えのは間違いなくお前だ!』 「悠太は歩き出しました 僕は飛鳥井の家で悠太を待ちます」 『なら還って来い聡一郎』 「はい!直ぐに還ります!」 聡一郎はそう言い電話を切った 病院を出て駅まで歩いて、見慣れた町並みとお別れする この病院に初めて入った日 悠太の明日はモロモロの骨と共に崩れ去っていた 別れようと謂う悠太を殴り付けた 悠太の面倒を見るのは昔も今も聡一郎だけなのだ‥‥ それを譲る気は皆無だった しかし‥‥‥色気のない恋人同士だな 聡一郎は笑った 下手したら一生達の方がラブラブじゃないか! 一生は力哉に忠実であろうと愛を注ぐ 愛しているよ! 皆のいる所で精一杯告げる姿は‥‥ 以前の一生では考えられなかった やはり、此処は決めとかないとダメですね! 聡一郎は悠太にLINEを送った 「愛してます悠太 君だけを愛してます なので一人歩きし始めた君が‥‥浮気しないか不安はあります! ですが僕は昔も今も変わりなく君の傍にいられると信じてます なので君は君の道を逝きなさい そして必ず康太の所へ還って来なさい そしたら抱き締めて愛しているとキスしてあげます!」 送信して聡一郎は笑った 天宮とタクシーに乗ってアパートメントへ向かう悠太はLINEの着信を告げる振動に携帯を取り出した そしてLINEを開いて聡一郎のメッセージを目にして‥‥‥ 顔を真っ赤にした 葛西はそのメッセージを上から眺めて笑った 聡一郎らしい書き方に二人の絆を感じていた 葛西は「聡一郎愛してるよ!って返してあげなさい!」と謂い友を揶揄した 「後で送るから‥‥」 悠太は葛西の目の前で、それを打つのは勘弁と想った 葛西は笑っていた 康太の所へ還ってらっしゃい! そしたら抱き締めて愛しているよとキスしてあげます! そんな事を謂える恋人とは滅多と出逢えはしない‥‥ 康太を愛した悠太のまま愛してくれる恋人は貴重だろう‥‥ 天宮はアパートメントに到着するとタクシーを下りて悠太と葛西を待った 悠太の歩調を気遣いながら天宮は歩いて、部屋を案内した 「この部屋が君達二人の部屋です 右の続きの部屋は悠太君の部屋です 製図を引ける道具は揃えてあります 左の書斎のある部屋は葛西君の部屋です そして二人の共有スペースにテレビやソファーを配置してあります 真贋はお二人に相応しいお部屋を御用意してくれました これが契約書です 大学卒業の時は御連絡下さい!」 天宮は契約の書類を悠太に渡して還って行った 悠太はソファーに荷物を置いてドサッと座った 「やっと第一歩だ‥‥」 悠太が呟くと、葛西は悠太の部屋に荷物を入れた 悠太は「葛西の荷物はどうなってるの?」と問い掛けた 「昨日、荷物は全部運んだよ お前の荷物も運び入れている」 「葛西、宜しく」 「あぁ、悠太、宜しく」 二人の大学生活はシェアするアパートメントで始まった 卒業するその日まで 二人は全力で走る事だろう

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