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第10話 来訪
飛鳥井記念病院の院長 久遠 譲(ゆずる)はこの日、飛鳥井家真贋である飛鳥井康太に謂われて院長室にいた
『久遠、明日の午後1時から1時間位は仕事を絶対に入れるな!約束しろ!』
と迫られた
「解った仕事しねぇでいるよ
で、俺は院長室にいて良いのか?」
『あぁ、院長室にいてくれ!
お前に用があるかんな!』
康太はそう言った
だが何の用だかは告げなかった
コンコン
ドアがノックされた
久遠はドアを開けに向かった
すると榊原と一生がドアを占領するかの様に立ちはがり暑苦しく立っていた
「伴侶殿‥‥御用は貴方でしたか?」
久遠は呟いた
榊原は久遠をクルッと回すと背中を押して院長室の奥に連れて行った
「伴侶殿?」
久遠が不振がって声をかける
だが榊原が背中を押さえてて振り向く事は敵わなかった
康太が「まぁ慌てるな久遠」と言い院長室に入って来た
「康太?」
「伊織、座らせて良いぞ!」
康太が謂うと榊原は久遠を離した
そして久遠をソファーに座らせて自分も康太の横に座った
久遠は文句を謂おうとして康太を見て‥‥‥固まった
康太の横に思わぬ人が座っていたからだ‥‥‥
久遠は「悟‥‥‥」と名を呼んだ
悟は陽に焼けて逞しくなって久遠の目の前に座っていた
「久し振り譲!」
悟が話すと久遠は悟に飛び付いた
「お前‥‥何処に行っていたんだよ!」
久遠が謂うと康太が「まぁ待て久遠」と止めた
院長室がノックされ一生がドアを開けに行った
院長室の中に入って来たのは悟の父の義恭と志津子だった
義恭は「真贋!!!」と康太を呼んだ
志津子は部屋に入って息を止めた
一生は唖然と立ち竦む義恭と志津子をソファーに座らせた
悟は両親と久遠の顔を懐かしそうに見詰めていた
志津子は康太に「本当に悟ですか?」と尋ねた
別れた時には死にそうな顔をして瞳に絶望しか刻んでいなかったからだ
だが今は‥‥‥違う‥‥‥
陽に焼けて健康的な悟がいた
瞳は輝きを蓄えて光っていた
悟はニコッと笑うと
「御心配かけました!」と立ち上がりペコッとお辞儀をした
義恭は「本当に悟か?」と声をかけた
悟は「嫌だな父さん、我が子の顔を見忘れる程にボケたの?」と笑った
志津子も「‥‥‥信じられません‥‥」と呟いた
「あれぇ?虚弱じゃない僕は信じられないって?嫌だな母さん!」
「そんな訳じゃないのよ
でも貴方‥‥‥全く別人の様よ?」
「そうですか?」
「何処へ行っていたの?」
「白馬です」
「そう‥‥そんな近くにいたのね」
志津子は安堵の息を吐き出した
久遠は「白馬で何をしてるか聞いても良いか?」と尋ねた
「僕は白馬で幼稚園の経営に携わっています!
日々闘いです!
星が頑固なヤツなので僕はそれはそれはアイツと戦って今に至ります
あ、星と謂うのは現場の園長です」
義恭は「もう大丈夫なのか?」と尋ねた
すると悟は笑って
「父さん、母さん、譲君、僕は今にも死にそうな星と二人で白馬の地に送られたのです
星と謂うのが今にも死にそうな子で‥‥康太君は僕の写し鏡を用意したんだよ
死にたくなると星も死んでしまいそうになった
二人して死のうかと想った日もあります
だけど星が『このまま死んだらゲイの無理心中扱いですかね?』なんて謂うから‥‥
僕は何時も冗談じゃないって謂ってやったんです
そしたら星も『僕も冗談じゃない!僕にも妻と子がいました!ゲイの無理心中なんて想われるのは心外です!』って謂うんだよ!
僕だって妻も子もいたさ!
あー!今考えても腹が立つ!
だったら幼稚園経営するしかなくて、経営して謂ってもやっぱり星とは喧嘩ばかり
闘っているうちに‥‥どうやら僕も星も強くなってしまったんです
もぉ死のうとは想いません!
このまま死んだら本当にゲイの無理心中になっちゃうじゃないですか!冗談じゃないって!」
悟は興奮して謂っていた
物静かな悟しか知らない久遠はビックリ
生きるのを諦めてる姿しか知らない義恭と志津子は生命力漲る姿を唖然と見ていた
悟はにっこり笑って
「ご迷惑かけました!」と謝った
志津子は我が子の頬に触れた
「こんなに陽に焼けて‥‥」
「園児を追い掛けて、園長を追い掛けてしてたらいつの間にか体力が着いてたのです
また体力がないと本当にキツくて死にそうでした
まぁ死にたがりの僕が死にそうでしたってのも変な話ですが、本当にキツかった
生きてるのがキツいって謂うか、体力がなくて死にそうなのがショックでした
だから毎日鍛えて闘って今を迎えられたので逢いに来ました」
「ありがとう‥‥悟」
久遠は悟に礼を謂った
「譲君、こっちがありがとうと謂わなきゃだよ?」
「生きててくれてありがとう‥‥」
「それはさ康太に謂ってよ
そして共に生きてくれた憎たらしいアイツに謂ってよ
んとにさぁ‥‥何でああも憎たらしいのかね?」
悟は笑って毒づいた
久遠は「キャラが相当違う‥‥」と呟いた
悟は爆笑した
「そうですか?妻が生きていた頃の僕はこんな感じだった想うよ?」
悟が謂うと志津子はあぁ‥‥と思い出し泣いた
明るくて活発な子だった
生きるのを諦めてる‥‥絶望の縁にいたから‥‥忘れてしまっていたのだ
「あのさ父さん母さん、譲君、今日は報告もあったので逢いに来ました」
久遠と義恭と志津子は居ずまいを正した
「僕さ自分にそっくりな子と生活しています
でね、この先も僕は白馬で、その子と幼稚園の経営に携わって生きて逝くつもりなのです
でね、康太君が養子をくれたので、その子を幼稚園の後継者として育てて逝くつもりなのです!
で、とても不本意なんですが、僕は今度城之内の戸籍に入ります
それをご報告に来ました」
何と謂って良いのやら
戸籍に入る
それは婚姻なのか?
久遠は「お前と星とやらは夫婦になるのか?」と尋ねた
すると悟はメラメラ怒りに震えた
「冗談は寝て謂いやがれ!譲!」
「えええ??婚姻じゃないのか?
良いよお前が男と結婚しても俺達は反対なんてしない!」
久遠が謂うと康太は大爆笑した
「止めてよね!
だから嫌なんだよ!
やっぱ止めようって星に言っとかなきゃ!」
康太は久遠と義恭と志津子に
「この二人は鏡の表と裏だ
表裏一体、己の姿を映す鏡だったからこそ、二人は死を最高の場所にする事はなかった
離れられねぇんだよ二人は!
それは恋とか愛とかの領域を越えてしまっているんだよ
二人は今、幼稚園を大きくする夢の為に生きてる
今度養子を取るからな姓が別々なのはおかしいだろうと戸籍を統一するんだよ
悟は本当なら自分の戸籍を使いたかった
でも飛鳥井は特別な名前だから!と押しきられて城之内の戸籍に入るんだよ」
康太の説明でやっと三人は納得した
院長室のドアがノックされ悟は立ち上がってドアを開けに行った
ドアを開けると‥‥‥小さな子を抱っこした‥‥‥
菩提寺の住職に良く似た男が立っていた
悟はブスッとした顔をして
「んとにね!予感的中したじゃない!」と怒った
「仕方ないよね?悟
何度も話し合ったよね?」
「それでも‥‥お前と婚姻とか言われた日には‥‥逃げ出したくなるんだよ僕は‥‥」
悟が謂うと城之内に良く似た男は爆笑した
康太が「星、入れよ!」と謂うと星と呼ばれた男は康太の傍に向かった
康太は久遠と義恭と志津子に
「城之内 星だ!
悟は今、この男と幼稚園を共に経営して白馬で過ごしている」と紹介した
久遠は信じられない瞳で星を見ていた
あの死にたがりの星だと解るのに‥‥時間が要った
星は飛鳥井の家を出た時よりも身長を伸ばして、陽に焼けて健康的な好青年になっていた
星は久遠と義恭と志津子の前に立つと
「城之内 星です」と自己紹介した
そして康太の横に座り
「康太久し振り」と嬉しそうに挨拶した
「城之内の所はこの後に逝くかんな!待っててくれ!」
「はい!」
小さな子が悟の服を引っ張った
すると悟はその子を抱き上げて鞄の中からお菓子の封を切って与えた
その子は2才位の男の子だった
志津子は「その子は?」と問い掛けた
「城之内透、僕達の子です!」と嬉しそうにそう言った
星は「お菓子を与えるな」と虫歯を心配した
悟は「後で歯磨きすれば大丈夫でしょ?」と謂った
「康太さんに託された子をデブにする気ですか?」
「煩いよ!星
目上の者を労りなさい!」
「何時も労ってませんか?」
悟を見る目は優しかった
星を見る瞳も‥‥
久遠は康太を見た
康太は人差し指を唇に当てて「しー!」と謂った
久遠は頷いた
悟は「戸籍の事を城之内のお宅にも報告に逝かねばならないので、これで失礼致します!」と切り出した
志津子は「また逢える?」と問い掛けた
悟は「貴方の孫として透を可愛がって下さい!それすれば僕も嬉しいです!」と謂った
星は「悟、肝心の事謂った?」と問い掛けた
悟は「あ!‥‥」と思い出してゴメンと謂った
星は「我が幼稚園の園児達の健康診断を引き受けして戴きたいと想い参りました!」と切り出した
久遠は「健康診断?」と問い掛けた
「はい!うちの園児の健康診断を引き受けて戴きたいのです!」
「白馬にも医者はいるでしょ?」
「それだと逢いに来られないじゃないですか!」
星は笑って謂った
義恭は「また逢えるのか?」と問い掛けた
「逢えますよ!
悟は出不精なので白馬に来て貰わねばあまり横浜までは来ないと想うので、定期的に越させれば里帰りも出来ます!
実はこれは真贋のアドバイスなんですよ!」
と星は手の内を明かした
久遠は「定期検診は引き受けよう!だが俺は白馬に出向くのは無理だから出向くなら義恭さんに頼むしかないな」と謂った
悟は「譲君、義恭さんって呼んでるんだ
そろそろ父さんって呼んでやりなよ
ついでに母さんって呼んでやって!」と謂った
「悟‥‥」
「もぉね引け目を持つのは止めなよ!
拓美と拓人が可哀想だよ?
親子になれば良いんだよ?
僕は親子になるよ!
透の親になる覚悟なら出来てる!
だからさ譲と父さんや母さんと家族になって、拓美と拓人を育てて逝きなよ」
「あぁ‥‥そうする事にするよ」
久遠はケジメようと想った
悟でさえ踏み出したのならケジメを着けようと‥‥
悟は立ち上がると
「では僕達は城之内の家に逝きます
向こうのご家族も待たせているので失礼します!
また細かい詳細や打ち合わせをせねばならないので滞在中に来ます」
と謂った
康太も立ち上がると久遠が
「康太!」と名を呼んだ
「久遠、総て終わったら来るから待ってろ!」と言って院長室を出て行った
榊原と一生も出て逝くと悟と星と透も出て行った
志津子は「狐につままれまみたいよ‥‥」と呟いた
義恭は「昔の悟を見ている様だった」と溢した
久遠は「あれが配置された未来なんだな」と果てを見て呟いた
何にせよ、悟が死ななくて良かった
その想いだけだった
康太は飛鳥井記念病院の駐車場に逝くと、榊原のベンツに乗り込んだ
一生は自分の車の後部座席のドアを開けると
「ほれ、乗りなはれ!」と謂った
悟と星と透は一生の後部座席に乗り込んだ
悟は「譲、かなり疲れてたね」と一生に問い掛けた
一生は車を走らせながら
「反抗期もねぇ子供を持つと‥‥‥それはそれで苦労なのかもな‥‥」と呟いた
悟は「ある意味贅沢なんだけどね」と笑った
星は「あの人は真面目すぎるんだよね、何処か俺の兄さんに似てる所があるんだよね」と嬉しそうに謂った
「おー!謂われてみれば久遠は城之内に似てるかもな!」
「ねぇ一生さん僧侶って坊主にならなくても大丈夫なのかね?
僕は何時も想うんだよ‥‥‥」
一生は爆笑した
「城之内の事は康太が関わってるからな
俺には解らねぇ領分だな!それは」
「そっか‥‥なら僕も何も謂わない事にするよ」
星はそう言い笑った
車は飛鳥井の菩提寺へと向かう
一生の車が菩提寺に到着すると、既に康太は城之内と話をしていた
榊原が城之内の目線から車を隠して立っていた
一生は車を停めると康太の合図を待った
「城之内、今日は良い子にしてたおめぇにプレゼントがあるんだよ!」
と言い康太は笑った
「プレゼント?何だろ?
良い子にしてないのに貰って良いのかよ?」
「目を瞑れよ城之内」
城之内は目を瞑った
妻の水萌と息子の竜之介は黙って見守っていた
一生に合図を送ると、一生は星と悟を車から下ろした
そして星を城之内の目の前に立たせると
「んじゃ、目を開けて良いぜ!」と謂った
合図と共に目を開けて城之内は驚愕した瞳を星に向けた
「星‥‥」
城之内は信じられない‥‥と呟いた
「兄さんただいま!」
城之内は星を何も言えず抱き締めた
水萌はそんな夫に
「優、真贋をお部屋に通さずしてどうする!」と怒った
城之内は星の肩を抱き締めて
「すみません‥‥信じられなくて‥‥」と言い気を取り直した
竜之介が「此方へ」と言い康太と榊原と一生と悟と星と透を部屋の方に案内した
星と悟と透を手前に座らせ
康太と榊原と一生座らせると空いてる所に座った
星は兄に「御心配お掛けしました!」と深々と頭を下げた
「星‥‥本当に星なのか?」
日に焼けて逞しくなって自分に酷似した姿で星は立っていた
何処から見ても二人は兄弟だった
星は兄に
「今日は話がありまして参りました
この度、康太に我が子を授かりました
この子が後継者となり白馬の地で幼稚園を続けて逝くと謂われました
なので、この子を僕の戸籍に入れようと想い兄さんに報告に来たのです
その時、悟さんの戸籍も城之内に入れるつもりなので事後報告になってしまいますが、報告に来ました」
星は兄の瞳を見て告げた
城之内はやはり
「悟君と婚姻するのかい?
お前が生きていてくれれば俺は反対なんてしない!」
と答えた
悟がピキッーと逆毛を立てて威嚇していた
星は「兄さん、婚姻じゃないです‥‥そんなことを謂うから悟が威嚇を始めたじゃないですか!」と謂い笑った
「え?婚姻じゃなく戸籍を入れるのかい?」
「僕は今、白馬で幼稚園をやってます
現場は僕で経営は悟がやってます
この度、康太が後継者を授けてくれたので、僕の戸籍に入れる事にしました!
そしたら悟が僕の子でもあるんだよ!
僕の戸籍に入れるから!と言い出したんで‥‥
僕は飛鳥井の名字は畏れ多いって謂ったんですよ
そしたら100歩譲って城之内になっても良いと快諾してくれたんで透の為にケジメを着けました
兄さん、くれぐれも婚姻うんぬんは止めて下さい‥‥‥悟が怒りますから‥‥」
星が謂うと城之内は
「それは済まなかった
でもな星、俺はお前が生きていくれるなら‥‥‥何だって許せてしまうんだよ‥‥」と嬉しそうに返した
星は嬉しそうに笑って透を兄の前に見せた
「城之内透です!
僕と悟さんが育てて逝く子です」
城之内は透を抱き上げて
「よゐこだ!」と嬉しそうに謂った
「兄さん、本当に迷惑をお掛け致しました」
「迷惑なんかじゃない
お前と俺はこの世で二人きりの兄弟じゃないか!」
星は嬉しそうに笑った
そして深々と頭を下げると
「今日は兄さんに頼みもあったので」と切り出した
「頼み?」
「ええ。頼み事です」
「聞ける事なら聞こう!」
城之内がそう言うと星は切り出した
「父さんの子の竜之介さんを年に数回、貸し出して貰いたいのです」
「え?竜之介?何故に?」
「白馬の地は昇華されたと謂っても不浄が元々集まりやすい地らしくて、感受性の強い子が時々怯えて泣き止まない時があるのです
康太に話したら、竜之介さんに相談しろよ!と謂われたのでお願いしたいのです」
「竜之介次第だな、竜之介どうするよ?」
城之内は我が子に話をふった
水萌は心配した顔で息子を見ていた
水萌の腕には透と同じ位の子供が抱かれていた
それでやっと星は気付いた
兄の子を見た事はなかった
兄の私生活を知る事なく来てしまったんだと‥‥
星は「兄さんの所の子、初めて見ました‥‥‥
‥透と同じ位でしょうか?」と声をかけた
城之内は「同じ位に決まってるやん!その子は双子の片割れだからな」と答えた
星は驚愕の瞳を兄に向けた
「康太‥‥詳しく教えて下さいませんか?」
乞われて康太は口を開いた
「飛鳥井水萌は姫巫女になってもおかしくない存在として菩提寺の巫女長をやっている
彼女は星も詠めるし‥‥‥先も詠める
そんな彼女が謂ったんだ
『康太、この双子は一人は菩提寺の後継者になりますが、もう一人は星の所の幼稚園を継ぐ者に御座います‥‥‥どうか配置宜しくお願いします』ってな
水萌は子供の果てが狂うのを危惧して、お前達に子を与えた
だが水萌は我が子を愛して愛して泣いて泣いて‥‥‥決断をしたんだよ
産後の肥立ちが良くなくて‥‥城之内が心配してオレに連絡して来る程に‥‥体調を崩して悩んで悩んで‥‥‥お前に託した子だ!
努々忘れるなよ!その子は水萌の想いを汲んで果てへ託された子だと!
母が好きで子を手離す訳などない!
ましてや城之内と水萌は誰より我が子を愛して愛して育てている
竜之介の顔を見ろよ!
この子はもっとギスギスしていた
それを二人の愛と信頼で今の穏やかで優しい顔になって今を生きている!
愛すべき子なれば竜之介だって手離しなどしない!」
星は深々と頭を下げ
「お許し下さい‥‥透は僕達が幸せに育てて逝きます!」と約束した
城之内は笑って
「竜之介は貸してやる
だがお前にはやらない!
だから白馬に竜之介が逝く時はオレも逝く!
当然、竜之介の母の水萌も逝くよな?」
と謂った
水萌は夫の言葉に乗って
「当たり前じゃ!
竜之介はこの菩提寺を継ぐ者!
渡しなどせぬ!
白馬には我も逝く、竜之介を盗られぬ様に見張っておかねばならぬ!」と言うから竜之介は困った顔で笑っていた
「母さん、父さん、星さん達は俺など盗ろうとはしてませんってば!」
竜之介が謂うと星も
「兄さん、竜之介さんにはほんの少し力を貸して貰いたいだけです!
絶対に盗りませんから!」と慌てて謂った
城之内も水萌から、じとーっとした瞳を向けられ星は困っていた
夫婦は似ると謂うが、本当に良く似た夫婦だった
悟はそんな兄弟を見ていた
竜之介は悠太の事件の当事者なのは知っていた
荒んだ瞳をしていた子だったのに‥‥‥
悟は「竜之介君、力を貸してくれますか?」と問い掛けた
竜之介は真っ直ぐ悟を見て
「真贋から謂い使っておりますので、定期的に白馬に逝きます!」と答えた
その喋りは心地よい静かな意思を持ち、優しく響いた
城之内は「父も逝くぞ竜之介!」と謂った
「父さん、運転して逝きますか?」
「運転はお前がしろ!
父さんは着いて逝くだけだ‥‥‥」
「父さん‥‥」
「だって‥‥竜之介も白馬に行きたいなんて謂われたら‥‥‥立ち直れねぇって‥‥」
城之内が謂うと水萌は夫の背を撫でて
「子は何時か巣立つ‥‥‥我等の長男は何処へ出しても恥ずかしくなく育ったと言う事じゃ‥‥
だが我も‥‥竜之介と離れとうないな‥‥
竜之介は優しく親を労ってくれるからのぉ‥‥
辛いな優‥‥‥我は泣きそうじゃ‥‥」
そう訴えた
水萌は子を竜之介に押し付け夫の胸に縋り付いた
竜之介は子を受け取り
「徹(とおる)」と謂い頭を撫でた
星は驚愕の瞳を兄に向けた
「兄さんその子の名前、とおると謂うのですか?」
星が謂うと城之内は命名用紙をテーブルの上に並べて置いた
徹
透
「二人の名はとおると謂うのですか?」
星が問い掛けると、それに答えたのは康太だった
「水萌に命名してくれと謂われたからな名付けた!
星に与えた子は透き通る様な魂を持ち果ては園長となり子を導く存在となるから透と名付けた
城之内の手元に遺した子は産まれて来た運命を貫徹する存在だから徹と名付けた
同じ呼び方なのは水萌の願いだ!
我が子を一秒たりとも忘れたくはない!との想いで同じにした
水萌は飛鳥井の巫女でも能力は高い!
だから我が子の星を詠む
泣かせたり生きているのを諦めたりした時水萌は我が子の所へ飛ぶだろう!
その命、賭したとしても完遂する!
だからお前達は覚悟してその子を育てねぇとならねぇって事だ!」
康太はそう言い星と悟を射抜いた
悟は水萌の瞳を直視て
「この子は僕と星が曲がらぬ様に育てて逝きます!
その為のケジメであり‥‥指針にして生きて逝きます
また僕達が折れてちゃ‥‥‥透を託してくれた水萌さんに合わす顔だって無くなっちゃうじゃないですか!
水萌さん、僕達は絶対に透を産まれて来た事を後悔などさせません!
だから竜之介さんが白馬に来る時は、来て下さい
これからはもっと近くでお互いを知る為に交流して逝きませんか?
それこそが康太が望むべき果てだと僕は捉えています」
と言葉にした
水萌は悟の手を取ると
「悟‥‥星を頼みます
星は優の唯一無二の肉親なのだ‥‥‥この世に二人きりの肉親なのじゃ‥‥」と頼んだ
その姿は星の姉だった
悟は「僕に姉はいませんでした、だから水萌さん姉さんと呼んでも宜しいですか?」と問い掛けた
水萌は嬉しそうに微笑むと
「呼んでくれるのか?我の事を姉と‥‥」と呟いた
「はい!姉さん、僕達を見守って下さい
冬の寒い間は僕達は菩提寺に来ます
夏の涼しい間はどうぞ、白馬に来て下さい」
「それは良いな‥‥悟、ならば家族を紹介せねばな!
我と優の長男、竜之介じゃ!
そして竜之介の腕にいる子は次男の徹じゃ!
我等家族は支え合い‥‥康太の望むべき果てへと歩を進めようぞ!」
「はい!姉さん」
水萌と悟は互いの手を握り合い分かち合っていた
康太は一生に「星と悟と透を明日、白馬まで乗せて行ってくれ!」と頼んだ
星は花音が事故で死んだ以降‥‥自らハンドルを握る事はなくなった
悟は妻を亡くしその身を投身した結果脊髄を損傷し足の自由を失った
それ以来運転は出来なくなった
一生は「了解、所で今夜はどうするのよ?」と尋ねた
「もう少ししたら義恭と志津子が菩提寺に来るかんな、今夜は星と悟と透は菩提寺に泊まる
家族水入らずで過ごすかんな、明日の朝白馬まで送ってやってくれ!」
「了解、なら朝に迎えに来るわ!」
一生が答えると慎一が義恭と志津子を連れて来た
慎一は康太の子と自分の子の修行の為に菩提寺に来ていたのだった
康太から連絡受けて義恭と志津子を迎えに行き連れて来たのだった
康太は慎一に「済まなかったな」と声をかけた
「構いません!俺は貴方の為にいる存在ですから!」
と慎一は笑った
その表情は普段は絶対見ない優しい顔だった
悟と星は以外な一面を目にして、やはり主の前でしか笑わないんじゃないかって想った
康太は立ち上がると
「義恭、志津子、息子と仲良くな
城之内、弟が来てるんだもてなしてやれよ!」と声をかけた
城之内は「宴の準備は出来ている!」と答えた
「なら後は家族団らんの時間だ!」
そう言い康太は榊原に手を差し出した
榊原は康太の手を取ると、甲に口吻けを落として立ち上がった
そして康太と共に部屋を出て行った
その後に一生と慎一が続き部屋を出て行った
城之内は義恭と志津子を悟の隣に座らせると
「義恭さん志津子さん飲みましょう!」と謂った
竜之介が徹を水萌に渡すと、隣の部屋に宴の準備を始めた
準備が整うと「父さん、準備が出来ました」と声をかけた
城之内は竜之介の隣に立つと義恭と志津子に
「我が菩提寺の後継者で、我が長男の竜之介です!以後お見知りおきを!」と竜之介を紹介した
竜之介は深々と頭を下げた
水萌は徹を腕に抱き竜之介の横に立つと
「竜之介は我の長男じゃ!
よゐこなのじゃ!本当に竜之介はよゐこなのじゃ!」
と親バカ全開で我が子を自慢した
竜之介は「母さん、今は宴をせねばならないのですよ!」と謂うと水萌は
「そうであったな!
ささっ!義恭、志津子、飲もうではないか!
酒が交われば絆も深くなる
血も交わり、我等は果てへと進める!」
飛鳥井の菩提寺の巫女は凛として美しかった
姫巫女以上の実力を持つのに、面倒じゃ!と桃香に仕えた
先も詠める存在だった
義恭は「康太から聞いておったが本当に親バカであるな夫婦して」と笑った
志津子は「貴方、夫婦円満の秘訣でもあるのですから、およしなさい」と夫を宥めた
志津子は悟の前で泣いていたか弱き母ではなかった
離れていた時間は無駄ではなかったのだと想えた
昔の強い母は美しかった
強くて美しくて‥‥誰よりも男前だった
義恭は優しい瞳で妻を見ていた
二人の間にはちゃんと愛が在った
悟はそれが嬉しくて‥‥‥目頭を押さえた
志津子は「透ちゃんを抱っこさせて下さい!」と悟に手を差し出した
悟は透を志津子の腕に渡した
志津子は透を手にして嬉しそうに笑っていた
「ばぁばですよ」
志津子が謂うと義恭も「じぃじだよ」と負けずに謂った
義恭と志津子には部屋に入った瞬間、透が誰の子なのか理解した
同じ顔して徹が竜之介に抱っこされていたからだ
それでも飛鳥井康太が配置したならば、この子は悟と星の子なのだ
星は「義恭さん志津子さん、今度譲さんの子の拓人と拓美に逢わせて下さい」と声をかけた
志津子は「なれば義恭が白馬に逝く時、一緒に連れて逝きましょう!」と答えた
義恭も「なれば譲も連れて行きたいなぁ‥‥」と仕事中毒の息子を想った
志津子は笑って
「それは良いわ!
強引に連れ出すか、最悪‥‥康太を引き合いに出せば喜んで同行するでしょうからね!
では私は策を練りましょうかね?」と答えた
義恭は「悪どいのはダメだぞ志津子」と釘を刺した
「解ってますわ貴方
外堀を埋めさえすれば動くしかないのですからね!」
志津子はそう謂って艶然と嗤った
義恭は「お前は本当に悪どい‥‥」と呟いた
志津子は「そんな私を愛しているのでしょ?
残りの人生をくれたではないですか!」と答えた
義恭は「惚れた弱味だわい‥‥どんなお前も美しいと想えるから仕方ないわな!」と笑った
悟はこの二人は誰ですか?と想った
「‥‥‥‥お二人は新婚の様に‥いつから‥こんなに甘くなったのですか?」
とついつい悟はボヤいた
志津子は悟の瞳を真摯に見て
「飛鳥井の医者になる子を託されているです
そして医療訴訟に強い弁護士になるべき子を託されているです!
それが拓美と拓人の逝くべき道なのです
そんな二人が幸せだと想えねば、我等は二人を預かる資格などないのです
なので義恭に子育てをさせてます
譲の子なれば誰よりも幸せにする義務がある!
我と義恭はその為に日々愛し合い協力して生きて逝くと真贋に誓った
我は昔よりも今の方が夫婦だと想える
こんな幸せを我は真贋に戴いた‥‥
だから胸を張り我は先へと進む事にしたのです
義恭は我を支えて共に逝くと誓ってくれた
悟、お前にとって義恭は良き父ではなかったかも知れぬ
だが今は違う‥‥義恭は誰よりも悔いて今を生きておる
だから‥‥悟、お前がこうして生きていてくれて‥‥本当に嬉しいのじゃ!」
涙する志津子を義恭は優しく引き寄せて抱き締めた
そんな夫婦の絆を見せ付けられて悟は本当に良かったと胸を撫で下ろした
母に父がいてくれて本当に良かったと想った
水萌は「さぁ飲むぞ!志津子!」と狼煙を上げた
志津子は夫から離れると
「あぁ、水萌、飲もうではないか!
絆を深めれば血も濃くなる
誰よりも絆の強い親子になるのだ!
水萌、我はお主の母とは飲み友達であった
その母も鬼籍の人となった今、友に変わり我はお主を見守ると誓おうぞ!」
と水萌の手を取り、強く握り締めた
水萌は「志津子さん‥‥」と名を呼んだ
「お主の母になろうぞ!」
志津子はそう言い気を張って生きている水萌を支える存在になると誓った
「ならばこれからは母様と呼ぼうぞ!」
「あぁ構わぬ、我は嬉しい
こうして支え合い生きて逝けるのが嬉しい‥‥」
水萌は甘える様に笑っていた
感情も甘えも置き忘れてしまったかの様に想われた
なのに今の水萌は喜怒哀楽に溢れて、とても表情も豊かだった
夫の愛に包まれて水萌は幸せそうに何時だって笑っていた
泣いて笑って飲んで飲んで飲んで飲んで‥‥
後は何時もの宴会に突入した
悟も星も忘れられない夜となった
菩提寺を後にした康太は飛鳥井記念病院に向かっていた
診療時間はとうに過ぎていたから、受付の者もいないから直接連絡を取るしかなかったのだ
康太は久遠に電話を掛けた
「久遠、待たせたな
これからお前の所へ向かう」
『直接、院長室に来て下さい
警備の者にそう伝えておきます』
と言い久遠は電話を切った
飛鳥井記念病院の駐車場に車を停めると康太は車から下りた
榊原も車から下りると、一生も車を停めて車から下りた
康太は一生が下りたのを確認すると警備室へと向かった
病院の駐車場から救急のランプの回っている方に出向き警備室を覗いた
すると康太に気付いた警備員が
「どうぞ!院長からお通してと伺ってます!」とドアを開けて康太達を招き入れた
康太は「ありがとう!」と声をかけて病院の中へと入って行った
スタスタと院長室へと向かう
院長室のドアをノックすると久遠がドアを開けた
康太と榊原と一生は院長室の中へと入った
そしてソファーに座ると
「聞きたい事は何だよ?」と問い掛けた
「全部話してくれ‥‥そしてあの子供は誰の子か‥‥教えてくれ」
「悟と星の生活は危うい日々だった
死にたがりの二人を入れれば順調に逝くとは想っちゃいなかったが、それに懸けるしかなかった‥‥‥
二人は合せ鏡的な存在だ!
死のうと想えば、やはり
もう一人も死にたいと想う
一緒に死のうと何度も何度も‥想い行動にも移した‥
それを留めたのは‥‥やはり互いの存在だった
道連れに出来る程に厚顔無恥じゃなかった
ある日悟は星のいない時を狙って手首を切った
胸騒ぎを覚えた星は家に駆け付けて悟を見付けた
悟をこの世に押し留める為に星は悟を抱いた
悟は男として機能はなくしていた
そんな悟の血肉を呼び起こし星は悟を愛した
互いを求める
それは死を遠ざける行為だった
悟は星に抱かれて‥‥機能しない性器が精液は出ないけど逝っていた‥‥と謂った
ショックだったけど、確実に二人は互いを求める事こそ、死から遠ざかる唯一無二の確かだと想った
それからは二人は共に生きる覚悟を決めて生きて来た
だけどやはり悟は星と夫婦とか謂われるのは嫌なんだ
星はノーマルだし男として機能するから、そんな風に謂われるのは星に悪いと想うんだ
だから夫婦と謂われて否定した
だがもう離れられないんだよ
悟は星に抱かれて唯一無二の快感を脳に刻んで生きている実感を噛み締めている
星も同じだ、悟から目を離す位なら自分のモノにして共に生きたいと想ったから悟を抱いた
そうする事しか生きる術が見つからなかったからだ‥‥」
康太の説明を久遠は静かに聞いていた
久遠なりに悟を想い納得した
でもあの子は?
誰の子か聞かずにはいられなかった
「あの子は‥‥誰の子なのですか?」
久遠は辛そうに問い掛けた
「あの子は城ノ内優と妻の水萌との間に出来た双子の片割れだ
出産に立ち会ったのはおめぇじゃねぇのかよ?」
産科医を連れて菩提寺に向かった
だが水萌の方が早く産気付き、久遠も出産に立ち会い手伝ったのだった
あの日、康太は久遠に産科医と共に逝ってくれと頼んだ
康太に頼まれたから久遠は共に向かった
まさか‥‥‥こんな経緯を含んでいたとは‥‥
康太は「お前はあの二人がこの世に産まれる瞬間に立ち会った
だからこの先、あの二人を見届ける義務が在るんだよ」と手の内を見せた
「城ノ内の妻の水萌は‥‥我が子を貴方に託したのですか?」
「あの巫女は稀代の巫女なんだよ
星も詠めるし先も詠める‥‥
水萌は我が子の星を詠み、オレの所へやって来た
まるで‥‥‥夏海と同じ様に我が子を配置してくれと謂って来た
オレは我が子を離せば二度とその手には還っては来ねぇぞ!と水萌に謂った
水萌は『我が子の行く末を邪魔をするのは我ではない‥‥だから逝かせねばならぬ!
配置して送り出してたもれ!』と謂われた
オレは託されたからな不幸にはさせられねぇんだよ!
だから悟と星に絶対に幸せにしろ!と渡した」
「母は強いな‥‥」
夏海を看取ったのは久遠だった
あの娘も我が子の果てを配置して短い人生を終えた
まるで夏海の様に水萌も我が子を配置してくれと頼んだのか‥‥
母とは何と‥‥‥強い生き物なのだ?
久遠は羨ましかった
我が子には見向きもしなかった元妻は、母にもなれていなかったのに‥‥
康太は久遠の肩を叩くと
「お前の元妻は未熟な女だった
だけど‥‥我が子を自分が手にしたらロクな教育もしてやれないと手放した
手放す事こそが我が子の為と手放したんだ!
オレは今もアイツに我が子の写真を送ってやっている
アイツは我が子の写真を手にして泣いている
好きで手放したんじゃないって事だけは、解ってやれ」
「康太‥‥元妻をご存知なのですか?」
「お前の元妻はお前と結婚した時はまだ18の子供だった
お前と別れて元妻だって無傷な訳ではなかった
日本を離れていたお前は解らなかっただろうけど‥‥物凄く誹謗中傷を受けて引退した程に傷付いていた
相賀に謂って拾わせて別の名前を与えて再生した
今の名前はお前でも知ってる水城 瑠花と言う名を名乗っている」
久遠は驚いた顔をしていた
言葉もないとはまさに‥‥この事だった
「拓人と拓美との親権の話をした時には名を変えていた
お前は本当に世情に疎くて気付きもしねぇのかって想った
お前が苦しんだのならパッシングは元妻の方にも逝くとか考えなかったか?
女優やっていたアイツの方がネグレクトの最低の女として叩かれていたんだ」
「知りませんでした」
「まぁ教える気もなかったからな
でもお前が元妻の事を悪く想うなら話は別だ
好きで双子を手放した訳じゃねぇんだ!
飛鳥井に組み込まれた存在だったからな泣いて貰った
だがアイツは今も我が子を忘れてなんかいない!
だから誰とも再婚なんてしてないし、スキャンダル一つ出しちゃいねぇんじゃねぇか!
水城瑠花は総て失くした血溜まりに咲いた花なんだよ」
「言葉もありません‥‥あの子も‥‥同じ様な制裁を受けてしまっていたんですね
俺は見てなかった事が多くて知らないうちに泣かせて哀しませていたのですね」
「知ったならこれから見渡して逝けば良い」
「はい!」
「と謂う事でお前、菩提寺に行けよ
一生が乗せて行くかんな!」
「え?今ですか?」
「おー!父もいる母もいる
お前の兄弟もいる、今は慎一がお前の子を連れて逝ってくれてると想う
だから逝けよ!久遠」
家族と過ごせる時間は大切にしろ!
そう言われ久遠は
「ならば父さんを監視しつつ母さんを回収に行きます
俺の子も見てないと生意気になりすぎだ!」
康太は笑っていた
世を僻み
世間に背を向けた魂は何時も孤独で
目立たない様に生きていた
その魂は今、果てへと向かい光り輝いていた
総てを乗り越えた者の魂をしていた
「おめぇは働きすぎなんだよ!」
と笑い久遠と共に病院を後にした
久遠は一生に連れられ菩提寺に向かった
康太は果てを見て
「やっと在るべき果てへと逝けたな‥‥」と口にした
榊原は何も謂わず康太を抱き締めた
君と共に逝こう
どんなに苦しい道だって
お前の果てへと続けるなら
我等は笑って果てへと続こう
我、一片の悔いは遺さず‥‥
この命昇華する時まで逝かん
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