11 / 56
第11話 バレンタイン①
榊原は日々忙しく動いていた
榊原が脚本を書いた映画は、カンヌやハリウッドにまで進出して賞を受賞して評価されていた
その為に現地まで飛び、授賞式に参加したり
インタビューを受けたり多忙を極めていた
鷹司緑翠の塾に通い出して、そろそろ一年を迎える
鷹司緑翠が出題したテーマで、卒業論文を提出して認められれば卒業と謂う所まで来ていた
榊原は忙しい合間を縫って論文作成に心血を注いでいた
榊原の愛する妻は、そんな多忙の榊原に寄り添い支えてくれていた
‥‥‥‥が、そんな康太も最近は忙しくしていた
2月の上旬
この日、子供達の初等科へ上がる為の面接が入っていた
康太はその面接に兄と共に逝くと謂った
榊原は「え?僕と共にではないのですか?」と訴えたが‥‥
「伊織は海外に逝くまでに論文書かねぇとならねぇんだろ?!」
と謂われたら‥‥‥
何も謂えなかった
4月には飛鳥井建設 副社長に復帰する予定だった
実に一年間の不在だった
竜ヶ崎 水音は榊原の不在を護ってくれた
4月になったら水音はアメリカに旅立つ事になっていた
赤蠍商事の南米社長に就任する為だ
だから榊原は飛鳥井建設の副社長に戻る為に、ラストスパートをかけるしかなかったのだ
完璧に立つ鳥は跡を濁さず旅立たねば、男が廃る!
「康太、僕はやっと還れます
そしたら君と子供達を最優先にするつもりです」
「あぁ、だから今は目の前の事を片付ける事に集中しろ!」
榊原は康太を抱き締めた
「愛してます奥さん
今回は一緒に逝けないのですね」
「あぁ、会社の面接も立ち会わねぇとならねぇしな!
オレはもう海外は一緒には逝けねぇな‥‥」
「解ってます‥‥留守の間は‥‥頼みますね
あと少しで離れ離れの日々も、やっと終わります‥‥そしたら家族サービスしたいと想います」
「花見に逝こうぜ今年も‥‥」
「ええ‥‥今年も逝きましょうね
制服の採寸、そろそろですか?」
「今日、面接の後に採寸をして来る
帰りに花菱に行って要るのは全部買うつもりだ!」
「そうですか‥‥君にばかり押し付けてしまいますね‥‥」
「気にすんな!
オレはお前の悲願が叶って本当に嬉しいんだならよぉ!」
「康太‥‥」
榊原は康太を抱き締めた
強く強く‥‥‥抱き締めた
「だからさ伊織、論文はホテルへ移って書いて来いよ!」
「え?‥‥」
「時間がねぇんだろ?
家にいればお前は気を使ってあれこれやっちまうからな書き上げるにしても全力は注げねぇだろ?
緑翠は全力投球の論文でなくば受け取らねぇぜ?
そしたら卒業じゃなく退学になっちまうぜ?
それはお前にとって不本意だろうが!」
「‥‥‥君は本当に痛い所を突きますね」
「仕方ねぇだろ?
夫を正すは妻の務めだかんな!」
「解りました、此よりホテルへ向かい論文を書き上げます!
その足で村松監督と海外に立ちます」
「おー!論文が書けたら逢いに逝くかんな!」
「書けなくても膝に乗ってて下さい」
康太は完遂するまでは来ないと解ってて、榊原は口にする
康太は何も謂わず笑っていた
康太ははなっから出来ない約束はしないし、本来の目的を完遂出来ない様な事はしない
甘くはないのだ
榊原は康太に口吻けた
「愛しています」
愛の言葉しか出て来なかった
康太は嬉しそうに笑うと
「オレも愛しているかんな伊織!」と返した
「離れたくないんですがね‥‥」
「それでも逝かねばならねぇんだよ伊織
魔界に還ったとしても、それは変わらねぇぞ
お前は教皇になったからな今までの様にはいかねぇと想うからな‥‥」
「僕は何処へ逝こうとも君が最優先です
それで役を落とそうとも構いません!
君といられないのであれば、続ける意味がないのですから‥‥」
「青龍‥‥」
康太は榊原の胸に顔を埋めて、愛する男の匂いを嗅いだ
康太は榊原から離れると
「ホテル・ニューグランドに部屋を取ってある
伊織はそこへ逝けよ!」と告げた
「君は?」
「オレは瑛兄と共に面接に逝く」
「誰か?連れて逝かないのですか?」
「瑛兄だけだ」
「なら買い物も義兄さんと逝くのですか?」
「買い物はプリウスを運転して貰わねぇとならねぇからな慎一と逝くつもりだ」
「他は一緒ではないのですか?」
「どうだろ?解らねぇけどSPを連れて逝くから大丈夫だ!
マックとケンケンが着いてくれてるからな!」
「解りました!
でも海外に逝く前の夜は来て下さい
一緒に過ごして下さい‥‥‥」
「あぁ、解ってる
でも子供が着いてくって謂ったら、一緒に逝くけど良いか?甘いのじゃなくなるぞ?」
「それでも良いです!
来て下さい、一緒に過ごしましょう」
「あぁ、約束する」
榊原は約束を貰って嬉しそうに笑った
康太は立ち上がると
「んじゃ面接に行ってくるわ!」と謂った
榊原は「行ってらっしゃい!」と見送った
康太は部屋を出たら荷物を纏めて榊原は逝く事を知ってて後ろ手で手を付って出て逝った
康太は応接間へと向かった
応接間には準備が出来た子供達と瑛太が待っているだろうから‥‥
康太が部屋から出て逝くと、榊原は断ち切る様に立ち上がりクローゼットの扉を開けた
旅行用の鞄に着替えを積めて榊原は鞄の中にPCと筆記用具を詰め込んだ
遊びに逝く訳ではないのだ
確りと成果を出さねばならないのだ
荷物を詰め込むと榊原は部屋を出て地下駐車場へと向かった
妻のプレゼントされた車に乗り込むと、榊原は携帯を開いた
ラインにはホテル・ニューグランドの部屋番号が書かれていた
榊原はホテル・ニューグランドへと向かい車を走らせた
康太は今日は歩いて桜林学園 初等科へと向かうつもりだった
だが初等科に通い始めると、色々と警戒せねばならぬ事案が出て来るから、車での送迎となるだろう
子供達の送迎は欠かせない
子供達だけで登校はさせられないと想っていた
通学中に誘拐のリスクがある以上は大人の庇護は必要となる
どうしても慎一が大変になるから、誰か送迎の者を雇おうかと思案もした
そんな時、康太の子が桜林の初等科に入学する事と聞き付けた、高坂海王と陸王が子供達を送り迎えを手伝うと、買って出てくれていた
海王と陸王は進藤の政治塾を卒業して、鷹司緑翠の塾に入っていた
まだまだ学ぶ事はありますから!
と二人は精力的に動いていた
兵藤貴史の秘書になるべく二人は恥じない経歴を手に入れる為に必死だった
兵藤が海外に留学中は二人も留学してスキップしまくって学位をもぎ取って帰国した
その後は桜林の大学に進み、実践を重ねている最中だった
二人は康太の子が大好きだった
だから買って出た送り迎えだった
基本は慎一がやるのだが、忙しくて手が回らない時のサポートを海王と陸王はする事になる
緻密に慎一と打ち合わせする為に、予定を共有する事にした
慎一の予定を海王と陸王も共有する事によって、手の回らない日にサポートに入る
万全な体制で迎える初等科への入学だった
康太は応接間に顔を出すと、瑛太はこの日の為に新調したスーツを着て待ち構えていた
瑛太は康太の顔を見ると
「伊織は逝きましたか?」と問い掛けた
「おー!逝ったぜ!」
「本当に伊織は無理をしますからね」
「瑛兄も人の事を謂えねぇやんか!」
「そんな事はありません!
私は伊織とは違いますから!」
瑛太が謂うと京香は赤ん坊を抱っこして
「ええぃ!張り合うでない!暑苦しい!」
と一蹴した
京香の腕には紬と謂う女の赤ん坊が抱かれていた
康太は京香の腕から紬を貰い受けると
「眉間のシワは飛鳥井の血筋だな‥‥」
とボヤいた
紬は難しい顔をして眉間にシワを寄せていた
まるで瑛太ばりの眉間のシワを見て、康太はボヤいたのだ
康太はソファーに座ると、紬の眉間のシワを伸ばしていた
京香は「おなごの顔を伸ばすでない!」と康太を止めた
「でもよぉ京香、このシワはねぇよな?」
「仕方あるまいて!
この子はあの子の生まれ変わりなれば、瑛太の血を誰よりも濃く受け継いでしまっているのだからな!」
「京香さ、夜とか瑛兄が寝てる間に眉間のシワ伸ばさねぇか?
オレは時々、伊織の眉間のシワを伸ばす時あんぜ!
あんで寝てる時まで小難しい顔をしてんだよ?ってな」
康太の言い分に京香は笑って
「それは我も時々あるわな!
何でこうも小難しい顔で寝るのじゃ?って伸ばした事は多々とある!」
と爆弾発言を投下
瑛太は「えぇぇぇ!伸ばしてるのですか?京香」と驚いて問い掛けた
京香は笑って「そうじゃ‥‥お主は寝てても小難しい顔をしておるからな」と答えた
そしてその後に‥‥
寝てる時位‥‥‥何もかも忘れて寝させてやりたいのだ‥‥
と小さく呟いた
瑛太は嬉しそうに笑って、康太の手の中の娘を抱き上げた
「この子は紛う事なく私と京香の子ですね
京香、君も眉間のシワ、凄いですから」
「えええ!我もか?」
「ええ、今度写真を撮ってあげます!」
「要らぬわ!
おなごの寝顔など撮らぬでよい!」
瑛太は笑っていた
康太は立ち上がると
「んじゃ、瑛兄逝くとするか!」と声をかけた
瑛太は娘を京香の腕に戻した
「では京香、留守を頼みます」
「解っておる!
翔、流生、音弥、太陽、大空、リラックスじゃぞ!」
京香は子供達に声をかけた
子供達は頷いて立ち上がった
飛鳥井の家を出て桜林学園へと向かう
SPは子供の横に影の様に寄り添っていた
康太は「ケンケン」とマックの弟のケントを呼んだ
彼は有能が故に才が仇になった悲運の持ち主だった
しかも俳優も顔負けの容姿も‥‥ケントを影のSPにはさせずにいた
容姿に惚れて乞われて陥れられた
その傷は結構大きい‥‥
だが今は康太に鼻っ柱を折られて、結構柔和な性格になっていた
ケンケンと呼ばれるのも苦にもならなくなっていた
「何ですか?康太」
「今日は買い物も付き添ってくれるのか?」
「はい!今日は1日付き添います」
SPの会社は発足当時よりも拡大して人手も増やした
本国から退役し訓練した強者を補強し、かなりの成果をあげて実績を積んだSP会社となりつつあった
本場アメリカのSPに身を護って貰えるとあって、需要はかなりあるのだが‥‥‥
いかんせん、人手不足は否めなかった
誰でもなれる訳ではないのだ
アメリカの方では資格がある者しかSPを名乗れないのであるから‥‥
資格がない者を倭の国であっても使う訳にはいかなかった
ルーファス・クロフォードが社長となり人員を教育し資格が取れた者を本国から連れて来る事になっていた
だが需要と供給のバランスが取れない現実に、倭の国にも教育拠点を置いて本国で資格を取らせる事にした程である
ほんの一握りのエリートがなれるSPの壁は倭の国では結構大きかった
「マックとケンケンは飛鳥井で貰い受けてるからな‥‥ルーは人手不足で苦戦中だろうな‥‥」
戸浪と蔵持と飛鳥井が出資しあって創ったSPの会社だった
当然、戸浪と蔵持にもSPは貰い受けられていた
マックは「仕方あらへんやろ?SPはなりたくてなれるモノやないからな、アメリカで資格を取って来いと謂われても取れる奴は早々おらんやろうが!」とボヤいた
マックの関西弁は健在であった
マックは「外でSPに声をかけたらあかんがな!」とボヤいた
楽しく歩く為に存在しているのではない
護るべき者の為に存在しているのだから‥‥
流生は緊張しまくっていた
翔は真贋として色々と体験した分、肝は座っていた
音弥と太陽も緊張しまくっていた
大空はやはりマイペースで
「めんせつってなにやるんだろ?」と空を見上げていた
そんな子供と共に桜林学園初等科へと向かう
桜林学園の門を潜って初等科の方へと向かう
初等科の正門には長瀬匡哉が出迎えの為、待ち構えていた
先頃、長瀬の子の悠斗は菩提寺の住職、城ノ内優の所に修行に入った
修行を終えたら飛鳥井の家に入る事になっていた
長瀬は康太を見ると深々と頭を下げた
「御待ちしておりました
では面接会場へ御案内致します」
「四季が?」
「いえ、お見栄になられると御聞きしたので、御案内する間に悠斗の事を御聞きしようかと‥‥」
長瀬は手の内を明かした
康太は笑って「なら案内を頼む」と謂った
子供達は皆、下駄箱で上靴と交換してシューズ入れに靴を入れた
康太と瑛太もスリッパに履き替えると、子供達の横に並んで立った
長瀬は「此方へ」と案内して長い廊下を歩いていた
康太は長瀬に「悠斗は日々修行に励んでるぜ!」と伝えた
長瀬は「そうですか‥‥」と寂しそうに呟いた
「親子の縁までは切らねぇと謂ったよな?」
「はい‥‥謂われました‥‥」
「なら逢いに逝けよ
菩提寺の方には伝えてあるんだし」
「邪魔にならないか‥‥ひなちゃんは気にして逝けません‥‥」
だから説明をしてくれ!と暗に長瀬は謂った
「今日、この後オレはファミレスに逝く
その後に飛鳥井の家に還る
夕方には家にいるから家の方に来いよ!」
「何時頃が宜しいですか?」
夕方と謂っても時間の指定がないと逝けないと几帳面や長瀬は問うた
「午後5時には家にいるから来いよ!」
約束を貰って長瀬は安堵の息を吐き出した
「では5時に伺います」
そう答えた頃、面接会場に到着した
長瀬は学長室の隣の部屋のドアを開けると
「此方で御待ち下さい」と言い部屋のドアを開けた
康太は子供達と部屋に入った
瑛太は緊張していた
自分が面接する訳じゃないのに緊張していた
康太は瑛太をソファーに座らせた
「明日は入社式の面接だな
進藤と安曇貴之が入ってくれる事になっているかんな気を抜けねぇぞ!」
会社の面接もあるのだ、と康太は暗に瑛太に謂った
「会社の面接など対して気張る必要もありませんがね
康太の子供の面接なれば、気が抜けません!
伊織に変わっての大役ですから‥‥少し緊張するのは多目に見なさい!」
「見てんよ!瑛兄」
康太は笑った
面接官の佐野春彦が控え室のドアをノックすると、ドアを開けて
「此より面接を行います!
此方へどうぞ!」と面接の開始。告げに来た
康太は子供達と共に立ち上がり、面接室へと入って逝った
瑛太はその後を着いて面接室へと入って逝った
子供達を面接官の前の椅子に座らせて、自分達は後ろの用意された椅子に腰掛けた
桜林学園の理事長の神楽四季が面接の中央に座っていた
その横に佐野春彦が座り、学園長が座り一年の担任になる教師が座っていた
その中に長瀬匡哉の姿も在った
神楽は書類に目を通し
「それでは自己紹介をお願いします」と告げた
子供達は一人ずつ立ち上がり
「あすかいかけるです!」
「あすかいりゅうせいです!」
「あすかいおとやです!」
「あすかいひなたです!」
「あすかいかなたです!」
と名前を謂った
神楽四季は五人の子供を見て
「君達は先の入学診断テストでは、ブッチギリの成績を叩き上げました
入学式の生徒代表は飛鳥井翔君、君にお願いします
本当に君達は頭脳明晰で実行力、判断、基礎体力、運動神経、総てに最高の数字を叩き上げました
その才は飛鳥井瑛太、榊原伊織に継いで優秀としか謂いようがない程です
先が楽しみな子達の入学を今から心待にしております」
そう告げた
「翔君」
「はい!」
「生徒代表、お願いしますね」
「はい!」
翔は胸を張りそう答えた
「流生君」
「はい!」
「君はムードメーカーですので、入学したら学級委員をお願いします
大空君と共に学級委員をして下さいね」
「‥‥‥それは‥‥ひながいいにょね」
流生はそう答えた
神楽は驚いた瞳で流生を見た
「え?君は出来ないのですか?」
「ぼくはさぽーとしてこそ、むーどめーかーになれるのね」
子供達は入学に辺り名前で自分の事を呼ぶのを直した
最初は名前で謂っていたが、最近は「ぼく」と謂える様になっていた
「君はサポートしてこそ実力が発揮出来ると謂うのですね?」
「そうれす、さいしょからだとまとまらにゃいにょね」
緩ませ過ぎだから纏めるのは大変だと口にした
己を解りきった者の口振りだった
神楽は自分の役割や出し方を熟知した流生に
「やはり君は一筋縄では行きませんね!」と言い笑った
「なら流生君は園芸のお手伝いをお願いします」
流生は瞳を輝かせ「はい!」と答えた
「だけど兄弟を手助けしてあげて下さいね」
「はい!」
四季は「飛鳥井音弥くん、君は校歌を一番前に出て歌ってくれますか?」と音弥に問い掛けた
「はい!うたいます」
「良い子です
君は絶対音感の持ち主だとか
皆が覚えやすい様に歌って下さい」
「わかりました!」
「次は太陽君、君は大空君と共に学級委員をお願いします」
「はい!がんばります」
神楽はニッコリ笑って兄弟を見ていた
「大空君、君も学級委員をお願いしますね」
「はい!れもぼくたちおなじくらすですか?」
大空は疑問を問い掛けた
幼稚舎では別々のクラスにされたから‥‥少しだけ用心深くなっても仕方ないモノだろう
神楽は「君達の学力が途方もなく落ちない限り、君達は5人はA組の生徒になります」と告げた
佐野は5人の兄弟を 見渡して
「君達は桜林を背負う生徒になる
それは志半ばで倒れたお前達の叔父の悠太の想いでもある
悠太が過ごせなかった日々をお前達が過ごし伝説を築いて逝ってくれ!」
飛鳥井の五人兄弟の末っ子 悠太
誰よりも兄に憧れ、兄の傍へ逝きたいと努力した悠太の姿は今も佐野や神楽の視界に焼き付いていた
学園を去る日、悠太は
「高校生活は送れませんでしたが、何時か桜林に還って桜林を卒業します」
佐野と神楽にそう言った
行く先は険しくとも還ると遺して去った
そんな悠太の無念をこの子達は引き継いで伝説を残す存在になれと二人は想っていた
翔は佐野に「ゆーちゃんはかえります」と言葉にした
佐野は「え?」と驚いた瞳を翔に向けた
「ゆーちゃんはあすかいにしかいきられないから‥‥かえります」
翔は果てを見て謂った
その瞳は桜林に還る悠太の姿が映し出されているのだろう‥‥
神楽は「君達の学園生活を期待してます」と謂い面接を終えた
この日の面接は飛鳥井だけだった
飛鳥井と聞くと御近づきになろうとする輩が多く困難になるのは避ける為に、飛鳥井の家だけは最終日に面接を入れたのだ
神楽は「面接は終わりです」と面接の終わりを告げた
子供達は立ち上がると深々と頭を下げお辞儀をした
康太はホッと安堵の息を吐き出した
瑛太も緊張を解いて息を吐き出した
佐野は「瑛太、お前‥‥我が子の入園式では普通だったのに甥っ子の面接は緊張していたのかよ?」と揶揄した
「放っておきなさい!春彦」
「今年、瑛智は年長さんになり
烈は幼稚舎に入って来るな
そしたら毎年入学ラッシュに突入か?」
「美智瑠も匠もいますからね
そしたら入学ラッシュに突入ですよ」
「美智瑠と匠は瑛智と烈と同い年だもんな」
「後少ししたらうちの娘も入園します」
「娘?何時生まれたんだよ?」
「お正月に産まれました」
「京香さん妊娠してたなんて知らなかったぞ」
「‥‥‥‥この子は康太がくれた子なので‥‥内緒にしてました
詳しくは今度飲んでる時にでも話します」
「仕方ねぇな、なら今度な」
瑛太は佐野と別れると、康太の子と共に面接を終えて学園を後にした
上履きを脱いで靴に履き替えると学園の外へと向かう
康太は我が子に「今日は頑張ったな!」と声をかけた
子供達は母に誉められて嬉しそうに笑っていた
飛鳥井の家に還ると一生が応接間で康太達を待っていた
聡一郎も隼人も慎一も待ち構えていた
康太は応接間に入ると何時もの席に座った
「あー!疲れた」
康太が謂うと一生は「これから採寸か?」と問い掛けた
桜林学園指定のテーラーに向かい採寸して貰い制服を作る
「おー、この後テーラーに向かい採寸してから花菱デパートで必要なのを買うつもりだ」
「ならこの後は俺等が同行するわ!」
一生はそう言った
聡一郎は「伊織は?ホテルに行きましたか?」と問い掛けた
ホテルの予約を取ったのは聡一郎だった
「おー!逝ったぞ」
「鷹司緑翠の卒業も近いと謂う事は、やっと伊織は還って来るのですね?」
聡一郎は嬉しそうに問い掛けた
「おー!後少しだ‥‥だけどこれからが伊織は血反吐を吐きそうな程に辛い日々を送らねぇとならねぇだろうな‥‥」
康太が謂うと慎一が
「伊織の世話は俺がやりますから!」と謂った
書き出したら食事など必要としない榊原に食事を取らせたり着替えを持って逝ったり‥‥とするために慎一はスペアキーを手に入れていた
「頼むな慎一」
「心得てますから、気になさらなくても大丈夫です!
それではファミレスに行きますか?
瑛兄さんはお昼を食べたら会社にお帰りください
秘書から釘を刺されているので、俺の命が大切ならば、会社に戻って下さい」
相当、釘を刺されているのだろうと伺えれて、瑛太は苦笑した
「戻ります‥‥お昼を食べたら‥‥戻るので安心して下さい慎一」
「西村が頑張って釘を刺して来てるので、俺は謂う事を聞くしかなかったので、お許しを!」
「解ってます‥‥どうせ佐伯が西村を使って釘を刺したのでしょう‥‥
子を生んで1年は産休を取れば良いものを‥‥」
佐伯明日菜は子を生んで6ヶ月で職場に復帰した
佐伯の所の子は、康太は命名はしなかった
その子は笙と明日菜の望む名を着けろ!と謂い
命名はしなかった
笙は何故命名をしてくれないのか?
訴えたが康太は「明日菜と笙に科す贖罪だ!」と謂われれば‥‥引くしかなかった
明日菜の子は女の子だった
笙に良く似た女の子だったから「笙子」と名付けようとしたら康太から「それはダメだ!」とダメ出しを食らった
笙と明日菜は本当の意味で産みの苦しみを味わった
名を着けると謂うのは本当に難しく悩んで悩んで
結子と名付けた
康太に名を報告すると
「産みの苦しみは味わったか?」と笑われたが‥‥
「良い名だ
俺が京香の子に授ける名と繋がってるから上出来だ!」
と誉められた
佐伯はフレックスタイム制を上手く使って仕事を再開していた
明日菜の子は紬よりも早く産まれたから半年が経っていた
託児所の預かれる年齢は生後半年からだから、半年経って直ぐに預けて働き始めた事になる
生後半年の子は預かる時間は半日と短いが、それでも働かないよりはマシだと明日菜は仕事を再開したのだった
飛鳥井康太の秘書として佐伯明日菜は凛として輝いていた
自身と似合う実力を手に入れても尚、佐伯は学ぶ為に鷹司緑翠の所へ教えを乞うて通い始めていた
夫である笙は妻と子をサポートしつつ、己の仕事にも精を出していた
そんな佐伯は日々社長の使い方を熟知して懐柔していた
康太は我が子と瑛太と一生達とファミレスへと向かった
翔はステーキを食べつつ
「えいちゃ、そーらいってなにするんれすか?」と瑛太に問い掛けた
「入学に当たって生徒代表の言葉を述べるだけです!翔なら楽勝ですよ」
と述べた
それが難しくて解らないのに‥‥
翔は悩んでいた
荷が重いよ‥‥と顔には出さないのに‥‥悩んでいた
食事を終えるとファミレスで瑛太とは別れた
プリウスに乗り込み康太は翔に
「貴史に聞いてみると良い」とアドバイスした
桜林の初等科に入学するに当たって榊原は、我が子全員にキッズ携帯を作って持たせた
翔は携帯を手さげ袋から取り出すとラインを開いた
兵藤貴史の名前を見つけるとトークに
「ひょうどうくん、おききしたいことがあります」
と送信した
桜林指定のテーラーに到着すると子供達を車から下ろし店の中へ入って逝った
翔は採寸の間、携帯を一生に預けた
「へんじぎゃきたら、まっててもらってくらさい!」
「おー!大丈夫だ!謂っとく」
翔は店員に連れられて採寸をしていた
子供達は母の横に行儀良く並んでいた
康太は学園から渡された書類を取り出し用意するモノをチェックしていた
聡一郎に「花菱で揃うかな?」と問い掛けると、聡一郎も書類を覗き込んだ
「大丈夫だと想います
僕も去年永遠を桜林に入れましたが、花菱で全部揃いましたからね!」
「そうか、なら安心だな
花菱へ逝く前に烈を幼稚園から連れて来ねぇとな」
康太が謂うと聡一郎は
「なら明日菜に連絡入れて美智瑠と匠も一緒に還っても良いか聞いてみます」と謂った
聡一郎は明日菜にラインを入れた
直ぐ様返信が来て『聡一郎、お願いして良いのですか?』と聞いて来た
「康太が烈を迎えに行くと言ってるの、ならば一緒にと想いラインしました」
『助かります!
ならお願いします』
聡一郎は明日菜とのラインを終えると
「飛鳥井で下ろして下さい
頼みますと謂われてるので一緒に連れ帰ります!
僕は飛鳥井で隼人と共に留守番してます」
聡一郎と話してたら採寸を終えた翔が一生の所へ走って来た
「へんじありましたか?」
「まだねぇから大丈夫だ!」
翔は一生から携帯を渡して貰って、それを受け取った
翔が携帯を受けとるとブーブーと着信を告げて携帯が震えた
翔は画面を見ると兵藤からの着信だった
「ひょうどうくん!」
翔は嬉しそうに名を呼んだ
『よっ!翔、聞きたい事って何だよ?』
「せいとのだいひょうってなにをいえばいいのですか?」
『翔、代表になったのか?』
「はい、れも‥‥わからにゃいのです」
『なら今夜でも飛鳥井に逝くから、そしたら二人で考えようぜ!』
「たすかります」
『今は何してるんだよ?』
「せいふきゅのさいすんしてます」
『採寸か?ならこの後は花菱だな?』
「そうれす!」
『なら飛鳥井に還る頃逝くわ
ならまたな翔!』
そう言い兵藤は電話を切った
翔は康太の顔を見て
「ひょうどうくん、あすかいにきてくれるそうです」と伝えた
「そうか、そしたらお前が解らない所は聞くと良い!
瑛兄は出来ない事がない奴だからな‥‥説明が下手くそだかんな!」
出来ない事はないから、出来ない人間の悩みが解らないのだ
だから説明が壊滅的に下手くそになってしまうのだった
子供達の採寸が終わると制服の受渡日を書いた紙を受け取り、テーラーを後にした
慎一はプリウスの運転席に乗り込むと、飛鳥井へ向けて車を走らせた
飛鳥井の家の前で聡一郎と隼人を下ろすと、花菱デパートへと向かった
花菱デパートへ到着すると、慎一は空いてる駐車場に車を停めた
後部座席のドアをスライドして子供達を車から下ろした
康太も助手席から下りると流生が康太と手を繋いで来た
太陽と大空も康太に抱き着いた
康太は子供達に「これから初等科で要るのを買いに逝くからな、自分の好きなのを選ぶんだぞ!」と謂った
「「「「「はい!」」」」」
子供達は返事した
音弥と翔も母の横に並ぶと花菱デパートの中へと入って逝った
慎一はデパートの中へ入ると案内板の所へ向かい、子供服や文具コーナーの階を確かめた
「康太、文具や子供服のコーナーは3階になるそうです」
「んじゃ、3階に逝くとするか!」
康太は流生と大空と手を繋ぐとエレベーターに乗り込んだ
一生は翔と音弥と手を繋ぐと後に続いた
慎一は太陽と手を繋ぐとその後ろに乗った
3階の子供服、文具コーナーの階に到着するとまずは
「文具から見るとするか?」
と慎一に尋ねた
文具コーナへ向かい必要なモノをカートへ入れていると店員から
「飛鳥井康太様でいらっしゃいますか?」
と女性店員から声をかけられた
康太は「そうだ!」と謂うと
女性店員は「社長には御連絡されましたか?」と問い掛けた
「今日は子供の買い物で来たからな、連絡は入れてねぇよ」
「真贋がお見栄だと知れば社長も喜びます
御一報入れて宜しいですか?」
女性店員はニコニコとしながら問い掛けた
花菱にもって飛鳥井家真贋は特別な存在だと、社員教育は出来ていたと謂って良い結果だった
「構わねぇ!」
康太が謂うと女性店員は深々と頭を下げ連絡を取りに向かった
それと同時に3階、子供用品コーナーは一時閉鎖された
館内放送が掛かり、社長の道明寺達也が顔を出した
「康太様、何故にお見栄になられたと御連絡下さらないのですか?」
道明寺は悲しげに康太に問い掛けた
「悪い‥‥子供達が初等科へ入学するかんな
必要なモノを買いに来ただけなんだよ
お前の手を煩わせるのもなんだと想ってな」
「貴方のお買い物の手助けが出来るのは我がデパートしかないと私は自負しております!
なので些細な買い物であろうとお知らせ下さい
私は貴方に無償の愛を戴きました
私がこうして社長としていられるのも、妻と子を持てるようになったのも貴方がいればこそです!
恩返しも出来ずにいるのは許せません!
私は貴方のお役に立ちたいのです!」
道明寺は熱く語った
「返す恩なんてねぇよ!道明寺
お前は望んだ先へと逝っただけだ!」
「いえいえ!ならば恩は返しません!
でも貴方のお買い物は私がお手伝いすると決めております!
なので声を掛けて下さらないのは傷付きます!」
「悪かった道明寺」
康太は道明寺に学校から渡された購入せねばならない書類を渡した
「お任せ下さい康太様!
この道明寺、貴方のお子と寄り添い納得の逝くモノを御用意致します!」
道明寺はそう言うと翔の横に立った
「まずはお一人ずつ御希望の商品をお選びしましょう!」
店員は康太達をソファーに座らせるとお茶とお菓子を用意して皆の前に置いた
流生は母を見て、お菓子を置かれてもじっと我慢していた
康太は「食べて良いぞ!」と謂うと子供は御行儀良く食べ始めた
一生と慎一は子供達を見守って立っていた
道明寺は流石接客に慣れていて、子供達の目線までしゃがみ込み話をしていた
「翔様は何色がお好きなのですか?」
「ぼくはあおがすきです」
「青ですか、ならばこのカラーの中からどの色が好きかお教え下さい」
何百と謂うカラーの中から翔は蒼い蒼を選んだ
道明寺はその色に添ったモノを用意して翔の前に置いた
あれこれと道明寺と協議を重ね
翔は用意する総てを決めた
「次は流生様、流生様は何色がお好きですか?」
流生は見せられたカラーの中からパステルの薄い緑を選んだ
道明寺は流生の好きな色に添って用意する総てを決めた
道明寺はその後も音弥、太陽、大空の用意するモノを決めた
音弥はパステルの薄い紫
太陽はパステルの黄色
大空は空の青の青
それぞれ選んで用意すべきモノ総てを選んだ
道明寺は子供達が選ぶと
「これで宜しいですか?」と問い掛けた
「お前ら、自分の好きなのを選んだのか?」
康太は問い掛けた
子供達は全員「はい!」と答えた
「なら慎一、支払いを頼むな」
慎一は康太に託されているカードで支払いをした
道明寺はニコッと笑顔で
「この御用意したグッズは貴方のお子の為だけに用意させたモノばかりです
慎一さんに事前に協力を願って作らせたモノです
無駄にならなくて本当に良かったです」
と手の内を明かした
「悪かったな道明寺」
「いえいえ!私は貴方の専属だと想っています
この先もずっと、その場所は譲る気はありませんので!」
「ならこれかは子供の用品もお世話になる!」
「はい!何なりと御用命下さい!
貴方のお子が初等科へ上がられて私も嬉しく想います
つい最近、水泳の道具を幼稚舎でいると来られたばかりなのに‥‥もう初等科ですか
その成長に私も協力をさせて下さい」
「頼むな道明寺」
「はい!お任させあれ!です」
康太は慎一が支払いを終えると物凄い荷物を車まで運んで貰い帰宅の途に着いた
飛鳥井の家に還ると兵藤が玄関の前に立っていた
康太を見るなり兵藤は「よぉ!」と笑顔で挨拶をした
康太「慎一、オレは貴史を家に入れるかんな
子供達を連れて来てくれ!」と謂い車から下りた
「待ったか?」
カードキーを出しながら康太は兵藤に問い掛けた
「そろそろかと思って来たけど、少し早かったみてぇだな」
「悪かった」
「気にするな!
それより翔、代表になったんだって?」
「今日の面接で四季に謂われた
で、瑛兄に聞いたんだが‥‥入学に当たって生徒の代表としての言葉を述べれば良いんですよ!と謂われて余計に悩んでたんだよ」
康太が説明すると
「あぁ、あの人は出来ねぇって事が頭で解らねぇタイプだからな」と納得して謂った
康太は苦笑した
兵藤は応接間に入ってソファーに座ると子供達も車から下りて応接間に走ってやって来た
兵藤は「客間貸せや!」と謂うと翔を連れて応接間を出て逝った
康太は子供達に「スーツを脱ごうぜ!そしたらおやつだ!」と告げた
慎一と一生が子供達を子供部屋へと連れて逝った
康太も寝室に戻り着替えをする
スーツを吊るして普段着に着替えると、寝室を出て逝った
ともだちにシェアしよう!