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第12話 バレンタイン②
着替えて応接間に逝くと、子供達も着替えて戻って来ていた
一生は「翔は良いのかよ?」と服を手にして問い掛けた
「初めての大役だかんな
今は貴史に手伝って貰って頑張ってる所だから、リビングに来るまでは放っておいてやってくれ!
でもあんまし根をつめてもなんだし、頃合いを見て貴史と翔にお茶とお菓子を持って行っておいてくれ!」
「あいよ!」
応接間の何時ものソファーに座っていると烈が康太の膝の上に乗った
「かぁちゃ たらいま」
烈は母にチューしてただいまを告げた
「保育所は楽しかったか?」
烈は首を振った
「4月になったら幼稚舎に入学だな烈」
「にーにー いにゃい」
「仕方ねぇだろ?」
「たのちくにゃい‥」
「美智瑠も匠も瑛智もいるやんか!」
「にーにーがいい」
「それは無理だ!」
「けち!」
康太は烈をくすぐった
コチョコチョとくすぐると烈は「ぎぶっ」とギブアップした
康太はくすぐるのを止めて烈を抱き締めた
「初等科では少しは一緒に通える
それまでは待て烈‥‥」
「にゃら、ぎゃまんちゅる」
烈は仕方ないと肩を竦めて康太の上から下りた
康太は聡一郎に「長瀬が来るからな早めにご飯を食う事にするわ!」と告げた
聡一郎は「解りました」と謂いキッチンへと夕飯の支度をしに逝った
支度が出来ると「用意が出来ました、と言っても慎一が用意してくれます」と伝えた
早めに子供達とともにご飯を食べると
「長瀬が来たらリビングの方に連れて来てくれ!」
と告げて自室のリビングへと向かった
リビングのソファーに座ると流生が
「だれかくるにょ?」と問い掛けた
「あぁ、お客が来る」
「ぼくたち‥‥じゃま?」
「邪魔な訳ねぇやん
此処にいればいい!」
流生は母の膝に甘えた
大空も母に甘えると、太陽も音弥も母に甘えた
音弥は「とうちゃ‥‥いったにょ?」と問い掛けた
「あぁ、やらねぇとならねぇ事があるからな」
「なら‥‥しかたにゃいね」
康太は音弥の頭を撫でた
暫くすると長瀬の訪問を一生が伝えに来た
「長瀬が奥さんと共に来た
リビングにお連れすれば良いんだよな?」
「あぁ、頼む」
一生は康太の返答を聞き階下まで迎えに向かった
そして長瀬をリビングに通すとお茶の準備に向かった
リビングに通されて長瀬の妻は不安そうな瞳をしていた
康太は「座れよ長瀬!」とソファーに座る事を進めた
ソファーには康太の子が御行儀良く座っていた
長瀬の妻の朝陽は子供達の可愛さに目尻を下げて見ていた
「うわぁ可愛い」
流生は立ち上がると
「よくきてくれました!」と大人びた事を謂った
康太は「オレの子だ!」と紹介した
一生がお茶の準備をしてやって来ると、慎一も共に来て客にお茶と茶菓子をテーブルの上に並べた
「康太、俺等は此処にいても?」
「あぁ、構わねぇ!
なら本題に入るとするか!」
朝陽は子供がいて話しても大丈夫なのか?躊躇していた
だが康太は構う事なく話を進めて逝った
「悠斗の件で参ったのだよな?」
康太が問い掛けると朝陽は「そうです!」と答えた
「親子の縁までは切らねぇと話さなかったか?
逢いたければ逢いに逝けば良い‥‥‥
だが定めは変えられねぇんだよ!
それは悠斗が産まれる前から決まっていた
悠斗は自ら祖母の想いを受け止めて飛鳥井へ還る道を選択した」
「解ってます‥‥だけど悠斗が修行の為に家を出て逝って‥‥‥私は‥‥悠斗は愛してやれないのに‥‥他の子を可愛がるのは‥‥許せない気がして‥‥しまうのです‥‥」
朝陽は泣いて訴えた
我が子が‥‥飛鳥井の菩提寺に修行に行く為に家を出た日から‥‥
朝陽の心の中は葛藤し続けていた
康太は瞳を閉じると‥‥黙って朝陽の言葉を聞いていた
そして瞳を開けた時、朝陽を射抜いて見た
「オレの子は全員、オレとは血の繋がらぬ子達だ
オレは母親たちから我が子を託されて育てている」
康太がそう言うと朝陽は焦った
「止めて!‥‥‥お子の前で謂わせて‥‥すみませんでした」
朝陽は謝罪した
だが康太の子は取り乱す事なく康太の横に黙って座っていた
「気にするな!
我が子には既に話してある
そして我が子はそれを受け止めて今が在る」
「‥‥‥‥‥え‥‥‥」
朝陽は信じられなかった
康太の子はどの子も誰が本当の親か、解っていると謂うのか?
朝陽は唖然として言葉がなかった
その時、リビングのドアがノックされた
慎一はドアを明けに逝くと、翔が兵藤と共に立っていた
翔は客人を目にすると
「おじゃまでしたか?」と母に問いかけた
「嫌、大丈夫だ!」
康太が謂うと翔は兵藤と共にリビングに入って来た
「翔、貴史に手伝って貰って書けそうか?」
翔は康太の前まで来ると
「はい、わかりやしゅくおしえてもらいました!」と答えた
「それは良かったな」
康太は翔の頭を撫でた
兵藤は黙って康太の横に座った
「定めを持つ子は、他の場所では生きられねぇんだよ
オレの子も然りだ、悠斗も然り‥‥
飛鳥井の巫女の血を‥‥濃く受け継いで生まれて来てしまった始祖返りだ
他では生きられねぇんだよ
オレの子に寄り添うべき存在、それが悠斗だ!
これより悠斗は厳しい修行を積み飛鳥井へ還る‥‥それが定めだ!」
翔は黙って聞いていた
そして朝陽をジーッと視ていた
朝陽の苦悩が翔の瞳に映し出されていた
親として子を誰よりも愛して過ごして来た
どの子も可愛い
どの子も愛している
だけど‥‥‥悠斗が家を出て逝ってから‥‥
朝陽はどうして良いか解らなくなっていた
同じ様に我が子を愛してしまったら‥‥‥
あの子は誰が愛してやれると言うの?
苦しくて苦しくて‥‥堪らなかった
翔は立ち上がると朝陽の前へ逝った
「ゆーくんは、ははのあいをわすれてにゃいです!」
「え‥‥‥?」
「ゆーくんはおとうさんもおかあさんもだいしゅきだっていってました」
「悠斗が?」
朝陽は翔の言葉を聞き泣き出した
長瀬は妻に「この子は次代の真贋であられる」と告げた
飛鳥井の特殊な事は妻には話してあった
頭では理解していたが‥‥‥
こんな小さな子が次代の真贋だと謂うの?
翔はペコッと頭を下げるとソファーに座った
康太は慎一に「悠斗を呼んで来てやって来れ!」と頼んだ
慎一は立ち上がるとリビングを出て逝った
康太は静かに話し始めた
「飛鳥井の家にはオレの子の他に慎一の所の子に一生の所の子、聡一郎の所の子と瑛兄の所の子がいる
飛鳥井の両親や榊原の両親は分け隔てなく可愛がってくれている
どの子も変わりなく愛して育てて逝ってくれている
朝陽も我が子を愛しているのなら悩む必要なんてねぇさ
どの子も同じ様に愛してやればいい」
「康太さん‥‥」
「惜しみない愛を注いでやれよ
区別する必要なんてねぇんだ!
それを悠斗も望んでいる‥‥」
康太はそう言い我が子を抱き締めた
流生は母を護る様に前に出ると、音弥も太陽も大空も並んで立っていた
烈は翔と共に母に抱き着いて護っていた
兵藤はそんな烈を持ち上げると
「威嚇すんな!
ほら、おめぇ達もだ!」
兵藤は翔や音弥や流生、太陽、大空の頭を撫でた
流生は「らってひょうどうくん‥‥」と言い泣き出した
音弥も「かぁちゃ‥‥まもるにょ!」と言い
太陽も「ぼくたちまけにゃいもん!」と泣きながら訴えた
大空は「かぁちゃ‥‥なかしたらゆるさにゃい!」と静かに怒っていた
そんな所は榊原に良く似ていた
翔は静かに母を護り
烈は「まけにゃい!」とふんふん!と鼻息荒く訴えていた
慎一が悠斗を連れてリビングにやって来ると、朝陽は嬉しそうに我が子を見た
長瀬はそんな妻と我が子を静かに見ていた
悠斗は家を出て顔付きが変わった
持っている雰囲気も変わり‥‥‥近寄り難くなっていた
悠斗は父と母に話し掛けるよりも早く康太に
「お呼びですか真贋」と問い掛けた
「おめぇよぉ親と密に連絡取りやがれ!」
康太が文句を言うと、悠斗はしまった!と言う顔をした
悠斗は和希と和真、北斗の2学年上の小学5年生になっていた
悠斗は両親に向き直ると深々と頭を下げた
「‥‥日々の忙しさに‥‥連絡もせずに申し訳ありませんでした!」
小難しい口調で謂う
「悠斗‥‥」
長瀬は言葉が出て来なかった
臨戦態勢になっている康太の子達を目にして悠斗は‥‥‥
自分の所為なのだと理解していた
「母さん‥‥元気でしたか?
父さんも直ぐに胃に出るんですから飲みすぎはダメですよ」
長瀬は息子の名を呼んだ
「悠斗‥‥」
「俺は‥‥貴方達を苦しめてますか?」
悲しげに呟かれて朝陽は
「そうじゃないの!」と訴えた
「幸せにしてあげたかったのよ‥‥
私と匡哉さんの愛で‥‥一杯一杯愛してあげたかっただけなのよ‥‥」
朝陽はそう言い顔を覆って泣き出した
黙って見ていた兵藤が
「お前らはバラバラの方向を見てるから、互いが哀れで悲しい存在にしか映らねぇんだよ!」と言い捨てた
朝陽は驚いた瞳で兵藤を見た
「飛鳥井には沢山の子がいる
家族は子の方を向いて必要な時は手を差し伸べる
子供も必要な時は、その手を借りる
それが出来るのは互いが互いの方を向いてなければ無理だと俺は想う
榊原伊織の母は我が子の為だけに、子を産み康太に託した
そしてどの子も区別する事なく愛している
んな母親を見せれば、己の愚かさに気付いて解決すると俺は思うぜ!」
兵藤はそう言い慎一を見た
慎一はリビングを出て逝った
リビングは静けさが襲った
誰も何も一言も謂えないでいた
そんな静けさを破って真矢の明るい声が響き渡った
「康太、呼ばれたから来ちゃったわよ!」
と言いリビングに入って来た
真矢の横には清四郎もいた
真矢はクスッと笑うと清四郎と共に空いたソファーに座った
太陽は真矢の傍に駆け寄ると
「ばぁたん ぴんちなにょね!」と訴えた
真矢は艶然と笑うと
「だから来たのよ!」と答えた
流生は真矢に抱き着いた
「ばぁたん たのもしいにょ!」
「貴方達のばぁたんは絶対に負けないし曲がらないのよ!
さぁ、康太 私に話なさい!」
真矢に完全に持って逝かれた康太は笑って全部話した
真矢は朝陽に静かに話した
話を聞いた後に真矢は静かに口を開いた
「康太の兄の瑛太の嫁は長女の琴音を亡くし、我が子とは呼べない翔を産みました
京香はそれでも我が子も他の子も可愛がり育てています
私は京香に聞いた事があります
辛くはないのですか?‥‥‥‥と。
そしたら京香は謂いました
私はどの子も愛している
今は亡き我が子も忘れてはおらぬ‥‥と。
私もね、息子の為に子を産みました
康太が望めば伊織の血が繋がった子を託すと決めていたからです
後悔はありません
私はどの子も可愛いし愛してます
区別する事なく愛する
そう思えば離れている我が子だって愛してるし、手の中にいる子だって分け隔てなく愛せると想いますよ?」
朝陽は涙で濡れた瞳を真矢に向けた
「悠斗は抱き締めてやれないのに‥‥(他の子を)愛しても良いのですか?」
真矢は朝陽の横に座ると、朝陽を優しく抱き締めた
「良いのよ、どの子も変わらなく愛して良いのよ
離れているならば逢いに逝けば良いのよ
親子の縁までは切れとは謂ってないのなら、逢いに逝って抱き締めてあげれば良いのよ」
「私‥‥‥ダメだと想っていた‥‥‥
悠斗を抱き締めてやれないのに、他の子を愛しちゃダメなんだって想っていた‥‥」
「そんな事はないわよ
我が子は愛しいわ
だったら変わらない愛を注げば良いのよ」
朝陽は堪え切れずに泣いた
嗚咽が部屋に響いた
悠斗は堪え切れずに母に抱き着いた
「ごめん母さん‥‥本当にごめんなさい‥‥」
母に抱き着きながら泣く姿は年相応に見えた
朝陽は涙を拭くと悠斗を抱き締めた
真矢はもう大丈夫だと想うと、孫の方へと移動した
流生の頭を撫でて
「今日の面接はどうでした?」と問い掛けた
「かけるがだいひょうになりました」
「あら凄いわね」
真矢は翔の頭を撫でた
翔は「わからないから、ひょうどうくんにたよりました」と手の内を早くから明かした
真矢は兵藤の頭を撫でて
「ありがとうね貴史」と礼を謂った
「俺に出来る事なれば協力は惜しみません!
俺も康太の子の成長が楽しみですからね」
「なら一緒に見届けましょうね」
「はい!」
すっかり意気投合した真矢と兵藤を、康太は見ていた
真矢は「伊織は行きましたか?」とその場にいない息子を想った
「ええ、家にいるとあれこれ世話を焼くからホテルを取って移動させた」
康太は真矢に説明した
「あと少しで‥‥伊織も会社に復帰なのですね」
「ええ、この一年、本当に伊織は頑張りましたからね」
「それも妻の支えがあればよ」
真矢はそう言い笑った
真矢の目の前には、すっかり蟠りも解けた親子がいた
悠斗は両親に甘えて笑っていた
康太は悠斗に
「悠斗、おめぇ恵美みてぇにある程度の年が来るまでは通いにしよろ!」と提案した
親に恨まれたくはないのだ‥‥
また親子を引き離す様な事をするならば、理解が必要となるのだ
「真贋‥‥俺は無理して出たのでしょうか?」
悠斗は己の逝くべき道を逝こうとしていただけだった
だがその年はまだ未熟で親の庇護下に在る
「それは否めねぇな
こんなに不安にさせてるんだからな‥‥」
悠斗は理解してもらう作業を怠った自分を悔やんだ
「師範が聞いたら‥‥俺は破門じゃないですか‥‥」
「水萌は容赦ねぇからな」
「真贋、何とかして下さい」
「‥‥‥ったくおめぇら親子は無理難題を俺に吹っ掛けすぎなんだよ!」
悠斗は困った顔をしていた
朝陽は何を言えば良いか解らずにいた
長瀬もどうしたものか?と考えあぐねていた
兵藤は「真矢さん」と真矢を呼んだ
真矢は納得して「そうね貴史」と頷いた
兵藤は「今後の事を話し合おうぜ!でねぇと過ぎた事を悔やむしかねぇかんな!
悔やむ位なら最初から向き合ってとことん話し合うべきだったんだよ!」と言い切った
真矢も「そうね、これからどうしたいかを、話し合わないとね
想った事を飲み込むのは止めなさい!
嫌ならば嫌で歩み寄る事をしなさい!
てなくば、何処まで逝っても平行せんで解決の糸口さえ見つかりませんよ!」と手厳しい言葉を述べた
朝陽は思っている事を全部訴えた
長瀬も感じていた事を総て口にした
悠斗も思いの丈を総て話した
その上でどうするか歩み寄る
親子はやっと歩み寄る道を辿り始めたのだった
康太は何も謂わずに静かにその光景を見ていた
流生が母を心配して見上げると、康太は心配するなと笑った
烈は悠斗の所まで逝くと、膝によじ登り
悠斗の頬をペシッと叩いた
悠斗は「烈‥‥ごめん」と謝った
「みじゅくもにょ!」
烈は怒った
悠斗は烈を抱き締めたまま、両親に深々と頭を下げた
「本当にごめんなさい
俺の我が儘で母さんと父さんを苦しめてごめんなさい
俺は生まれる前からの記憶があります
そして産まれた意味も自分の成すべき事も解ってしまっているので‥‥‥
もう他の道へは逝けないのです」
朝陽は我が子の言葉を聞き
「なら仕方ないわね!」と本来の強さを垣間見させて笑った
長瀬は朝陽の強さを愛して止まなかった
強く踏ん張って立つ朝陽は誰よりも美しく輝いているからだ
朝陽は悠斗を抱き締めて離すと
「約束しなさい!
週末は家に還ると!
悩みがあるなら相談して!
離れててもそれを埋めちゃえる程に‥‥
いられる時は一緒にいましょう!」
悠斗は「はい!守ります!」と謂った
そして更に続けた
「ならば父さんと母さんも約束して下さい
父さんは飲み過ぎなんで、少しお酒を控えて下さい
惚気ばかり謂って酔っぱらうのも程々にして下さいね!
そして母さん、母さんは少し頑張らなくて良いです!
自分を追い詰めて、更に頑張ろうとするのは止めて下さい!
母さんは何時もそうやって元気に笑ってて下さい!
その方が子供は安心なんですから!
それが俺との約束ですよ?」
キツい一発を貰って長瀬は苦笑していた
朝陽は悠斗の言葉を心に刻んだ
長瀬は「解った。惚気は控えれないけどお酒は控えるよ!」と約束した
悠斗は「はい!時々チェックに還る事にします!」と約束した
朝陽は「私も私らしく生きる事を約束するわ!
どれだけ足掻いても私は私の生きてきた道を否定なんて出来ないんだから‥‥‥」と約束した
「母さんは頑固なのであんまり意地を張らない様にね」
「解ってるわよ悠斗!
本当にあんたは匡哉さんに良く似てるんだから!」
「親子ですからね!」
悠斗は笑っていた
朝陽も笑っていた
長瀬も笑っていた
長瀬は立ち上がると「真贋、お手数をお掛け致しました」と謝罪した
朝陽も「本当に迷惑をお掛けしました!」と謝罪した
康太は「全部吐き出したかよ?」と問い掛けた
朝陽は元気良く「はい!もう大丈夫です!
私が悠斗の母なのは変わらなければ、それで良いです!」と答えた
康太は優しく微笑んだ
烈は「らくちゃくらな!」と総てが丸く収まったと想った
悠斗は烈を抱っこしたまま立ち上がった
康太は重くないのかよ?と想ったが謂わずにおいた
悠斗は「母さん」と母を呼んだ
「何?悠斗」
「はい、抱っこして下さい」
悠斗はそう言い烈を母に渡した
朝陽は烈を抱き上げて「重っ‥‥」と呟いた
烈は怒って「あちょでおぼえときゅの!ゆー」と謂った
「許してよ師匠」
「ちらにゃい!」
烈はそっぽを向いた
「師匠、俺頑張りませんでしたか?」
「みじゅくもにょ!」
「えー!師匠」
目の前のやり取りを朝陽は唖然として見ていた
烈は「おろちゅ!」と謂った
朝陽は烈を下ろした
下に下ろして貰い長瀬と目が合うと烈は、長瀬の膝の上に座った
長瀬は嬉しそうな顔をして烈を撫でた
「ゆー、ゆるちてやって」
「別に怒ってません」
「ゆーはみじゅくもにょらから」
長瀬は爆笑して
「そのうちきっと役に立つ日は来ます」と謂った
「ちらにゃい!」
烈が謂うと悠斗は「師匠ぉ~」と言い泣き付いた
朝陽は我が子の必死さを見て烈に
「悠斗を許してやってね!」と頼み込んだ
烈はニャッと嗤うと長瀬の上から退いた
そして母の膝にダイブして抱き着いた
「烈、どうしたよ?」
「かぁちゃ しゅき」
「オレも烈が大好きだぞ!」
烈は母の言葉を聞くと兵藤の膝の上によじ登った
「ひょーろーきゅん ちゅき」
兵藤は烈を抱き上げて
「俺も好きだぜ烈」と謂った
そして振り向くと悠斗にやれ!と目で合図した
悠斗は「父さん母さん大好きです!」と謂った
真っ赤な顔をしてブルブル震えて謂う我が子を長瀬と朝陽は見ていた
そして二人して腕を伸ばして悠斗を抱き締めると
朝陽は「私たちも大好きよ悠斗」と言葉にした
長瀬も「僕も大好きだよ悠斗」と言葉にした
揺るぎない親子の関係がそこに在った
兵藤は「もう大丈夫だな!」と口にした
「だな!」康太は嬉しそうに呟いた
話し合いは解決した
翔は康太に「よかったですね」と言葉にした
流生も音弥も大空も太陽もホッとした瞬間だった
長瀬は康太に「ありがとうございました」と礼を述べた
「親子が解り合えねぇのは辛れぇかんな
解り合えて本当に良かったと想っている」
「僕はこの先も飛鳥井家真贋の為に生きて逝くつもりです
母の意思を継いで‥‥‥貴方と共に逝きます!」
「入学したら宜しく頼む‥‥」
「はい!お任せ下さい!」
「今夜は悠斗を連れて帰れよ」
「ありがとうございました」
長瀬は康太に感謝の言葉と先の約束をして妻と悠斗を連れて帰って逝った
康太はホッと息を吐き出した
真矢は「下に行き飲みましょうか?」と口にした
慎一は「聡一郎が準備して家族は皆待ってます」と宴会好きな家族を口にした
応接間に向かい、その夜は皆で楽しく飲み明かした
兵藤は康太に「悠斗、烈の事、師匠って呼んでなかったか?」と不思議そうに問い掛けた
「前世の師弟関係は今も健在と謂う事だ」
「そうか、あの子も転生した子なんだな」
「そうだ、烈も悠斗も転生した魂だかんな
今世も悠斗は烈の魂に師事をする事にしたって事だ」
「しかし親子問題は‥‥拗れると大変な事になるからな‥‥何とかなって良かった」
「あぁ‥‥そうだな」
康太はもう何も謂わなかった
兵藤ももう何も謂う事なく楽しく飲み明かしていた
榊原不在の康太と子供達は何処か寂しそうで‥‥
それでいて気丈に不在を守る様に笑っていた
家族や仲間はそんな康太と子供達を優しく見守っていた
そしていつも通りの夜を過ごした‥‥‥
榊原はホテルへと移動して死に物狂いで論文を書き上げていた
熱中すると食事すら取るのを忘れて、様子を見に来た慎一に怒られてやっと食べる
そんな日々が続いていた
気が付けば‥‥‥何日もホテルで過ごし
カレンダーを見てやっと今日がバレンタインデーだと気付いた
今年は康太にチョコも贈れなかった
来年はチョコを贈ろうと心に決めていた
でも‥‥‥チョコを贈りたかったな‥‥
バレンタインデーももう終わろうとしていた
あと少し‥‥‥あと少し頑張れば帰れる
それだけを考えて榊原は己を奮い立たせていた
バレンタインデーも終わろうとしている夜更け
ホテルのドアがノックされた
榊原はもしや愛する妻が‥‥‥と淡い想いを抱きドアを開けた
すると‥‥‥目の前には誰も立っていなかった
榊原はもしや‥‥‥と想ったがガッカリしてドアを閉めようとした
するとズボンをツンツンと引っ張られた
榊原は下を向くと流生が父のズボンを引っ張って立っていた
榊原は信じられない想いで「流生‥‥」と名を呼んだ
「とうしゃん」と流生は確りした発音で榊原を呼んだ
「流生、母さんや他の子はどうしました?」
「のみものをかってきましゅ」
「そうですか、なら待ちましょう」
榊原はそう言い流生を部屋の中に招き入れた
「とうしゃん、ちょこあげゆ」
流生はチロルチョコサイズのチョコを差し出した
榊原は「ありがとう」と謂いチョコの包装を剥いて口に入れた
ビターな味が口に広がった
榊原は流生を抱き上げて
「面接はどうでしたか?」と尋ねた
「だいじょうぶらったよ」
「そうですか、大切な時に留守にしてしまいましたね」
「とうしゃん ぼくるすばんできるよ」
「あと少しで還りますからね」
流生は嬉しそうに「はい!」と答えた
ドアがノックされ榊原はドアを開けに向かった
すると康太と翔達が立っていた
榊原は康太と子供達を部屋に招き入れた
康太の手には沢山の紙袋が持たれていた
他の子も荷物を持っていた
康太は榊原に抱き着くと
「バレンタインデーだから来た
やはり子供達も伊織に逢いたいと車に乗ってたからな連れて来た」
「何に乗って来たのですか?」
「プリウス」
「君が運転して来たのですか?」
「慎一に決まってるやん
一生がベルファイアを運転して家族を連れて来た」
「今日は皆、お泊まりですか?」
「そう言う事になるな」
康太はそう言い笑った
子供達は紙袋の中の料理を上手に並べていた
「凄いですね、何だか少し見ない間に‥‥子供の成長は早いですね」
「初等科に上がるからな、言葉使いも塾に入って直したしな
翔が生徒代表に選ばれて入学式に言葉を述べる事になった」
「それは凄いです
そんな大切な時にアドバイス出来なくてすみませんでしたね翔」
榊原は申し訳なく翔に話し掛けた
翔はニコッと笑って
「ひょうどうくんにおしえてもらいました」と父に伝えた
「貴史のアドバイスなら的確ですね
悔しいですが、貴史に礼を謂っておきます」
準備が整うと太陽が「かあしゃん、できたよ!」と告げた
康太はソファーに座ると
「伊織、バレンタインデーだぞ?今日は」と口にした
榊原は残念そうな顔で
「君にチョコを贈れなくて残念でした」と悲しげに呟いた
「今年は流生がくれただろ?」
「ええ、ビターなのを貰いました」
「その一粒はオレ等の想いだ!」
と康太は笑って伝えた
「皆で作ってくれたのですか?」
「おー!何度も失敗したからなのと、家族が味見と謂い食ったからな一粒になっちまった‥‥
でも大丈夫だぞ、慎一が監修してくれたのだからな!」
「君の愛が詰まってるのなら僕は何だって食べますとも!」
「ごめんな伊織」
「何で謝るのですか?」
「子供と来ちまったから甘いバレンタインデーは出来そうにねぇからな」
康太はそう言い少しだけ悲しい顔をした
榊原は康太を抱き締めて
「僕も我が子に逢いたかったのです
なので逢いに来てくれて本当に嬉しいです」と嬉しそうに謂った
そしてソファーに座ると子供達が用意してくれた食事に手を着けた
子供達が甲斐甲斐しく榊原の世話を焼く
「とうしゃん、ばぁたんからさしいれれす!」
ばぁたんと言う事は榊原の母の真矢の事だった
榊原は康太に「皆を呼びますか?」と問い掛けた
榊原は泊まってる部屋は長期滞在と謂う事でそんなに広くはなかった
皆を呼ぶには適した部屋ではなかった
「伊織、今夜は家族水入らずで明日、家族がいる部屋で過ごそうぜ!」
「それは良いですね」
榊原は嬉しそうに答えた
子供達は父といられて楽しそうだった
何時もよりもはしゃいで我慢して起きていたが‥‥
子供達は堪えきれずお眠になった
榊原は寝室のベッドに子供達を寝かせると、寝室のドアを閉めた
そしてソファーの在る部屋の方に逝くと、康太に口吻けた
「ソファーで悪いですが‥‥君を確かめさせて下さい」
榊原はそう言い康太をソファーに押し倒した
優しい口吻けが激しい接吻になると体躯は熱くなり堪らなくなって逝った
互いが足らなかった事を実感する
服を脱がし淡く色付く乳首を摘みあげた
こねくり回す様に嬲るとプクっと晴れ上がった乳首が赤く艶めいた
榊原は康太のズボンを下着ごと脱がすと、勃ちあがった性器にむしゃぶりついた
竿を扱き、陰嚢は柔らかく揉んで
指を陰嚢の裏をなぞった
そして滑る様に指は康太のお尻の穴に触れた
そこは硬く閉じて謹み深閉じていた
榊原は性急に康太を求めた
だが‥‥清く正しく論文を書いていた榊原の部屋にローションはなくて‥‥濡らせそうなモノがなかった
榊原は康太の精液で濡らそうかと追い上げて逝く
康太は榊原にローションを差し出した
「直ぐに欲しいから持って来た」
榊原はローションを受け取ると嬉しそうに笑った
ローションを手に出すと、康太の足を持ち上げお尻の穴を露にした
ローションを塗り込む様に秘孔に指を差し込んだ
「硬いですね」
「伊織としてねぇからな、こんなもんだろ?」
「一人でしなかったのですか?」
「しなかった
欲しくなっても伊織しか要らねぇからな」
榊原は嬉しくなり康太を抱き締めた
そして足を抱えると秘孔に性器を擦り付けた
硬い肉棒で何度も何度もグチュグチュと出し入れする
最初は閉じていた秘孔も、榊原のカウパーを擦られて熱く緩んだ
榊原は執拗な接吻で康太のお口を塞ぐと‥‥
緩んだ穴を見計らってグイッと一気に押し込まれ‥‥
康太はその快感に‥‥‥イッてしまっていた
「イッてしまうと後がキツいですよ?」
解っているが‥‥堪えられないのだ‥‥
康太は「伊織‥‥伊織‥‥」と魘された様に名を呼んだ
二人は時間が許す限り求め合い‥‥‥抱き合った
夜が白々と開けると榊原は康太を浴室へと抱き上げて行った
精液を掻き出して体躯を洗う
久し振りの作業がとても嬉しくて仕方がなかった
榊原は康太を洗って自分の体躯も洗うとお湯に浸かって幸せを噛み締めた
お風呂から出ると康太の髪を乾かして服を着せた
そして自分も髪を乾かして服を着ると‥‥‥
ソファーのある部屋の掃除をした
せっせとソファーに着いた精液を拭いて掃除する
康太は荷物の中からファブリーズを取り出すと榊原に渡した
榊原はファブリーズを受け取り、部屋中シュッシュッと除菌した
部屋の窓を開けて換気する
「匂いませんかね?」
「大丈夫だ!伊織」
康太は榊原に腕を伸ばした
榊原は康太を抱き上げてソファーに座った
「ありがとう康太」
「あんだよ?」
「僕は寂しかったのです
それでも還る日までは‥‥と考えない様にしてました‥‥
だけど我が子と君が来てくれたから‥‥凄く嬉かっです」
「オレも伊織がいなくて寂しかった
翔達もやはり父がいなくて寂しかったんだろうな‥‥‥
オレが伊織に逢いに逝くのを知っていたからプリウスの方の車に慎一に頼んで乗り込んで待ち構えていたんだよ
連れて逝くしかなくてな‥‥本当に年々上手になりやがる!」
康太の言い分を榊原は嬉しそうに聞いていた
「僕と君との子です
父が榊原の姓を捨てて飛鳥井になってくれたから、僕はどんな事態に陥っても、子供達の傍にいられる立場も得ました
まぁ実質的に榊原の家は兄さんに継いで貰うしかないので、悪いとは想いましたがね
それでも僕は‥‥あの子達の父として胸を張って生きて逝きたいのです」
「伊織‥‥来年のバレンタインデーは一緒に過ごそうな」
「ええ。もう離れる事はありません
また離れたとしても、絶対に還りますから‥‥」
「あぁ、あと少し頑張れ‥‥」
「ええ、完璧に書き上げて還りますから待ってて下さいね」
康太は頷いた
夜が明けて朝陽が差し込むと子供達は起きて、ドアを開けて両親を探した
榊原は「良く眠れましたか?」と問い掛けると
子供達は榊原目指して飛び付いた
榊原は子供達を腕に抱き幸せそうに笑っていた
康太の携帯がブーブーと着信を告げると、康太は電話に出た
「あんだよ?家族水入らずを邪魔すんなよ?」
電話に出るなり康太は文句を謂った
『こっちの家族もお待ちかねなのを忘れたからあかんがな!』
「忘れちゃいねぇよ
腹減りのオレに謂えるなら‥‥だけどな」
電話の相手は息を飲んだ
『だからのお誘いでんがな
旦那に変わってくれ康太』
康太は榊原に携帯を渡した
「もしもし伊織です」
『旦那、家族で朝食でもとの事だが‥‥』
「ええ、子供達も起きて来たので大丈夫です
何処へ逝けば宜しいですか?」
『家族全員で来てるんだよ』
「康太から聞いてます」
『だからルームサービスを頼むから慎一にそっちに行って貰うから一緒に来てくれ!』
「解りました」
榊原はそう言い電話を切って康太に渡した
流生は康太に抱き着くと
「おかお あらう?」と聞いて来た
「だな、うし洗面所に行って歯磨きすんぞ!」
康太が言うと各々のリュックから洗面用具を取り出して、洗面所に向かった
皆 上手に歯磨きして顔を洗う
康太も榊原もその横で歯磨きして顔を洗った
慎一がドアをノックすると榊原はドアを開け慎一を招き入れると
「着替えるので待ってて下さい」
とそう言い寝室の方に向かった
康太は子供達のリュックから着替えを取り出すと着替えさせた
慎一は康太の着替えの入ったバックを差し出した
康太もその場で着替えていると、榊原が着替えて姿を現した
榊原は康太の着替えを手伝い、子供達の着替えも手伝った
子供達は着替えを綺麗に畳むと、リュックに片付けた
太陽が「かぁしゃん しまったよ」と訴えると
「うし!良い子だ!」と太陽の頭を撫でた
流生も翔も音弥も大空も片付けて背中に背負うと、康太は我が子の頭を撫でた
康太は着替えた服を入れるとバックを持った
慎一と共に家族の待つ部屋へと向かう
榊原は我が子と手を繋ぎながら、ゆっくりと廊下を歩いた
子供達は父と一緒で楽しそうだった
このホテルで一番大きな部屋に飛鳥井と榊原の家族は泊まっていた
その部屋へと向かう
慎一は部屋の前に立つとドアを開けて、榊原や康太達を部屋へと入れた
部屋に入ると飛鳥井の家族も榊原の家族も待っていた
榊原は「お久しぶりです」とご挨拶をした
瑛太は「どうですか?4月から副社長の席に戻れそうですか?」と問い掛けた
榊原は不敵に嗤うと
「当たり前ではないですか!
更にバージョンアップした僕をお届け出来る事をお約束致します!」と謂った
榊原らしくて皆は笑った
テーブルに着くと給仕が朝食の準備をしてくれた
康太と子供達はソファーに座っていた
給仕はテーブルの上に朝食の準備をして、総てを終えると部屋を出て行った
榊原は「そこで食べるのですか?」と問い掛けた
「おー!子供にはその椅子とテーブルは高さ過ぎて食い難いんだよ!」と説明した
ソファーには瑛智や美智瑠、匠も座っていた
「なら康太、君は僕の膝の上で食べれば良いです!」
榊原がそう言うと真矢は
「賭けにもなりませんでしたね」と爆笑した
榊原は拗ねた様な顔をして一生を見た
一生は「家族は康太がソファーで食べるとすると、伊織はどうしますか?と賭けをしたんだよ!
全員が膝の上で食べれば良い!と謂うだろうな‥‥と賭けにもならなかったんだよ!
んでもって、今まさに旦那はそれを謂ったと言う事で爆笑だったと謂う訳だ」と説明した
榊原は自分の朝食を持つとソファーへと移動して康太の横に座った
「放っておいて下さい!
僕も好きで離れている訳ではないのです!」
そう言い榊原は甲斐甲斐しく子供の世話を焼いて、妻の世話を焼いた
康太が食事を終えると榊原は慎一に
「康太のプリンはありますか?」と問い掛けた
慎一は「ありません!」と答えた
「え?‥‥康太のプリンですよ?
何時の時でも君が康太のプリンを忘れたりはしないのに?」
「忘れたんじゃありません!
康太は今、プリン断ちしているので、用意しても食べませんので、用意してないのです」
「プリン断ち‥‥何故?
康太の大好物を何故断っているのです?」
「それは貴方にだけ過酷な現実を押し付けておるからですよ
貴方にだけ、それをやれと謂うならば康太は自分の好きなのを断って貴方を待つと謂う事です!
なので今、康太の子達もプリンは食べません!
俺の子も、北斗も永遠も瑛智もプリンは断っているので食べません」
慎一は皆してプリン断ちしている現実を告げた
榊原は「ならば1日も早く還らねばなりませんね」と決意を口にした
子供達は父と一緒にいられて嬉しそうだった
康太も愛する榊原と共にいられて嬉しそうだった
家族や仲間はそれを見て、良かったと胸を撫で下ろした
甘いバレンタインデーは家族の絆を深めて幕を閉じた
来年も再来年も‥‥
10年後も20年後も‥‥
未来永劫、愛してます康太
だから共にいましょう
共に‥‥この命の尽きる瞬間まで‥‥一緒にいましょう
愛する我が子と共に‥‥‥
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