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第14話 春の嵐②

エレベーターに乗り込み最上階まで向かう 最上階に着くと、戸浪海里の秘書の田代が待ってくれていた 田代は「御待ちしておりました!」と烈を抱き上げた 「重っ‥‥3才とは想えぬ体躯ですね烈は」 と笑って社長室を目指した ドアをノックすると戸浪がドアを開けて康太達を迎え入れてた 康太は「少しアクシデントがあり来るのが遅くなった」と伝えると戸浪は 「何かありましたか?」と心配して問い掛けた 康太は烈の身におこった事を話した 戸浪は驚いて言葉もなかった するとタイミング良く弥勒が『康太、トナミの屋上にも黒い羽根がある! 我は触れないから誰か寄越してくれ!』と声を飛ばした 田代が「それでは私が向かいます!」と謂い屋上に向かった 田代が屋上に逝くと鍵が掛かっていた 田代は鍵を開けて屋上に出た すると弥勒が立っていて、田代を視ると 「黒い羽根が刺さっておる 我等が触れれば焼けて焦げる‥‥故に人に触れて抜いて貰うしかない!」と告げた 弥勒の手には包帯が巻いてあった 田代は黒い羽根を掴むと、引き抜いた 黒い羽根はカラスの羽根に似ていたが、それ程までに長くはないであろうし、天使の羽根にしては‥‥‥黒いのは畏怖を抱く存在だと想った 弥勒は田代に「我を康太の所へ連れて逝くがよい!」と告げた 田代は弥勒と共に社長室へと向かった 戸浪は烈の頭を撫でて「大丈夫なのですか?」と問い掛けた 烈はニカッと笑って「らいじょうび!」と答えた その存在感に戸浪は幼児だとは想えずにいた 流生は烈を抱き締めて、まるで護っているみたいだった 戸浪は「田代が戻りましたら亜沙美の所へ‥‥お願いします」と声をかけた 流生は総て知っているし、総て話したと聞いた 総て知っていると聞いて初めて亜沙美と逢うのだ‥‥‥戸浪は心配していた 戸浪は烈を護っている流生を見て 「お兄ちゃんですね流生は‥‥」と呟いた 流生は何も謂わなかった そこへ田代が弥勒を連れて戻って来た 康太は「詳しい話は若旦那とするとして、田代は流生を連れて行ってくれよ!」と頼んだ 「解りました!では流生、此方へ」 田代が声をかけると流生は母に 「れつ、つれていったら、らめれすか?」と問い掛けた 「烈‥‥大丈夫か?」 康太は烈に問い掛けた 烈が頷くと「なら流生頼むぞ!」と謂った 流生はニコッと笑うと烈と手を繋いだ 田代は流生と烈を連れて隣の部屋へ向かった ドアをノックすると亜沙美がドアを開けた 「田代、どうかしましたか?」 亜沙美が謂う 田代は「流生と烈をお連れ致しました!」と伝えた 亜沙美は不安に拳を握ると‥‥‥流生と烈を招き入れた 田代はその場を離れた 亜沙美は「流ちゃん 久し振りね」と声をかけた 流生は「あさみ、げんきらった?」と問い掛けた 「元気だったわ 流ちゃん、今日は弟君を紹介してくれるの?」 「そうらよ!れつ、ぼくのおとうとです」 流生は誇らしげに烈を紹介した 烈は流生と違いガタイが太く確りした体躯を持っていた 亜沙美は烈の前にしゃがむと 「烈君、初めまして!亜沙美です」と自己紹介した 烈は黙って亜沙美にペコッと頭を下げ そして「ちくー!」と挨拶した 烈は亜沙美を視ていた そして亜沙美と流生の関係を嗅ぎ取ると、自分はお邪魔なのだと察して、携帯を取り出した そして短縮番号1を押した 『烈、どうしたよ?』 康太の声がする 「かぁーちゃ とこいきゅ!」と烈は謂った 康太は笑って『そうか‥‥田代、烈を連れて来てくれねぇか?』と頼んだ 「解りましたお迎えに逝きましょう!」 そう言い田代は社長室を後にした 『今、田代が逝く!それで良いか?』 「いー!」 烈はそう言い電話を切った 流生は「れつ、いやにゃにょ?」と問い掛けた 「にーにー!みじゅいらじゅがいーにょ!」と笑って迎えに来た田代と部屋を出て行った 流生は「あさみ‥‥ごめん」と謝った 「流ちゃん、気にしなくて大丈夫よ! それよりお話があったんでしょ」 「あー!そうらった!」 流生はリュックの中から写真を取り出した 「はい!あさみ!」 流生はそう言い写真を亜沙美に差し出した 亜沙美は写真を受け取り目にした 写真には流生が桜林の初等科の制服を着て映っていた 「流ちゃん‥‥もう小学校入学なのね‥‥」 「そーなのよ!」 何処かのオバサンばりの話し方は変わらない 亜沙美はクスッと笑った 「流ちゃんは‥‥‥全部知っているのよね?」 亜沙美は流生に問い掛けた 流生は笑って「しってる!」と答えた 「ぼくね、かあさんすき とうさんもきょうらいもすき! ばぁちゃんやじぃちゃん、ばぁたんやじぃたんもすき、みんなすき!」 「そう‥‥良かったわ」 「あのね、ぼく‥‥‥すこしらけ‥‥かずにおやこうこうするときめてる らからね、あさみにもすこしらけおやこうこうする」 「流ちゃん‥‥‥」 「すこしらけ‥‥ね!」 「少しだけで良い‥‥‥親孝行して貰えなくても良い‥‥ 恨んでも‥‥‥良いから‥‥‥」 亜沙美は泣いていた 流生はズボンのポケットからハンカチを出すと、亜沙美の涙を拭いた 「ぼくは、あすかいりゅせいれす! ぼくはそれいがいには‥‥なれません! らから‥‥ぼくは‥‥かあさんととうさんにおやこうこうする! かずとあさみにも、すこしらけおやこうこうする‥‥」 「流ちゃん‥‥」 「それが‥‥ぼくのこたえらから‥‥」 亜沙美は泣いていた 総てを知れば我が子から恨まれるに違いないと思って覚悟はしていた それが許され‥‥ ほんの少しだけ、親孝行してくれると謂うのだ 夢のような話だった 「また、あいにくるにょ! らから、あさみもあいにきて!」 「逝くわ‥‥逢いに逝くわ‥‥」 「きょうきたのは、それらけ!」 流生はそう言うとポケットから携帯を取り出し短縮番号2を押した 「とうさん、おわりました!」 『そうですか、では迎えに逝きます』 榊原はそう言い電話を切ると立ち上がった 田代も立ち上がると榊原を隣の部屋に案内した ドアをノックして開けると、流生が振り返った 流生は榊原の姿を見ると「とうさん!」と謂い駆け寄り抱き付いた 榊原は「もう良いのですか?」と問い掛けた 流生は「とうさん、かあさんやみんなのところへいきたい!」と訴えた 「なら還りましょう その前に片付けねばならぬ事があるので待ってて下さいね」 「らいじょうび!ぼくまてる!」 流生は嬉しそうに謂うと榊原に甘えて抱き着いていた 榊原は流生の頭を撫でて抱き上げた 流生は父の首に抱き着き、亜沙美を見る事はなかった 榊原は亜沙美に深々と頭を下げると部屋を出て行った 亜沙美はそれを見送り、流生から貰った写真を胸に抱き締めた すこしらけおやこうこうする 流生の言葉が嬉しかった それがぼくのこたえらから 流生の覚悟が‥‥‥嬉しくて‥‥哀しかった 育ち行く我が子の成長が早く感じられてならなかった 傍にいないと、こんなにも‥‥‥解らないものなのね‥‥‥ 亜沙美はそう呟いて涙した あの人はどんな想いで流生の傍にいるのだろう‥‥‥ 少しだけ親孝行すると謂って貰って喜んだだろうか? それとも‥‥‥哀しんだのだろうか‥‥ ねぇ一生‥‥‥流生は貴方にソックリになって来ましたね‥‥ でもその中に兄にも似た面差しを見れば‥‥ 確実に自分と一生との間に出来た子だと解る‥‥ 真っ赤な顔をして産まれたあの子が もう小学生だなんてね‥‥ 亜沙美は月日を噛み締めていた 榊原は流生を抱っこしたまま社長室まで戻った そしてソファーに流生を下ろし、烈の隣に座らせ、康太の横に静かに座った 康太は「トナミに在るって事はオレの知り合いの奴の所には黒い羽根が突き刺さってる可能性が在るって事なのか?」と弥勒に問い掛けた 「その可能性は大だな」 「‥‥報復か、知らしめのつもりか‥‥ なんにせよ、やる事がセコいんだよ! 一生に連絡して回って貰うしかねぇな?」 康太が思案して呟くと、弥勒は 「ガブリエル辺りに頼んだ方が魔界の感知には長けてると想うぞ!」 と魔界の感知に長けてる天使を使った方が効率的だと謂った 「ガブリエルか、どの道 司命が天界に閻魔と共に逝くから連れ帰って貰えば一石二鳥か」 康太は良い案だとばかりに聡一郎に電話を入れた 「聡一郎、まだ人の世だよな?」 『はい、これから向かう所です! タイミング良くて助かりました 天界なら電話は繋がりませんからね』 「天界に閻魔と逝くなら、ガブリエルを連れて還って来てくれ!」 康太は詳細を話して、ガブリエルの有用性を訴えた 主命の司命は『御意、何としてでもガブリエルをお連れ致します!』と謂い電話を切ると魔界へ向けて姿を消した 電話を切ると康太は「これでガブリエルは確保だな」と呟いた 弥勒は「トナミの屋上に結界は張っておいたが、こんな小賢しい事をする奴が相手だからな‥‥効力が何時まで続くか不安は残るわな」とボヤいた 康太は果てを視て 「そろそろ大規模な結界が必要になって来たって事か‥‥‥‥原始の書が必要な状況になって来てる感じがしてならねぇな」 「原始の書?それは地球(ほし)を創った時に用いた書の事を謂ってるのか?」 「おっ!詳しいな」 「建御雷神と素戔男尊と今後の話をしに魔界に逝った時に原始の書の話が出たからな‥‥ でもその書って何処に在るのか? 誰が持っているのか? 手懸かりさえ解らぬモノらしくてな この地球(ほし)が出来る時には確かにあったらしいが、定かな話ではないらしくて‥お手上げだった‥ でもそれがあるなら結界の張り直しが出来る! そして何よりこの地球(ほし)の原始の力が甦るなれば、力は強まり結界だとて効力良く張れるかもな‥‥と話していた所だ‥‥」 「皇帝閻魔辺り持ってるかもな?」 康太はそう言い笑った 「皇帝閻魔には等の昔に聞いておる‥‥ 我が子しか解らぬであろうと謂われたばかりだ‥‥」 「なら我が子に聞いてみれば良いやんか」 「その我が子は素直な子じゃねぇからな、謂わねぇだろうし‥‥聞くだけ無駄だと建御雷神は謂っておった」 弥勒が笑って謂うと康太は 「今度蹴り飛ばしてやる!あの狸親父!」と怒って謂った 何にせよ問題は山積していた 春だと謂うのに‥‥花見も出来ず自粛ムードの中、子供達は入学を控えていた さながら春の嵐が倭の国を襲来しているかのように‥‥吹き荒れていた 戸浪は「黒い羽根が有ったと謂う事は‥‥会社の者達に影響はあるのですか?」と心配そうに問い掛けた 弥勒は「感受性の高い者ならば、影響は受けておるやも知れぬ‥‥ 今一度、社員の状態を調べられるとよい! もしや何かあったなら、我が出て手を打とうぞ!」と約束を口にした 戸浪は田代に「田代、直ちに社員の状態を調べて下さい!」と命令した 田代は他の秘書に状況を伝えて確かめに行かせた 康太は「取り敢えず今日は弥勒が結界を張ってくれたし、直ぐにどうにかなる訳じゃねぇし、還るとするわ! 若旦那、貴重な時間をありがとう!」と深々と頭を下げた 戸浪は「此方こそ‥‥本当にありがとうございました 今度食事のお時間を作って下さい! 久しぶりにゆっくりと過ごしたい想いはあります!」と次の約束を口にした 「力哉にスケジュールの調整して貰い連絡入れる様にするわ! んじゃ、社員に何かあったなら連絡をくれ!」 康太はそう言うと立ち上がった 戸浪は「また来て下さいね流生、烈」と二人に声をかけた 流生は「またきます!」とペコッとお辞儀をした 烈は戸浪に「またね!」と謂った 戸浪は烈の頭を撫で「気を付けて帰るのですよ」と言葉を投げ掛けた 烈は戸浪をじっと視た後に「きをちゅけにゃいとらめよ!」と謂った 「え?私ですか?」 戸浪は烈に謂われて不思議そうに問い掛けた 「さいちん ちゅかれてりゅでちょ? それ、ちごとのせいにしてにゃい? それちぎゃうきゃら!」 烈はふんふん!と鼻息荒く謂った 烈が謂うから、康太は戸浪を視た すると戸浪の姿に僅かに靄が掛かっていた 康太は「最近、心に虚無感を感じたのか?若旦那‥‥」と問い質した 戸浪は、あっ‥‥‥と表情を曇らせた 「何があった?」 戸浪は考え込んだ そして心に虚無感を感じた事と謂えば‥‥一つしかないと口を開いた 「‥‥‥戸浪は豪華客船も所有しております 昨今の新型の肺炎の影響で‥‥業績が落ち込み‥‥倒産も覚悟した程でした‥」 「あぁ、船内で爆発的な感染したからな‥‥ でもあの船は戸浪の船じゃねぇだろ?」 「ええ、戸浪の船は感染者を出してはおりません ですが、十把一絡げで豪華客船は危険とされ客足は遠退いております 今‥‥持っているだけで湯水の様な資金が出て逝く客船は会社の首を絞めている様なモノなのです 倒産する会社も出て来てます‥‥戸浪も時間の問題かも知れません‥‥」 何時になく弱気な戸浪だった それが戸浪の虚無感を深めたと謂う事なのだろう‥‥ 戸浪は康太には何も感じさせない様に装っていた だから踏み込むのは躊躇していたし、黒い羽根の影響やも知れない?と様子を視ようと想っていた だが烈は戸浪の異変を嗅ぎ取っていたのだろう 「んな状況なれば虚無感を深めたとしても、仕方ねぇわな‥‥」 康太は烈を視て 「宗右衛門か?」と尋ねた 烈はニャッと嗤った 宗右衛門なれば、人の些細な異変さえ見逃しはしないだろう 「宗右衛門なれば人の機微には目敏く見抜く力があるな」 人を視る“眼”を持つ者ならではの力だった 榊原は「豪華客船の事業所が倒産したケースもある今、他人事では済まされませんね‥‥」と戸浪が抱える現実を口にした 「どうするかな‥‥見極めねぇと取り返しがつかねぇ事態を招くな‥‥」 判断を間違えば‥‥取り返しがつかない事態となる 戸浪は「豪華客船の事業部は凍結するつもりです‥‥」と苦渋の決断を口にした 「竜宮湊は何と謂ってる? 海を知る者の声も吸い上げて決めても遅くはねぇと想う‥まぁ何にせよ捨ててはおけねぇから近い内に決断を下さねぇとならねぇのが現実だな」 「社員には聞いてはおりません‥‥ この経営状況では‥‥決断は上の者の責任として取らねばなりませんから‥‥」 「もっと早い段階で聞くべきだったんだ‥‥ 海を知る者の助言は先を見通す助言だと想うべきだった‥‥‥ 竜宮家は海に産まれ海に生きる一族だ 誰よりも状況を把握出来る一族だからな 明日にでも竜宮湊を呼んでくれ! 今後の対策を考えねぇとならねぇからな‥‥」 「今からお呼び致しましょうか?」 「今日は子供も来ているからな‥‥あまり子供の前で話してぇ話じゃねぇからな‥‥」 康太が謂うと戸浪は「あっ‥‥‥」と息を飲み込んだ 自分の事しか考えていなかった‥‥‥ 毎日追い詰められる現状に康太に助けを求めていた だが会社の社長である自分がブレてはならぬ!と自分を律して装っていた だが心の何処かで‥‥‥助けを求めていたのだろう‥‥‥ 康太は戸浪に「此れからオレの謂う事を調べておいてくれ! 一つ、トナミの経済状況 一つ、豪華客船を所持するリスク 一つ、海の一族の情報 それらを精査して今後の対策を打たねぇとならねぇ! 明日、竜宮湊を呼んでおいてくれ! オレはその時、不動稜を連れて逝くからな!」 「あの、不動稜と申される方は?」 「経営コンサルタントだ! 不動に今の現状を打開する策を授けさせる」 「うちにも経営コンサルタントはおりますか?」 「不動稜は建て直し屋の威名を持つコンサルタントだ! 普通のコンサルタントでは埒はあかねぇからな!」 建て直し屋の威名を持つコンサルタント‥‥‥なればこの窮地も打開してくれるやも‥‥ 戸浪は淡い期待を抱いた 康太は胸ポケットから携帯を取り出すと電話を掛けた ワンコールで相手が出ると 「不動 稜の携帯で間違いないか?」と問い掛けた 「はい。何方ですか?」 「オレは飛鳥井家真贋 飛鳥井康太だ!」と名乗った 相手は息を飲み‥‥ 『真贋、どうされました?』と問い掛けた 「不動、おめぇの力を貸して欲しいんだ? 今は忙しいだろうけど、力を貸してくれねぇか?」 『真贋のお頼みでしたら俺は何を差し置いても聞くと決めております! で、俺は何をしたら宜しいのですか?』 「トナミ海運に明日の朝イチで来てくれねぇか? 受け付けには『不動稜』が来たら社長室に通す様に指示は出しておくから朝イチで来て欲しいんだが?」 『解りました!朝の8時に其方へお伺い致します!』 「助かるよ、この礼は倍で返してやるかんな!』 それはそれで畏れ多い‥‥‥と不動は想った 飛鳥井家真贋の齎す礼は何時だって倍返しで、物凄い効果を齎す 最近は、不動陵は飛鳥井家真贋の駒とカウントされているのか?無理難題吹っ掛けて来る愚かな輩はいなくなっていた その代わり‥‥失敗出来ない仕事ばかりが増え‥‥ 不動稜の名を知らしめていた 『もう十分、貴方には戴いております』 「まだまだ不動、乱世の世に繰り出した以上は、こんな所で足を止めるんじゃねぇぞ!」 康太はそう言い嗤った 『止めませんよ! 貴方が逝けと謂うのなら何処へでも逝きますとも!』 不動はそう言い苦笑した 「なら明日の朝、お願いします!」 『承知致しました!』 康太は不動の返答を貰い電話を切った 「経営コンサルタントの今後の見通しを聞いた後に、戦略を立てると謂う事で良いか?若旦那」 「はい、宜しく御願い致します」 戸浪は深々と頭を下げた 「なら受け付けには不動稜の名を通して足止めしねぇように頼むな!」 「承知しました! 田代、受け付けに伝令を!」 「はっ!後程!」 田代はスケジュールの調整に入った 烈は「みりょく、しんえんにょふういんちて!」と弥勒に戸浪を封印しろと謂った 弥勒は「人使い洗いな宗右衛門!」とボヤいた 確かに、深淵が深くなると深層意識にも影響が出るだろう それを見極めて深淵に封印しろと謂う事なのか? 弥勒は幼子の癖に侮れない堅実さに、烈のおでこにデコピンした デコピンされた烈は「いたいにょー」とおでこを押さえた そうしてれば子供だった 何処にでもいる子供だった やはり康太の子は侮れない 康太は「弥勒‥‥烈を苛めるな」とボヤいた 弥勒は笑って戸浪の額に封印の印字を斬った 「取り敢えずこれで明日までは大丈夫だろう」 弥勒が謂うと康太は戸浪に向き直った 「今日はこれで還る 明日朝イチで来るから心配するな!」と声をかけた 戸浪は深々と頭を下げて「ありがとうございました」と礼を述べた 弥勒は姿を消して、康太は榊原と子供達と共に社長室を後にした 田代はエレベーターの所までお見送りに行った 「今日は本当にありがとう感謝します!」 田代は礼を述べた 康太は田代に「オレは様子を視ようと想っていた、それ程に若旦那は頑なな装いをしていたからな‥‥‥だがその隙を突き真実を視たのは烈だ 烈が何もしなきゃオレは対策を練る事もなかった」と真実を告げた 田代は「烈は瑛太に酷似した顔をして‥‥末恐ろしい奴ですね」と笑った 「烈は宗右衛門と謂う力持ちの転生だかんな 真矢さんは始祖返りをオレに託してくれた事になる 烈の人を視る眼は、今後も戸浪でも役に立つだろう! 大切にしてやってくれ!」 「解ってます! 貴方の子はどの子も大切にします! どの子も戸浪には切っても切れぬ存在ですからね!」 田代は笑ってそう言った 康太は田代の肩を叩くと、エレベーターに乗り込んだ 流生は康太に抱き着いて、振り返ろうとはしなかった そんな流生を抱き上げて副社長室から見ている亜沙美に見える様にした 「バイバイ言え流生」 「かあさん‥‥」 「少しだけ大切にするならば、別れはちゃんと言え!」 それが礼儀だと康太は謂った 流生は亜沙美の方に振り向くと手を振った バイバイと手を振り亜沙美に別れを告げた エレベーターのドアが閉まると流生は泣き出した 「りゅーちゃ‥‥かぁちゃのこよ?とぅちゃのこよ?」 「あたりめぇの事を謂うな! おめぇはオレの子だ!伊織の子だ! オレ達の自慢の息子だろ?流生」 流生は何度も何度も頷いた 何も変わらない 例え本当の親が解ったとしても‥‥‥ 何一つ変わりはしない それが飛鳥井の礎に生きる者達の死命なのだから‥‥‥ 流生は母の腕から下りると、烈と手を繋いだ 「れつ」 「にーにー!」 二人は本当に仲の良い兄弟だった 烈は戸浪に流生の“血”を感じて、自分の出来る精一杯で視ていた だからこそ戸浪の異変に気付けたのかも知れない 大好きな大好きな兄の為に、烈だって何かしたかったのだ 一階まで下りて受け付け嬢に「ありがとう」と言い通り過ぎる 流生と烈は受け付け嬢に手を振り愛想を振り撒いていた 駐車場に出ると康太は携帯を取り出した 「一生?オレだ」 『康太、準備は万端だ! 榊原の家族も久し振りに御一緒したいとの事で一緒にいる!』 「大丈夫なのか?」 何処に潜伏してるか解らない病原菌なのだ 『京香と明日菜の所の子は小さいからな、来るのを止めて貰ったが、他は来たいと謂っている』 「皆が良ければオレは嬉しいだけだと謂っといてくれ! そしてお留守番の明日菜と京香には持ち帰りを頼むな!」 『了解!んじゃ予約者一組限定の料亭 紫都の里の地図を送るかんな!』 「紫都の里?初めて聞く店だな」 『正義さんにこの前聞いた料亭だ! 今は開店休業状態で、やっていても1日一組限定にしているそうで、今日は誰も入ってないから大丈夫との事だ』 「解った!これから向かうわ!」 康太は電話を切ると、一生から送られた番地をナビに打ち込んだ 榊原はナビの案内に従って車を走らせた 「伊織、何か春の嵐が来そうだな‥‥」 「ですね、桜を散らす勢いの嵐ですからね‥‥‥帰りは花見をして帰りましょうか?」 榊原が真剣に謂うから康太は笑った 「だな、流石オレの夫は的確な事を謂う!」 「君の夫ですからね!」 榊原は嬉しそうに笑い、車を走らせた 料亭の駐車場に着くと一生と慎一が出迎えてくれた 慎一は「烈は大丈夫なのですか?」と問い掛けた 「あー、大丈夫だ! 明日は戸浪に逝く事になった だからお前達は花菱に出向いて様子を伺って来てくれ!」 「承知しました!」 慎一が答えると、一生が 「花菱はまだ何かあるのか?」と問い掛けた 「念の為だ、羽根が引き抜かれたと知ったら何か仕掛けて来るかも知れねぇからな」 あぁ、成る程、一生は納得した 榊原は「それより今は皆を呼んだのですから、楽しまないと、でしょ?」と現実に引き戻した 康太は流生と烈と手を繋ぎ、料亭の中へと入って行った 一生は榊原に「烈は大丈夫なのかよ?」と問い掛けた 榊原はトナミで戸浪の体調の悪さに気付いて手を打ったのは烈だと話した 一生は「烈‥‥深淵に囚われてたんだろ?俺はその後の精神状態が気になっていたんだがな‥‥‥」と呟いた 烈はこの春やっと幼稚舎に入園の年なのだ 「彼は‥‥‥宗右衛門ですからね 人を視るのが定め‥‥彼の眼は明日の飛鳥井の為にだけ使われるのです‥‥仕方ありません」 「トナミは飛鳥井には切っても切れないと判断したと謂う事か?」 「なのでしょうね‥‥康太を動かした時点で先に繋がりましたから‥‥」 「烈はやっと幼稚舎なのにな‥‥」 烈の背負う荷物も過酷で‥‥一生は言葉をなくした 「さぁ僕達も行きますよ!」 足が止まった一生を急かして、榊原は家族の元へと向かった 部屋に案内されて逝くと、大きな部屋に通された 家族達は少し席を離して座っていた 真矢は「解ってはいるのですが‥‥こんなに席を離してでないとダメだなんて‥‥何か寂しいですね‥‥」としんみり呟いた 玲香は「今はな仕方あるまい! 感染すれば濃厚接触者と名指しされてしまうからな! 我は濃厚接触者なるモノは不埒な輩だと最近まで想っておったぞ! ムフフな事をして感染したのだと思っておったのじゃ!」と笑って湿気を吹き飛ばした 康太もそれに乗って 「おっ!母ちゃん、オレも濃厚接触者って濃い事を犯りまくりのハメまくりのだと想っていたぜ!」と謂いガハハっと笑った 榊原は「僕が掛かれば本当の濃厚接触者が康太です!」と嬉しそうに謂った 真矢は腹を抱えて笑った 笙も瑛太も清隆も清四郎も笑っていた 料亭の用意した席は隣と隣との距離を鑑みて、離してあった だがその席に座りアルコールで手を消毒してから、料理を食べ始めた そしてお酒で喉を潤し楽しい時間を過ごす 少しだけ距離と不便があるけど、皆でいられれば楽しい時間となった 真矢は久し振りに逢う孫達が可愛いマスクをしていたのが気になり 「子供達のマスクは何処で手に入れたのですか?」と尋ねた 何処で買えばそんなに可愛いモノが買えるのか? 康太が「それは伊織が作ってるんだよ!」と答えた 慎一が「マスクの中にフィルターは入れてあるので、布マスクでも効果はあると想います 昨今の現状ではマスクは手に入らないですからね‥‥」とボヤいた 皆はマスク事情にうんうん!と共感して頷いた 玲香は「我も伊織に頼んで作って貰ったのじゃ!」と手作りのマスクを真矢に見せた 瑛太は「マスクの中に入れるフィルターを買って布マスクの併用をしてます! でなくばマスクの確保は皆無に等しいですからね‥‥」とマスク不足を嘆いて口にした 真矢は「好きな布で作れるから良いわね!それ!」と感心して謂った 榊原は「作りますよ」と母に謂った 「なら布とガーゼを持って逝くわね! 清四郎、貴方も好きな柄を考えておきなさい」 ウキウキ謂う真矢に一生は 「義母さん、今、生地を手に入れるのは結構至難の技だったりしますよ?」と現実を知らせた 「え?生地よ?ないの?」 「ええ、ユザワヤのガーゼ生地はほぼ売り切れ状態で、今は柄を選べないかも知れませんよ?」 「あらまぁ‥‥最近はお買い物に行っても棚がガラ空きですものね‥‥ レジでは一時間待ってやっとだしね‥‥本当に暮らしにくいわね あら嫌だ、愚痴謂うつもりなかったのに‥‥」 真矢が謂うと玲香は 「謝るでない、本当に我は日々、食料の確保に出掛けてくれる慎一が大変そうで‥‥ 頭が下がる想いをしておる!」 と買い物疲れを見せる慎一を心配して謂った 慎一は「大丈夫です皆の管理をするのも俺の務めですから!」と当然だと謂った 清四郎は「距離は気になりますが、それでも久しぶりの会食です!飲みましょう!」と楽しそうに謂った 後はもう楽しい時間に楽しい会話 お酒も進み 久し振りに皆で過ごせた時間を過ごした 夜も更けてお開きになり慎一は皆の夜食と明日菜と京香のお弁当を確保して料亭を後にした この日、清四郎と真矢、笙は飛鳥井に泊まった 楽しかった時間の余韻に浸る様に、源右衛門の部屋に泊まった 翌朝は早くから康太はキッチンにいた 一生は「トナミだろ?俺も一緒に逝くわ!」と謂った 「おー!頼むな!」 康太はガツガツ朝食を食べていた 「聡一郎が行く前から、良く見張ってろと煩かったからな‥‥目を離す事なく見張る事にする」 一生が謂うと康太は笑った 瑛太がキッチンに来ると康太がいて、瑛太は 「早いですね?」と問い掛けた 「今日はトナミに逝くかんな!」 「トナミ?何かありましたか?」 「昨今の風評被害にあっててな厳しい状況に追い込まれていたんだよ 手を打つ為に出向くつもりだ!」 「‥‥‥そうでしたか‥‥飛鳥井で力になれる事がありましたら連絡して下さい!」 「瑛兄ありがとう」 「気を付けて逝くのですよ」 「おー!瑛兄も手洗いうがい忘れんなよ!」 「解ってます!会社のトップが新型肺炎を出したら‥‥それは怖すぎる事態となりますからね‥‥」 「現場の奴等にも徹底させねぇとな‥‥」 「ええ、気を付けさせないとなりませんね」 でも今の若い子は、自分は大丈夫だと根拠のない安心感を口にして‥‥危機感はあまり抱いていない 年寄りが掛かる病気だと謂われてる事も多い‥‥ 頭の痛い現実だった 瑛太は「近いうちに総理が緊急事態宣言をするとの話です‥‥わが社も出勤について真贋の意見を聞かねばと想っていた所です 休業にするなれば‥‥‥給料をどうするか? 先の事を話し合わねばならぬのは、わが社だとて変わりません」 「おー!それな、トナミの帰りにでも寄るわ 電話したら各部署のトップを呼び出してくれ! そしたら調整に入らねぇとな‥‥」 「了解しました! では、気を付けて逝かれます様に!」 「おー!大変な事態に突入したけど、飛鳥井はまだ感染者を出してねぇからな‥‥早急の対策を練らねぇとと想っていた所だ」 瑛太は頷いた 会社のトップが敏速に対処せねば、下に続く者達の混乱へと繋がるからだ 康太は朝食を終えるとスーツに着替えて榊原と共に応接間へと向かった 支度を終えた一生と慎一がスーツを着て応接間へと向かうと、康太と榊原は既にソファーに座っていた 榊原と康太は二人が来たのを確認すると立ち上がった そして地下駐車場に向かい榊原の車に乗り込んだ 8時になる10分前にトナミ海運の駐車場に到着すると車から下りた 不動 稜は少し前に到着して康太の到着を駐車場で待っていた 康太が車から下りると近付き 「真贋、おはようございます」と声をかけた 「不動、おはよう! 今日は頼むな!」 「はい、俺の精一杯で対処させて戴きます!」 不動は頭を下げ誓うように口にした 不動と合流して会社の中へと向かう トナミ海運の正面玄関には社員が整列して康太達と不動を待っていた 康太達と不動の姿を見ると、社員達は深々と頭を下げた 康太は社員達に「おはよう!厳しい局面が続くが皆で協力して乗り切ろうぜ!」と発破を掛けた 社員達は【はい!宜しくお願いします!】と声を揃えて謂い康太達を迎え入れた 不動は此処まで統制が取れてる社員達と謂うのを目にする事は滅多とないと感じた 社長に謂われた訳でなく、会社の局面に飛鳥井家真贋が来ると耳にして、社員は整列して出迎えたのだ その光景にトナミの社員と飛鳥井家真贋との繋がりを感じていた 康太が社内に入ると、社内でも社員達が整列していた 秘書の田代が「真贋、今日はお願いします」と声を掛けた そして康太の横に立っている不動に目をやると 「君が不動君ですね! 私は社長の秘書をしております田代と申します!今日は宜しくお願いします」 と深々と頭を下げた 不動は「不動 稜です!宜しくお願いします」と挨拶をした 「では御一緒にお願いします」 田代は開けたまま止めてあるエレベーターに康太達を乗せた 不動は田代を見ていた 何処か見覚えのある顔に桜林の鉄壁の三銃士の一人である事を思い出した 隙のない出来る秘書然とした姿に隙が出来るのは康太と話している時だけだった 田代は「瑛太は元気ですか?」と康太に問い掛けた 「瑛兄は近々出されるであろう緊急事態宣言後の事態をどう乗り切るか‥‥で、胃潰瘍寸前だ」 「あぁ、やはり‥‥何時発動されるか噂ばかり先行していますからね」 「補償の問題とかあるからな‥‥頭が痛い問題となる」 「絶対の存在がいるのに、瑛太は頭を痛めていますか?」 「オレの助言も聞けねぇ事も出て来る‥‥ 社員の生活と補償を天秤にかけねぇとならねぇからな‥‥」 田代は‥‥それは辛い立場だな瑛太は‥‥と、友の苦悩を想った エレベーターは最上階に到着して、康太達はエレベーターを下りた 康太達は社長室ではなく、会議室に通された 会議室には戸浪を始めとする役員や役職者が席に着いていた 康太は戸浪の横に座った 田代は会議室中央の席に不動を招き 「此方の席にお願いします」と椅子を引いた 不動は案内された席に座ると 「資料をお願いします」と口にした 田代は康太に謂われた通りの資料を不動に渡した 田代は康太の帰った後に謂われた通りの書類を作成する為に奔走した 一つ、トナミの経済状況 一つ、豪華客船を所持するリスク 一つ、海の一族の情報 海の一族の情報は本人から聞いた方が早いだろうと、竜宮 湊が会議の席に座っていた 康太は「これよりトナミ海運の今後を決める会議を開きたいと想う! 竜宮湊、海の一族の声を会議を開く前に聞かせてくれ!」と問い掛けた 竜宮湊は立ち上がると 「新型肺炎の噂は年を越す前からちらほら出ていました 海を越えたら早いだろうと‥‥それが我ら一族の見解でした 我等は世界中の海に棲む生物の声を聞きます 世界の情勢は陸を逝く者達よりも早く通ります! あの病気は生きてる総てに蔓延する それは人と区別する事なく蔓延する‥‥‥ だからわが社は海図を流行するであろう国から避けて通って来ました ですが今はもう無理です‥‥‥蔓延してしまったら船は逃げ場のない場所となりますから‥‥」 とそう告げた 戸浪は初めて竜宮湊の意見を聞き‥‥ もっと海の一族の声を聞いておくべきだった‥‥と後悔した 不動は一心不乱に試算報告に目を通し、今後の対策を練り上げて逝く 不動は「少し良いですか?」と書類から顔を上げて問い掛けた 戸浪は「はい、どうぞ!」と不動の意見を聞く構えをした 「今後、トナミ海運として豪華客船は継続する予定なのですか?」 やはり質問はそこに来るか‥‥と戸浪は息を飲んだ 「継続出来る状況でしたら‥‥今後も継続を希望したいのですが‥‥今の現状、切り捨てねば共倒れになる‥‥それが現在入っている経営コンサルタントの意見でした」 「私は継続出来るのであれば、豪華客船は手離すべきではないと想います 手離せば、今後は今までの様に戻れる可能性は、皆無となるでしょう‥‥ 新規の業者が参入してどうこうなる世界ではない! ですがこの現状では持っているだけで首を絞めている状態‥‥なのは確かですね」 不動は的確な所を突いて来た 不動は「真贋、援助の手を差し出して貰える可能性は御座いますか?」と康太に話をふった 「援助の手ってどこら辺を差してるのよ? 経済的な援助をしろって事か?」 「違います! 飛鳥井だとして、この未曾有のウィルスとの闘いで磨耗して消耗して逝くでしょうから、経済的な援助は皆無に等しいでしょう なので、今、豪華客船を避難させて置くべき場所の提供をお願い出来たらと想っています」 豪華客船の管理と保存 海の上に在る船は手入れを怠れば、錆びて海の藻屑になるしかない 康太は考え込み‥‥‥PCをテーブルに出すと物凄い勢いでキーボードを打ち始めた そして何処かに電話を掛け始めた 何語か解らぬ言葉でやり取りをする 不動はその言葉が何とかドイツ語だと理解は出来た 「トナミは豪華客船は何隻持っているんだよ?」 康太の問いに田代は「豪華客船は二隻、フェリーが三隻持っております 貨物はそれぞれの国に船を持ち各支部から船を動かしています それがおおよそ500近くあります」 と答えた 「貨物は各国動いてるんだよな?」 「はい!どの国の貨物も動いています」 「フェリーはどうするよ?」 「今は‥‥乗船される全てのお客様を対象に乗船前の体温検査を実施させていただき、マスク着用にして何とか動かしています」 「フェリーは動いてるなら本当に豪華客船がネックなんだな‥‥」 そう呟く間もPCのキーボードは物凄い早さで操作されていた 「若旦那、ローゼンベルク家って知ってるか?」 戸浪は言葉を失った ドイツの海運王ローゼンベルク家を、海に携わる者で知らぬ者はいないであろう‥‥ それ程に名を知らしめている一族が経営する会社だった 「トナミの客船はローゼングルク家が預かり管理してくれるそうだ! 船は海に出てなんぼだ 寝かせておけば錆びが来くるからな だからトナミに変わって預かってくれる間動かしてメンテナンスをしてくれるそうだ! そして設計を見直して作り直してくれるそうだ! その間の金は取らないとの事だから、これで首を絞める存在はなくなったと想ってくれ! 明日、ローゼンベルク家の者が船を引き取りに来てくれるそうだ」 康太が謂うと戸浪は「‥‥‥ローゼングルク家‥‥海運王にあらせられますか?」と、信じられない想いで口にした 不動は「ならば客船の試算は入れずにおけば宜しいのですか?」と問い掛けた 「あぁ、今、掛かってる分は支払わねぇとならねぇけど、明日からの支払いはないと考えてくれ!」 不動は物凄い勢いで電卓を叩き始めた 「戸浪は緊急事態宣言後の出勤、その後の給料補填については、どの様なお考えなのですか?」 不動は会社を存続させるに必要な経費と、社員達の給料等の算出に取りかかった 「固定給の保証はせねばと想っています‥‥」 「解雇はなさらないと?」 「‥‥‥‥今まで働いてくれた方々ですので‥‥」 「私の知る経営経営アナリストは、ある会社に社員全員のリストラを提案したそうです 緊急事態宣言後の会社の経営と社員の給料のバランスを鑑みて、その採択を推奨したそうです まぁ実行するか取り止めるかは会社のトップの判断に委ねられましたが‥‥これより悪化の一途を辿るのなら決断を下されるてましょう 解雇すれば失業保険も受け取れるし、会社としても社員の方々にとっても最善策かと提案したそうです‥‥ 私も会社が生き残りを図るなら‥‥厳しい決断も必要かと想います 船が沈みかかったとしたら、重い荷物は捨てねば運航は出来ない‥‥最悪の事態も想定した上で、社員の方々の意見も聞かれるとよいと想います」 不動の謂う事は間違ってはいない 昔の自分なれば間違いなく重い荷物なれば切り捨てたであろう 「最悪の事態ならば常に考えおります! ただ企業は人の上に立つと、我が心の師は仰有いました ですから支えてくれる社員がいてくれるなれば、私は最後の最後まで悪足掻きし続けます!」 戸浪はキッパリ言い切った 不動は戸浪の姿勢に拍手を送った 「失礼を!私は戸浪海里と言う御仁は野心家であり、無駄を嫌うお方だとお聞きしていたので‥‥試す様な事を申しました 会社を護る為なれば無策に目の前の社員だって切る社長と謂う愚かな人間を沢山見て参りました 社長と社員が一丸となって乗り越えようとする会社は強い! ですが人を切り捨ててばかりいる会社は、有能な人材だとて流出してしまいます‥‥ 人を取るか、材を取るか‥‥‥‥会社のトップに立つ者は間違いなき選択をせねばなりません ですので会社の上に立つ人を見て、我らコンサルタントは手腕を奮わねばなりません! 戸浪社長、貴方のお望みのまま今後の方針を進めて逝きたいと想います」 不動はそう言うと試算を開始した 会社と謂う屋台骨を強化して、どんなハリケーンが会社を襲ったとしてもグラつかない確かな骨組みを作り補強する それがコンサルタントだと不動は想っていた 康太は携帯を取り出すと電話を掛けた 「オレだけど?雅祥?」 『康太、どうしました?』 「赤蠍商事は未曾有の事態をどうやり過ごしているか聞きたくてな‥‥」 『大打撃ですよ‥‥うちがこんなに大打撃受けてるのでトナミ辺りはかなり苦しい現状なのでは?』 「すげぇな雅祥! あんでオレの謂いたい事が解った?」 『時を同じくして海運と輸出入と荷物に関わる我等は動かなくなるのが一番のダメージですからね! また会長と話してましたが、トナミは客船も保持している分、この時期には苦しくかなり厳しい現状を迎える事となるのではないか‥‥と仰有ってたので‥‥タイミングが良すぎです真贋』 「やっぱ貴正は侮れねぇな‥‥まさにオレはトナミに来ていて、お前の息子を駆り出して今後の方針を決めている所だ!」 『稜が‥‥其方に?』 「おー!来てるぜ!変わるか?」 『はい!お願い致します』 雅祥が謂うと康太は携帯を不動に放り投げた 不動は携帯を受けてると電話に出た 「お電話変わりました」 『稜、ですか?』 「はい。」 『元気にしてますか?』 雅祥は最近忙しくて不動の近くのマンションに越して来たと謂うのに、連絡が着かなかった 「ええ。元気にしてます」 『真贋からの依頼ですか?』 「はい。」 『真贋の御側にいるのなら、役に立ちなさい! でなくば‥‥我等‥‥赤蠍商事を敵に回す事になると想いなさい!』 この父は‥‥本当に変わらない 不動はクスッと笑った 「真贋のお役に立つ為に俺はトナミ海運に来ています! ですので赤蠍商事と謂うよりも、父さん‥‥貴方を敵に回すのは‥‥勘弁して戴きたい‥‥」 雅祥は笑った 『稜‥‥康太を頼みます‥‥』 「俺はその為にいる! 安心してくれ親父!」 不動は携帯を康太に返した 康太は「雅祥、トナミの客船はローゼンベルク家に預かって貰う事にした」と伝えた 『ローゼンベルク‥‥あのケチ親父、ただでは動きませんよね?』 雅祥の言い種に康太は笑った 「まぁな‥‥吹っ掛けられたのは確かだな」 『会長に謂っておきます! ローゼンベルクのケチが康太に吹っ掛けてると!』 康太は笑って「それは良いな!んじゃまた電話するわ!」と謂い電話を切った 康太は榊原を見て 「荷物を動かす業種は結構厳しい現状があるな!」と言葉にした 「飛鳥井だって他人事ではありませんよ?」 「だよな‥‥で、不動、どうよ? 試算と今後の方針は出たかよ?」 「今後、緊急事態宣言が出された後、役員や役職の着いた者達の給料を10%カットした後、社員達の基本給を確保する 飛鳥井もそうですけど、トナミもテレワークが難しい職種なのでなるべく密室を避けて感染しない様に今一度、専門家の講習を持たれてはどうですか?」 戸浪は不動の案に賛成した 「専門家の方には私が頼んでおくので、来週頭にでも講習を開きます そして感染リスクを自覚を持って防いで貰わねば会社は本当にストップしてしまいます 即ち、そこで収入は途絶えると謂う事です 感染者を出せば役職の給料をカットしたとしても追い付かない現状がある事を叩き込まねばなりません!」 トナミが生き残る手段 役職のある者たちは、今後の方針を不動の協力の元、試行錯誤しながら乗り越えようと必死だった 春の嵐が吹き荒れ 人の世を混乱の渦に巻き込む 生き残る覚悟を問われる春となった
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