15 / 56

第15話 入学式

ヒラヒラ ヒラヒラ 桜の花びらが散る ヒラヒラ ヒラヒラ 桜は舞い上がり風に散った 今日は飛鳥井康太と榊原伊織の子供の初等科の入学式だった 新型肺炎の影響で父兄の出席は一組限定とされた しかも入学式は外(グランド)でマスク着用で行われる事となった 飛鳥井の家族も榊原の家族も孫の入学式を楽しみにしていたのに‥‥‥ 出席できずに残念がっていた 飛鳥井建設は今、現場の人間だけ稼働させ必要最低限の人員で動いていた シフトを作り、会社に来て業務をする様に社員を振り分けた 飛鳥井建設は家に仕事を持ち帰るのは禁止としている 漏洩を防ぐ為に徹底してやるしかなかった だから昨今推奨するテレワークなるものを導入しても‥‥仕事は回らなかった 建築と謂うモノを造る会社の特殊性がネックになった事案となった 今だって飛鳥井を陥れたい者たちは天蚕糸ね引いて待ち受けている だから家に仕事を持ち帰る方がリスクは高いと真贋が踏んで、少数精鋭で仕事をしていた 三密にならぬ様に換気して、人を減らす それでも危ない綱渡りをしている様なモノだった 現場の人間は工事をストップさせる訳にもいかなくて‥‥稼働させるしかなかった そんな中で迎えた入学式だった 会社の入社式も子供達と同じで簡素化されネットで行われた こんな御時世に集まる事が‥‥リスク判断となるからだ そんな中、緊急事態宣言が発動された 瑛太は‥‥胃潰瘍寸前で倒れた 清隆だとて疲労困憊で何時ぶっ倒れてもおかしくない状態だった そんな極限状態の家族にとって流生達の入学式は喜ぶべき事だった 入学式には行けずとも玲香は「今宵は祝おうぞ!」と喜びを噛み締めて送り出した 真矢も「入学式に逝けないのは残念だけど、今夜はお祝いしましょうね!」と飛鳥井に来て孫を送り出していた そんな家族に見送られ、康太と榊原は入学式へと向かった その翌日は烈の入園式も控えていた 子供達は桜林学園の制服を身に付けていた 外に出ると兵藤が「おっ!今日は入学式か?」と声をかけて来た 流生は「ひょうどうきゅん!」と抱き着いた 音弥も太陽も大空も兵藤に抱き着いた 翔は康太と手を繋いで笑っていた 「貴史、今夜はお祝いやるけど来るか?」 「行きてぇけど今夜は‥‥正義が鷹司緑翠に逢いたいと申したから連れて逝かねぇとならねぇんだよ」 榊原は鷹司緑翠の塾を卒業したが、後から入った兵藤はまだ緑翠の生徒だった 「そうか、なら時間が出来たら正義と共に来ると良い!」 「それよりもここ最近、お前の方が捕まらなかったじゃねぇかよ?」 「あぁ、烈が深淵に捕らえられたりトナミの経営危機に飛び回ったり‥‥忙しかったからな」 「そう言う時は俺を呼べ!」 「まぁ‥‥こんな時だからな‥‥気軽に呼びに行ける状態じゃねぇからな‥‥ この前家族で料亭に行った時だって、めちゃくそ間隔開けて飲まねぇとならなかった現状を目にしたらな‥‥」 「‥‥‥だな‥‥」 「じゃ、またな!貴史!」 康太は片手を上げてバイバイと手を振ると歩き出した 子供達の回りには康太と榊原しかいなかった 子供の入学式だと謂うのに‥‥両親しか逝けない現実に兵藤は刹那くなった 康太達を見送り兵藤は「逝きたかったろうな‥‥」と家族達を想い呟いた 子供達は二列に並び行儀良く歩いていた 入学した後、子供達の送り迎えは専用の運転手を着ける事にした 最初は手分けして送り迎えをする予定だったが、飛鳥井康太の子だと認識された今、かなりリスクを孕んで危険だと瑛太が踏んで運転手を手配した 子供達は入学式を迎えても、ゴールデンウィークまではお休みに突入する また当分家で過ごさねばならない状態は抜けていなかった 桜林学園 初等科の正門に向かうと佐野春彦が出迎えてくれた 佐野は康太と榊原に「御入学おめでとうございます!」と深々と頭を下げて祝いの言葉を述べた 「彦ちゃん久しぶり!」 「康太、逢いたかった‥‥ 今日は瑛太は元気か?」 「瑛兄は胃潰瘍で倒れて今は自宅療養中だ‥‥ 来たがっていたけど、そう言う訳にはいかねぇからな」 「え??瑛太が胃潰瘍?? 何時の事だ?俺は聞いてないぞ?」 「会社が結構大変な事態を迎えたからな‥‥ ストレスで胃潰瘍になってぶっ倒れたのが先週だ」 「‥‥‥桜林は金が掛かるからな 入学を取り止めた生徒も多発している 今年は過去最高に生徒が少ないかも知れない」 「未曾有の災害みてぇなモノだからな 篩いにかけられるとパラパラ溢れて落ちてくしかねぇからな‥‥」 佐野は言葉もなく康太を見ていた 瑛太が胃潰瘍で倒れたならば‥‥ 飛鳥井家真贋を背負ってる康太はかなりの現状を踏まえて動いているのだろう‥‥ 佐野は「御入学おめでとうございます!さぁ此方へ」と案内した 流生達は胸に入学色の花が着いたリボンをつけられていた そして案内されグラウンドまで行く グラウンドには生徒用の椅子と父兄用の椅子が並べられていた 流生達5人はA組の椅子に座らせられた 康太と榊原は父兄の席に座った 榊原は「‥‥僕達の事で子供達が虐められたりしないでしょうか?」と心配して口にした 自分達はどう逆立ちしても男同士だ 男同士の両親だなんて‥‥悪目立ちするだろう‥‥ 「伊織、子供達はそれを受け入れた オレ達は見守るしかねぇ‥‥ なら今後はお前は参列を止めるか?」 「それは嫌です! 僕は君と二人であの子達を育てると決めたのですから‥‥」 「なら謂うな‥‥」 「解ってるのですが‥‥せんない事を謂ってしまう 僕も年ですかね?」 「お前‥‥んな事を母ちゃんの前で謂ったら‥ 嫌味のオンパレードを聞く事になんぜ?」 「ですね、では止めときます」 榊原はそう言い笑った 父兄が集まって来ると、見目の良い榊原に視線は自然と集まっていた そしてその横にいる飛鳥井康太に目をやると‥‥ 蜘蛛の子を散らす様に避けた 御近づきにはなりない だがあの“眼”は驚異だ‥‥ あからさまに人々は康太を避ける 榊原はそれを知っているから毅然と康太の横に座っていた 修学館 桜林学園の理事長が壇上に上がると、長瀬匡哉が 「此より桜林学園 初等科の入学式を始めます」 とマイクに向かって話した 生徒は姿勢を正して前を向いた 理事長の神楽四季は姿勢を正すと 「御入学おめでとうございます!」と深々と頭を下げて謂った 「今日、この日より貴殿方は桜林学園の生徒となります! 桜林は古来から師範を育てる軍事学校として創始以来続く学園として生徒を育てて参りました! 今日、此より貴殿方は誇り高き桜林の生徒として自覚を持って学んで逝って下さい 今年は新型肺炎の影響で君達の入学式も簡素化せざるを得なくなりました そんな君達なので卒業式はどの学年よりも盛大に行って下さい 今は我慢の時なれど、日々の鍛練で見事な花を咲かせるであろう君達の成長を見届けるのはとても楽しみです ようこそ、桜林学園へ! 我等は君達を歓迎します!」 神楽は一歩下がると深々と頭を下げた そして壇上から下りた 長瀬は「続きましては新入生代表 飛鳥井翔の挨拶です」と新入生代表の名を呼び掛けた 翔は立ち上がると、学園長は壇上に立ち 翔は壇上下の用意されたマイクの前の立った 「きょうのよきひに、ぼくたちはおうりんがくえん しょとうかに にゅうがくいたしました! ぼくらはきょうから、おうりんのせととして、じかくをもち、ほこりをもち、ひびしょうじんしていくつもりです! せいとだいひょう あすかい かける!」 翔は読み上げるとペコッとお辞儀をした 学園長の神楽は微笑み 「力強い入学の挨拶ですね! おめでとう、本当に入学おめでとう 今日の良き日を家族全員で迎えたかった事でしょう ですが、新型肺炎と謂うウィルスが蔓延して、君達にも御家族にも‥‥残念な結果となってしまいました ですが、そんな屈強に立たされたとしても怯まない‥‥そんな君達の今後を私達教師は見守るつもりです 君達は入学したとしても、学校が始まるのはゴールデンウィーク過ぎてからとなります 本当に‥‥残念な事ですが‥‥元気に学校に通ってくれる日を楽しみに待っています! この後、君達は各クラスに移動して担任の先生の顔合わせをして下さい その後、入学式の集合写真を撮って、今日は終わりです」 学園長は今後のスケジュールを告げ、入学式を終えた 入学式を終えて、生徒はクラスへと移った 両親は外で子供達が出て来るのを待って、集合写真を撮る予定だった 神楽は入学式を終えると、康太の側へと近寄った 「康太、悠太が大学に編入すると書類が来ました 悠太の入学式には貴方が?」 「悠太は還って来たかんな、大学に編入してどうしても桜林を卒業したいと謂っている だが入学式は出れねぇと想う こんな状況だからな、免疫がまだそこまでない悠太は‥‥外出さえさせてねぇ」 「やはり‥‥そうですね 悠太が新型肺炎にかかったら大変ですからね」 「その代わり葛西も大学に戻ったからな 葛西を使えばええやんか!」 「葛西、そう言えば書類が上がって来てましたね でも彼、アメリカのかなり有名な大学を卒業したのでしょ?」 「それを謂うなら悠太も同じ大学の建築学科を卒業してるぜ?」 「なのに大学に入り直すのですか?」 神楽は不思議そうに謂った 「悠太が桜林学園 高等部を卒業出来なかったからな‥‥ 共に桜林を卒業すると謂う夢の為に入り直したんだよ!」 「そうでしたか‥‥悠太はもう大丈夫なのですか?」 「3年に渡る辛い治療に耐えて、やっと倭の国に還って来れたんだ! 大丈夫じゃなくてどうするよ? まぁ無理は出来ねぇし‥‥今なんて特に気を付けねぇとならねぇのは変わらねぇけどな‥‥ でもスタート地点にはやっとこさ立てたって訳だ!」 康太は嬉しそうに笑った 神楽は「良かったです‥‥」と安心した言葉を吐き出した 顔見せの終わった生徒達が担任の教師に連れられて外へ出て来た 一年A組の担任は長瀬匡哉だった 康太は「彦ちゃんじゃねぇのかよ?」と笑った 神楽は「佐野は高等部で目を光らせて貰わねばなりませんからね‥‥」と笑って謂った 「だな、やっぱ彦ちゃんが見張ってねぇとだろうな!」 「長瀬が名乗りを上げてくれたのです」 「‥‥‥え?長瀬が?」 「彼は君達の子を‥‥微力ながら護りたいと申してくれました なので担任に着けました 佐野と張れる位の教師は彼だけですからね!」 「‥‥‥長瀬には過酷な試練を下したのに‥‥オレの為に子を護ってくれると謂うのか‥‥」 「長瀬は納得してます! 彼は過酷だなんて想ってませんよ! 愛する妻さえ手離さなければ、彼はへこたれない男です!」 学園長だとて、長瀬の妻の惚気は聞かされていた 彼は何時何時でも妻を愛し、愛してると口にするのだった 康太は苦笑した 子供達と集合写真を撮って、入学式は終わりを告げた グランドで解散となる為、子供達は荷物を持って来ていた 担任の長瀬は受け持ちの生徒達に 「入学式は終わりました 君達は今日から桜林の生徒です こんな時期なので、登校はゴールデンウィークの後になりますが、それまでは元気で過ごして下さい! 学校は休みですが、オンライン授業はあるのでそれには参加して下さいね! それでは今日はこれで終わりです!」 と詳細を告げて入学式は終えた 翔が「せんせい!」と謂うとクラスの子は【さよなら!】と挨拶した 子供達は荷物を持って康太と榊原の所へとやって来た 入学式を終えて飛鳥井へと還る 康太の子は桜林学園 初等科に入学した 飛鳥井の家に還ると、家族が待ち構えていた 玲香は「お帰り、どうであった?」と声をかけた 康太は「無事終わりました!」と入学式を終えた事を告げた 真矢は「翔の生徒代表の言葉‥‥聞きたかったですね‥‥」と残念だけど言葉にした 瑛太は「お疲れ様でした」と窶れた顔で出迎えた 康太は「瑛兄、無理すんな!でねぇと久遠に入院させられるぞ!」と叱咤した 「寝てられませんからね‥‥それは嫌です 明日の飛鳥井を導くのは社長である私の責任ですから!」 「なら体調を整えろよ!瑛兄」 瑛太はグッとなった 痛い所を突いて来るのは昔から‥‥ 「解ってます‥‥だから小言は今日の良き日には辞て下さい」 「なら辞めておくよ! だが瑛兄、闘いはこれからだぜ?」 「知っています! 今回は‥‥本当に不本意でしたが、今度からは健康の管理もしてみますとも!」 榊原伊織が副社長の席に戻って来たのだ 負けてなんかいられない! 榊原は皆に「桜林の制服を着た我が子のお祝いの日ですよ?康太」と言い、子供達の制服姿を見せた 一頻り子供達の制服姿を堪能すると、子供達は着替えに向かった 康太と榊原も着替えに行った 途中、悠太と出会した 「おっ!悠太、体調はどうよ?」 「悪くはありませんよ康兄」 「今は変な病気も蔓延してるからな、本当に気を付けるんだぞ!」 「解ってます、外出も今は減らしてます」 「オレはもうお前に苦しい目に遭わせたくねぇんだよ‥‥ 辛い治療から戻ったお前をこれ以上苦しめるのは許せねぇからな‥‥気を付けてくれ!」 「解ってます」 悠太は今、源右衛門の部屋で寝泊まりしていた 自分の部屋は2階にあるが、まだ足を酷使しない方が良いだろうと源右衛門の部屋で過ごす事にしていた 一生が康太を呼びに来て悠太を見て 「悠太、あんまし人のいる所に出るな! 出るならマスクは忘れたらダメだぞ!」と世話を焼いた 「一生君、大丈夫だよ」 「誠一の所へ行くなら呼べよ 乗せて逝くからな!」 「ありがとう一生君」 「俺は本当は還って来たお前達の挙式を挙げてあげたかったんだ‥‥ あんな写真のままじゃ‥‥悲しいじゃねぇかよ! でもこんな時期だから‥‥出来ねぇけど、待ってろ!必ず挙げさせてやるからな!」 「一生君‥‥」 「悠太、応接間に逝くならマスクしろよ!」 マスクを取りに行き悠太に渡す 悠太が還って来てから一生は結構世話焼きさんになっていた 康太と榊原は着替えに向かった 一生は悠太を連れて応接間へと向かった 真矢は「悠ちゃん!元気でいた?」と悠太を見るなり飛び付いて抱き締めた 「はい!今は体調は悪くはないです」 「無理したらダメよ」 「はい!」 真矢は悠太が座るとショールを膝の上に掛けた 清四郎は自分の上着を悠太に掛けて 「寒くはないですか?」と問い掛けた 「大丈夫です」 悠太が答えると着替えを済ませた子供達が 「「「「「「ゆーちゃん!」」」」」」 と名を呼び飛び付いた 悠太は「入学おめでとう」と言葉にした 子供達は嬉しそうに悠太に抱き着いていた 聡一郎が応接間に顔を出すと 「皆さん、客間の方にお願いします」と呼びに来た 聡一郎は悠太を目にして 「大丈夫か?」と問い掛けた 「大丈夫だよ聡一郎君」 「ならお前は座ってろ!」 足の不自由な悠太を客間に連れて逝くと、聡一郎は適当な所に座らせた その横に子供達が座った 流生が正座してる悠太に 「あし、いたいたいよ!」と伸ばす様に謂った 謂われて足を伸ばすと音弥が撫で撫でしてくれた 太陽と大空も撫で撫でして、翔は真矢が掛けてくれたショールを真矢に返した そしてブランケットを掛けた 真矢は「おりこうさんね」と翔を撫でた 「ゆーちゃ さむくないですか?」 翔は悠太に問い掛けた 「大丈夫だよ?翔」 「ゆーちゃはむりするから‥ちゃんといってね」 翔が謂うと聡一郎は大爆笑した 「聡一郎君‥‥」 「翔、お前は本当に次代の真贋だよ! 良く解ってる奴だな!」 「そーちゃん、ぼたんかうの!」 聡一郎はラフな白いブラウスを着て、釦をかなり外していた 翔はそれを見て注意した 聡一郎は「翔は厳しいね!」と言い釦を嵌めた 翔は「ごめん‥‥」と聡一郎に謝った 「僕の方がごめんね翔 だから君が謝る事はないんだよ?」 翔は人に厳しい 自分にはもっと厳しい人間ならではの行動だった 「そーちゃん‥‥」 「今日は目出度い日なんだよ ささっ、笑って笑って!」 聡一郎はそう言い笑った 悠太もずっと幸せそうに笑っていた 康太と榊原が着替えて客間に来ると、子供達は大喜びした 細やかながらの料理を食し 細やかながらのお祝いをする 今日は子供達の入学式のお祝いだった 康太は「皆さん、美味しくお酒を飲んでいる所大変申し訳ないのですが‥‥明日は幼稚舎入園の烈のお祝いをします! またお集まり下さいます様にお願いします!」と言葉にした 真矢は「烈のお祝いもちゃんとやるのね」と意外だと口にした 「烈の入園のお祝いは別にします お兄ちゃん達のおこぼれみたいなお祝いはしないように気を付けてます 大変かと想いますが‥‥出来るならご出席下さい!」 康太の想いが嬉しかった 自分なら‥‥お兄ちゃんと入学が重なるなら‥‥面倒だから同時にやってしまう 今までそうして来てしまっていた‥‥ 真矢は「烈も幼稚舎入園ですか‥‥」としみじみと言葉にした 「はい!烈は嬉しくないみたいですが、幼稚舎入園です」 「え?嬉しくないの?烈は?」 「幼稚舎には兄達がいませんからね‥‥」 「あら‥‥‥そうね‥‥お兄ちゃん達は初等科ですものね」 「一緒が良いお年頃だからな」 「そうなのね」 「烈はんとに気難しい‥‥重っ‥‥」 母が自分の話をしていると、烈は康太の膝の上にドスンッと座った 「かぁーしゃん」 康太は烈を抱き締めて 「烈は不本意だけど、幼稚舎入園だぞ?」と謂った 「にーにー いにゃい」 「それは何度も謂ったろ?」 「ちかたにゃい!」 ふんふん!と鼻息も荒く烈が謂う 真矢は烈に手を伸ばすと、烈は真矢の膝の上に乗った 真矢は烈を撫でた 「よゐこね‥‥」 「ばーたん」 烈は真矢に甘えて抱き着いた 真矢は「なら明日は烈の入園のお祝いに来るわね!」と約束した 清四郎と笙も約束した 笙は「匠も幼稚舎入園なんで、明日はご一緒にお願いします」と声をかけた 「そうか、匠も入園か‥‥」 美智瑠は来年初等科に入学となる 瑛智と同い年だから、また烈は寂しくなるだろう‥‥ 「入園式には笙が出るのかよ?」 康太は問い掛けた 「明日菜も一緒に逝きます 結子は‥‥京香が見ててくれると謂うのでお言葉に甘えて一緒に行きます」 「そうか。なら明日はお祝いだな」 「良いのですか? 烈のお祝いなのに匠もご一緒して」 「構わねぇよ! 烈と匠の祝いになったとしても烈は別に何も謂わねぇよ!」 笙は安心した顔で「なら明日はお願いします」と謂った 明日菜は京香と仲良く話していた その手には‥‥元は一つのお腹に入っていた子が‥‥ 京香の腕には紬が抱かれいた 明日菜の腕には結子が抱かれていた 同じお腹に入っていた元は一つの子なのに、明日菜は京香よりも、早く出産し 数ヶ月遅れて京香は出産した 二人の子はまるで違う顔をしていた 明日菜は京香の子を見る 結子とは全く違う顔をしていた 京香に似た目鼻立ちで、瑛太に似た凛々しい眉をしていた 京香の子と謂っても誰も疑う事はないだろう‥‥ 明日菜の子は笙に似ていた 女の子は父親に似ると謂うが、全くその通りの子だった 笙はどちらかと謂うと真矢に似ている 烈は柚に近づくと撫で撫でした 「烈は優しい兄であるな」 と京香は嬉しそうだった 烈は嬉しそうに笑って明日菜を視た その瞳に明日菜はドキッとした 子供なのに‥‥人の真髄まで覗き見みされそうな瞳‥‥ 康太の瞳とは違う‥‥瞳に明日菜は戸惑っていた 烈は京香に抱き着くと、京香は烈を抱き締めた 一頻り京香に甘えると烈は、真矢の膝の上に座った 「烈、どうしました?」 「ばーたん ちゅき」 「まぁ、烈‥‥とても嬉しい事を謂ってくれるのね」 真矢は嬉しそうに笑っていた 真矢に甘える烈は明日菜の視線を感じていた 烈は顔をあげると明日菜を射抜いた 明日菜はその瞳に脅威を抱いた 美智瑠が母に抱き着くと耳元で 「かぁしゃん くらべりゅのらめらよ‥‥れちゅがゆるさにゃい‥‥」と伝えた 明日菜は頷き美智瑠を抱き締めた 康太の子はどの子も侮れない 知っていたのに比べてしまった‥‥ 明日菜は自分を悔いた 美智瑠は「かぁしゃん、わらってて‥‥」と願いを口にした 明日菜は我が子の願いを叶える為に笑った どの道、引き返す道などないのだ‥‥ 己の愚かさを振り払う様に笑っていた 真矢は烈の顔を無理矢理自分に向けて 「烈、熱いお茶よ!」と言いお茶を差し出した 烈は熱いお茶を受け取り、ズズッと飲み始めた 「ばーたん、ちゅごいね」 烈がどこを視ているのか知ってて、真矢は何も言わず烈を止めたのだ 真矢は何も謂わず笑った 楽しい宴は夜遅くまで続き‥‥ その日は客間で皆、潰れる様に眠りに着いた 翌朝、早く康太は子供部屋に向かった 榊原は何時もの掃除をして、洗濯の真っ最中だった 康太は烈をリビングまで連れ出し 「烈、明日菜をあんまり怒るな」と謂った 烈は子供の声ではなく 「悔やむのはよい だが己の所に生まれて来るであろう子と我が子を比べるのは筋が違う!」と威厳のある声で告げた! 「明日菜は柚と結子を比べて見ていたのか?」 「そうだ! どうしてこの子は私の子なのに顔がこんなにも違うのかしら?と比べておったからな、少しだけ本質を視ておった そしたら美智瑠が勘づいて動いただけじゃ!」 「‥‥‥明日菜‥‥我が子と柚を比べていたか‥‥ ならば全く違うと気付いたろうな‥‥」 「子を要らぬと申した時点で、子はあの者の手を離れた‥‥なのに比べるのは御門違いであろうて!」 「だな‥‥明日菜もお前の瞳を驚異に想っただろうからな‥‥もう愚かな事はしねぇだろ?」 「ならばよい! 些細な疑問が膨らむと人は暴挙に出る 闇が心に巣食えば‥‥あやつは狩らねばならぬ存在にしかならぬ!」 「宗右衛門‥‥そうさせねぇ為にオレがいる」 「なれば見張っておくがよい! 明日菜の心は危うい均衡を見せておった」 「了解した」 「なれば我は烈の中で眠ろうぞ!」 そう言い宗右衛門は気配を消した 烈は康太を見ると 「かぁしゃん はみぎゃき!」と謂った 康太は烈と手を繋ぎ子供部屋へと戻った 烈が部屋に戻ると翔が烈の世話を焼いた 歯を磨かせ、着替えさせる 翔はその着替えをカゴに入れると父の所へと持って行った 流生は康太に「れつ、なにかあったにょ?」と問い掛けた 「明日菜を視ていたからな、少しだけ話をした」 「やっぱり‥‥れつのひとみ‥‥こわかったもんね」 「大丈夫だ!お前達には向けたりはしねぇよ!」 「わかってるよ!かあさん れつは‥‥いいこだからね」 康太は流生を撫でた 慎一が来て康太に「早くご飯を食べねば烈の入園式に遅れますよ!」と呼びに来た 康太は子供達と共にキッチンに向かった 慎一は烈の制服を応接間へと持って逝くと、食事の準備をした 榊原が少し遅れてキッチンにやって来ると、食事を始めた 食事を終えると、康太は応接間へと向かい烈に制服を着せた 食事を終えた榊原は烈の制服をチェックして、その場を子供達に託して着替えに向かった スーツに着替えて来ると笙夫妻と匠が応接間に来ていた 美智瑠は京香の所へと行っていた 笙は烈を見ると深々と頭を下げ 「明日菜を‥‥許してやって下さい」と詫びた 烈は笙夫妻の方は向かず、母に抱き着き笑っていた 康太は「今朝、宗右衛門に事情は聞いた」と切り出した 明日菜は俯いて己を悔いていた 「比べるな明日菜! それが出来ぬのなら飛鳥井へは来る事は許さない!解るな明日菜?」 康太は敢えて辛辣な言葉を述べた 明日菜は「二度と比べたりはしません」と詫びた 康太は榊原に「榊原の家も黒い羽根を調べた方が良いかもな‥‥明日菜は気丈な女だ! その明日菜が危うい均衡を見せていたと謂うからな‥‥」と疑問を話した 「今宵辺りに司命がガブリエルを連れて来てくれませんかね? そしたら直ぐに解るのでがね‥‥」 「だな、取り敢えず入学式だかんな話は後だな」 「ですね、烈 トイレは大丈夫ですか?」 榊原は烈にトイレを促した 烈は「らいじょうぶ」と言い康太に抱き着いた 榊原は「では行きますか?」と言い立ち上がった 康太も烈を立たせると「うし!逝くとするか!」と謂って立ち上がった 笙夫妻も玄関へと出向き、共に歩いて桜林学園 幼稚舎へと向かう 烈は母と手を繋いでスキップしながら歩いていた 匠は笙と手を繋ぎ歩いていたが、緊張しているのか?動きはぎこちなかった 桜林学園 幼稚舎の正門には美代子先生が出迎えくれた 「ご入園おめでとうございます」 そう言い美代子先生は康太達に頭を下げた 「お子様は此方へ 父兄の方は校庭に出て席にお着き下さい」 そう言われ烈と匠は美代子先生に連れられて幼稚舎の中へ入って行った 康太と榊原は笙夫妻と共に校庭に向かった 笙は「初等科も校庭に出ての式だったのですか?」と問い掛けた 「あぁ、こんな御時世だかんな‥‥仕方ねぇけど、子供達は可哀想だなって想ったぜ」 「そうでしたか‥‥卒園式も縮小されていたのでしょ?本当に可哀想ですね‥‥」 「んとにな‥‥でも式が出切るだけマシだと想ってるぜオレは‥‥」 「ですね‥‥」 笙は言葉もなく呟いた 「此より桜林学園 幼稚舎の入園式を行います」 美代子先生が入園式の始まりを告げた 胸に入園式色のリボンを着けて貰った子供達が、一列に並んで入場して来た 烈は一番前で結構存在感を現して入場していた 匠は真ん中に隠れる様にして歩いていた やはり例年と比べると園児は減少していた 学園長の神楽四季が皆の前に立つと 「ご入園おめでとうございます 新型の肺炎が蔓延しているので、外での式となりました 感染のリスクがあるので仕方ない事ですが‥‥ 本当に今年度の園児は困難な時代を送らねばなりません ですがどうか逆境に負けず、楽しい日々を送って下さい そう言いつつも、君達が入園するのはゴールデンウィークの後となります どうか入園まで日々を気を付けながらお過ごし下さい! 桜林学園 幼稚舎に入園おめでとうございます」 神楽は深々と頭を下げ、入園の挨拶とした この後、組に一旦行き、担任の先生と顔見せした後に記念写真の撮影となる 父兄は校庭で園児を待つ事となった 笙は「烈は本当に凄いですね」と苦笑して謂った 康太は「匠は人見知りするけど、慣れればかなりの人気者になれるだろう」と匠の未来を少しだけ教えた 「だと謂いですが‥‥」 「笙、子供を比べるな! 烈は烈の、匠は匠の良い所がある 比べたりしたら、その子の良い所が見えねぇじゃねぇかよ?」 康太に謂われて笙はハッとした 美智瑠に比べて匠は内向的で大人しい 烈と比べても‥‥烈よりかなり行動力の差は出ていた 笙は己を反省して 「そうでしたね匠は匠ですからね」と言葉にした 康太は笑って「どう見ても烈は悪戯っ子になるだろうからな考えてもみろよ‥‥頭が痛い想いをするのはオレだろうが‥‥」と謂った 笙は笑って「それが烈ですからね、烈は君に似てやんちゃな子なんですよ」と答えた 「瑛兄の気持ちが何気に解るな」 笙も明日菜も笑っていた 烈が父と母を目掛けて走って来ると、それよりも早く匠が笙に抱き着いた 烈ははぁはぁ謂いながら康太に抱き着いた 「もぉらめ‥‥たきゅみ‥‥はやい」 「競争していたのかよ?」 「ちょう!れも‥‥かてにゃい」 残念そうに烈が謂うと康太は 「烈は烈の良い所がある そこで勝負したら勝てるかもな!」 「かぁしゃん‥‥」 康太は烈を撫でた 榊原は「今夜は烈と匠のお祝いですよ」と声をかけた 烈は笑って父に抱き着いた 記念写真の時間が来て、皆整列をした 「はい!チーズ」と掛け声がかかりパシャっとフラッシュが光った 何枚か撮影すると、入園式は終わった 式が終わると康太と榊原は笙夫妻と共に飛鳥井の家に帰宅した 子供達は両親を待ち構えていた 翔が「どうでした?れつ‥‥いいこできましたか?」と榊原に問い掛けた やんちゃな烈は少しも大人しくはしていないからだ‥‥ 榊原は笑って「大丈夫でしたよ」と伝えた 翔は「えらかったね、れつ」と誉めて頭を撫でた 烈は手洗いうがいに行くと、笙夫妻と匠も手洗いうがいをしに行った 榊原は「僕達も手洗いうがいをしに行きますか?」と問い掛けた 「おー!予防は最善策だかんな!」 「現場に出てる者にも徹底せねばなりませんね‥‥」 「と言うけど、現場の人間は仕事優先にしちまうからな‥‥‥ 子供達の入学も終えたし、会議に入らねぇとと想っている」 「ですね‥‥頭が痛い問題山積ですね‥‥」 「でも乗り越えねぇとな」 「ええ、力を合わせて乗り越えましょう!」 康太と榊原は慎一に子供達を預けて、手洗いうがいと着替えに自室に戻った 着替えをして応接間へ逝くと、子供達も着替えを済ませていた 笙夫妻も着替えをして応接間のソファーに座っていた 康太はソファーに座ると「流生!」と名を呼んだ 流生は嬉しそうに笑って母の元へ走ってやって来た 康太は流生を抱き締めて「明日菜」と名を呼んだ 「はい。何でしょうか?」 康太は流生を榊原の膝の上に乗せた 「流生の本当の親は知ってるな?」 「はい!存じております」 「流生と伊織を見てみろよ!」 康太に謂われて明日菜は流生と榊原に目をやった 二人は何処か似ていた 似る筈などない 血が繋がっていないのに‥‥‥ 似る筈などないのだ だが流生は榊原に似ていた 髪型も仕草も‥‥流生は榊原に似ていた 流生は榊原の膝の上で幸せそうに笑っていた 「オレの謂いたい事は解るな?」 「はい‥‥」 「日々の絆が似させるのだ 夫婦だって何年も共に暮らすと似て来ると謂う!」 明日菜は康太に深々と頭を下げた 「何か‥‥最近私は本来の自分らしくない行動を取ってしまう‥‥ 本当に悪かった‥‥私らしくない行動だと悔いていてる‥‥」 「少し休みを取るか?」 「それは嫌だ、これから大変になる時に休んでいられないし、休みたくない」 「だがなお前が不安定だと、魔に漬け込まれる事になる‥‥ 宗右衛門がお前の内面の危うい均衡を見たと謂っていた」 「宗右衛門?」 「烈の中に在る始祖還りだ 宗右衛門はお前の内面を視ていたそうだ」 だから烈が視ていたのか? と明日菜は納得した 「‥‥‥私は最近らしくないのは自覚している」 「まぁ自覚が出来てるなら大丈夫か‥‥ だが手を打たねぇとな‥‥‥」 康太はひとりごちて「弥勒!」を名を呼んだ 『どうした?康太』 「榊原の家って調べてくれてた?」 『優先順位は企業と踏んで‥‥‥お主の知り合いの会社を重点的に調べさせておる‥‥ 個人の家はまだ見てはおらぬ 何かあったと謂うのか?』 「明日菜の内面が酷く危うい均衡を見せていたと宗右衛門が出て来て知らせてくれた 本来の明日菜なれば、気丈に漬け込まれる事など皆無だ‥ ならば、何処で漬け込まれたか? 榊原の家しかねぇかなと想った」 『その可能性は多分に在るな‥‥ だが今はガブリエルは天界に還っておる 創造神とやらに呼び出されたらしくてな‥‥』 「創造神?それは本当に神の呼び出しか?」 『声が聞こえたからな、間違いはねぇだろ?』 「なら時が来たと謂う事か‥‥‥ 近いうちに呼び出しがあるかも知れねぇな‥‥ なら、その前に終わらせられる事はしとかねぇとな」 『何の呼び出しか、どんな用件か解ってるのか?』 「多分‥‥な」 『なれば我は我にしか出来ぬ事をせねばな! 取り敢えず目先の優先順位は榊原の家であろう! 我が飛んで調べよう!』 「頼めるか?弥勒」 『任せておくがよい! 羽根があれば知らせる故に誰か連れて参れ!』 弥勒はそう言い気配を消した 康太は笙に「弥勒から声が掛かったら榊原の家に伊織と共に行ってくれ!」と声をかけた 笙は「貴方は?」と問い掛けた 「オレか?オレが行っても触れねぇし行っても役に立たねぇからな‥‥ 弥勒が結界を強めてくれるだろうし、取り敢えずオレは家にいる事にする」 「承知しました!伊織と共に逝く事にします」 笙が答えると康太は何かを考え込んでる風に黙った 弥勒が『榊原の家に来るがよい!』と声が響くと笙は榊原と共に応接間を後にした 榊原の家へ逝く笙は榊原に 「ねぇ‥‥何が起こってるの?」と問い掛けた 「榊原の家に逝けば解ります 多分、榊原の家の屋上に黒い羽根が刺さっていたのです 僕達は此処最近、その羽根を駆除すべく飛び回っていたのです まさか‥‥榊原の家にあるとは‥‥想いませんでしたがね」 榊原は歩を進め、そう言った 笙は言葉を失って‥‥何も言えなかった 榊原の家に着くと笙は鍵を開けて玄関を開けた そして2階に上がると屋上に逝く扉の鍵を開けた 屋上に出ると弥勒が立っていた 「伴侶殿、其処に!」 と、弥勒は黒い羽根を指差した 榊原は息を飲み「やはり在りましたか‥‥」と呟いた 榊原は黒い羽根を視て「この羽根は同じモノですかね?」と呟いた 弥勒は「多分そうであろう、笙、羽根を引っこ抜くがよい!」と命令した 笙は謂われた通りに黒い羽根を引っこ抜いた その時‥‥‥笙の手が‥‥剃刀で斬られた様に‥‥斬れて血を流した 榊原は驚き、笙の手をハンカチで巻き付けた 弥勒は「小細工を施したか‥‥‥この羽根を誰が抜くか解っていて小細工を労したか‥‥」と悔しそうに呟いた 弥勒は榊原の家に結界を張ると、笙と榊原を連れたまま飛鳥井の家へと時空を切り裂き移動した 康太は慎一に「救急箱を持って来ておいてくれ!」と頼んだ 慎一が救急箱を持って応接間に来ると、弥勒が笙と榊原を連れて姿を現した 応接間にいた者達は慣れてるのか、驚く者はいなかった 一生が笙の手に巻かれたハンカチを見ると 「怪我したのか?」と問い掛けた 弥勒が「黒い羽根を抜いて貰ったら、仕込んであったのだ!」と答えた 一生は驚いて笙を見た 「笙が抜くのが解っていたのか? それとも‥‥榊原の家族の誰かが抜くのを予測してか?」 「多分、笙が抜くのを予測しておったのであろう‥‥ だから伴侶殿の兄上に効率的に怪我をさせて、見せしめにしたのであろう‥‥」 弥勒の言葉に康太は黙って頷いていた 慎一は笙の怪我の手当てをして 「念の為に久遠先生の所へ逝きます」と謂い笙を連れて出て行った 弥勒はハンカチに包んだ黒い羽根を康太に見せた 黒い羽根には羽根に隠れる様にして鋭利な刃が仕込まれていた 触れれば手が斬れ‥‥握り締めて抜くなら‥‥相当の深手を負うのを核心した作りとなっていた 康太は天を仰ぐと「スワン」と名を呼んだ するとスワンは姿を現した 「何ですか?康太」 「お前の聖なる光を、この羽根に注いでくれ!」 「‥‥‥僕はもう天使ではありませんよ?」 「お前は天使ではない! だがその力当時のまま秘めているオレのスワンだろうが! なれば、お前は今も変わらず聖なる光を操れるだろ?」 「‥‥‥貴方の為ならば、聖なる光が出なくとも、出せるまで頑張りますとも!」 スワンは笑って黒い羽根に聖なる光を注ぎ込んだ ‥‥‥‥だが、黒い羽根は何ら変わる事なかった 康太は羽根を視て 「そうか、八仙じゃ手に余って当然か‥‥ この羽根は黒曜石で創られた羽根だとしたら、自由自在になんとでもなる筈だな」と謂った 黒曜石と謂うキーワードに弥勒は反応して 「テスカトリポカ‥‥」と呟いた 「だろうな? 奴しかこんな姑息な事はしねぇだろな?」 「‥‥あの神を御存知か?」 「まぁな、お前は知っていると想うが、創成期に赤い髪の方の奴は、親父殿と離れて創造神の元で過ごした その時‥‥殆どの神の誕生をこの眼で視て来たからな‥‥知らない神はいないだろうな‥‥」 「ならば‥‥テスカトリポカが何故‥‥この様な暴挙に出たか‥‥解るか?」 「元々、テスカトリポカの神性は、夜の空、夜の風、北の方角、大地、黒耀石、敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い概念と関連付けられている神だ 負の感情を煽り人々に災厄と恐怖を植え付ける この世に善の神がいるなれば、人々に畏れられ災厄を知らしめるのも神の役目とされて配置された神だ」 「災厄の神?それは貧乏神とか人に禍を齎す神なのか?」 「貧乏神とは格が違う あの神はジャガーの化身で、闇と月を司る戦闘神アステカの神として誕生した 常に人の心を操り道具にして来た 戦の影にテスカトリポカ在りとまで謂われた神だ この御時世‥‥人の心は酷くアンバランスだからな‥‥災厄を招くのも容易だと謂う事だ 目的とかじゃねぇ、この世に人がいる限り‥‥ テスカトリポカは己の役目を完遂する為に災厄を撒き散らすだろう‥‥」 「誰か‥‥止められねぇのか?」 「‥‥‥それは創造神にでも文句を謂うしかねぇな‥‥」 「え?‥‥」 「誰の声も聞かねぇだろ?あの神は‥‥」 「皇帝閻魔でも?」 「聞かねぇだろうな‥‥それに親父殿も他の神に何かを謂う事はしねぇよ」 「何でだ?」 「親父殿が今、何処にいると想ってる 冥府は総てにおいて中立‥‥それは総てにおいて中立でなくばならないと謂う事だ」 そんな風に謂われれば‥‥弥勒は何も謂えなくなってしまった 皇帝閻魔の役務は誰よりも重い‥‥ そして想像を越えて厳しい現実を孕んでいた 「で、どうする?」 「此よりの判断は創造神が下すだろ? オレ等は呼び出しに応じて従うのみ、だ!」 弥勒は康太を抱き締めた 「我を置いて‥‥逝くでないぞ‥‥」 「オレはまだ死ねねぇよ!絶対にな!」 康太はそう言い笑った 流生が康太に抱き着くと、翔、大空、太陽、音弥、烈が康太に抱き着いた 康太は子供達を安心させる様に抱き締め‥‥ 「今日は烈の入園祝いだぞ! 慎一が笙を連れて還ったらお祝いやるぞ!」 お祝いだと謂った お祝いだから何も気にせず楽しい想いだけ感じていて欲しい‥‥ 慎一が笙を連れて病院から戻ると、慎一は康太に 「傷、そのものは深くはないが、鋭利な刃物で斬れた傷口は深く、縫ったそうです」と報告した 「神経を斬ったりしてなかったか?」 「はい、神経まで傷は到達してなかったそうです」 「なら安心だな、当分は片手が使えなくて不便だろうけどな‥‥ 笙、悪かったな‥‥怪我をさせてしまった」 康太は笙に謝罪した 笙は「大丈夫ですから謝らないで下さい!」と謂った 「謝罪されたり気にされたりしたら‥‥母さんに未熟者!と叱られます」 笙は真矢の視線を感じて、そう言った 真矢は艶然と笑って 「良く解ってるではないですか! 貴方は未熟者だから怪我をするのですよ!」 その言葉を笙はトホホな気分で聞いていた 弟が何時も怪我すると謂い続けている言葉は、笙だとて例外ではなく放たれるのだった 康太は「義母さん、烈のお祝いですよ!」と真矢を取りなした 客間に家族が集まる 榊原の家族も仲間も‥‥‥少しだけ距離を取り宴を始める どんな困難な時だって、何時かは笑い話になると信じて今を生きる 楽しい時間を噛み締めて、明日へと歩み出す 飛鳥井康太の子は桜林学園 初等科と幼稚舎に入学した 新しいスタートを切った春 希望に満ちた春 今は‥‥困難な時でと、過ぎれば笑える様に頑張りましょう

ともだちにシェアしよう!