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第18話 硝子の花 ②
流生は兵藤に「おはな、すごいのね」と話し掛けた
兵藤は「なら連れて行ってくれよ!」と二人きりで屋上へと向かった
屋上で硝子の花を見ていると兵藤は
「一生の傍にいるのは辛いのかよ?」と問い掛けた
流生は首をふった
「ちがうの‥‥ひょうどうきゅん‥‥」
「ここ最近、不安定だよな?
自覚はあるんだろ?」
兵藤が問うと流生は頷いた
「何がお前を苦しめてるんだ?」
「ぼくはかあさんにきくまえから‥‥しっていのね
ぼくらがこどもだとおもって‥‥おとなはすきかっていうから、なんとなくしっていた
かあさんがぜんぶはなしてくれて、なっとくした
そしたら‥‥きょりのとりかた‥‥わからにゃくなったの
カズキのよこにいたら‥‥かあさん、かなしむかな‥‥とおもうにょね
そしたら‥‥どうしていいか‥‥わからにゃいの」
兵藤は流生を抱き締めた
「康太はお前を苦しめようとして、全部話した訳じゃねぇ‥‥‥ケジメだ
お前らに嘘を着いて親ヅラしていたくなかったんだと想う
康太も苦しんだんだ
話せばお前達が‥‥軽蔑しないか?恨むんじゃないか?離れて行ってしまうんじゃないかって‥‥それでも話したのは、お前達と共に過ごす以上は嘘は着きたくなかった
お前達の親だけど、世間の謂う様にアイツ等は男同士だ
子なんて望める訳じゃねぇ!
誰かに何か謂われる前に総てを話した
お前達に向き合っている為に‥‥した事だって理解は出来るな?」
流生は頷いた
「どうしたいよ?流生」
「ぼくはかあさんととうさんのこだよ
それはゆるぎにゃいとおもっている
かあさんだいすきだし、とうさんもだいすきだよ
でもそれだとカズキ‥‥かなしくないかな?
そうおもっちゃうの‥‥
だからなにもかもなかったことにして‥‥そばにいようかな?っておもった」
「一生はお前の傍にいるのは辛い事だって自覚している
だけどお前の母さんの分もお前を見守るって決めたから、親だと名乗れなくても傍にいる事を誓った
逃げ出したくなる程辛くても悲しくても、アイツは逃げないと決めたんだ
だからさ、お前はアイツの気持ちとか考えなくても良いんだ!」
「ひょうどうきゅん‥‥」
「アイツが決めた事なんだよ流生
だからお前は何も気にしなくて良いんだ!
母さんや父さんが大好きなら、それで良い
お前は飛鳥井康太と榊原伊織との子だ
それ以外には、なれねぇんだからな!」
「ひょうどうきゅん」
「だけど否定はしてやるな!
それだけが解ってるなら、お前はお前の好きな様に生きて行け!
それがお前の両親への想いだろ?」
「そうだね‥‥‥ありがとう‥‥ひょうどうきゅん」
「俺はお前の味方だ!
俺の味方はこの世で唯一人、飛鳥井康太さえいれば良い!
誰か一人解っていてくれたら、それで楽に息が出来るだろ?」
流生は兵藤に抱き着いて泣いた
そして涙を拭くと笑って
「ひょうどうきゅん、このはなみて」
そう言い流生はしとしとと雨の降りしきる外にある花を指差した
「さんかようっていうんだって」
「花言葉は知ってるか?」
流生は首をふった
「幾つかあるけどな、俺は「親愛の情」が一番お気に入りだ!」
「ちんあいのじょう?」
「親愛の情って謂うのは好感、誰かに対する愛、あるいは好きだという気持ちだ!
お前の母さんは流生へ伝えたかったんだろう
お前への愛情を大好きな花へ込めて、お前に託したんだよ
この花は雨に濡れると透き通る硝子の様な花となる
だが硝子の様に脆くはないし、弱くもない
そんな強さをお前に教えたかったのかも知れないな」
「かあさんはいつもボクにおしえてくれるよ」
愛してる
大好きだって何時だって伝えてくれる
「強くなれ流生
親も血の繋がったアイツも護れる程に強くなれ!
そしたら何も怖い事はなくなるさ‥‥‥
失くさない以上‥‥辛い事なんてねぇからな」
流生は頷いた
「ひょうどうきゅん ありがとう」
「んじゃ、戻るか?」
「とうさんとかあさん、だいすきだってつたえたい」
「伝えてやれ喜ぶぜ!」
兵藤は流生と手を繋ぎ屋上を後にした
康太の部屋のリビングを開けようとすると‥‥
鍵が掛かっていた
兵藤は「康太、俺だけど?」と声をかけた
すると榊原がドアを開けた
「貴史、流生を部屋に戻してから来て下さい」と謂った
リビングを覗くと堂嶋正義の姿を見えた
兵藤は流生を部屋に戻して慎一に頼んでからリビングに戻った
リビングには堂嶋正義の他に安曇勝也の姿も在った
堂嶋も安曇も何も謂わず目を瞑り座っていた
兵藤はどうしたものかと思案していた
堂嶋は兵藤の視線を感じ取って
「お使いご苦労様でした」と兵藤に謂った
兵藤は「何かあったのか?」と問い掛けた
この重々しい空気に勘繰るなと謂う方が難しかった
それに答えたのは康太だった
「歴也が何をやらかしたのか?一応一族の者として聞いておく義務があるからな、問い質しただけだ!
そしたら守秘義務だと謂って黙りを決め込んでいるんだよ!」
守秘義務‥‥あぁ、そう言う事ね
兵藤は面倒臭い事態に
「まぁ謂えねぇ事もあるんだろ?」と謂った
「だからオレに聞くより飛鳥井の回りにいる奴等を取っ捕まえて聞き出せよ!と謂ってやったんだよ!
多種国様々なエージェントが飛鳥井の家の回りに来てるぜ!そいつ等に聞けばええやん!」
康太が謂うと安曇が
「あの方達は口を割りませんよ?
解ってて捕獲は出来ません」と困った顔をした
「ならばオレも歴也に関しては関わりを持ちたくないからな、口を割らねぇ事にするわ
有栖院を敵に回したくねぇしな」
「え?何故そこで有栖院家が出て来るのですか?」
「歴也は離婚したと謂えど有栖院 慈雨翁の一人娘、亜莉愛嬢の旦那だった男だからな‥‥
今は離婚していると謂ってもな、二人の間には子もいる
黙ってはいねぇだろうが!」
康太はそう言い嗤った
安曇も堂嶋も初めて聞く事柄だった‥‥‥
今も倭の国に根付く御三家だ
ヴェールに隠された部分は多い
また容易には近付く事すら儘ならない決まり事も存在している以上‥‥静観に回るしかない事態が在った
安曇は康太に深々と頭を下げた
「飛鳥井家真贋、貴方に頼みがあります
飛鳥井歴也氏は何をする気なのか‥‥教えて戴けませんか?」
「飛鳥井歴也と謂う男は何者にも属さない囚われない自由人だ
寛容な性格だが、放っておけない事態に出会すと俄然燃えて立ち向かう性質がある
また彼にはそれを支援してしまえるだけの大物のパトロンもいる
今回もまぁ放っておけない事態に出会したって事だろ?
オレも直接は逢ってねぇからな詠めねぇんだよ!
本当に勘弁してくれと謂いたいのはオレの方だ‥‥‥」
飛鳥井を名乗っている以上は恒に表舞台に真贋が立たされる
源右衛門が存命中も何かにつけて源右衛門は矢面に立たされて歴也の尻拭いをさせられたとボヤいていた
破天荒で憎めない男
誰もがその人間性に惚れ貢ぐ
安曇は覚悟を決めた顔で康太を見ると
「国際問題に亀裂を入れる問題を歴也氏が持ち逃げしたと申し出がありました
私共に詳しい事情は話さずに、それだけ告げて差し出せと通告して来ている
我が国としても無視は出来ないので動いている‥‥それが全容です」
総てを包み隠さずに話した
「歴也がそんな状態なら有栖院家は大丈夫なのかよ?」
「歴也氏との婚姻も初めてお聞きした次第ですので‥‥矢面には出て来てないかと?」
「ならば、どの様に決着するよ?」
「‥‥‥‥歴也氏は何を隠匿して逃げているのですか?」
「オレもかれこれ20年近く逢ってねぇんだよ
何せ歴也は真贋の眼を警戒しているからな」
「ならば今、どの様な姿をしているか解りませんね‥‥」
「だな、アイツは風来坊だからな
フラフラと糸の切れた凧か風船ばりに留まらねぇからな‥‥」
「我が国は‥‥どの様な対処をすれば良いんでしょうか?」
「詳細は掴めないのは事実だし、この家の回りにいる奴等が常に報告はしてるだろ?
だから何もしなくて大丈夫だろ?」
安曇は他国の外交摩擦に神経を磨り減らしていた
堂嶋は黙ってそれを静観していたが、やっとこさ口を開いた
「歴也氏の目的は外交摩擦ではないと?」
「アイツが、んな面倒臭い事するかよ!」
「本当に逢われてないのですか?」
「オレがかなり小さい頃に一度逢っただけだ
それ以降はアイツがオレの眼を驚異に想って近寄ろうともしなかった」
「なのに詳しいのですね?」
「アイツの妻と子は今もオレの近くにいるからな!
亜莉愛はオレを我が子以上に愛してくれているかんな!」
あぁ‥‥‥それでか‥‥と堂嶋は納得した
「歴也は放っておいて構わない
しかる時にアイツは出て来る筈だ
誰にも文句を謂わせねぇ登場を果たして黙らせるだろうさアイツならばな!
そしてその後は惚れた女の所に留まる気だ
アイツが生涯愛した女は有栖院亜莉愛 唯一人だからな!
その前に色々な柵を断ち切りに逝ったんだよ
まぁ本人は離婚されるとは想ってなかったろうがな、別れたならまた出逢えば良い位にしか想ってねぇだろ?アイツなら」
康太は嗤いながら、そう言った
安曇は引く事にした
「解りました、ならば我等は今後一切歴也氏には関わらない事にします
それで宜しいですか?」
「あぁ、構わねぇよ
アイツに関わるとロクな事にならねぇかんな‥‥」
堂嶋は「貴方にしては珍しい物言いをなさるのですね」と不思議そうに謂った
「飛鳥井歴也を知る者ならば、一様に同じ事を謂うさ‥‥あんまし関わりを持ちたい奴ではないからな‥‥
だが奴の人間性は決して愚かな莫迦者ではないとだけ謂っておく
愛すべき輩だからアイツは味方も多い
だがなやる事なす事破天荒すぎてな‥‥
物事を大きくする天才だかんな‥‥静観に回りたいってのがあるんだよ
オレよりも三木の所に逝けばもっと詳しい事は聞けたのに‥‥」
堂嶋は驚愕の瞳を康太に向けた
「三木は歴也氏を知っているのですか?」
「同級生だ、アイツにだって学生時代はあったって事だ」
「解りました、この後三木に連絡を着けます」
堂嶋が謂うと康太は果てを見て頷いた
康太の瞳は果てを見ていた
これ以上の進展はないと、安曇と堂嶋は還って逝った
榊原は康太を抱き締めた
「大丈夫ですか?」
「あぁ、んとにアイツには振り回されるな」
「このまま‥‥‥何もないと良いのですが?」
「それは難しいだろ?」
「歴也さんは何を隠して追われているのですか?」
「多分アイツが追われている件と、オレ達が追ってる教団の一件は何処かで線が繋がっているのかも知れねぇと想っている‥‥‥」
「やはり無関係ではないですか?」
「この時期だかんな‥‥世界会議の後に出て来る話なら‥‥用心しねぇと寝首を罹れるしかねぇだろ?」
「ですね‥物事は繋がり果ては同じ所を指し示しますか‥‥‥」
抱き合う二人に兵藤は咳払いして
「俺の存在忘れてねぇ?」と問い掛けた
榊原は笑って「忘れてませんよ!」と答えた
兵藤は「タチが悪い」とボヤいた
それでも気を取り直して
「流生に逢ってやっくれよ!」と頼んだ
康太は立ち上がると榊原に手を差し出した
榊原はその手を取ると、強く手を握り立ち上がった
康太は兵藤に「子供達は部屋にいた?」と問い掛けた
「おー!慎一が歯を磨かせていたから、いるだろ?」
兵藤の言葉に康太は子供部屋に顔を出した
康太の姿に気付くと流生は走り出して康太に飛び付いた
康太は流生をギュっと抱き締めた
「かあさんだいすきだよ
とうさんもだいすき
ボクはかあさんととうさんのこどもだから‥‥」
「当たり前じゃねぇかよ!
オレの魂を受け継いだ、オレの子だ
オレと伊織の子だ‥‥‥」
「かあさん」
流生は康太の胸に顔を埋めた
物心つく頃から愛していると抱き締めてくれた母の香りがして、流生は泣きそうになった
榊原も流生を康太ごと抱き締めた
康太は我が子を見てニカッと笑った
「烈、ご機嫌は直ったかよ?」
「かぁちゃ‥‥ぎゃんびゃる」
「少しずつセーブして行こうな」
烈は頷いた
康太は「翔、音弥、太陽、大空」と子供の名を呼んだ
すると翔、音弥、太陽、大空も康太に抱き着いた
康太は「今日はお前達の大好きな兵藤君がいるぞ!」と謂った
子供達は康太の後ろに立っていた兵藤に視線を向けた
「「「「「「ひょうどうくん!」」」」」」
6人の子は我先に兵藤に抱き着いた
パジャマを着て寝れる状態の子供達に兵藤は
「んじゃ、皆で雑魚寝するかよ?」と問い掛けた
子供達は大喜びした
客間に行きお布団を敷いて雑魚寝する
慎一と一生と聡一郎と隼人も加わり雑魚寝した
流生は一生の横に寝ると
「かずき‥‥ぼくはかあさんやとうさんをまもれるくらい‥‥つよくなるよ」と謂った
「あぁ、強くなれ」
「かずきもいつか‥‥まもってあげる
そしたら‥‥このこころのわだかまりもなくなるって‥‥‥ひょうどうきゅんがいってくれたの」
一生は息を飲んだ
「ありがとうな流生
でも俺は康太を護る為に生きてるからな‥‥
護って貰わなくても大丈夫なんだよ」
「だから‥‥かずきをまもってあげりゅんらよ?」
一生は堪え切れなくなり泣いた
康太を護る為に生きているならば、誰が一生を護るのか?
ならば一生は僕が守ってあげると謂ってくれたも同然の言葉だった
兵藤は一生を抱き締めた
しとしとと降り続く雨に濡れるサンカヨウの花が、それでも強く咲き誇っていた
これは余談だが、飛鳥井の外にいる者達はいずれも何処かの国のエージェントだった
彼等は『絶対に飛鳥井家真贋には手を出すな!』と釘を刺されていた
また彼の子や家族に手を出せば、彼は黙ってはいない
だから絶対に手を出してはならぬ!との御触れが出ていた
だから男達は黙って歴也が接触しないか見張るしか出来なかった
飛鳥井家真贋の所に総理が秘密裏に訪ねて来た事態は既にエージェントの間では本国に連絡を入れる騒ぎとなっていた
総理と懐刀が飛鳥井家真贋を訪ねて来ただけでもセンセーショナルなのに、追跡を振り切って何処かへ消えたとの報告を受ければ‥‥
飛鳥井家の回りにいたエージェント達は大移動を余儀なくされた
久しぶりに家の回りの外野が一斉移動して康太は嗤っていた
翌朝早く流生は瑛太の部屋のドアを叩いた
ドアを開けたのは瑛太だった
瑛太は笑顔で流生に「おはよう!流生」と謂った
「おはよう、えいにーさん」
「どうしたのですか?」
「おはな、みにいきませんか?」
「ええ、誘ってくれるのを待ってました」
瑛太は流生と手を繋ぐと屋上へと向かった
今日も横浜は雨模様のお天気で、サンカヨウは雨に濡れて、その花弁を透き通らせていた
瑛太は黒い大きな傘を一本手にしていた
瑛太は傘をさすと流生を濡れない様に抱き締めて花の前に逝った
「えいにーさん、さんかようのおはなだよ」
透き通る花は雨の滴に揺れていた
「ありがとう流生
綺麗な花ですね
君の母さんの想いを込めたお花ですね」
瑛太もサンカヨウの花言葉は榮倉に聞いて知っていた
「あのね‥‥えいにーさん」
「なんですか?流生」
「ぼくね‥‥ずっとこわかったの」
瑛太は流生を抱き締めた
「怖がらなくても良いです
君には何者にも挫けない両親がいます、そして私達がいます
辛い時は私と会社に気晴らしに行きますか?
そしたら見えない何かが見えるかも知れませんよ?」
「良いにょ?」
「兄弟で過ごす時間は大切です
でも自分の足と眼で見る時間は大切なんですよ?
君達は自分達の足で歩み始めた‥‥ならば色んな事を知らねばならない
その第一歩だと思えば良い
視野を広く持ちなさい
そしたら君の恐れなど吹き飛んでしまう確かなモノを知る事が出来るでしょう!」
「えいにーさん ありがとう」
瑛太は流生を抱き上げた
「君を誰よりも愛しています
それは飛鳥井の家族や榊原の家族も同じです
康太の仲間も君を誰よりも愛しています
それだけ解っているなら君はもう振り返らずに歩める筈です」
流生は頷いた
「今度君にサクララン "セブンスターと謂う花をプレゼントしたいと想います」
「どんなはななの?」
「願いを込めて育てなさい
そしたら宝石の様な花が咲きます」
「ありがとう えいにーさん」
「さぁ行きますか?
君の兄弟がきっと心配してますよ」
瑛太は流生を下ろすと手を繋ぎ歩き出した
流生はもう迷わないと心に誓った
その足取りは確かな明日へ一歩ずつ向かって歩いていた
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