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第19話 お空と太陽 ①

空は想いました 自分の存在は太陽なしでは存在しないのではないなと‥‥ 太陽が空を照らしてくれるから、空はそこに在る事が出来るのだ 太陽がなかったら人はきっと空に気付かないだろう‥‥ 空は想いました 月がないと空は真っ暗にしかれないと‥‥ 月があるから人は空を見上げるのだ 真っ暗な空など誰も見上げたりはしないだろう‥‥ 空は想いました 空に星が輝かないと、きっと人は空を見上げたりはしないだろう 星を輝かせているは太陽だ 月を輝かせているのは太陽だ きっと太陽がないとこの世は真っ暗になり‥‥ 空の存在など気付きはしないだろう 空は想いました 何故存在するのだろう‥‥‥と 誰かがいてくれなきゃ存在すら解らないのに‥‥ 空は‥‥‥ずっとそこに在るのに‥‥‥ 雲がなきゃ 青空がなきゃ 風がなきゃ 太陽がなきゃ‥‥‥ きっと存在出来ないのだろう‥‥ 大空はよく空を見上げて、そんな事を考える きっと空は太陽がなきゃ‥‥存在出来ないのだろう‥‥ ボクもそうだ 太陽と大空 ひなたとかなた 太陽は誰にも好かれ人気がある それに比べてボクは‥‥‥ 誰もが少しだけ離れた所でボクを見る ボクはきっと太陽がいないと存在すら解らない人間なのかも知れない‥‥ 寡黙な大空は自分の存在意義を見いだせずにいた 淡々と日々を過ごす 表情の乏しい大空の想いを推し量るのは難しい 学校が終わると栗栖のお迎えの車に乗り込む 皆が太陽に挨拶する 翔に、音弥に、流生に挨拶する ボクは謂われた事がない 何でかな? ボクが見えてないのかな? 栗栖の車に乗り込み家へと還る 家に帰れば制服を脱いで、スイミングスクールへと向かう スイミングスクールが終わると、菩提寺に向かい全員で修行を受けて、家に還り栗栖に勉強を見て貰う そんな日課となっていた スイミングスクールでは流生が大人顔負けの泳ぎで人気を集めていた 太陽と音弥も負けずと泳ぐから、一緒に泳いでる子達や父兄からは拍手や賛辞が飛び交う 烈も負けずに泳ぐと、その愛くるしさに皆の目尻が下がる 菩提寺では翔は次代の真贋として特別に扱われ 烈が姫巫女に修行を着けて貰い、かなりの人気者として存在していた 大空は何処へ行っても‥‥‥光を放たない自分の存在に‥‥余計に寡黙に無口になっていた その日は康太と榊原がお迎えにやって来た 子供達は大喜びで父と母に飛び付いていた 康太は大空をじっと視ていた 榊原も大空を見ていた 榊原は康太を見た 康太は頷いて大空の横にやって来た 「大空、今日は少しだけ話をしようと迎えに来たんだ」 「ボク‥‥‥ですか?」 「あぁ、今日は大空に話があるんだよ そして大空にプレゼントとがある だから、オレと来いよ!大空」 大空は母を見た その瞳に総て暴かれそうで少しだけ身震いをした 流生が康太に抱き付くと「かな、おねぎゃいね!」と謂った 音弥も康太に「かなたん‥‥おちこんでるきゃら!」と母に兄弟を頼んだ 太陽は黙って立っていた 翔が太陽の背中を押した 「いやら!」と太陽は拒んだ 「かな‥‥」 「いちゅもいちゅも‥‥かなはしんぱいしてもらえていいよね‥‥」 太陽は叫んだ 康太は慎一に「太陽の事は頼む!」と言い大空だけ連れて榊原と共に何処かへ行ってしまった 太陽は‥‥‥悔しくて‥‥泣いていた 慎一は太陽の肩を抱いて「行きましょうか?」と謂った 「どこへ?」 「逝けば解ります」 太陽は頷いて歩き出した 慎一が太陽を連れて行くと一生と聡一郎が栗栖と共に家へと還って逝った 康太が大空を連れて逝ったのは、図書館だった 図書館の中へ入って行くと、児童コーナーへと向かう 大きな部屋の中に、優しげな女の人が子供達に囲まれて座っていた 図書館の中には児童を対象に週に一度、絵本作家が子供達に絵本を読み聞かせをしていた 康太は大空を子供達が座っている輪の中へ座らせた 絵本作家は康太の顔を見ると「始めますね!」と確認した 康太が頷くと、絵本作家は本を手にして話し始めた 「お空と太陽」 空は何時も想いました 自分の存在は太陽なしでは存在しないのではないなと‥‥ 太陽が空を照らしてくれるから、空はそこに在る事が出来るのだ 太陽がなかったら人はきっと空に気付かないだろう‥‥ 空は想いました 月がないと空は真っ暗にしかれないと‥‥ 月があるから人は月を見上げるのだ 真っ暗な空など誰も見上げたりはしないだろう‥‥ 空は想いました 空に星が輝かないと、きっと人は空を見上げたりはしないだろう 星を輝かせているは月だ 月を輝かせているのは太陽だ きっと太陽がないとこの世は真っ暗になり‥‥ 空の存在など気付きはしないだろう 空は想いました 何故存在するのだろう‥‥‥と 誰かがいてくれなきゃ存在すら解らないのに‥‥ 空は‥‥‥ずっとそこに在るのに‥‥‥ 雲がなきゃ 青空がなきゃ 風がなきゃ 太陽がなきゃ‥‥‥ きっと存在出来ないのだろう‥‥ 太陽も想っていました 自分は空がないと輝けない‥‥‥と 空があるから太陽は輝けるのだ 空があるから陽は沈み 月が登り 星は輝く 太陽は何時想う ボクの輝ける場所はお空の上だけ‥‥ 空がなきゃ輝けない 空がなきゃ‥‥‥‥辺りを照らす事すら出来やしない‥‥‥‥と。 空があるから陽は登り 朝の始まりを告げれるのだ 太陽はずっと想っていました 空がなきゃボクは何処にも行けないのだと‥‥ 空をなくしたら自分は価値のない存在にしかなれないのだと‥‥ 風さんは、それは違うよと言いました 二人は一つなんだよ お空がないと太陽は輝けない 太陽は空にあるからこそ輝いて見えるのだと だけど、お空も太陽も自分の存在理由を探して悩んでました お月さまも謂います お空があるから月は輝けるんだよ でもね、太陽の光がないと月は輝けないんだよ お空と太陽は二つで一つなんだよ どちらが欠けたらお空は朝と夜は来ない 朝が来るには太陽さんが上らなきゃ来れない 太陽さんが沈むから夜が来て、月の出番なんだよ? お空がなかったら? 太陽さんがなかったら? この蒼い地球(ほし)は真っ黒だよ? ねぇ、二人は互いがなくてはならない存在だって気付いてる? ねぇ、二人は互いの半身なの気付いてる? ねぇ、手を出して そしたらきっと届く程の距離にいるから‥‥ そしたら手を繋ごうよ! そこにいる確かな存在を掴んだら、もう離さないで お空は言いました 「ボクは空‥‥広いだけの空」 太陽は言いました 「ボクは太陽、お空の上を陣取って輝いている」 二人は何時だってお空の上で仲良く輝いている どちらが欠けても存在しない 「さぁ手を取って!」 絵本作家は大空の手を取ると、近くにいた子の手を取った 「君はお空、そして君は太陽 二人はどちらが欠けても存在しない」 大空は手を取った相手を見た こんな時‥‥‥手を取るなら太陽が良い そんな想いで握った手の相手を見た 「ひな‥‥」 大空は呟いた 「かな‥‥」 太陽も呟いた 絵本作家は笑って二人の手を強く握り締めた 「君達の御両親が二人はなくてはならない存在で在れ!と願いを込めた名前なのを忘れないで‥‥ この世の総てを否定したとしても、互いだけは否定しないでね それが君達に二つで一つの名を授けた御両親の願いであり総てなのだから‥‥ね!」 二人は頷いた 康太は最近の大空は、太陽と比べられ、自分を否定されている風に考えて悩んでいるのを感じていた また太陽は軽薄な態度を取る自分と違い、己を貫く大空にコンプレックスを抱いていた 互いが互いにないモノを羨み‥‥距離を置いていた 子育ての難しさをエッセイを届けた時に、東栄出版の編集長である脇坂に話した その時、脇坂は康太に絵本作家の寧音さんを紹介した 寧音さんは物静かな女性で康太の話を黙って聞いていた そしてお二人を見せてくれませんか?と頼まれて幾度か離れた所で太陽と大空を見せた 寧音さんは「お二人に本をプレゼントします。この本は世には発表はしません! お二人にだけに差し上げる本をプレゼントしたいと想います」と謂ってくれた 図書館で子供達に読み聞かせをしているから、と、この日二人を別々に連れて逝ったのだった 康太は寧音さんの作ってくれたお話を聞いて、まさに太陽と大空だと想った 無い物ねだりをしているみたいに、互いの中に自分にはないモノに憧れて羨ましがっていた 寧音は大空と太陽に 「二人が誰よりも互いが解るのはね、一つの細胞を分けて生まれたからなんだよ お母さんのお腹にいた時に二人はそれぞれの体躯を求めて二つに分裂したの 太陽君にないモノを大空君が持っている 大空君にないモノを太陽君が持っている それはね、元は一つの細胞だったからなんだよ 永遠に互いが恋しくて愛しくて‥‥‥そして妬ましい でもね、それは永遠に手に入らない自分なんだよ 君達はそれぞれが半身として生きて行かないといけないの‥‥解る」と問い掛けた 寧音の言葉は太陽と大空の心を撃ち破り、ストレートに響いていた 二人は頷いた すると寧音は悲しそうな瞳をして‥‥微笑んだ 「半身を永遠になくしてしまった子の、お話をしてあげるね 一人の女の子は自分と同じ顔をした兄弟に何時も何時も嫉妬と羨望を抱いてました 同じDNAを持って生まれたのに‥‥‥ 同じ細胞を分けて生まれた筈なのに‥‥ 気付けば姉妹は遥か彼方の存在だった 明るくて人気者で人の輪の中心にいる姉 地味で何時だって本を読んでる影の様な妹 妹は姉を妬んでいた 姉は‥‥‥そんな妹に自分にないものを妬んでコンプレックスだったと‥‥死ぬ間際に謂った 全部持ってるのは姉さんの方なのに‥‥ 姉は姉で藻掻いて抵抗して自分を通そうとしていたのだと‥‥気付いた 歩み寄れば解った事なのかも知れないけど‥‥ 二人は互いを牽制し合っていたから、気付けなかった 妹は永遠に半身を亡くした 常に一緒に生きていた姉を亡くして、初めて‥‥二人は一つだったんだと気付いた 虚無感と半身を奪われた痛み‥‥‥ もっと早く気付けば良かった 後悔なら誰よりもした だからね、亡くさない為に‥‥何時だって互いを感じて理解して協力して生きて逝って欲しいの それが‥‥‥後悔しかなかった愚かな者の想いです」 寧音は泣きながら二人に話をした 太陽と大空は強く互いを抱き締めていた そして額を合わせて「「ごめん」」と謝った 互いを解るのは同じDNAを持ってる互いだけなのだから‥‥‥ 太陽と大空は頷くと寧音を抱き締めた 「ありがとう おねえさん」 「泣かないで‥‥」 大空はズボンのポケットからハンカチを取り出すと寧音の涙を拭った こう言う事に気付くのは何時だって大空だった 優しい大空 太陽はそんな大空が羨ましくて堪らなかった 二人は気付かなかったが、その場所には他の姉弟も来ていた 流生は母に抱き付いて「よかったね!かあさん」と謂って甘えた 音弥も「かあさん、もうだいじょぶよ」と母を慰めた 康太は流生と音弥を抱き締めた 烈は榊原に抱き付いて 「とぅちゃ ギュッ」と甘えた 榊原は烈と翔を抱き締めた 一生と慎一も胸を撫で下ろしていた 最近の大空の落ち込み様は酷く 太陽のピリピリもまた酷かったからだ 康太は我が子を抱き締めたまま寧音に 「今日は本当にありがとう」と礼を述べた 寧音は「私の方こそ‥‥ずっと悔いてたので、この機会に自分を見詰め直せれて良かったです 本当にありがとうございました」と礼を口にした 寧音は康太の抱いてる子達を見た 太陽と大空位の年の子が‥‥‥いたからだ 康太は寧音の視線に気付き「オレの子達だ!」と謂った 寧音は笑顔になり「可愛い子達ですね、とくにこの子‥‥にゃんこ先生みたいなフォルムで‥撫でずにはいられません!」と謂い烈を抱き上げた 康太と榊原は顔を見合わせて笑った 寧音は「またお子さんにお話をプレゼントしたいです、その前に北斗君にプレゼントのお話を書きたいと想います」と優しい笑みを浮かべて謂った 「今回は本当に無茶なお願いを聞き届けて下さり感謝します」 「いいえ、私の方も‥‥‥ずっと後悔と虚無で‥‥書く事こそ自分の証明みたいにがむしゃに走って来ていた事に気づきました 自分が息切れしているなんて解らなかった 感謝したいのは私の方です」 「貴方が北斗が何時も子供達に読み聞かせてくれていた本の作家さんだったなんて、今も信じられません 北斗は大好きな作家さんだって謂ってました そんな方に本をプレゼントして戴けるなんて‥‥夢の様です」 「北斗君のお話‥‥あの子の生い立ちで良いのですか?」 康太は寧音に北斗の生い立ちを話した その話で絵本を書いてくれませんか? その本を書籍にして二冊下さい、と謂った 寧音は康太の要求を飲んで北斗のお話を書く事を約束してくれた 寧音は「私は私の本を読んでくれる子達の為に、お話を書き続け様と想います」と少しだけ未来のお話をした 康太は「オレと出逢った時は貴方は岐路に立たされていた だが今は貴方は進むべき方向を定められた 己の想いのまま進んで逝くが良い、それが貴方の道となり、貴方の生き様となる筈ですから‥‥‥」と餞を手向けた 寧音は艶然と笑い 「はい!それこそが私の道だと参ります」と答えた 道に迷っていたのは太陽と大空だけじゃなかった 哀れな半身を亡くした魂は今、はばたき飛び立とうとしていた 寧音と別れて太陽と大空は絵本を胸に抱いていた 流生は「よかったね」と二人に声をかけた 音弥は「ほくとによんでもらおうか!」と提案した 翔は何も謂わず二人を抱き締めた 烈はズボンのポケットから飴を取り出し太陽と大空に渡した 大空は「これ、れつのひじょうしょく‥‥」と驚き 太陽は「れつのなくなっちゃうよ?」と確かめた 「にーに!らいしゅき!」 何時だってこの弟の存在に救われる 姉弟の優しさに救われる ボクたちには姉弟がいてくれるんだ! 心強い姉弟がいてくれるんだ! そして誰よりも強い母がいて 誰よりも優しい父がいてくれるんだ 榊原のベンツに太陽と大空を連れて乗せると 後部座席には真矢が笑って座っていた 太陽は「ばぁたん‥‥」と呟いた 大空は「どうしたの?ばぁたん」と問い掛けた 真矢は「大空と太陽に逢いに来たのよ!」と答えた 真矢は康太から太陽と大空の悩みを聞いていた そして心痛めていたのだった この前逢った時、ギグシャグしていたのは気のせいではなかったのだと想った 大空は祖母に抱き着いた この人が母親なのは薄々気付いていた そして新年にハッキリと教えられた それから二人は距離を取っていた だが‥‥‥この人の姿を見ると泣きたくのは‥‥ この人の中の母性が暖かすぎるからだ‥‥‥ 太陽も真矢に抱き着いた 世渡り上手な太陽は笙に似て 不器用で寡黙な大空は榊原に似ていた どちらも我が子だった 「ばぁたんに絵本を見せてね」 真矢は謂った すると太陽が真矢に絵本を差し出した 真矢は絵本を受け取り読み出した 良く書けていた このお話は太陽と大空だと解る程に、良く書けていた 真矢は優しく太陽と大空を撫でた 何時しか二人は真矢に抱き着いたまま‥‥眠りに落ちていた 康太は「義母さん今日はありがとう」と礼を謂った 真矢は嬉しそうに笑うと 「康太の子はどの子も可愛いわ 飛鳥井にいる子達も同じ様に愛すと決めているの‥‥だからね、そんな時は駆け付けて抱き締めてあげると決めているのよ この後、北斗を抱き締めてあげる予定よ その次はお父さんに怒られた和希と和真を抱き締めてあげて、最近自粛で太ったと嘆く永遠を抱き締めてあげる予定なのよ」 「そんなに抱き締める予定が入ってたのですか? どんだけ義母さんに甘えているんですか?我が家の子達は‥‥‥」 「それが楽しみで生きているのよ! 康太もね抱き締めてあげるわ 私の可愛い息子ですもの」 真矢が謂うと榊原が「母さん貴方の息子は僕の筈では?」もボヤいた 「勿論伊織も抱き締めてあげるから拗ねないの!」 真矢はフフフッと笑った 榊原は困った顔で「拗ねてません」と答えた 「義母さん、今夜は飲みますか?」 「良いわね、仕事も入ってないし飛鳥井で寛ぐつもりで来たのよ 源右衛門のお墓参りもしたいしね‥‥」 「それは喜びます!」 車は飛鳥井の地下駐車場へと滑り込み、何時ものスペースに車を停めると、プリウスに乗った子供達の車も停まり、子供達は飛び出して両親に抱き着いた 一生と慎一が眠ってしまった太陽と大空を抱き上げて応接間へと連れて行った 真矢は「ばぁたん!」と孫に囲まれて応接間へと向かった 応接間のソファーに座ると康太は 「今日は義父さんは?一緒ではないのですか?」と問い掛けた すると真矢はフンッとそっぽを向いた 榊原はサッパリ解らずに康太を見た 康太は真矢を視ていた 「成る程‥‥拗れる前に手を打つとするか!」 と言うと携帯を取り出し電話を掛けた 「一生、ちょいと調べてくれ!」 「清四郎さん?」 「そう、あー!義父さん?オレだけど」 康太は電話に出た相手と話を始めた 一生は清四郎の事を調べ始めた すると珍しく清四郎らしからぬ記事が出て来て、一生は康太に渡した 康太はその記事を見て嗤った 『康太、どうしたんだい?』 「貴方の義理とは謂え息子が、貴方のスキャンダルを黙ってると想いましたか?」 『康太!嫌、心の師匠! 私は無実です!清廉潔白です! 何でこんな記事が出たのか私だって解りません!』 「義父さんは今何処に?」 『記者が張ってるからホテルに缶詰です‥‥ 流生達に逢いたい‥‥そして何より真矢に逢いたい‥‥』 清四郎は泣きそうになって訴えていた 「義父さん家に帰りたいのか? なら記者会見開けば簡単じゃねぇかよ!」 『‥‥‥記者会見‥‥私は浮気なんてしていないのに?』 「だから開くだろうが! オレが同席してやるからさっさとやろうぜ!」 『康太‥‥私は孫に言い訳出来ぬ事はしたりしません!』 「解ってんよ!ハメられたんだよ義父さんは‥‥‥」 『真矢は許してくれません‥‥』 清四郎は泣き出した 康太は携帯をハンズフリーにして清四郎の声を真矢に聞かせた 「義母さんも解ってるさ」 『電話にも出てくれないんですよ?』 康太は真矢を見た 真矢は何だか悪い事をしている気分になり、康太に手を差し出した 「あなた‥‥」 真矢は声をかけると清四郎は「真矢ぁー!」と言い泣き出した 話を聞いてやれば良かったと想った 「あなた‥‥ちゃんと食べてますか?」 『喉‥‥通りません‥‥こんな記事が出るなんて‥‥孫達に軽蔑されたら‥‥私は生きてはいられません』 清四郎は号泣して叫んでいた 真矢は大変!と立ち上がった 翔が真矢に抱き着き 「ばぁたん おちつくにょ!」と慌てた 榊原は「父さんの事務所の社長を呼んで下さい!」と謂った 康太は最近、事務所の社長が亡くなったのを思い出した 後継者の息子は出張中に飛行機の事故で他界した それで社長は気弱になり‥‥寝たきりになって、そのまま他界した 今想うとこの連鎖は気持ちの悪い何かを感じずにはいられなかった 「今は誰が社長してるんだ?」 康太の呟きに榊原は相賀に電話を入れた ワンコールで電話に出ると榊原は 「榊原伊織です 今少しお時間を戴けませんか?」と申し出た 『伴侶殿、どの様な用件ですか? お父上の事‥‥ですか?』 「父の事務所は今、誰が引き継いでやっているのか? 康太が気にかけておりましたので、お電話をさせて戴きました」 『あの事務所は今、遣り手の管財人をバックに従兄弟と名乗る者がやってる筈です』 「キナ臭くありませんか?」 『謂われれば加賀もキナ臭いと申しておりました 今、この場に加賀も神野もおります! 康太が清四郎のスキャンダルに出て来ない訳はないと踏んで待機しているのです!』 「康太はそのスキャンダルを今知りました」 『‥‥‥え?知らなかったのですか?』 「僕達は今、感染予防の為に一緒の時間を過ごす回数を減らしてましたから‥‥」 『そうでしたか‥‥なれば知ったならば動かれるのですよね?』 「はい。康太ですから」 『なれば、記者会見には名を連ねる所存です! 呼んで下さるのなら今すぐにも参ります!』 榊原は康太に電話を渡した 「相賀か?」 『康太!逢いたかった‥‥』 「待たせたな!今後の対策の為に飛鳥井に来てくれねぇか?」 『呼ばれれば直ぐに逝くとも!では!』 相賀は電話を切ると直ぐに移動を始めた 暫くすると飛鳥井の玄関のドアチャイムが鳴り響いた きっと神野の事務所辺りで集まっていたのだろう 慎一がドアを開けると相賀と加賀、神野が立っていた 慎一は三人を応接間へと招き入れた 応接間に入った三人は真矢の姿を見て 「「「清四郎は清廉潔白だから、信じてやってくれ!」」」と哀願した 真矢は「最初は私怒っていましたの、スキャンダルを出した事実ではなく、スキャンダルを出す事によって孫達が迷惑しないか‥‥と怒っていましたの でも今は清四郎を信じて護る所存です!」と堅い意思をその瞳に見せ答えた 康太はPCを聡一郎に取りに行かせ、持って来ると物凄い早さでキーボードを打ち始めた 何処かへ電話をして、切ると一心不乱にキーボードを叩いていた そしてまた携帯を取り出すと 「オレだけど?」と電話を入れた 『何の用よ? 俺は今、酷使されてるのを知って電話をして来てるのかよ?』 「今は歴也は良いから少し動いてくれねぇか? 引っ張れば何処かで繋がっているかも知れねぇし‥‥」 『良いぞ!その代わり正義には謂っておいてくれよ?』 「この電話を切ったら連絡を入れる」 『で、俺に何をさせたいのよ?』 「榊 清四郎の所属事務所を少し調べてくれねぇか? 何故今の奴が相続して継いだのか? 後継者だったの息子の飛行機事故、あれは本当に事故だったのか?」 『飛行機事故の方は伯父貴に謂えば資料は出せるが、他は俺一人だと手が回らねぇよ!』 「聡一郎と一生をそっちに行かせるわ!」 『了解!なら調べに入るわ 終わったらそっちに逝くわ!』 そう言い兵藤は電話を切った 康太は堂嶋正義に電話を掛けた ワンコールで出た相手に康太は 「オレだ!」と何時もの挨拶を謂った 『どうしました?久し振りですね』 「貴史、少し借りるわ」 『良いですよ 伴侶殿の御尊父の件ですか? それでしたら私も興味があるので一口噛ませて貰います』 「珍しいな‥‥」 『あの事務所の後見人となった男が‥‥あの鮫島グループの三男悦司なんですよ』 「‥‥‥え‥‥鮫島グループ? 飛鳥井とは関わりはねぇ企業体だけど? あんで絡んで来ようとするのよ?」 康太は訝しんだ声を上げた 飛鳥井は建築屋家業で、鮫島グループは全国に店舗を構える飲食チェーン店だった 『何かとキナ臭い男でしてね 悦司と言う御仁は‥‥己は常に高みの見物をして表には絶対に出ない その癖、裏で糸を引っ張って関与しているのは明らかなんですがね』 「そいつ、倭の国をどうとかしようとしてるとか?」 『世を混乱させ自分は高みの見物、そのスタンスを崩さないので、今回も高みの見物をしたいのでしょうね 相手は飛鳥井家真贋の義父に当たる榊 清四郎ですからね ワクワクしてるんじゃないんですか?』 「クソじゃねぇかよ?」 『クソなんですよ彼は』 堂嶋正義がそこまで人を悪く謂う事はなかった 「んなら高みの見物をしてられねぇように、煙で燻して己から出させやるとするか!」 『それは素敵な話です!一口乗ります!』 「んじゃ動く時連絡するわ」 『待ってます』 康太は電話を切った そして、う~ん どうしたモノか?と思案した 「なぁ今をトキメク美味しい店って何処よ?」 突然の話に加賀は康太がお腹が減ったのかと想った 「康太、お腹が減ったのですか?」 「違げぇよ!その店、飛鳥井で買収しようかな?って想ってさ」 「買収‥‥ですか? 君にしたら珍しいですね?」 「今人気のお店を買収してチェーン店に喧嘩を売るのさ!」 康太は嗤いながら謂った 神野が「それなら小鳥遊を動かせばリサーチするだろ?」と言い携帯を取り出して小鳥遊に来るように謂った 暫くして小鳥遊が飛鳥井の家に駆け付けた 「康太!逢いたかったです!」 と開口一番、寂しかった日々を口にした 「小鳥遊、オレも子供達も逢いたかった でも今日、お前を呼んだのは、そんな件ではねぇよ!」 小鳥遊は顔を引き締めると 「では用件を伺います」と謂った 「人気のスィーツ店って何処か知ってる?」 「知ってます」 「それって鮫島グループの店か?」 小鳥遊は顔色を変えた 「鮫島グループの店ならば味一つとってもレシピ通りにせねばならない それを美味しいと想える人間は‥‥そうそうはいませんよ! 今の時代、流行を追ってナンボの世界ですからね 今もなお伝統的レシピを守り通す鮫島は生きた化石みたいな店です なので鮫島グループの店では人気のスィーツは一つもありません!」 康太は興味深く「ほほう!」と小鳥遊の話を聞いた 「ならさ小鳥遊、建築的空間の演出を飛鳥井がすると多くの店に声を掛けてくれねぇか? 要するに飛鳥井建設の傘下にって名目を少し欲しいんだよ で全国的に打って出る戦略を叩き出す そうすれば新型肺炎で弱っているフード業界も活気がつくってもんだろ? 小鳥遊はそれをプロデュースしてくれ!」 小鳥遊は嗤って「鮫島に喧嘩を売りますか?」と問い掛けた 勘の強い男である 「そう、どうやら向こうが先に喧嘩を売ってきているんだよ! オレはその喧嘩を買うだけさ!」 「解りました! 小鳥遊、全力を注ぎそのイベントを大成功させてみせます! で、喧嘩のお相手は?誰なんです?」 「鮫島悦司」 「あぁ、ならばコンカイハ高みの見物は出来ないと謂う訳ですね 彼に潰された職人も多くいます 彼等を寄せ集めて戦力とし立ち向かう力にしたいと思います」 的確に話を呼んで意向に添おうとする やはり小鳥遊と謂う男は生まれついてのマネージメントを生業にする性分なのだと康太は想った ある意味敵に回すと手強い相手ではある 小鳥遊は「では我が社の人材を総て投入します 相賀と加賀も出来たら協力お願いします」と今後の算段を着けて協力を要請した 相賀も加賀も全面的に小鳥遊に協力すると約束した

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