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第20話 お空と太陽 ②

ホテルに滞在してる清四郎を迎えに行ったのは翌日の事だった 清四郎は憔悴しきっていた 迎えに行った足で久遠に検診をして貰いに逝く程に、弱りきっていた 康太は持てる限りのブレーンを使って外堀を埋めていた 本丸に挑む前には外堀を埋めて攻めやすくする 絶対に言い逃れもさせない様に、相手に何度も何度も攻撃を仕掛け弱らせる そして本丸に出向いてトドメを刺す その為に精力的に動いていた 記者会見を開く事になったのは、それから二週間が過ぎようとしている頃だった 清四郎は顔色も良くなっていた 清四郎は年甲斐もなく、康太と年の変わらぬ女優とスキャンダルを出した あたかも二人でホテルにしけこむ写真が週刊誌に載った 事務所の方は清四郎に身を隠せとホテルを用意して閉じ込めた 清四郎は泣き暮らして、食事も喉を通らず、随分痩せた 真矢は付きっきりで看病に当たった 飛鳥井の家族も清四郎の看病に当たった 烈は鼻息も荒く母と記者会見に逝く気満々だった 翔も朝から忙しく記者会見に逝く気満々だった 康太は「おめぇらは留守番だぜ?」と謂うと烈は 「じぃたんにょかたち、うたにゃいとおときょがしゅたる!」と言い切った 翔も「じぃたんをおとしめたヤツ、ゆるさないから!」と引く気は皆無だった 康太は「なら視るか?」と二人に問い掛けた 二人はうん!と頷いた 榊原は「‥‥‥顔が出てしまいますよ?」と牽制した 烈は「もうでてりゅ!」と何でもない風に謂った 清四郎が現場まで烈を連れて行った日、インタビューが入っていて清四郎は康太に烈の顔を出しても大丈夫なのか?聞いていた 『烈が写る気満々なら出ても構わないです』と謂ったから烈は清四郎と共に雑誌に載った訳だった 榊原はこの日の為に雑誌にわざわざ載ったのか? 疑いたくなっていた 康太は「んなら視て来い!」と二人が記者会見に逝くのを快諾した 清四郎の記者会見には清四郎本人と妻の真矢が参席すると記者に通達した 他に数名参席する、とだけ知らせた 実際には相賀と加賀、そして神野に加えて飛鳥井康太も参席する 伊織と笙は控え室でそれを見る事になっていた 流生達も祖父が心配だからと一緒に逝くと引かなかった 記者会見当日 記者達はソーシャルディスタンスが守られた椅子に座り準備を始めた 康太が用意した場所は東京ドームだった ただ広いマウンドの真ん中に席を作り、記者会見を開くと謂う 前代未聞の出来事だった 記者会見の席に着く人間をカメラが捉えてパシャパシャとフラッシュがたかれる 榊 清四郎が中心に座り、左右に真矢と康太が座った 真矢の方に神野と相賀が座り 康太の横に翔と烈が座って、その横に加賀が座った 加賀はご機嫌で「翔と烈の横で光栄です」と喜んでいた 翔と烈は記者達を見据えていた 鋭い瞳で一人一人視て逝く 記者会見の司会は安曇貴之が執り行った 貴之は「今日は榊 清四郎の記者会見に多数のご出席誠に有り難く想います それでは記者会見を始めます 最初に榊 清四郎、本名 飛鳥井清四郎さんが自らの口で話します 続いて席に着いている者達が話します その後に質疑応答とさせて戴きます それでは記者会見を始めたいと想います」 貴之が挨拶を終えると清四郎はマイクを取った 「今日は榊 清四郎の為に貴重なお時間を頂戴して本当にありがとうございました 私は妻を愛しています 今までも、これからも妻に背く様な行為はおりません事を此処でご報告致します!」 清四郎は胸を張り誇らしげにそう言った だが質疑応答もまだだと謂うのに 「証拠の写真は上がってるのに、良くもまぁそんな嘘着けますね!」と揶揄する様に言い放った 安曇貴之は記者に 「何処所属の記者か名乗ってから発言をお願いします!」と謂った 「女性ヘブンの西名と申します 榊さん、あの写真が嘘だと謂うのですか? あの女優が嘘を着いてると謂うのですか」 得意気に西名と名乗った男は謂う 烈が立ち上がると、翔も立ち上がり、西名と呼ばれた男の傍に近寄った 西名は何故、この場に子供がいるのか?訳が解らぬ顔をした 烈は「うしょつき!」と叫んだ 翔は「うだがわ よしさん なぜうそつくのですか?」と西名と名乗った男の本名を口にした 男は顔色を変えた 「このクソガキ! 何故記者会見に子供が紛れ込んでいるんだよ!」と怒鳴り殴り飛ばそうと腕を上げた その手を何処からともなく現れた男が掴んで止めた 「止めろ!その子は次代の真贋と末のお子だ 殴れば確実にお前の心臓は止まるだろう! そしてお前の家族や息の掛かった者達は無限の破滅を味わう事となる」 男は突然現れた男に腕を捻り上げられ呻いた 「誰だ!お前は!」 「我の名は弥勒院だ!」 烈は男を睨み付け「縛!」と低い声で呪縛した 動けなくなった男の手を弥勒は離した 「ゆるしゃにゃい!」 烈は怒っていた 翔も「ぜったいにゆるさない!」と怒っていた 優しい祖父を陥れようとした者を許してはおけなかった すると優しい手が烈と翔の頭を撫でた 烈と翔は手の方を向いた するとそこには東都日報の今枝浩二と社長の東条祥人の姿があった 東城は「次代の真贋、お久しぶりに御座います」と挨拶した それで翔が唯の子供でない事を知った 今枝は「烈、どうされたのですか?何時になく怒ってお見栄ですね?」と尋ねた 「いまえら‥‥」 「今日は君に逢えないかとお菓子を持参して来たのですよ?」 と言い今枝はカメラに吊るしたお菓子を烈に渡した 「あいがとう」 「これから先は君の母さんがやります 君達はもう役目を終えたのです」 烈は頷いて今枝に「らっこ」と謂った 今枝は烈を抱っこした 翔は母の所へ逝くと貴之が奥へと連れて行った 今枝は「君はどうするのですか?」と尋ねると 「いまえらといっしょ!」と言い今枝の膝の上に座る気満々だった 今枝は烈を膝の上に乗せた 貴之は「さてと呪縛されている方は何処の何方なんでしょうか?」と何でもない風に話を持って行った 弥勒は何時の間にか消えていなくなっていた 記者達は‥‥‥再び公平性の欠いたあの事件を招いてはいけないと心に誓った 康太は「その者は次代の真贋が視た様に宇田川 芳と謂う、鮫島悦司の息の掛かった人間だ」と謂った 体躯の動かせない男は‥‥「何故解る!」と怒鳴った 「それはオレが飛鳥井家 現真贋だからだよ!」 康太はそう謂い唇の端を吊り上げて皮肉に嗤った 男は力なく地面に崩れ落ちた 康太は「んじゃ貴之、記者会見の議題を戻そうぜ!」と謂った 貴之は胸を張るとマイクを握り締めて 「それでは榊 清四郎の記者会見に戻ります 多分、榊 清四郎を騙して二人きりになり写真を撮らせた女優は今頃顔色を変えて己の身の保身を考えている事でしょう! 榊 清四郎を貶めた女優が、元通り女優として生きて行けるかは定かではありませんが‥‥ 榊 清四郎の口から冤罪は晴らさせて戴きます!」 地を這う様な迫力にその場にいた者は‥‥身震いした 清四郎はマイクを取ると 「何故?どうして?そればかり考えていました どうして、こんな事態になったのか? 私は妻を裏切る行為は一度もしております それはこれからも誓えます! 私は妻を愛しています! 俳優として生きられないかも知れないと謂う怪我をおった時、妻は女優の仕事を総てキャンセルして私の傍にいてくれました 彼女は私が俳優として生きられないのなら、自分も女優として生きるのは辞めるつもりでした そんな妻を私は裏切ったり悲しませたりはしません! ずっとずっと演じることばかり考えて生きて来た私が‥‥どれだけ妻を悲しませて悲しい日々を送らせてしまったか‥‥ そんな妻を幸せにする事だけ考えて、死ぬまで生きて逝くつもりです 私は清廉潔白を妻の前で言います ごめんな真矢‥‥良い年こいて‥‥こんなスキャンダルだしたりして‥‥本当に‥‥」 清四郎は声をつまらせ‥‥目頭を押さえた 真矢は清四郎のマイクを奪うと 「俳優の榊 清四郎はファンの方総てのモノですが、飛鳥井 清四郎はわたくしだけのモノです! 夫は浮気など致しません! 孫に誇れぬ所業など致しません! それをこの場を持ちまして、総ての方々にお伝え致します!」 榊原真矢は艶然とした笑みを浮かべ宣戦布告をした 「私達には沢山の孫がおりますの 和希、和真、北斗、永遠、瑛智、柚、翔、流生、音弥、太陽、大空、烈、美智瑠、匠、結子! わたくしは貴方達の祖父母でいようと日々過ごしています きっと心配してテレビを見てるでしょ? 大丈夫よ、じぃじとばぁばは大丈夫! 悪意のある報道が少しされただけ! でも私達は揺るがない! 揺らぐ訳がないのです! 姉さん、兄さん、心配かけましたね 瑛太、京香、そして笙と明日菜 今日のわたくしは誰よりも強いので大丈夫よ! 清四郎、そうでしょ?」 真矢は夫の肩を抱いた 清四郎は妻の顔を涙で濡れた瞳で見ていた 二人には揺るがない絆が見て取れた 今枝浩二が「質疑応答、宜しいですか?」と問い掛けた 康太がマイクを持つと「どうぞ!」と嗤った 「榊 清四郎さんのお話ではないのですが、この場に飛鳥井家真贋がいらっしゃるので、少しお聞きしたい事があります、宜しいですか?」 「あぁ構わねぇ!」 「飛鳥井建設はリトルデュランとコラボを展開なさっているとか? 建築を生業となさっている貴方が飲食業界に旋風を巻き起こして騒ぎの中心にいるのは何故なのかお聞きして宜しいですか? 飛鳥井は飲食業界に業種を伸ばすおつもりなのですか?」 「新型肺炎が蔓延して飲食産業が活気つかない時期にあります 当然、建築業界も大打撃を受けました 建築の仕事と飲食業界は無縁な世界ではない 依頼があればわが社は顧客のニーズに合ったお店だったり家やビルを建てます その繋がりを今回は生かして、コラボと謂うカタチを取らさせて戴きました コラボと謂う事ですので、鳥井建設が誇る設計士が図面を引きました 夢のような空間で一時を過ごして欲しいと謂う願いを込めて脇田誠一が弟子の飛鳥井悠太が図面を引きました 我が弟の復帰作でもあるので力を入れて進めた話です 世間の方々に少しでも明るい話題を提供出来たらと謂う想いと、飲食業界に革命を!と謂う想いで進めて参りました!」 「こんな時期だからこそのコラボと謂う事ですか?」 「そうです、明るい話題に人々は餓えていた 固定観念を捨てて、型を破ったからこそ人々は目新しい刺激に飛び付く 我らは日々、新たな挑戦をして安泰な上に胡座をかいてはいけないと想うのです でも破天荒であれば良いのかと謂うと、そうではない 人々の求める先を見極めて用意する事こそが必要となってくるのです コラボはその一貫です 我等は建築業界の枠を越えている訳ではない 新しい刺激を提供して、ニーズに合ったからこそ実現した 我が弟の感性を奮わせる場を求めていたから実行に移しただけです」 「大盛況で、連日大勢の人々が詰めかけていますね」 「感染予防との闘いを忘れる事なく、新たな日々を刻む それが今後のテーマとなりますからね!」 「貴方の口から聞けて良かったです このセンセーショナルなフェスタを特集させて戴いて宜しいですか?」 「構わない!」 「ありがとうございました」 今枝は着席した 烈は「いまえらのたまちぃはきれーね」と呟いた 康太と同じ事を謂われて今枝は嬉しそうに笑った 「ありがとう烈」 烈は笑って今枝の傍を離れると、康太の方へと歩き出した 貴之が途中で捕まえて抱き上げると、烈は笑っていた 貴之は「これを持って榊 清四郎の記者会見はお開きとさせて戴きます」と終わりを告げた 宇田川芳と謂う男は警備員に連れられて、その場を後にした 記者会見を終えて迎えに来た車に乗り込むと 烈と翔は真矢と清四郎の膝の上に乗り込んだ 烈は「ばぁたんとじぃたんはおそらとたいようらね!」と謂った 翔は「おそらがないとたいようはかがやけない たいようがないとおそらは‥‥そんざいかんさえわからない じぃたんとばぁたんはひなとかなとおなじだね」と謂った 真矢と清四郎は互いに顔を見合わせた 真矢は涙ぐみながら 「そうね、私は清四郎がいないと輝けないものね」と言葉にした 清四郎も「私も真矢がいないと存在感も示せれません‥‥‥お空と太陽のお話みたいに‥‥‥ 互いがいないと生きられません」と真矢を見ながら謂った 烈は「かぁちゃ!」と母に手を伸ばした すると康太は烈を引き寄せて抱っこした 「あちゅいね! あちち!らね!」 烈は真矢と清四郎の仲の良さをボヤいた 榊原は烈を膝の上に乗せて 「夫婦は互いの為に在るのです!許しなさい!」と謂った 「ちかたにゃいね!」 その言葉に真矢も清四郎も笑った その場にいて見守っていた玲香も清隆も瑛太も京香も笑っていた 玲香は「良かったわいな」と呟いた 良かった 本当に良かった 仲違いしなくて良かった 玲香は心底安堵した 真矢は「姉さんありがとう」と礼を述べた 「我はお主が笑っておられればそれで良いのじゃ!」 「姉さん‥‥」 「男前であったぞ!真矢」 「ありがとう姉さん 私も飛鳥井の女ですから、姉さんの様に男前でいたのです!」 分かち合う姉妹の姿に康太は柚を抱っこして 「お前は優しい女になれよ!」と謂った 榊原は「無理ですよ、この子は既に飛鳥井の女ですから!」とボヤいた 家族は確かに笑っていた 久しぶりの笑顔だった 久しぶりの楽しい時間だった 後日談だが、鮫島グループの総帥、鮫島 幸之助が訪ねて来たのは記者会見の翌日の事だった 鮫島幸之助は飛鳥井康太の顔を見るなり土下座をした 飛鳥井に現れた幸之助は、我が子である悦司を連れていた 悦司は‥‥‥見るからに殴られて制裁を受けた形跡が見て取れた 「飛鳥井家真贋、悦司が貴方に喧嘩を売ったとか?」 「それを誰から聞いたのよ?」 「元世界ユニバースの西村沙織さんです 彼女はわが社のキャンペーンガールを長い事して下さってました 今は貴方の秘書をなさっているとか‥‥‥ イベントの時にお逢いして話を聞きました 貴方がフード業界に巻き起こした旋風を、我等は時代の変化に取り残された遺物だと思い知らせた わが社も変化して行かねばならないと思っていた矢先でした 彼女は飛鳥井家真贋があれだけの暴挙に出たのは、鮫島家三男の悦司が裏で喧嘩を売っていたからだと教えて下さいました 悦司に問うても申しさぬので制裁を加えました! そしたら吐きました 貴殿の御尊父の事務所の後見人となり好き勝手に使おうと思っていたら、重鎮と呼ばれる役者がいて邪魔だったから排除しようと陥れた‥‥と。 それで総てが納得行きました 貴方は矢鱈滅ったらと喧嘩を売るお方ではない なのに‥‥‥今回のフード業界の異変は何かあるんじゃないかと‥‥ 本当に申し訳ありませんでした!」 鮫島幸之助はひたすら謝罪した だがその横で悦司は不貞腐れた顔をしていた 無理矢理連れて来られたのが一発で解る 聡一郎は悦司の姿に眉を顰めた 聡一郎は「その男の性根は腐ってますね!」と言い捨てた 幸之助は何と謂われようとも、反論出来ないと黙っていた 聡一郎は更に続けた 「今、繁盛期の所へ堕として釜の掃除でもさせたらどうですか? そしたら少しはマシな人間になるんじゃないですかね?」 「それって兄者の所しかないやんか‥‥」 お盆を前にして地獄は釜の掃除に余念がなかった 「この男は人の痛みを知らない だから人の不幸や揉め事を高見の見物しているんですよ! 高見の見物なんてしてる人間なんてロクなもんじゃありません! だから高見の見物ってのを、己がされたらどれだけ嫌か解らせてやるのです そしたら少しは解るんじゃないですか?」 謂ってる事は正論だった 「なら盆過ぎまで出すか?」 「それが宜しいかと? 僕が連れて行きましょう!」 聡一郎は珍しく悦司を肩に担ぎ上げると、呪文を唱えて‥‥‥姿を消した 聡一郎は昔の自分を見ている様で、とても気持ちの悪い気分を味わっていた だから性根を叩き直して少しは生きやすい人間にさせてやりたかったのだった 姿を消した聡一郎と悦司を見て、幸之助は唖然としていた 康太は「悦司は全うな人間になったら還って来るだろう‥‥そしたら何でもない風に出迎えやってくれ!」と謂った 幸之助は「解りました、本当にお手数をお掛け致しました」と康太に謝った 「我が父 榊 清四郎の事務所から手を引かせろ!」 康太は条件を提示した 「はい!あやつが手掛けておりました件は、総て白紙に戻す所存です! お約束致します!」 敵意を感じられない康太は歩み寄る事にした 「鮫島フーズは変わる気はあるのかよ?」と問い掛けた 「はい、今回の貴方が打ち出した企画は本当に業種の垣根を取っ払い画期的なフェスとなりました わが社も目指します‥‥‥レシピの縛りを取っ払い個性的なメニューを目指します」 「ならば、コラボしねぇか? 今のフェスをもっと大きなイベントにする だけど大きなフェスにするには、体温の検査とソーシャルディスタンス、消毒とマスク着用を徹底的にして会場の収容人数を減らすしかねぇ! だから完全日付指定のチケットを売り出して新作のスィーツや料理を提供する 鮫島も新作を引っ提げて来ると良い! 縛りのメニューを撤廃してシェフの腕を奮う機会を与えるチャンスじゃねぇかよ? そうして先を見るんだ 流行を常に感じてメニューを産み出さねぇと、これからの乱世ら乗り切れねぇと想うぜ!」 まさに鮫島が鎖国の様に避け通して来た事への挑戦だった 祖父からの言いつけを守り通して時代から取り残された 解っていたが‥‥‥己の足で歩み出す勇気がなかった だが今は千載一遇のチャンスだと想った 飛鳥井家真贋になど人生を通して出逢えるチャンスは滅多とない その真贋がコラボの話を持ち掛けてくれたのだ 乗らずにおいたら、生き残りなど賭けられはしないのだ! 「真贋には‥‥‥本当にご迷惑をお掛け致しました」 「幸之助、乱世の時代に時代錯誤な事をしてると時代からも人の記憶からも忘れ去られてしまうのを忘れるな! 人は常に楽しみと刺激と流行りのモノを求めている 時代の先読みをしろ! 目を曇らせていたら見えるモノも見えねぇぞ! それを心に叩き込んで、乱世の世を乗り越えろよ! お前には三人の子供がいる それらを武者修行に行かせて目を肥えさせて継がせるべき者を選べ! 我が子にいなければ、外から選ぶしかねぇ! 胤裔は‥‥‥断ち切るつもりで経営しねぇと何時か終焉は来る 古い血は入れ替える時期は必ず来る! 飛鳥井もそうだ、次代の真贋を始めとして、血は入れ替えられ次へと繋げられ先へと進む お前もそろそろ後継者を育てる時期だ 会社を託せる子を育てて逝くべきだとオレは想うぜ!」 「肝に命じて‥‥これからの人生はより精進して会社に尽くしたいと想います 真贋、貴方の言葉を聞けて本当に良かったです! 私は迷っていたのです‥‥そしてこの先を愁いていた‥‥ 私は歩み出します! 今後は会社を第一に考えて後継者を選びたいと想います 本当にありがとうございました」 康太は笑って 「お前は分岐点にいたんだよ どちらの道に逝くか迷っていたから、オレの前に出て来る事になった 会社はまだ寿命を迎えちゃいねぇ! ならば闘わねぇとな! 取り敢えずコラボを成功させようぜ! 成功させるんだから精鋭を人選して上に押し上げてやれ! 名に囚われて見たらアウトだぜ? 無名だろうが腕のある奴はいるんだ 料理長とかそんなクラスの奴じゃなく若くて妬まれて潰されそうな奴にも声をかけろ! そしたらお前の店から誰にも負けねぇスィーツ職人が出る だけど見落としたら‥‥‥そいつは海外に出る 海外で名を挙げる‥‥分岐点にいるんだよ幸之助 決して見落とすなよ!」 「はい!これから人選を致します またアドバイス戴けますか?」 「上手いのを食わしてくれるなら、アドバイスしてやんよ!」 「貴方に喜んで貰えるメニューを開発致します! それでは直ぐに取り掛かります またコラボの打ち合わせをお願い致します 私自ら出て先陣を切って行きます」 顔付きが変わっていた もう迷っている人間の顔付きではなかった 鮫島幸之助は還って逝った 康太は果てを見て笑っていた 「そのうちカロリーが低く、食べても大丈夫なスィーツを作って貰うかな?」 と呟いた 我が子の為に投じる布石だったのかと榊原は笑った 後にコラボは大成功を迎えた 新しく変わった鮫島グループはスィーツにも力を入れて女性達をあしげく通わせた 飛鳥井の子達と良く逝くファミレスは鮫島グループの一店舗だったのは謂うまでもない‥‥ 子供達はカロリーを気にせず、美味しいモノを鱈腹食べられる様になりご満悦だった

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