26 / 41

第26話 烈風狂瀾 ①

飛鳥井 烈は前世の記憶を持つ転生者だった 飛鳥井と名乗る前の『斯波』家と呼ばれる頃から人を視る眼を持つ者として転生を繰り返していた それは飛鳥井と名が変わっても尚、受け継がれて変わらぬ転生を繰り返していた 子供の癖に堂の入った風格を持ち威厳もある お茶を飲んでても、お酒を飲んでる様にしか映らない貫禄も持ち合わせていた 烈は幼稚舎 入園前検診で、血糖値の異常を叩き出して飛鳥井記念病院の久遠医師の指導の元、食事制限が敢行されていた 好きなモノが欲しいだけ食べられない これは結構ストレスになる‥‥ だが烈は優しい兄達に心配をかけたくなくて、落ち込んだ姿は見せない様に気を付けていた 兄達は皆 優しく烈の面倒を見てくれる 烈は幾度も転生したが、今世が一番幸せだと想っていた 何時の世も飛鳥井で生きる事は辛くて険しい道程だった 烈がアンニュイに物思いに耽っていると、流生が「れつ、どうしたにょ?」と問い掛けて来た 烈は笑って 「にーにー!らいじょうぶよ!」と答えた 「れつ‥‥げんきないと‥‥‥しんぱいになるよ?」 烈はこの兄達が大好きだった 「せんべー たくしゃんらめにゃのよね‥‥」 「あぁー、せんべいたべたいの?」 「たくしゃん ほちぃにょ」 「たくさんは‥‥むりだよね ボクのおやつあげるから、がまんしてね」 「にーにーのなくりゃりゅ」 「れつがげんきじゃないほうがいやだもん」 そう言い流生は烈を抱き締めた こんな時、泣きたくなる程に幸せだと想う‥‥ だが幸せに浸って甘い夢ばかりは視させてくれる家ではなかった 烈の“眼”を養う為に、両親は何処へ逝くにも烈を連れ歩いていた 時には父方の祖父母も撮影現場まで、烈を連れて行っていた 撮影現場では孫を連れて来た祖父母に、表面上は良い顔をするが、内心は快くは想っていない人が殆どだった 人の裏と表を知り尽くした烈は、人の醜い部分や醜悪な部分の本質を視る 表面は取り繕っても、内面は中々取り繕えない部分も在った この日は真矢に連れられ撮影現場に来ていた 烈は大人しく用意された椅子に座っていた スタッフが慌ただしく動き回っていた その中で烈は異彩を放つ男に眼を止めた 相手も烈の視線を受けてニャッと嗤った 烈は男に近付くと「なにちてる?」と声をかけた 男は「此処は危ないですよ!」と謂い烈を連れ出した 外に出ると烈は「何をしておる?」と嗄れた声で尋ねた 男は「宗右衛門か、今世に転生されたか」と烈の質問には答えず濁した 烈はもう一度言葉にした 「此処で何をしておる?」 「撮影現場と言うのは常に人手不足で潜り込むには一番の場所だったりするんだよ」 「お主、政府に追われておるであろう? 何をやらかしたのじゃ?」 「宗右衛門なら俺の性格は御存知だろ? 許し難い奴等を真贋が糾弾しやすい様に誘導してるんだよ!」 「‥‥‥やはりお主が1枚噛んでおったか‥‥」 「宗右衛門、貴方は今世の人をどう視る? 腐って無責任になった人間を嫌悪はしないのですか?」 「儂は今世に生を成してまだ数年って言う短さだが‥‥人は変わったと想うな 気概のある御仁は成りを潜め無責任な輩は増殖を続けておる 高度成長期を乗り越えて一時代を築き上げた人間が老い続け供給のバランスを崩している現実‥‥嘆かわしさはあるが‥‥仕方あるまい、それが時代の流れであるからな‥‥」 「俺は‥‥‥貴方の様に‥‥達観は出来ません‥‥ なので好きにやらさせて貰います」 「それは真贋も了承しておるであろう‥‥好きに動くがお主の務めみたいなモノであろうて!」 「やっぱ宗右衛門だな、あんたは‥‥昔と同じ事を謂うんだな」 そう言い男は笑って背を向けた 「此れより更にピッチを上げて真贋が望む果てへと突き進むとしようぞ! その旨を真贋にお伝え下され!」 「真贋は既に知っておろうぞ! お主の星を詠めば‥‥‥総て掌握しておろうぞ!」 「食えねぇなやっぱし!」 「儂は今食事制限が掛かっておるから、食えないのは仕方あるまいて!」 烈はそう謂い嗤った 「宗右衛門、その年で不摂生はお辞め下され! 今世は長生きして見届けて下され!」 男はそう謂い烈に頭を下げて、その場を去った 烈は撮影現場に戻った すると姿の見えない烈に、真矢は大慌てで撮影をストップして探していた 真矢は烈の姿を見ると飛び付いて抱き締めた 「烈、勝手に何処かへ逝かないで! 貴方に何かあれば私は康太に顔向け出来ません!」 真矢はそう謂い泣いていた 烈は「ばぁたん‥‥ごめん‥」と謝った 撮影を止めて烈を探していたとあって、ADやスタッフは女優の我が儘に付き合わされて不機嫌だった 口にこそ出さないが‥‥‥付き合わされて迷惑なのは隠せてはいなかった ヒソヒソ好き勝手隠れて謂う 烈は真矢を巻き込んでしまった事を後悔していた 自分が姿を消したら探すのは解っていて‥‥旧知の男に着いて行ってしまった‥‥‥ 烈は「‥‥ばぁたんごめんね‥‥もうさつえいちょには‥‥こにゃいね!」と謂うから、真矢は号泣した 烈は携帯を取り出すと父に電話を掛けた ワンコールで父は電話に出てくれた 『どうしました?烈』 優しい父の声がする 「とぅちゃ‥‥ばぁたん‥‥なかした」 烈は困って口にした 榊原は『直ぐに逝くので待ってなさい!』と謂い電話を切った 少し待つと榊原が康太を連れてやって来た 烈は父の姿を見ると走って飛び付いた 「ぎょめん‥‥とぅちゃ‥‥」 榊原は烈を抱き締めて「どうしたのですか?」と問い掛けた 烈は何も謂わず父に縋り付いていた 康太が真矢の傍に逝くと真矢は「ごめんね康太」と謝った 康太は烈の瞳を視た瞬間、総てを納得した 真矢は烈が何処にもいなくて探した事を話した 何かあったら康太に顔向け出来ないと必死に探した事を告げた 巻き込まれたスタッフや監督やADは、撮影が遅れて迷惑顔だった 康太と榊原は監督やスタッフに深々と頭を下げ謝罪した 康太は真矢に「今後は烈を連れて逝くのは止めた方が良いですね、義母さん本当に申し訳なかった」と謝った 真矢は「康太‥‥何時もは烈は本当に良い子で何処へも逝かないのよ」と訴えた 「解ってます、それでも配慮を欠いたのは烈ですので、本人が一番自覚してると想います」 「烈はまだ‥‥4歳よ‥‥何処かへウロチョロして当たり前なのにね‥‥ごめんね康太‥‥ 烈をあまり怒らないでやってね」 真矢は康太に取り成そうと必死に訴えた だが康太は「それは無理です」と一蹴した 「配慮を欠いたのは烈です 解ってるよな?烈」 康太は烈に厳しい声で問い掛けた 「あい!わかってまちゅ!」 烈は答えた その時、烈を連れ出した男が出て来て 「すみません!咳をしていたので外の空気を吸わせようと連れ出したのは俺です」と名乗りを上げたスタッフがいた 康太はそのスタッフに眼を止めるとニャッと嗤った 監督は勝手な事はするな!とスタッフを責めた 他のスタッフも本当に迷惑よね!とその男を責めた 烈は爆笑した 「どいつもこいつも責任の擦り合いか‥‥ 人が腐りすぎておるのを間近で視るのは耐えれんな!」 と嗄れた声で話した その場にいた人間が一斉に動きを止めて思考を停止させた まだ小さな子が‥‥‥ 老人に近い声で話すなんて‥‥‥有り得ない 何が起こったのか理解出来る人間はいなかった 「此処の撮影所のスタッフは大手の人間が下請けに放り投げて働かせているが、的確な指示を出さないから下に逝けば逝く程に不満の塊となる! 常にイライラして空気はピリピリ 大御所の女優のご機嫌を取り、良い雰囲気を出そうとするが、無能な大手が常にズサンな無茶振りをするから、スタッフは辟易となっておる そこへ儂が行方不明となったから、不満が吹き出したのであろう! まぁ儂は時間を少し進めただけで時間の問題ではあったがな! 儂は撮影所に来ぬ方が懸命だと判断した 空気が悪すぎてな血糖値も悪うなったからのぉ!」 ふぉほほほほほ!と烈は嗤った 康太は「血糖値は塩分過多な嗜好の所為だろ!」とボヤいた 康太は姿勢を正すと 「失礼、紹介が遅れました オレは飛鳥井家真贋、飛鳥井康太です そしてそこにいるお子様はオレの六男 烈に御座います 烈は転生者で転生前の記憶も眼も持つ一族の中でも稀代の存在 御子様だと油断すると喉元掻き斬られ絶命する事となるでしょう! まぁこの撮影所は烈が行方不明になろうが、なるまいが不満が爆発するのは時間の問題だったみたいですが‥‥‥ね?」 魂まで盗られそうな瞳で視て嗤った タダモノではない‥‥‥そんな恐怖を掻き立てられた 康太は「宗右衛門、この現場はどうだった?」と問い掛けた 「だめじゃ!二転三転する指示に現場は振り回され、総ての責はADと下請けの撮影会社の責となれば着いて逝く気もなくなるであろうて! 漢の気概を持つ者などおらぬ小物故、仕方あるまいとは想うが‥‥人の醜さが出過ぎて食傷気味じゃ!」 「なら時間の問題だっんじゃねぇかよ?」 「だからそう申しておるではないか!」 撮影のスタッフやADや監督はドキッとなった 烈が謂っているのは本当の事だったからだ‥‥ だがまだ4歳の、しかも撮影所に来たばかりの御子様に謂われる訳には行かなかった 監督は「我等は常に俳優の方々に快く仕事をして戴ける為に努力は惜しまないで来ました!」と反論した 「それは建前じゃ! 現実は政府と同様、二転三転コロコロ変わる指示に辟易しておる!」 監督はグッと言葉に詰まった 「何にしても、これ以上はオレらは口出しは禁物だ! 烈を連れ還るので、義母さんは撮影を続けて下さい」 「康太‥‥烈を怒らないでやってね」 「それは出来ません! 義母さんは心配する事なく撮影の事だけ考えて下さい」 「康太‥‥」 「今後は烈は連れ歩かなくても大丈夫ですから!」 「それは嫌よ!私は孫の為になるならば、今後も烈を連れ歩くつもりです 清四郎も同じ考えよ!」 「義母さん‥‥それは今夜にでも話し合いましょう!」 康太はこれ以上は真矢に迷惑が掛かると引く事にした 「榊原真矢の仕事の成功を御祈りしております! くれぐれも下手な事をして足を引っ張らぬ様に努々お忘れなき様にお願い致します!」 そう謂い康太は深々と頭を下げた そして姿勢を正すと烈を榊原に抱き上げさせて撮影所を後にした 真矢は康太達を見送り、気分を立て直した 撮影は仕切り直しされ再開された 不穏な空気は‥‥‥ピリピリとした空気感染を引き起こし、空中に巻き散っていた 引き金さえ惹かれれば何時爆発してもおかしくない空気だけは遺して‥‥‥ 康太達は還って逝った 車に乗ると康太は烈にゴツンっと拳骨を落とした 烈は涙眼になり「いたいにょー!」と堪えていた 烈はゴツンされた頭をサスサス撫でた 「烈、アイツと話したのかよ?」 その問いに嗄れた声が答えた 「話をした、総てはお前へと続ける為の布石だと抜かしおったわ!」 「やはりな!でアイツは何を謂っていたよ?」 「『此れより更にピッチを上げて真贋が望む果てへと突き進むとしようぞ!』との事じゃ! アイツは遥か昔から飛鳥井を裏切る行為だけはせんかった ただ‥‥遣る事成す事破天荒なだけでな‥‥」 「なら宗右衛門はアイツにどう謂ったのよ?」 「好きに動くがお主の務めみたいなモノであろうて!と謂っておいたぞ!」 「んとに‥‥おめぇは動くと嵐を呼ぶな‥‥‥」 康太はボヤいた 春先に深淵に捕らえられ心配させられた一件もまだ抜けきらぬのに‥‥‥ 「仕方あるまいて、稀代の真贋がおるからな! 嵐を呼ぶのはお主の務めじゃからな!」 宗右衛門は我関せずは口振りで嗤った そして顔が幼くなると烈が「おなかちゅいた!」と訴えた 康太と榊原はファミレスに入り、烈に食事を取らせる事にした 烈にはお子様ランチを頼み、康太と榊原はランチを頼んだ 烈は楽しそうに食事をしていた そうして見れば少し貫禄はあるが子供に見えるのに‥‥ 康太は烈と逢ったであろう男を想い出し 「アイツ若返ってなかった?」とボヤいた 「ぼきゅも!」と烈は楽しそうに手を上げて便乗した 康太は「だな、今はお子様はだもんな!」と笑った 烈は「あーそうそう、うみね、だめだめよ!」とボヤいた 「海?戸浪の三男坊か?」 「そーにゃにょよ!ダメよ!うみは!」 「何処いらへんが?ダメなのよ?」 「あえびゃ、わかりゅにょね!」 烈は口をベタベタにしてお子様ランチを食べていた 烈から紡ぎ出される情報は何時だって正確だった 「なら一度海に逢わねぇとな‥‥」 康太はそう呟いた 後に海に逢い烈の言葉の意味を知る事となるだが‥‥拗れた難解に康太は想いを巡らせていた 飛鳥井に帰宅して応接間で子供達とワン達と遊んでいると、真矢と清四郎が飛鳥井を訪ねて来た 真矢の顔は真剣で、清四郎も真剣な面持ちをしていた 康太は清四郎に「夕飯は済みました?」と問い掛けた 「まだです、それよりも今後の話をしましょう!」 清四郎は妻から聞いた事について話し合いに飛鳥井を訪ねて来たのが解った 康太は「子供達もまだなので、夕飯を食べてからで良いですか?」と謂うと清四郎は了解した 夕食を食べ終わると康太と榊原は子供達を連れて応接間に向かった 少し遅れて真矢と清四郎も応接間にやって来た 真矢と清四郎はソファーに座ると康太は 「今後は烈は連れ歩かなくて大丈夫です」と切り出した 真矢は「嫌よ、私は烈を連れ逝きたいの!」と答えた 清四郎も「私も烈を連れて逝きたいので、嫌です!」と答えた 康太は烈を見た 烈は「もうだいじょうびよ!」と答えた 「逝かなくて大丈夫と謂う事か?」 「そーにゃにょよ!」 烈はキッパリと謂った 「義母さん、烈は転生者です 今日、その声を聞いたと想われますが‥‥ 烈はただの子ではありません 人の裏と表を瞬時に見破る“眼”を持つ者です 人の潜在意識を見破って暴き出すのです オレでも瞬時には見破れない微妙な闇を見抜くのは宗右衛門の眼があればこそです 宗右衛門は烈の意識と共に在り、烈で在り宗右衛門でも在るのです 普通の子供ではない‥それが今回解った筈です!」 真矢は烈の頭を撫でて静かに話し始めた 「今回の撮影はね、烈が謂った通り本当に‥‥ピリピリとしていたの‥‥ 感染対策も撮影も下請けに放り投げしてる癖に口だけは出してくる そんな理不尽さが在ってね‥‥‥私は気が滅入っていたの 烈はそんな私の心の内を知って、共に着いて来てくれていたのです 烈を連れて歩くと謂う名目で、私は烈に救われていたのです 落ち込むと烈は直ぐに声を掛けてくれる ラインの文で私の精神状態を詠んで、迎えに逝くね!謂ってくれていたのです 今回は本当に‥‥‥私の所為で‥‥ごめんなさいね烈‥‥」 真矢は泣きながら烈に謝った 烈はポケットからハンカチを出すと真矢の涙を拭いた 流生が祖母に抱き着くと、音弥と翔が真矢に抱き着いた 太陽と大空は清四郎に抱き着いていた 清四郎は「本当に良い子達です‥」と謂い太陽と大空の頭を撫でた 康太は「義母さん‥‥少し休まれたらどうですか?疲れた顔をしています 烈が心配をかけ本当に申し訳なかったです」と謝罪した 真矢は本当に疲れていた 気力だけで立っている状態だった 烈が真矢の耳元で何やら呟くと、真矢はバタッと倒れた 康太は烈に「眠らせたのか?」と問い掛けた 烈は頷いた そして嗄れた声で「限界はとうに越えておろう!医者に見せるがよい」と答えた 榊原は久遠医師に電話を掛けた 久遠は直ぐに逝くと約束してくれ電話を切った 暫くすると飛鳥井のインターフォンが鳴らされた 慎一は久遠を出迎えに逝った 応接間に入って来た久遠はソファーに寝ている真矢に眼を止め 「患者は榊原真矢か?」と問い掛けた 「そうです、見てやって下さい」と康太が答えた 久遠は真矢の横に座っている烈を撫で 「食事制限は守ってるか?」と問い掛けた 「まもっちぇりゅ!」 「そうか、偉いな あのままなら大人になったら、体躯に色んな管を繋がれなきゃ生きられない事も有り得たからな そんなのは嫌だろ?」 烈は頷いた 「だから今から健康な状態を保つんだ! お前はちゃんと出来る子だからな、頑張ろうな!」 「あい!せんせー」 久遠は烈の頭を撫でて「偉いぞ!」と誉めた その間も真矢の腕に血圧計を巻き付けて数値を図ったりしていた 「この前の検査の時、胃潰瘍の疑いがあると謂いましたね? 明日、検査に来て下さい! 最近食べてないのか、日に日に顔色も悪くなるし、この人は精神状態がモロに体躯に偏重を来すタイプだならな 食べない悩むが続くとそうなる! 少しだけ体躯を整えた方が良いと想う 検査の結果如何によっては入院も覚悟しておいて下さい」 久遠は真矢の手に点滴を打つって処置をした 清四郎は此処まで妻が追い詰められていたとは‥‥とショックを隠せなかった 康太は携帯を取り出すと電話を掛けた 「あ、オレだけど、真矢さんの事で話がある」 『康太!解りました、お話を聞きます! 飛鳥井へ逝くので待ってて下さい!』 「電話でも良いけど?」 『いえいえ、君からの用は直接聞かねばなりません! 少し待ってて下され!』 一方的に電話を切られ康太は慎一に 「相賀が来るわ!」と告げた 暫くすると相賀が飛鳥井を訪ねて来た 応接間に通された相賀は、点滴を打つ真矢の姿に 「どうされたのですか?」と尋ねた 康太は撮影所の経緯を話した 相賀は撮影の状態はマネージャーから聞き及んでいたが、これ程までか‥‥‥と驚いていた 相賀は真矢を撮影から外すのは容易いが‥‥それを女優である真矢が了承はしないだろう‥と想った 「康太、どうしたら良いですか?」 相賀は困り果てて康太に問い掛けた 「宗右衛門が、火の粉を撒き散らして来たからな、一触即発となるのは時間の問題だ 要は、爆発した後の問題となるだろう」 康太の言葉に聞き慣れぬ名前を聞き相賀は 「宗右衛門殿とは?」と問い掛けた 「あぁ、相賀は知らなかったな 宗右衛門って謂うのは烈が転生する前の名前だ 烈は転生者だからな、転生前の記憶もあるし眼も在る存在なんだよ!」 相賀は言葉を失った 兄弟の中でも貫禄はあるとは想っていたが、転生者だとは‥‥‥ 康太は相賀の戸惑いは置き去りにして 「何で彼処まで撮影スタッフが拗れているんだよ?」と問い掛けた 相賀は事情を話した 「新型肺炎の影響で規模を縮小したり倒産の憂き目に遭っているのは何も企業だけではないのです 芸能界も撮影会社が規模を縮小したり不渡りを出したり‥‥先の詠めない状態になっているのです‥‥ 大口の仕事だと船に乗ってみれば、上がかなりの資金をピンハネされ、下には赤字の撮影を余儀なくさせる 真矢の行っていた撮影も‥‥そんな感じでした まぁ今、感染リスク対策なるものに人員を取られ手が足りないと謂う最大限の悩みもあります そんな中、撮影が始まり‥‥色んな影響が燻り‥‥危惧していた所です そうか、真矢さんはそんなに心痛だったのですね でも彼女は女優ですから‥‥‥下りないでしょう ならば対策を講じねばなりませんね」 「爆発してから考えても大丈夫だろ?」 「爆発‥‥それは何なんですか?」 「人の心は比重を遥かに越えると爆発する その頃合いなんだよ相賀‥‥」 「ならば‥‥‥真矢は入院させましょう! 真矢は主役ではないので、撮影を一週間位休んだとしても大した影響は出ないでしょう‥‥」 「だな、そう言う事で久遠、義母さんを入院させてくれ! 後、診断書も書いて相賀に渡してくれ!」 康太が謂うと烈が嗤って 「真矢がいなくなれば俳優陣は一気に瓦解する 撮影所での精神的支柱は真矢だったからな!」 嗄れた声で話をした 相賀は烈を唖然とした顔で見ていた 久遠は烈の頭をゴツンと拳骨で叩いて 「塩分濃いめが好きな御仁は消えて下され!」と文句を着けた 烈は頭をサスサスしながら「きょうはたたかれるひら‥‥」とボヤいた 翔は烈を撫でていた 流生も烈を抱き締めていた 太陽と大空は烈の前に出て、もう手は出させないぞ!と警戒していた 音弥は「いたいのいたいの、とんでけ!」と烈を慰めていた この兄弟の絆は本当に強い 久遠は「やれやれ!兄弟で来られたら負けるしかねぇわな!」と笑った 流生は「れつ‥‥せんべーたくさんたべたいの、がまんしてるのね‥‥‥かわいそうよ」と久遠に訴えた 「今堪えねぇと大人になったら大変なんだ! お前達も烈を支えてやると良い!」 翔が「せんせー、わかってるよ」と答えた 「良い子だ!特別に次から甘い薬の処方を出してやろう!」 久遠の言葉に翔は苦くて不味い薬は‥‥ひょっとして久遠の意地悪なのか?と想った 「いままで‥‥‥わざとなの?」 「わざとじゃねぇぞ! 今までの状態では、その薬しか出せなかったんだ! 症状が安定すればお子様の大好きな薬に変える事も可能だと謂う事だ!」 「なら、がんばるね!せんせー」 「うしうし!良い子だ」 久遠は忙しそうにカルテに記入しながら、翔や烈にちゃんと答えてやっていた 記入を終えると久遠は首に下げたホットラインのボタンを押した 『院長、どうされました?』 ホットラインを受け取った看護師から緊張が伝わる声がした 「個室の用意を頼む」 久遠はそう謂い運び込む患者の情報を伝えた 『待機しておきますので搬送通路からお連れ下さい』 久遠は電話を切ると立ち上がった 「真矢さんを病院まで連れて来てくれ!」 久遠が謂うと榊原は立ち上がり 「解りました、僕が連れて行きます 先生も僕の車に乗って下さい!」 「俺は歩いて逝けねぇ距離じゃねぇぞ?」 「いえいえ、一緒にお願います! 康太は家にいてください!」 「了解!義母さんを頼むな伊織!」 「ええ、解ってます さぁ父さん逝きますよ!」 榊原は真矢を抱き上げると、清四郎と久遠と共に病院へと向かった 相賀は真矢達を見送って、康太に 「どうしたら良いですか?」と問い掛けた 「一週間の入院を伝えてくれ! ニュースで大々的に流せば周知の事実となるだろうかんな!早急に流してくれ!」 そう謂れ相賀は立ち上がった 「此よりは貴方の想いのままに動きます! では報道陣を使って真矢の入院を大々的に告知して参ります!」 と謂い相賀は飛鳥井を後にした 榊原 真矢は入院した 報道で流れると相賀は会見を開いた 撮影は真矢を抜かしたシーンを撮る為に再開した 燻り続けた不満が爆発するまでの間 康太は翔に初仕事をさせたり 戸浪の三男 海の為に魔界へ逝ったり、忙しく動いていた 烈は康太に着いて歩いていた 次代の真贋の翔と共に烈も連れ歩いていた だが自己紹介させるのは次代の真贋だけで、烈は黙ってそこで視ているだけだった あの子は何か凄い力を持っているから同席させているのだろうか? 皆想った だが烈は子供らしくニコニコと人を視ているだけだった 少し我が儘を謂い、気儘に動く子供らしさに人は普通の子なのだと納得し気を抜く それこそが烈の狙いだと知らずに、人は何も持たない子の前では無防備になる 雑用を済ませつつ白馬に金龍達を招き入れる日となった 魔界から金龍と黒龍と黄龍と白龍、雅龍と夏海も共に来ていた その横に天照大御神と建御雷神も立っていた 夏海は懐かしい人の世に辺りをキョロキョロと見渡していた 康太が榊原と共にやって来ると金龍は深々と頭を下げた 「我が弟、黄龍の為に‥‥骨を折って下さってありがとうございました」と礼意を伝えた 康太は子供を二人連れて来ていた 金龍は「その子は?」と問い掛けた 「この子は次代の真贋と斯波宗右衛門の転生者だ! 見届ける為に同席させる」 二人はキリッとした顔で立っていた 戸浪が妻と海と煌星を連れてやって来る頃までには、準備は整えられていた 黄龍は戸浪達を眼にして 「我が息子 白竜の子孫に御座いますか?」と戸浪達を視て問い掛けた 「そうだ、お前の息子が人の世に渡り海神の真祖となった それらの子は海を護り海と共に生涯を終えた その中の一人の海神が竜宮城に仕え、その後戸浪に仕えた そこの海は始祖返りになる」 と説明した 黄龍は感激で胸が一杯になった 話し合う為に白馬の別邸へと向かう 榊原は別邸のドアを開けて、皆を招き入れると呪文を唱えた 外部の干渉は一切避ける為に固有結界を張る 康太は金龍と戸浪達を応接間に招き入れ、ソファーに座った 慎一が皆の前にお茶とお菓子を置くと、応接間を後にした 康太は戸浪に金龍達を紹介した 「此方の方々は魔界から来られた方々達です! 左から我が父 建御雷神、我が母 天照大御神 その横からは龍族の長 金龍 オレの横に座っているのは次代の長の黒龍 現長の弟、黄龍とその妻の白龍、そしてその息子の雅龍とその妻の夏海だ」 雅龍と夏海は懐かしそうに成長した我が子を視ていた 大きくなった 本当に大きくなった‥‥‥ こんなにも雅龍に似て育っていたのね‥‥ 夏海は目頭を押さえた 雅龍はそっと妻の肩を抱き締めた 康太はニャッと嗤うと 「さぁ龍族最高位の存在を呼んでやったんだ! オレの青龍には龍族だって文句は謂えはしない で、海、お前は高々海神の始祖返しだと謂うのに、何を偉そうにふんぞり返っているんだ?」 康太が謂うと海は康太を睨み付けた 黄龍と白龍は海の中に確かに我が息子の気配を感じて‥‥海を視ていた 人の世に渡ると聞いた時、反対をした 人の世の時間の流れは確実に龍族の寿命を縮めるだろう 人よりは長く生きたって‥‥‥ 無限の時間が在る訳ではない だが白竜は『誰かが人の世に渡って海の平穏を願わねばならないのなら、私は人の世に渡り子孫を作ります そしたら‥‥もう龍族から海神を出さなくても済みます‥‥ だから私は逝きます‥‥親不孝をお許しください‥‥』そう謂い人の世に渡った 以来、魔界の龍族から海神を出す事はなくなった だが愛する息子は‥‥‥人の世で海の泡となり消えた 愛した息子だった 良く出来た息子だった だから両親は悲しみに暮れ‥‥‥雅龍の絶望を知るのが遅すぎた‥‥ 雅龍は人の世に渡り‥‥両親はずっと悔やんで過ごしていた もう悔やみたくはないから黄龍と白龍は、我が息子の子孫に逢いに来たのだった 海は黄龍と白龍を睨み付け 『何をしに来た?龍族の者よ!』と唸った その声は海のモノではなかった 康太は「お前はオレと約束しなかったか?絶対に煌星を守ると? その約束が不履行となったから、口を出す為に来て貰ったんだよ!」と吐き捨てた 『今更来た所で真祖は海の泡となっておる!』 海の言葉に白龍は黄龍の胸に顔を埋めた 雅龍は哀しそうな瞳で海と煌星を視ていた 烈が立ち上がるとツカツカと海の前まで行き‥‥ 海を殴り飛ばした 何処にその力が在るのか? 海は吹き飛んだ 「童!それ以上は眼に余る、本題を切り出されよ!」 烈が凄んだ! その声は嗄れ子供の声ではなかった 「れちゅ‥‥」 海は‥‥あまりの迫力に毒気を抜かれていた 「儂は斯波宗右衛門、お忘れか?戸浪の守護龍よ?」 烈の言葉に海はハッとなり始祖の記憶を呼び覚ました 「斯波宗右衛門殿‥‥‥そうであった‥‥済まぬ」 海の声も大人びた声になっていた 「白龍が両親に罪はなかろう! 何故に敢えて傷つける言葉を謂われるのか?」 「済まなかった‥‥本当は‥‥謂うべきではなかった‥‥」 海は深々と頭を下げた 「聞かせるがよい!始祖の龍、白竜の子よ!」 そう言うと烈は翔の隣の席に座った 「神祖の龍が故郷に還りたい‥‥と願う故‥‥青龍殿を使えば逢えるのではないかと‥‥無茶を致しました」 海は泣いていた 大人びた声で泣いて訴えていた 黄龍は立ち上がり‥‥ 「白竜は‥‥冥府に渡ったのではないのですか?」と問い掛けた 神々の魂は冥府に渡り眠りに着く 黄龍達は白竜も冥府に渡ったモノだと想っていた 「神祖の龍は海の泡となり消えた それは嘘ではない、海と同化する様に消えたのじゃ! それこそが神祖の務めだと‥‥覚悟を決めておった だが‥‥煌星が戸浪に来て少し経った頃、神祖はやはり間違いであった‥‥と嘆かれた 父や母に逢いたい 煌星を視ていると弟を思い出させる‥‥ すると想いが募って堪らなくなるのじゃ‥と泣かれた 還りたいなら還してやりたい‥‥だが出来ずにいたら‥‥宗右衛門殿が協力すると申し出て下された 経緯は以上じゃ、飛鳥井の真贋よ、無礼をお許し下され!」 海は深々と頭を下げた 康太は「烈を視たから解ってるから謝らなくて良い!それよりも逢わせてやれよ海 その為に演技してまでオレに龍族を呼び寄せさせたんだろ?」と謂った 海は康太に深々と頭を下げると黄龍の前に行った そして手から宝珠を取り出すと黄龍に差し出した 「此れは真祖の白竜の宝珠に御座います 肉体は等に海の一部となり消えた 我が絶対に逢わせてやると約束すると、神祖の龍は‥‥宝珠を我に持たせました これを‥‥貴方達の息子の白竜の宝珠を受け取って下さい」 と謂い宝珠を掌の乗せて差し出した 黄龍は海の掌から宝珠を受け取ると胸に抱き涙した 「宝珠を出して下され!」 と海は謂うと、黄龍は掌を開いて宝珠を見せた 海は親指を噛み切ると流れる血を宝珠の向けて垂らした 「白竜よ、その想いをご両親に伝えて下され!」 そう言うと血塗られた宝珠はピカッと光った 宝珠の中には‥‥‥人の世に渡った時の姿のままの白竜がいた 『親父殿‥‥母上‥‥親不孝をお許しください‥‥』 白竜はそう謂い泣いていた 黄龍は我が子に 「お前が還りたいと謂うならば、魔界へ還ろうぞ!」と涙ながらに謂った 白龍も我が子に 「白竜‥‥一緒に帰りましょうね」と涙ながらに訴えた 白竜は雅龍を見て 『雅龍ごめんな‥‥』と謝った 雅龍は「兄貴!」と叫んだ 謂いたい事なら沢山あるのに‥‥‥ 何も言えず涙が溢れた 『可愛い奥さんを貰ったんだな お前の子が戸浪に来て‥‥私は‥‥故郷や家族に逢いたくて仕方がなくなった 本当に煌星は御主に似ておるな‥‥ お前の気配を感じて‥煌星の中に故郷や家族を感じると堪らなくなった‥‥ 還りたいと想ってしまったのだ‥‥ 悔いなどないと消えたのに‥‥還りたいと想ってしまったのだ‥‥』 白竜は泣きながらそう言った 雅龍も泣いていた 康太は海の傷の手当てをして抱き上げた 「始祖の龍よ! 神祖の龍は‥‥還ってもよいのか?」 「故郷へ還してあげて下され! 後は我等が力を合わせて海を護ります 今世は竜宮の者も傍にいてくれる そして着実に神祖の遺した子孫が海を護る事となる だからもう‥‥還られてよいのじゃ!」 「この為の演技だったのか?」 「それは御主が一番視ておったのであろう 今回は我の我が儘に付き合って下さり、本当に助かり申した‥‥」 「ならば此れからも戸浪を守護されるか?」 「我等神祖の子孫は世界中に広まり、守護を持つ者や海を護る者へと分かれたが、想いは一つ 海を護る為にこそ在る、それこそが神祖の願いであるからな!」 「なれば総ての想いを飛鳥井家 現真贋がお引き受け致します!」 康太はそう謂い深々と頭を下げた 「頼む‥‥我等子孫の想いは一つ 神祖の願う場所へ送り出す事のみ! お頼み申し上げます!」 海はそう言うと体躯の力が抜けた様にその場に倒れた 康太は海の崩れる体躯を抱き止めて、ソファーに寝かせた 康太は戸浪に向き直ると 「これは神祖の願いを叶える為に海と煌星と烈が結託して起こした事でもあるんだよ」と謂った 戸浪は煌星を見ると、煌星は悪ガキみたいな顔をして笑っていた 康太は「善きにしろ悪しきにしろ、この御子様は台風を起こす! 台風の目の中にいるのは‥‥済まねぇ、オレの子の烈でも在る コイツ等は絶対の絆で結ばれた腐れ縁だかんな‥‥今後も手を焼く事はある」 「構いません、海と煌星が仲良くしていてくれるなら‥‥‥私達はそれだけで満足なんです」 今回仲違いした光景を見せられ胸を痛めた 二人は戸浪の家で暮らす様になってから一度も喧嘩などした事がなかったからだ! 戸浪は「宴会を開きましょう!その為に買い込んで来たのです!」と嬉しそうに謂うと 康太と榊原と共に応接間を後にした 沙羅は、天照大御神と建御雷神の二人に 「宴会のお手伝いして下さらないかしら?」と問い掛けた 天照大御神は笑って「妾に出来ることなれば!」と夫二人立ち上がり応接間を出て逝った 金龍と黒龍も「親父殿、我等も宴会のお手伝いをしないと炎帝に蹴りあげられるぜ!」と謂い応接間を出て逝った 黄龍と白龍は「ならば我等は静かな場所で息子と語り合いますか!」と応接間を出て逝った 応接間には雅龍と夏海と煌星だけが残された 雅龍は言葉が出て来なかった 夏海も‥‥‥我が子に逢えた嬉しさは在るが‥‥ ‥‥煌星を混乱させる様な事は避けたかった 雅龍は立ち上がろうとした すると煌星が大人びた声で「今暫く話しませんか?」と声を掛けてきた 煌星は笑って「僕は全部知ってます、そして今の僕は‥‥龍に近くなっているので、ちゃんと話せます」と謂った 煌星の瞳は雅龍の様に金色で爬虫類の様な瞳をしていた 龍族の子は蛇の姿のままでも、産まれて直ぐに話す事が出来ていた 神域に在るから出来る事だった 夏海は恐る恐る我が子の頬に手を掛けた 「煌星‥‥元気だった?」 「はい。僕は幸せです なので心配しなくても大丈夫です 戸浪の両親は我が子と隔たりなく育ててくれています 海はそれに僻む事なく、僕を優先して大切にしてくれます 烈と謂う転生者の友達もいます 僕は人の世を謳歌すべく生きて逝きます そして人の世の生を終えたら魔界に逝きます その時、やっと僕は貴方の子になれます」 「煌星‥‥‥ごめんね」 夏海は泣いていた 「母さん、僕の星を正しく配置してくれたから、逝ける道だから‥‥悔やまないで下さい 悔やまれたら戸浪で生きる僕が哀れな子になってしまうじゃないですか!」 「ごめんね‥‥ごめんね煌星」 「父さん、僕は貴方に似て‥‥大人になったら貴方の様に愛する人を見付けたら大切に大切に愛し抜きます! 貴方の子ですから‥‥」 雅龍は煌星を抱き締めた 「我の愛すべき子よ」 父はそうやって何時も抱き上げてキスをしてくれた 決して忘れない幼き頃の想い出‥‥ 僕は貴方の子に産まれて‥‥‥ 本当に幸せでした 一緒に暮らせなかったけど‥‥ 自分の中のDNAが貴方の子だと教えるのです 雅龍は我が子をその腕に抱き締めた 幼き頃より育った我が子が‥‥そこに在った 雅龍は手を伸ばし夏海を引き寄せると、夏海と煌星を強く強く抱き締めた 煌星は深く瞳を閉じると‥‥雅龍と夏海から離れた その瞳は黒く‥‥普通の瞳になっていた 煌星はソファーに座って様子を見守ってくれていた烈に近寄った 海も目が醒めて、烈の隣に座っていた 烈は「もういいにょ?」と問い掛けると煌星は笑って「うん!」と答えた 海は「まだだいじょびよ?」と謂うと 「またあうきゃら、らいじょうび!」と謂った 烈は「それもそーねぇ!」と笑うと 海は「あまえていいんらよ?」と心配して謂った 烈は「うみちゃ、うまかったにょね!」と親指を立てると 「ぎゃんびゃったもん!」と謂った 烈は海の頭を撫でた すると煌星は「ぼくは?ねぇぼくは?」と烈に問い掛けた 「こーちゃもぎゃんびゃったよ!」 烈はえらい!えらい!と頭を撫でた 海と煌星は烈に抱き着いた 子供らしい顔で三人は笑っていた そこへ康太がやって来て、悪ガキ達に 「夕飯だぞ!」と告げた 三人は「「「やった!」」」と喜んで客間の方へ走って逝った 康太は夏海と雅龍に「話は出来たのかよ?」と問い掛けた 夏海は泣いて頷いていた 雅龍は「ありがとう炎帝!」と感謝の言葉を述べた 「烈を筆頭に、んとに悪ガキ連中だかんな‥‥手を焼くけど、あの三人はこれからも、ああやって力を合わせて生きて逝くだろう!」 「烈ちゃんって真贋のお子?」 夏海は問い掛けた 「オレの六男だ」 「良い子ね 本当に煌星が愛されてて‥‥良かった 戸浪さんが自分の子より愛してくれてて良かった」 分け隔てなく愛されたからこそ、真っ直ぐな瞳をするのが良く解る 戸浪は煌星を抱っこして「康太、もう宴会に突入してますよ!」と告げに来た 煌星は父の首に腕を回して甘えていた 海は父の横に立ち煌星を見守っていた 本当に大切にされてるのが解って夏海は嬉しく想った 康太と共に夏海と雅龍が客間に向かうと、そこは‥‥‥ 既に酒好きな建御雷神と金龍とが盛り上げて飲みまくっていた 黄龍と白龍も宴会に加わり、嬉しそうにお酒を飲んでいた 宴会は夜中を過ぎて更に盛り上がり、夜通し笑い声が響いていた

ともだちにシェアしよう!