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第22話 あまねく音 ②

円城寺貴正がコンサートの事を聞き付けて立会人として名乗りを上げると告げた 康太は後悔するから止めとけ!と謂ったが、円城寺は一歩も引かず参加する事になった 円城寺を皮切りに東都新聞の東城祥人が立会人に名乗りを上げ、ついでに今枝に特集を組ませてリポートさせると申し出て来た 康太は雑誌に載せるのは断った コンサートを見に来てくれた人にだけ、二人の想いが伝われば良い‥‥と謂った そしたら東城は雑誌に載せるのではなく、二人にプレゼントする為に今枝をステージに上げてくれと謂った 康太はそれを了承した 宮瀬那智と佐々木蔵之介 は協賛と言うカタチで協力するから、関係者席で見届けたいと謂って来た 脇田誠一は家族で逝くから関係者席に招いてと謂って来た 蔵持善之助も関わる業者の便宜をはかって貰える様にするから関係者席を用意してくれと謂って来た 物事が大きくなる‥‥ 会社ではこの話が持ち切りで、栗田と恵太、陣内と榮倉が関係者席で見届けたいと申し出た 城田、愛染、瀬能も参加を希望した どんどん人が増えて逝く状態だった そんな中、着実にコンサートに向けて日々は積み重ねられてきた 隼人と音弥は二人で歌う曲目を何度も話し合い決めた そして日々レッスン 流生達、兄弟は音弥が心配でずっとそのレッスンに付き合っていた するとレッスンを担当する音楽家 東雲雨情が 「兄弟全員出たらどうですか?」と提案した 兄弟がいると音弥は生き生き歌っていた そして烈との掛け合いの歌は雨情を笑わせて止まらなかった この掛け合いの歌も取り入れるつもりだった ぶっつけ本番で好きに歌わせるつもりだった 烈は堂に入って貫禄があった その顔は榊 清四郎を凝縮したかの様な面影もあった 清四郎は飛鳥井を名乗っているから、血の繋がりが似させているかと想った だが烈は「じぃたんはとぅちゃんらから!にりゅのあたりまえらもん!」と謂ってのけ‥‥雨情は益々混乱した 混乱した雨情に説明したのは一生だった 「太陽と大空と烈は清四郎さんと真矢さんのお子だ! あの夫婦は息子の為に子を成して、康太に子を託したんだよ」 それで納得だった 太陽は榊原 笙に酷似して 大空は榊原に酷似していた 烈は榊 清四郎に酷似していた 総ては親子の面影を遺していたと謂う事になるのだ 雨情には親はいなかった 施設で育った雨情の才を買って、東雲静夜が引き取り育てたとされていた 静夜と謂う男は‥‥‥親にはなれぬ類いの男で、師匠となった男の元で雨情は音楽だけをして生活して来た 生まれ持った才能は静夜を羨ませ狂わせて逝った 愛人の様に求められ‥‥奴隷の様に束縛され過ごした だが静夜が若くして投身自殺によってこの世を去った事によって‥‥雨情は静夜から解放された 総てから解放されたが、束縛をある日突然解かれたと謂っても、どう生きて良いか解らなく‥‥‥そして雨情は生きる気力も失っていた 死に場所をもとめて彷徨って富士の樹海へ辿り着いたと本人は想っていた だがそこは樹海近くであるが、樹海と謂う程に迷える程の木々はなかった だが雨情には解らなかったのだった 世間知らずな雨情は死ぬ気満々で山道へと進んで行った フラフラと迷いこんだのはキャンプ場で、キャンプしていた康太の飯盒炊飯に倒れ込んで‥‥‥康太の夕飯を吹き飛ばし食べられなくしてしまった 当然雨情は火傷した‥‥ ご飯が食べられなかった康太は、食べ物の恨みだと雨情を確保した 康太は雨情を思慮ある男で妻を亡くしたばかりの村田昌徳と言う音楽家に託した 以来二人は名実共にパートナーとなり康太に恩を感じて生きていた 康太は恩なんて感じなくて良い!食い物の恨みだ!とは謂うが何時か康太の為に‥‥が雨情の望みだった だから康太に協力出来るのが嬉しくて仕方がなかった 村田もレッスンに参戦し子供達と楽しく歌を歌っていた とても楽しい時間を過ごす事が出来て二人はとても幸せそうに笑っていた 雨情は康太に「コンサートの成功を祈っています」と謂った 「ありがとう雨情」 「当然、僕と昌徳さんもレッスンの成果を見届ける義務があるので、コンサートの末端席でも良いので加えて下さいね!」と笑顔でコンサートの参加を口にした 康太は笑って 「是非、見届けてやっくれ!」と謂った 人々の想いと、心配を乗せてコンサート当日はやって来た コンサート会場には錚々たる面々が集まって来て‥‥‥会場は一時騒然となった 黒塗りの車が何台も何台も関係者入口に入って逝く 会場のスタッフには緊張が走った 一条隼人は「マツコの部屋」で一度だけコンサートを開く事を告げた 一夜限りの限定コンサートを開く事を告げた コンサートは七夕の夜に決まった 7月7日 年に一度、彦星と織姫が逢える特別な日 生涯一度きりの親子の共演が実現する事となった 七夕当日 音弥は嬉しそうに歌を口ずさんでいた 何時もの様に烈が合いの手を入れていた 「きんちょうしてるの♪」 「はやちょ!♪」 「ないてもとうじつ♪」 「ほんびゃん!♪」 その歌に隼人は 「オレ様は緊張なんかしてないのだ!」と怒って謂った 康太は楽しげに歌う兄弟を嬉しそうに見ていた コンサートには兄弟全員出る事になった 隼人はタ白いキシードを着ていた 音弥も白いタキシードを着ていた 流生達は黒いタキシードを着ていた 流生は隼人に抱き着くと「だいじょうび?はやと?」と心配していた 「大丈夫なのだ流生」 太陽も「はやと、ひとのじかくのよ!」と掌に人の字を書くように謂った 大空と翔は黙って隼人の手を強く握り締めた 烈は「にーにー、あげゆ!」とポケットからのど飴の袋を取り出し音弥に渡した 「れつ、だいじょうぶよ!」 「にーにーには、れちゅついてりゅる!」 「ありがとうれつ」 頼もしい弟はこうして兄達の為に、一生懸命励まそうとしてくれるのだ 翔は「そばにいるから‥‥」と声をかけた 音弥はニコッと笑った ステージにはオーケストラが本番を前に念入りに音の確認をしていた この日のチケットはかなりの倍率をた叩き出して10分で完売となった 大々的な告知をしていないと言うのに、完売となり有難い幸先となった カメラや報道人は一切シャットアウトしてのコンサートだった その中今枝浩二は記録として遺す為にシャッターを切っていた 安曇貴之がマイクを持って幕の下がった舞台に立つと、皆が一斉に黙って舞台を見た 関係者席100席は名乗りを上げた人々で埋まっていた 真矢と清四郎は壇上に上がって孫を見守る事にした 飛鳥井の家族や笙達は関係者席に座っていた 神楽四季は始まる前から泣いていた お供に連れて来られた佐野春彦は瑛太の横に座って「泣き止んで下さい学長‥‥」と困り果てていた 瑛太は笑っていた 瑛太の横には京香もいた 子供は託児所に預けての参席となった 明日菜も子供は託児所に預けていた 栗田は既に泣いていた 恵太も泣いていて、玲香はハンカチを恵太に渡した 榮倉はお子の成長の早さを噛み締めていた オープニングの合図と共に会場は暗く照明が落された ステージに映像が映し出されると 静まり返った会場に集まった人々は息を飲んだ スクリーンには悲しみに暮れる隼人が映し出されていた 一条隼人の叫び声と‥‥嗚咽紛れの泣き声が映し出された 妻の菜々子を亡くした瞬間の映像だった 隼人はベッドに突っ伏して泣いていた 聞いてる方が辛くなる‥‥泣き声だった そして画面は切り替わる 超未熟児で生まれた音弥の姿が映し出された ナレーションは安曇貴之が入れた 『この映像は一条隼人が最愛の人を亡くした瞬間の彼の姿です 一条隼人の妻は心臓に持病を持っていました それでも親の愛を知らずに育った隼人の為に、彼女は自分の命と引き替えに‥‥出産をした その時生まれた子が『音弥』と言う子です 彼は超未熟児として産まれ、幾度も幾度も生命の危機を乗り越えて日々育って行きました』 映像は菜々子を亡くして憔悴しきった隼人を写し出した 『隼人は生きていく日々に絶望して、日々の辛さに妻の所へ行ってやろうと、死に場所を探して彷徨い‥‥‥ 雪に埋まって死にそうな隼人を、彼の友人が助けた‥‥ 隼人は生きる為に還って逝く決意をした それは彼が高校3年の時でした」 映像は隼人が卒業式の映像が写し出されていた 「菜々子との間に出来た子は‥‥‥半年保育器に入って、兄弟の中で一番遅く飛鳥井の家に貰われて行った そして彼は今年、小学校に入学するまでに成長しました」 幕が上がりステージのライトが灯ると、ステージの上には白いタキシードを着た一条隼人と音弥の姿が在った その後ろには流生達が並び、その横には真矢と清四郎が立っていた 隼人はマイクを持つと、深々と頭を下げた その横で音弥も深々と頭を下げた 「今日は僕のコンサートに来て下って本当にありがとうございました」 「ありがとうございました」 「このコンサートは最初で最期のたった一度だけ‥‥親子で共演するコンサートなんです なので最高の時間を‥‥‥刻みたいと想います」 「がんばろうね!はやと」 音弥はそう言いニコッと笑った ステージ左右にはスクリーンも用意され、ステージの左右には隼人と音弥がそれぞれに映し出されていた 楽曲が流れると二人は歌い出した 音弥は嬉しそうに歌を歌っていた 流生や太陽、大空、翔、烈も加わり、皆で楽しい歌声をステージに響かせた 真矢と清四郎も楽しそうに歌を口ずさんでいた 見ている観客もホッコリするステージだった 楽曲も終盤に入ると隼人と音弥は着替えに向かった ステージの上には榊 清四郎と榊原真矢が留守を任され観客へと話し掛けていた 「留守を頼まれた榊原真矢で御座います 可愛い孫の為にノーギャラで見届ける為に来ました」 真矢が謂うと清四郎も 「同じく着替えの間の留守を護る榊 清四郎です 音弥は私共の孫です この場にいる翔、流生、太陽、大空、烈も私共の孫で御座います 私もノーギャラで孫の為に来ました」と祖父母として見届ける為にステージの上にいると伝えた 流生は「じぃたん!かっこいい!」とマイクを通して謂うと、清四郎は照れた様に笑った その顔は祖父の顔だった 真矢は「あら、私は格好良くないのかしら?」と拗ねる様に謂うと 烈が「ばぁたん きゃっこいい!」と謂った 「烈、ありがとう」 ふふふっと真矢は嬉しそうに笑った 役者としてその場にいるのではない 祖父母としてステージの上にいるのだと、観客は二人の想いに胸が熱くなった 隼人と音弥が着替えから戻って来ると、真矢は 「あら、タキシード脱いじゃったの?」 と笑っていった 「母さん、堅苦しいのは嫌なのだ」 隼人は甘えてそう言った 一条隼人の誰にも見せていない顔だった 二人はこの日の為だけに作ったTシャツを着ていた 真矢は「ならば私達も着替えに逝くわね」と言い孫を連れてステージを下りた 清四郎も「では私も着替えに逝くけど、隼人、音弥‥‥大丈夫かい?」と心配そうに尋ねた 隼人は「大丈夫なのだ義父さん」と甘える様な笑顔を向けた 音弥も「じぃたん、だいじょうぶよ」と答えた 二人は清四郎が舞台から下りると、観客に深々と頭を下げた 隼人は「凄く楽しいのだ‥‥」と観客に謂うと音弥も 「たのしいときは、すぎるのはやいね」と淋しそうに謂った 「そうなのだ‥‥何でこんなに楽しいのに時間は止まってくれないのだろうな」 「あとすこし、がんばろ!はやと」 「頑張るのだ音弥」 二人は残りの歌を精一杯歌った 着替えが終わった真矢と清四郎は流生達を連れて再びステージに上がった 観客席からは割れんばかりの拍手が贈られた 康太が作った歌を皆で歌う この日の為に隼人と一緒に兄弟で、真矢と清四郎とで練習して来たのだ 隼人は「この曲は我が友であり、我が最愛の親でも在る飛鳥井康太がオレ様と音弥の為に作ってくれた歌なのだ!『絆』聞いて下さい」と謂いお辞儀をした 愛しい人よ 愛しい我が子よ 私は決して忘れはしない 愛した日々を 愛された日々を 私の胸に刻んで生きて逝くの 辛い時も苦しい時も 貴方の想いが私を強くする 私は一人じゃない 私はだから前に進むの 忘れないよ 貴方の事は 愛した日々は確かにあった 貴方との子が育つたび 私は嬉しくて泣きそうになるの 支えてくれる友が 護ってくれる家族が 共に生きてくれる友がいる だから進む どんな道でも 悔いのない日々を私は送ると決めた 生きるたびに強く結ばれる絆 断ち切れる事のない 貴方との絆 隼人は立っていられなくなり、崩れる様にしゃがみ込んだ 音弥が隼人を抱き締めた 流生や太陽や大空、そして翔と烈も隼人を抱き締めた 真矢と清四郎も歌いながら隼人を抱き締めた 観客席にいる皆は‥‥その光景を泣きながら見ていた 観客席に嗚咽が響き渡る この曲が最期の歌だった 歌が終わると清四郎は隼人を立ち上がらせた 隼人は自分の足で踏ん張り立っていた 音弥に情けない親だと想われたくないから‥‥ 踏ん張っていた 隼人はマイクを握り締めた 「今日は本当にありがとうございました 最初で最期の親子共演のステージを見届けて下さり、ありがとうございました 音弥は飛鳥井音弥として、この先も生きて生きていきます オレ様は音弥に誇れる兄として、この先も生きて逝くつもりです 音弥を康太に‥‥友に託した日から、オレ様は音弥の父として生きる権利を失った なのに友はオレ様にこんなに素敵な夜をプレゼントしてくれた 本当にありがとう康太‥‥ありがとうオレ様の母さん オレ様はこの日を忘れません そしてこの先も音弥に誇れる兄として 流生達に誇れる兄として、生きて逝くつもりです」 隼人が言い終わると、沸き上がる拍手が贈られた そして次は音弥の番だった 「きょうは ほんとうにありがとうございました ボクはあすかいおとやです このさきも、あすかいおとやとしていきていきます! でも‥‥‥わすれません このからだには‥‥はやととななこのちがうけつがれていることを‥‥‥わすれません」 音弥はそう言い涙を拭った 真矢はそっと音弥を抱き締めた 隼人は「義母さんも七夕の日だから、謂っちゃえば?」と笑ってマイクを差し出した 「そうね、なら謂っちゃおうかしら? 私は我が子が同じ性を持つ者を伴侶に選んだ時、康太が望むならば‥‥子を産んで託そうと決めたのです 我が子の為に‥‥私は子を成し康太に子を託しました 高齢出産はかなり堪えましたが、それでも子を産める幸せな日々を過ごし、今はこの子達の祖母として生きています 悔いはありません! どの子も同じ様に愛すと決めたのです」 真矢はそう言い6人の子を抱き締めた 会場にいた皆は驚き‥‥‥女優としての榊原真矢と謂うよりも、我が子の為に生きている榊原真矢に感動し、共感し‥‥‥泣いていた 私達は我が子の為に、そんな命懸けの出産が出来るかしら? またお腹を痛めた子を、我が子に託す事が出来るかしら? 渡したくないと想ってしまう‥‥ きっと我が子の方が愛しく想ってしまうだろう‥‥‥ なのにステージ上の榊原真矢は6人の子を公平に愛していた 榊 清四郎も同じ様に6人の子を大切に見守っていた 出来る事ではない 考えるだけで観客は泣けて‥‥‥ 隼人の想いと 音弥の想いと 真矢の想いと 清四郎の想いに刹那くなっていた そして何より‥‥ステージの上にいる6人の子が凄いと想った どの子も顔が違うのに兄弟だと言う そしてその兄弟は固い絆で結ばれていた まさに今回の『絆』と言うテーマそのものだと想った 清四郎はマイクを持つと 「真矢、愛してます そして隼人、君も愛してます 翔、流生、音弥、太陽、大空、烈、君達の事も愛してます 我が父 飛鳥井源右衛門がこの場にいたならば‥‥喜んでくれたと想います‥‥」 姿勢を正してそう言った その姿は『熱き想い』の周防玄武その者に映っていた 夫の横に寄り添う様に立つ真矢の姿も内儀その者だと皆は想った そしてラストは、ステージに手を繋いで広がり観客へ深々と頭を下げた 二時間ちょいのコンサートは終わりを告げた アンコールは用意されていないのは、始めに伝えていたからコンサートが終わると皆、帰り支度を始めた 泣いて立てない人もいた 余韻に浸って瞳を閉じている人もいた 皆、家路に着いた時、何を想うのだろう その時、幕が閉じたステージから隼人の声だけが響いた 『どうか皆さん 愛する人がいるならば、愛する人を抱き締めてあげて下さい その手の中の幸せは当たり前の日々ではない事を忘れないで下さい 愛する人がいない人は‥‥何時か愛する人を作って下さい 人は一人では生きていけない訳ではないが‥‥ 愛する想いが強くさせる事だけは忘れないで下さい 今日は本当にありがとうございました 気を付けて還って下さい』 家路へ着く多くの人が、このコンサートを忘れないだろう 榊原真矢と榊 清四郎の生き様を忘れないだろう そして一条隼人の生き様を忘れないだろう 一条隼人はこの先も我が子と呼べず生きて逝くのだろう‥‥‥ 刹那かった 一条隼人を大人の顔にさせたのは、そんな事情があったのかと想うと、やるせなかった 人々の想いを繋ぎ、七夕の夜は過ぎて逝った 楽屋に戻った隼人と音弥、そして清四郎と真矢を出迎えたのは康太だった 「お疲れ様、義母さんと義父さん大丈夫ですか?」 真矢は「大丈夫よ!今宵は飲むからね!ホテルは録ってあるわよね?」と笑って問い掛けた 「はい、ホテルではないですが、取ってあります」 清四郎が「ホテルではないって?」と問い掛けた 「飲むんでしょう? だったらホテルは無理だからな」 あぁ、そう言う事かと清四郎は納得した 音弥は吹っ切れた顔をして母に抱き着いた 「音弥、お疲れ様」 「かあさん‥‥ありがとう」 「オレの愛する我が子の為だかんな 手間隙かけて成功させねぇとな!」 康太はニカッと笑った 楽屋には戸浪を始めとする関係者席に座っていた者達が労いを込めて詰め掛けていた 神楽四季は音弥を抱き締めて号泣していた 「しき、なくな」 音弥は困りきって謂うと佐野が 「御立派でした音弥」と声をかけた 「ボクはかあさんのこだから!」 だから当たり前だと謂った 戸浪、安曇、堂嶋、三木、相賀、須賀達は隼人と音弥を抱き締めて号泣しながら還って逝った 円城寺貴正は遠くから康太を見て、瞳が合うと微笑み‥‥還って逝った 栗田と恵太、城田や瀬能、愛染、中村と綾小路も号泣で中村に至っては泣きすぎてフラフラだった 皆、感動したと口にした そして良いコンサートだったと賛辞を述べて還って逝った 長瀬匡哉と朝陽夫妻も楽屋を訪れていた 言葉もなく康太を抱き締めて‥‥夫妻は還って逝った 楽屋を後にすると、飛鳥井の家族と榊原の家族とは近くにある旅館へと移動した 旅館を貸しきっての宴会へと突入した この日、兵藤もひっそりと見届ける為に来ていた 旅館に移ると兵藤は康太に 「お疲れ様!」と声をかけた 「貴史もお疲れ!」 兵藤は康太に頼まれスタッフ集めに疾走していた 何たってケチな康太の事だから、格安で少しでも安くやりいと謂うから、桜林のOBに一斉に連絡を取り手配をしていたのだった そうして幾人の協力の元、大成功したコンサートとなった 「貴史には今度、改めてお礼をするよ!」 「お前のお礼はある意味怖いから良いよ」 「遠慮すんな!」 「なら有り難く貰っとくさ」 「ささっ!飲めよ!」 康太がお酒を進める 気分良く兵藤は勧められるまま飲んでいた 康太の瞳がキラーンと光るのも知らずに、兵藤は気分良く飲み続け‥‥‥ダウンした 榊原の家族も 飛鳥井の家族も 康太の仲間達も 楽しい話で盛り上がり飲んだ 悲しみも苦しみも 飲み干せば体躯の一部となる だから飛鳥井の家族はどんな時だって宴会に突入させるのだ 明日を生きる為に 未来へと進む為に‥‥ 明日の飛鳥井の礎となる為に‥‥ 七夕の夜は家族の笑い声で更けて逝った 初等科へ通う車の中で音弥は歌を歌っていた 栗栖はその歌を楽しそうに聞いて微笑んで運転をしていた 良かった 栗栖は心からそう想った 栗栖は6人の子を車に乗せて送り迎えをしていた 最初に烈を幼稚舎におくりとどけ、初等科へと5人の兄弟を送り届ける 還りも同じ様にお迎えに行き、兄弟を乗せて家へと送り届ける 幼稚舎までの短い時間だが音弥と烈の歌が、栗栖を和ませていた 「きょうはげつよう♪」 「いきたくにゃいね♪」 「なんだかだるい♪」 「なちゅだね♪」 栗栖は笑っていた 今日も飛鳥井の兄弟は仲良く過ごしていた あまねく音を音弥は紡いで歌を歌っていた

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