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第24話 天翔(あまかける)イカロス ②
電話を切った康太は「今、大阪に誰かいねぇかな?」と思案した
聡一郎は「確か堂嶋正義が地元入りしてましたよ?」とニコッと笑って謂った
「正義か、なら頼むしかねぇな」
今は夜中の2時だと想いつつも、寝てて出ないなら仕方ないと想いつつ‥‥堂嶋に電話を掛けた
ワンコールで堂嶋も電話に出て、康太は今日はワンコールで出る奴ばっかりやんか!と想った
『坊主、要件は何だ?』
「正義に頼みがあるんだよ」
『聞ける事なら聞いてやろう、謂ってみろ!』
「正義んちの近くに最近動物病院が出来たの知ってる?」
『あぁ、知っている
地元のスタッフ達のペットが検診に行ってる病院、八雲動物病院だろ?』
「そこの院長をお前が東京に戻る時、一緒に乗せて来て欲しいんだよ」
「構わない、向こうから来るのか?
俺が迎えに逝くのか?だけ教えろ!」
「何時に家を出るのよ?」
「後少しで出る予定だ
朝には東京に着いてないとならないからな」
「なら正義が出る時間に迎えに行ってくれ!」
『解った、朝飯はお前の所で食っても大丈夫か?』
「おー!構わねぇよ
少し休んで逝くと良い!
遅刻しそうなら唐沢を呼んどいてやるし!」
堂嶋は彼は内閣情報調査室の人間‥‥
遅刻しそうな為だけめ使って良い存在ではないと、苦笑した
『大丈夫です、では此より迎えに逝きます!』
堂嶋との電話を切ると、康太は八雲に「これから迎えに逝くってよ!外に出て待ってろ!」と謂った
『着替え‥‥どうするのよ?』
「んなの一条隼人が何とでもしてくれるさ!」
『‥‥‥それはそれで怖い‥‥』
「なら清四郎さんか笙に頼むさ」
簡単に謂うけど相手は凄い役者ばかりじゃいか!
八雲は謂うのを止めた
『解った、外に出て待つ事にするわ』
八雲は電話を切ると、今着てるジャージ姿のまま外へと向かった
八雲が外に出ると丁度、堂嶋正義の運転する車が横に止まった
「康太の連れて来いと指名する御仁か?」
堂嶋は問い質した
「あぁそうだ!」
堂嶋は車から下りると後部座席のドアを開けた
すると八雲は後部座席に乗り込んだ
堂嶋の車の助手席には堂嶋の弟の幸哉が座っていた
堂嶋は車に乗り込むと車を走らせた
八雲は「八雲弘毅だ、以後お見知り置きを!」と謂った
「俺は堂嶋正義だ、そして横に座っているのは弟の幸哉だ!
うちにもワンがいるから此れから世話になるかも知れない、宜しく頼む!」
「犬?どんな種類だ」
「ホワイトスイスシェパードだ」
「今は一緒じゃないのか?」
「俺は地元が大阪だから、月の半分は大阪
後の半分は横浜で生活をしている
大阪に連れて来た時はまた世話になる」
「ホワイトスイスシェパードか、珍しい犬種の飼い主と謂う事はこの前爪が割れて来られた患畜の飼い主か?」
「あぁ、スタッフの一人が貴方の病院に連れて行ってくれたと聞いている
腕の良い先生だと聞いたから移転中だと謂うのに押し掛けたと聞いている」
「今はどうされているのですか?」
「今は横浜の一ノ瀬先生の所に預かって貰ってます」
「一ノ瀬か、横浜にいる間に逢いに逝くとするか!」
「お知り合いですか?」
「教え子だ、俺は前は東京の大学で教えていたからな」
成る程、堂嶋は納得した
「俺の所のワンは‥‥康太が知人の犬を引き取り、絶やすのは可哀想だと子を増やしたうちの一匹なんだ」
「ボスの子か‥‥」
「ボスをご存知か?」
「一ノ瀬が相談して来たから、ブリーダーを紹介した
その時はまさか‥‥飛鳥井家真贋に関わるとは想ってはいなかったけどな‥‥」
「あ、そうだ、引っ越しは少しは片付きましたか?
引っ越しの手続きや総ての手配をしたのは俺の駒の一人だ」
「百目鬼命?」
「そうだ、康太に頼まれたからな命を動かしたんだ」
「引っ越しはまだ片付かなくて助手が毎日怒りモードでな‥‥
そして無断で出掛けてるから‥‥また怒るだろうな‥‥」
八雲は笑った
堂嶋は苦笑したが、八雲はユーモアのある奴で
、堂嶋や幸哉の知り得ない犬の習性や躾の話などを聞かせてくれた
堂嶋は八雲に「康太の所へ逝くのですよね?」と問い掛けた
「あぁ、また妖怪か何かが怪我したんやろな」
と何でもない風に答えた
堂嶋は「妖怪‥‥本当にいるのですか?」と尋ねた
「あぁ、いたな」
「怖くはないのですか?」
「怖くはない、アイツ等も生在る生き物だからな」
「凄いですね‥‥康太が気に入ってる筈だ」
「俺は金では動かねぇ‥‥だけど怪我した動物なら妖怪だろうが妖精だろうが助けたいと想う
まぁ康太の齎す恩恵ってのは俺にはドテカ過ぎて面食らうばかりだけどな‥‥
どうやったら‥‥俺にビルごと病院をくれるのか?理解出来んけどな‥‥」
「飛鳥井家真贋の瞳には総てが映し出される
君はそれだけの価値があると踏んだのでしょう」
「それは解らねぇ‥‥‥東京の大学を追いやられた俺には分相応だと想うがな」
「‥‥‥今頃‥‥君を陥れた奴等は倍返しにされてると想いますよ‥‥」
「え?‥‥‥それはどういう事だ?」
「名誉の挽回、君は望んでなくとも不正は許せないからな彼は‥‥‥」
「今更‥‥‥前の舞台に上がるつもりはない‥‥」
「それでも、汚名は返上せねば男が廃る
彼はそう言う考えなんですよ!
元の場所に戻る戻らないではないんです
生き様に一片の穢れも許さない!
それが汚名なれば尚更、彼は‥‥‥お天道様の下を恥じて歩くのを許しはしない方ですからね」
「俺は‥‥‥何処でも‥‥患畜がいるなら見る
それだけだ‥‥それ以上の望みなどない
望んでも‥‥‥」
八雲は言葉を飲み込んだ
堂嶋は後は何も謂わず車を走らせた
康太、君には彼の闇が視えているのですか?
ならば‥‥‥救ってあげて下さい‥‥
朝陽が上る頃、堂嶋は横浜の街を走っていた
夜明けは車も空いていて、想ったよりも早く横浜に到着出来た
堂嶋は飛鳥井の家の前で車を停めると電話をした
康太の携帯に出たのに、電話に出たのは慎一だった
『今開けます!』
慎一はそう言うと駐車場のシャッターが開いた
堂嶋は地下駐車場へと車を走らせると、空いてるスペースに車を停めた
堂嶋は車から下りると「康太は?寝てるのか?」と問い掛けた
「伊織が俺に携帯を渡しのです
貴方達が応接間に逝けば康太は起きると想います」
慎一はそう言い堂嶋達を応接間に招き入れた
幸哉は眠そうに歩いていた
慎一は「後で美味しい紅茶を淹れましょう!」と言い幸哉の頭を撫でた
幸哉は嬉しそうに笑って「ありがとう」と謂った
応接間に逝くと、康太は榊原の膝の上に乗って抱き着く様にして寝ていた
榊原は八雲を見ると「ご足労かけましたね」と声を掛けた
榊原が耳元で何かを謂うと康太は目を醒ました
榊原の膝から下りると「時差でな怠くて、すまねぇ寝てたわ」と首をポキポキ鳴らして謂った
八雲は「飯を食わせてくれ!」とご飯をリクエストすると慎一は「此方へ」と八雲を案内した
康太は「正義も幸哉も食って来いよ」と謂うと堂嶋は幸哉と共にキッチンに向かった
それを見送り榊原は「大丈夫ですか?奥さん」と声を掛けた
「大丈夫だ伊織」
「今日は妖精達を探しに逝くのですか?」
「桜の里に顔を出すつもりだ」
「ならば僕も共に逝きます」
「仕事は?」
「君を優先にしなかったら僕は仕事も手に着きません」
「還ったらポンポン手伝うわ!」
「僕の膝の上でお願いしますね」
「おー!任せとけ!」
榊原と康太がイチャイチャとしてると食事を終えた八雲は「患畜は何処よ?」とやって来た
「屋上にいるんだけど、見えるかな?」
「妖怪じゃねぇのか?」
「妖精なんだよ」
「清らかな魂の奴しか見えねぇなら俺は無理かな?」
八雲は自嘲気味にそう言うと、康太は
「おめぇの魂は清らかなだぜ!
まぁ多少、闇に突き飛ばされて捻くれたかも知れねぇけど、お前はちゃんと前を向いてるじゃねぇかよ?」
「‥‥‥俺の何が解るって謂うんだよ!」
八雲は少しだけ心を覗かれた様で、不安に声を荒げた
「オレにはお前の総てが視えるんだよ!
お前がオレの前に来たと謂う事は、お前は分岐点に身を置かれていたって事なんだよ!
お前は牙は折られたが、魂までは売り渡しちゃいねぇ!
オレはお前の魂は綺麗だと想った
だからお前に妖怪の治療を頼んだ
その見返りにお前が望まぬ財を与えた
オレはお前の軌道修正を行わねばならねぇんだ!
それが適材適所 配置する者の役目!
お前は逝くべき場所へ逝く
それだけの事だ!」
魂までは見透かされそうな瞳に射抜かれ、八雲は降参するしかなかった
「ならば患畜‥‥‥嫌、妖精なら何と謂えば良いんだ?」
「お前に取ったら患者なんだ、患者で良いんじゃないか?」
「だな、なら患者を見る
一応の診察と手当ての道具は持って来たが、妖精なら効くか‥‥解らねぇぞ!」
「構わない、オレにとったら藁にも掴まる想いだからな‥‥‥治してやってくれ‥‥頼む」
康太は深々と頭を下げた
八雲は「頭を上げてくれ!オレに‥‥頭を下げないでくれ!」と困り果てて謂った
康太は八雲を屋上に連れて逝こうとした
堂嶋と幸哉も八雲の患者を見たいと謂うから、共に屋上まで向かった
温室のドアを開けると、流生の声が聞こえた
「いたそうらね‥‥」
温室のドアを開けると流生が妖精を撫でていた
流生は母を見ると「かあさん とうさん おはよう」と謂った
康太は流生の傍へ逝くと「おはよう流生」と頭を撫でた
榊原は「視えるのですか?」と問い掛けた
「しんいちくんが、ようせいいるからとおしえてくれたのね」
流生はニコニコと笑って謂った
そして母と父の横に見知らぬ男性を見て、ペコッとお辞儀をした
「はじめまちて、りゅーせーです」
八雲は流生の前にしゃがむと「八雲弘毅だ」と挨拶した
流生の頭をゴツゴツした大きな手が撫でた
流生は嬉しそうに八雲に撫でられていた
八雲は妖精に目をやると、傷付いた妖精達が木々に止まって休んでいた
八雲は立ち上がると怪我した妖精を手に取り診た
「羽根が傷付いてるな‥‥この前妖怪の治療の時、八仙とか謂う御仁に貰った塗り薬が効いてくれると良いけどな
あれから俺も生薬や漢方で薬を作ったから、今回はそれも使って手当てをする」
「治せそうか?」
「どうだろ?小さいし薬が効くかも解らないからな‥‥」
八雲は器用な手付きで、妖精の怪我の治療に当たった
堂嶋と幸哉もその光景をそっと見守っていた
堂嶋はヴォルグに似た子しか見えなかったが、幸哉は羽根の生えた子達も見えていた
幸哉の肩に羽根の生えた妖精が止まると、幸哉は嬉しそうに妖精をそっと撫でた
八雲はピンセットで血を拭い、消毒をして薬を塗った
明らかに腕が折れていたり、足が折れている者は爪楊枝を切って当て木にして固定した
裂けた様な傷の子には、接着剤で傷を引っ付けバンドエイド細く切ったモノを張り付けた
ヴォルグ種の子達は少し大きいから手当ても楽なのか包帯を細く切り裂き巻いた
小さな妖精が手当てが終わると『ありがとう』と礼を謂った
八雲は「傷は必ず治る、だから今は休め!」と言い妖精達を励ました
一匹のヴォルグ種の妖精が八雲の指に抱き着いて離さないでいると、八雲は白衣のポケットにその妖精を入れた
「結構傷付いてるな‥‥俺の見える限りは治療したけど‥‥治療されてない子はいるか?」
「全部治療されてる、ありがとうな八雲」
全部治療されてると聞き八雲はホッ息を吐き出した
流生は八雲に「手伝いする」と手伝いを買って出ると妖精に綺麗なお水と蜂蜜を持って来て食べさせた
八雲は流生の頭を撫でて「偉いな坊主!」と誉めた
流生は嬉しそうに笑っていた
翔が支度をする時間になっても来ない流生を迎えに来た
「りゅー、したくしないとだめだよ」
「あっ、かける、ごめん」
流生は翔に謝った
翔は初対面の八雲の姿を見ると「はじめまして、あすかいかけるです!」とご挨拶をした
八雲は「確りした子達だな、俺は八雲弘毅だ!宜しくな!」と翔に返した
康太は「オレの子は全部で7人いるんだよ!」とすっかり親バカの顔で謂った
八雲は「夜にでも全員に逢わせて貰えるかな?」と康太を見た
「あぁ、夜と謂わず今日は午前中だけだから昼からでも子供に逢わせるぜ!」
「楽しみだな!」
八雲は無類の子供好きだった
流生と翔は温室を後にした
八雲は綺麗な水に少しだけ漢方を混ぜて
「これは薬だ、傷に菌が入らない為に苦いだろうけど飲んでくれ」と謂った
妖精達は八雲に謂われ漢方が混ざったお水を飲み始めた
八雲の回りに妖精達が『ありがとう』と感謝の言葉を投げ掛けじゃれつく
八雲は妖精達を優しい瞳で見ていた
康太は八雲をずっと視ていた
そして榊原に「今夜弥勒に深淵を探らせる」と謂った
「それが良いでしょう!
さぁ、他の子も探しに出るんでしょ?
なら僕達も食事を取って出掛けますよ!
八雲さんは怪我してる子達が増えるかも知れませんが‥‥飛鳥井の家にいて下さると助かります」
榊原は八雲に謂うと八雲は
「その為に横浜にいるんだ!
怪我してる奴は全部連れて来いよ!」と謂った
屋上を後にすると榊原は八雲を慎一に託して着替えに逝った
シャワーを浴びて支度をすると最近新調したスーツに着替えた
榊原は「彼は‥‥頑なですね」と豪快な性格とは裏腹な闇を抱えているのを口にした
「アイツが何を望んでいるのか?
それを知るのは無理だろうからな、今夜久遠の家族を呼んで酔い潰させる、そしたら弥勒に深淵を探らせるつもりだ」
「それが良いでしょう」
榊原とお揃いのスーツに着替えると、榊原は康太と共にキッチンに下りて食事を取った
キッチンにやって来た瑛太が、お揃いのスーツに身を包む二人を見て
「伊織、今日は会社は休みですか?」と問い掛けた
「はい!妻が動くので僕も同行します!」
「解りました、康太を頼みますよ!」
「はい!PCで出来る仕事は暇を見つけて片付けるので大丈夫です」
「来週は真贋も交えての会議が幾つか入ってるので、用事は今週中に出来たら片付けて下さい」
「解りました」
仕事の話をする瑛太と榊原に、京香は
「ええぃ!食する時は仕事の話はするでない!」と怒った
瑛太は「奥さんカルシウム足りてます?」と最近怒りん坊の妻に問い掛けた
京香はバツの悪い顔をして
「足りておる‥‥柚の夜泣きに‥‥少しだけイラついておった‥‥すまぬ」 と謝った
「今夜は私が柚を見るので奥さんは寝て下さい」
「それはならぬ!お主は会社があるではないか!」
「君に倒れられるよりマシです
」
端から見たらイチャイチャにしか見えない二人に康太は「熱いなぁ~」とボヤいた
榊原は「夫婦円満なのは良い事です、想っていても口にしてはなりませんよ!」と釘を刺した
康太は「ひょっとして瑛兄の部屋って電気消して暗くしてる?」と問い掛けた
京香は「あぁ、柚が泣いたらサイドランプを点ける様にしてる」と答えた
「今夜から常夜灯を点けて寝る様にしてやれよ!
暗闇に恐怖する赤ん坊もいるからな
全く平気な奴と敏感な奴がいるんだよ!
柚は後者だ、暗闇に恐怖してるんだろうな
って事は‥‥‥琴音と同じ巫女の血が強く出てるのかもな‥‥」
「康太‥‥柚は何処へも渡しはせぬ!」
京香は不安そうにそう言った
亡くして、再び還って来てくれた子なのだ
絶対にもう手放したくないと京香は訴えた
「誰も盗らねぇよ!
でもな琴音を思い出してみろよ!
アイツは力が強かった‥‥柚も飛鳥井の血を受け継いでいるって事だ
今夜からは常夜灯を点けてやれよ!
そしたら夜泣きはピタッと止まる筈だぜ」
「解った!それで柚が泣き止んでくれるなら助かる
悪かったな康太‥‥‥」
「オレは瑛兄と京香が幸せそうに笑ってたらそれで良いんだよ!」
「康太‥‥」
康太は何も謂わず笑って食事をした
食事を終えて緑茶を飲むと
「んじゃオレは逝くわ!」と立ち上がった
京香は「気を付けて逝くのじゃぞ!」と声を掛けた
康太は後ろ手を振りながら、キッチンを後にした
応接間に逝くと八雲がワンと猫を膝に乗せて構っていた
康太が応接間に来ると八雲は
「この猫は虐待でも受けたのか?」と問い掛けた
「あぁ、サンドバッグにされて切り着けられてた所を保護してガルの友達として迎え入れたんだよ!」
「ガルと謂うのはこのスコティッシュテリアか?」
「お!何で解ったよ?」
「誰でも解るやろ?首輪に名前を刻んでるがな!」
飛鳥井の犬達は首輪に名前と宝石を入れた首輪をしていた
いかにも高そうな首輪に八雲は、金持ちのやる事は何だかすげぇなと想った
それを知ってか知らずか康太は
「首輪に名前を掘ったのは、そのシュナウザーがチャンピオン犬だったりして立派な首輪をしてるだろ?
コオとガルが僻まねぇ為に首輪を揃えたんだよ!
宝石は魔除けだ、別に金持ちだから犬に金を掛けている訳じゃねぇぞ!
家族だかんな差別はしねぇ主義なんだよ!」
「このシュナウザー立派だな」
「チャンピオン犬だかんな
でもその犬、チャンピオン犬だから飛鳥井で飼ってる訳じゃねぇぞ!
コイツがコオに一目惚れして断食してゴリ押しで飼い主を諦めさせて飛鳥井に連れて来させただけだ!」
「すげぇ執念だな」
「だろ?最初はウェルシュコーギーだけ貰って飼ってたんだけどな
イオリが立派な首輪をしてなきゃ、オレの財布が痛む事も無かったのによぉ!」
康太が謂うとイオリはキューンと泣いて康太の足にすり寄った
榊原はイオリの頭を撫でて「康太!」と窘めた
榊原は「飛鳥井の家族は血統は気にしない方々ばかりなので、どの犬も同じ様に接しています
別にチャンピオン犬だからとか、そうではないです!
そもそも我が家の犬は康太への愛の貢ぎ物ですからね」
榊原はそう言いクスッと笑った
堂嶋は兵藤を思い出して胸を押さえた
兵藤は「なら俺はもう逝くけど大丈夫か?」と康太に声を掛けた
「おー!ありがとう正義!助かったわ!」
「俺に出来る事なればするさ!」
堂嶋は康太を抱き締めて幸哉と共に飛鳥井を後にした
康太はソファーにドサッと座ると携帯を取り出した
「オレだ、今夜暇あるか?」
八雲は良くもこれで電話切られないな‥‥と想った
『お前が呼ぶなら俺は暇になるさ!』
「なら迎えに逝くから来てくれ!」
『おー!待ってる
それよりお前も検診に来いよ!』
「近々逝くから、その時は宜しく頼む」
『なら夜に!』
相手は電話を切った
そしてまた康太は電話を掛けた
「オレだ!今夜暇ある?」
『康太、貴方の呼び出しならば、我らは何を置いても暇になりますとも!』
「ならば義恭と拓海と拓斗を連れて飛鳥井に来てくれよ!」
『解りました!必ず伺います!』
相手はそう言い電話を切った
そして再び電話を掛けた
「義母さん、義父さん、頼みが有るのですが?聞いてくれませんか?」
『康太、何ですか?聞ける事なら聞きますとも!』
「清四郎さん位の体格の男が来てるんだよ
その男の着る服がないからな、用意して欲しいんだよ
頼めるかな?」
『無論です!で、その殿方はお幾つなんですか?』
「久遠位だと想う」
『ならば清四郎の服では渋すぎますね
浴衣なら大丈夫でしょうが、服は笙の方が良いですね
今、笙は暇なので買わせにいきかさせます!
康太は家にいますか?』
「あと少ししたら出るけど今は家にいる」
『ならば直ぐに逝きます!』
そう言い電話を切ると、康太は携帯を胸ポケットにしまい
「八雲、役者は揃ったぜ!」と謂った
「電話は誰に掛けたんだ?」
「久遠と久遠の家族と伊織の母親の榊原真矢さんにだ!」
八雲はそう言えば康太の伴侶は榊 清四郎と榊原真矢の子だったなと今更ながらに思い出した
暫くして玄関のチャイムが鳴ると、慎一が玄関を開けに向かった
ドアを開けると真矢と清四郎が立っていた
「康太はいる?」
真矢が問い掛けると慎一は「はい、応接間におります」と真矢と清四郎を応接間に招き入れた
真矢と清四郎が部屋に入ると康太と榊原はソファーに座っていた
そしてその奥に犬や猫と共にいる男に目を向けた
「笙に買い物に行かせてます
康太、ご紹介して下さらないかしら?」
真矢は康太にそう言った
それを受けて康太は「獣医の八雲弘毅先生だ!妖精達が怪我したからな大阪から来て貰ったんだよ!」と紹介した
真矢は八雲の方に逝くと
「康太の母の榊原真矢と清四郎に御座います
お見知り置きを!」
と自己紹介した
八雲は立ち上がると「八雲弘毅です!」と挨拶した
八雲の手には白衣のポケットに入れた妖精が乗せられていた
真矢は「その子は?」と問い掛けると八雲は
「誰にでも見える生き物なのか?」と問い掛けた
「清四郎さんは飛鳥井の血を引くから力は秘めてるし
真矢さんは太陽や大空や烈を身に宿した人だから、それなりの力を持つ人なんだと想う」
「何かすげぇなお前んちは‥‥‥」
「何を謂ってるんだよ!
そいつらの治療をするお前の方がすげぇに決まってるやん!」
康太は笑って謂った
八雲は怪我した子をガルに舐めさせていた
ガルは心配そうに妖精を舐めていた
八雲はガルに「お前が少しだけ面倒見てやってくれないか?」と問い掛けるとガルは八雲の手を舐めワン!と答えた
「この子は大人しくて面倒見の良い子だな!」
康太は「ガルはマンチカンのシナモンの面倒を見てるからな」と答えた
暫くすると笙が買い物を終えて飛鳥井の家にやって来た
慎一の携帯に地下駐車場のシャッターを開けてくれと頼むと、慎一はシャッターを開けに向かった
暫くすると笙が応接間にやって来た
凄い荷物を持っていた
笙は「服の要る人は何処?」と問い掛けると榊原が「彼です!」と八雲を紹介した
笙は幾つか買って来た服を八雲に合わせていた
「久遠先生位だと聞いたから、年相応のを買って来ました!」
ニコニコ謂うが、どう見ても派手じゃない?と八雲は想った
見るからに高そうな服に「これは貰えません!」と辞退した
すると笙は焦って
「え?気に入らなかった?
どうしょう?母さんに殺される!
康太に怒られる!
ねぇ本当に嫌なの?
なら一緒に変えに逝こうよ!」
八雲を捕まえて離さなかった
八雲は「こんな高そうなの貰えない‥‥」と謂った
「飛鳥井康太の客人ならば、我等家族は最高の持て成しをする!
君は康太の客人なんだから、気にしなくて良いんだよ!
着たくない程嫌な服なら別だけど‥‥でもね、隼人が買って来るなら、この値札の倍は覚悟しないとダメだよ
彼は康太の為ならば地球の裏側だって逝ってしまえるお子様なんだ!
僕なんかまだ良識の範囲内だと想うよ!」
笙の力説に康太は笑った
そこへ隼人がやって来て、それを聴いて不貞腐れた
「康太の客人ならば、イタリアのデザイナーを呼びつけて採寸してやるのだ!
最高の持て成しをせねば男が廃るのだ!」
隼人の言い分に八雲は頭痛を覚えた
笙は下着も買って来ていて、八雲は取り敢えず客間で風呂にでも入って笙の買って来た服に着替えて来る事にした
真矢は康太に「あの先生は妖精の治療におみえになったの?」と問い掛けた
「ええ、妖怪だの妖精だのを治療してくれるのは八雲しかいないからな‥‥大阪からわさわざ来て貰ったんだよ」
「そうなの‥‥」
「で、オレと伊織は妖精を救助しに出向かねぇとならねぇんだ
義母さん達、お時間があるなら夜まで八雲を頼めますか?」
「良いわよ、八雲君は私達が持て成す事にするわ!」
「温室に傷付いた妖精がいます
今は花と木々の栄養を吸って傷を癒しています‥‥時間があるなら覗いて下さると助かります」
「ええ、貴方は気にせずにお出かけなさい!
私達はその為に近くにいるのだからね!」
「助かります!ではお願いします」
と謂い康太と榊原は応接間を出て逝った
真矢はガルが舐めてる子を、そっと持ち上げると
「お腹は減ってませんか?」と問い掛けた
妖精は真矢の手の温もりにすり寄って
『蜂蜜が欲しいです』と謂った
慎一がキッチンから蜂蜜を入れて来ると真矢に手渡した
「笙、美味しそうな蜂蜜を買って来て頂戴」
「蜂蜜って何の花の蜜が美味しいのか聞いてみて」
笙が謂うと真矢は妖精に「何の花の蜜が美味しいの?」と問い掛けた
妖精は『蓮華』と謂った
「笙、蓮華を買って来て頂戴
それと何種類かの蜂蜜を頼むわね」
笙は立ち上がると応接間を後にした
清四郎は真矢の手の中の妖精をそっと撫でた
その妖精は見るからにあっちこっち擦りきれて痛そうだった
「可哀想ね‥‥痛いの早く治ると良いわね」
真矢と清四郎は小さき子が早く治ります様に‥‥と祈った
飛鳥井の家を後にした康太と榊原は白馬を目指して車を走らせていた
白馬の山奥から桜の里へと出る為だった
桜の里へ続く入口総てに結界が張ってあり、一般の人には目にも着かないし、容易に侵入する事は無理に等しかった
康太は白馬のホテルに車を停めて、その足で山を登った
康太は桜の里への続く入口の前に逝くと、呪文を解除した
生い茂った木々が開いて道がて出来る
康太と榊原が足を踏み出すと、木々は閉じて逝き何もない鬱蒼と繁った森林となった
桜の里へと向かうと、田植えをしていた土御門孔明が笑顔で出迎えてくれた
「陵王!」
孔明が呼ぶと康太も笑顔で「お久しぶりです師匠!」と挨拶した
孔明は田んぼから上がると泥を落として、手を洗い自分の家へと招き入れてくれた
「どうしたのです?陵王」
「今日はお師匠にお願いがあって来ました!」
「では聞きましょう」
この弟子は決して師匠に無理難題は謂わない
出来るであろう事だけ口にする
そんな信頼関係が孔明にそう言わせておるのだ
「師匠、大雨が巻き起こした災害で妖精達が巻き込まれ怪我を負ったり、消えてしまったり‥‥したそうです
耳にした以上は一人でも多く助けてやりたいのです!
どうか師匠手を貸して下さい!」
「解りました、この桜の里は人の世と魔界と繋がる位置に在るのですよね?陵王」
「はい、そうです」
「ここ最近、この辺りも妖精が棲み始めました
春葵と貴章が謂うには、妖怪の里にも妖精達は増えて棲み始めている様だと聞きました
先日、この川の傍に複数の傷付いた妖精が流れて来ました
手当て出来る子は手当てしました
流れて来て事切れた子にはお墓を作って埋葬しました
多分今も山には妖精が怯えているのではないかと、貴章達が妖怪に謂って保護して歩いてるそうです」
「師匠、何も聞いていない時から妖精を助けてくれていたのですか?」
「どの命も尊いものです
助けられるならば助けたいです」
そう言い孔明は薬草を摘んで来て作った軟膏を見せてくれた
「それ効きますか?」
「天然由来ですからね効きは悪いかも知れませんが、何もせぬよりマシかと想い手当てしてます」
「そうか、桜の里には薬がないんだっけ?」
「薬なら山や野に行けば何処にでも薬草があるので、不便に感じた事はありません!
今までもそうして来ましたから!」
「師匠、要るモノは金龍に謂えば用意してくれるから‥‥‥」
「解ってます、ですが我等は我等で生きて逝くと決めたのです!」
「なら師匠、薬草も育てて逝かねぇと冬とか絶対に不足すると想う
此処に教えに来てる雪なら、薬草の備えを教えてくれる筈だ!雪に謂っておく事にするわ」
「陵王‥‥」
「人は支え合って生きているんだろ?師匠
ならば知恵を借りるのは里の皆の為になると想うぜ!」
「そうでしたね、では雪に頼んでみます
陵王、奥に酷い怪我の子がいるのです
あの子達は‥‥‥この里では治療は不可能でしょうから‥‥治療出来る所へ連れて行って下さい」
「解った、助かったよ師匠」
「人の世で何が起きているのかは、ラジオを聞けば解るし、黒龍達が来て教えてくれるので理解しています
黒龍達は人の世に災害があると心配して様子を見に来てくれます
この前も川が反乱した時、魔界に避難しろと謂って下さいました」
「人の世は天変地異が起きている‥‥自然と謂うのは無情で時として濁流となり人も妖精も飲み込んでしまう‥‥
その上、人の世では新型の肺炎が蔓延しててな、災害で死ぬか新型の肺炎で死ぬか?とまで謂われている」
「知っています‥‥魔族の者は大丈夫なのですか?」
「基本、人の病は罹らないが‥‥年々先の読めない病原菌が蔓延するからな‥‥魔界だとして巻き込まれる日は来ると想っている」
「‥‥‥何にせよ‥‥人も魔族の方々も負けはしない気心はあるでしょう!
病になど屈指はしません!
陵王、私も傷付いた妖精達を助けたいので、皆で手分けして救助に当たります」
そう言い孔明は奥の部屋に逝き、ザルを持って戻って来た
ザルを康太に差し出すと、康太はそのざるを受け取った
ザルの上には傷付いた妖精達が乗せられていた
榊原は竹で編んだピクニックバックを取り出すと、その中へザルに乗せられた妖精を移した
「直ぐにでも八雲に見せねばなりませんね!
赤龍よ、此処に来て下さい!」
榊原は赤龍を呼んだ
暫くして赤い龍が桜の里の孔明の屋敷の前に下りた
「呼んだか?青龍」
「この傷付いた子達を八雲に見せて下さい
僕達は車で来ましたから、還るのにまだ時間が掛かります」
「解った、連れて逝こう
俺の背中に籠を括り着けてくれよ!」
赤龍がそう言うと里の子がピクニックバックを手にして外に出た
「赤龍さん、爪にバックを縛り付けて構いませんか?」
「あぁ、構わねぇ!」
里の子はピクニックバックを赤龍の爪に縛り付けた
「これで大丈夫ですか?」
「あぁ、では逝くわ!」
赤龍はそう言うと天高く舞い上がり気流に乗って‥‥‥消えた
榊原は「では逝きますか僕らも!」と謂うと
康太は立ち上がった
師匠に別れを告げて来た道を還る
白馬の見慣れた場所に出ると、康太は榊原に抱き着いた
「どうしたんですか?康太」
「あんで‥‥弱い奴から被害に遭うのかな‥‥」
無抵抗なか弱き存在から消えて逝くしかない現実に康太は挫けそうになっていた
「天災は僕らがどうこう出来る領分ではありませんからね‥‥‥手の打ちようが全くないのが現状ですからね」
榊原は康太を強く抱き締め
「それでも足を止めてる時間はありませんよ?」
「解ってんよ伊織
少しだけ伊織に甘えたかっただけだ」
「幾らでも甘やかしてあげます」
榊原は笑って康太に口吻けた
「今年の夏は社員のボーナスカットしねぇと乗り越えられねぇかな?」
白馬のホテルも休業要請を受けて休んでいた
自粛が解けても客足に影響が出ていて、前のような活気は鳴りを潜めていた
「gotoキャンペーンが出ていても‥‥新型の肺炎が蔓延してては‥‥客足は遠退きそうですし、また客を入れるなら感染予防対策は万全に打ち出さないと、格好の餌食になりますからね」
「それなんだよな‥‥‥」
「受け付ける客は半分以下で消毒に人員を取られるとなると苦しい闘いとなるのは目に見えてるんですけどね‥‥」
「頭が痛てぇな‥‥」
「仕方ないです‥‥どの企業もぶち当たってる難問なんですから‥‥‥」
「乗り越え様な伊織」
「ええ、共に逝きましょう!」
二人は一頻り抱き合うと、体躯を離し歩き始めた
白馬のホテルの駐車場に出向くと、朝倉が榊原の車の前に立っていた
「康太様、近い内に社員の前に顔を出して下さい!」
「おー!的確なマニュアルを引っ提げて皆の前に顔を出すつもりだ!
今、専門家に接客業の感染予防対策のノウハウを聴いて纏めあげている所だ!」
「解りました、我等社員も不安の中で見切り発車は出来かねますから‥‥」
「解ってんよ!逝く時には電話を入れる」
「御待ちしております!」
朝倉は深々と頭を下げると、ホテルの方へと戻って逝った
康太は榊原の車に乗り込むと、榊原は運転席に乗り込み、車を走らせた
陽が沈む頃、康太と榊原は横浜に着いた
前日は魔界に逝って、戻って八雲を呼びつけて朝を迎え、白馬に出向き‥‥何かと忙しい日々だった
榊原も康太もヨレヨレになっていた
家に還る前に康太は飛鳥井記念病院へと向かった
駐車場で榊原が車を停めると康太は久遠に電話を入れた
「久遠、駐車場にいる!」
『解った!直ぐに逝く!』
そう言い電話は切れた
暫くすると久遠がやって来て、榊原は後部座席のロックを外した
すると久遠は後部座席へと乗り込んだ
飛鳥井の家には義恭と志津子が拓海と拓人を連れてやって来ていた
応接間のドアを開けると、流生が母に飛び付いた
「おかえりなさい、かあさん、とうさん
あ、くどーせんせーもいらっしゃい」
流生は嬉しそうにそう言うと「てあらいうがい、かおあらい♪」と歌っていた
康太は「取り敢えず手洗い嗽、顔洗いして来るとしようぜ!」と謂い洗面所に久遠を連れて向かった
音弥が走って洗面所のドアを開けると真新しいタオルを取った
「久遠、先に嗽しろよ!」と謂うと久遠は手を洗い嗽をして顔を洗った
総てを終えると音弥がタオルを手渡した
久遠は「ありがとうな!」と謂いタオルを受け取って顔を拭いた
使用したタオルは籠に入れて、音弥は久遠を応接間に連れて逝った
康太と榊原も手洗い嗽顔洗いをしてタオルで顔を拭いてから応接間に向かった
久遠は我が子の手にして笑っていた
久遠の横には義恭と志津子が座っていた
八雲と一生が一足早く連れて来た妖精の手当てをしながら、その光景を見ていた
久遠は義恭を「父さん」志津子を「母さん」と呼んでいた
旗から見ると本当の親子の様に見えた
スーツ姿の康太と榊原を見ると真矢は
「着替えてらっしゃいよ!」と声をかけた
康太と榊原は着替えに向かった
夜になり飛鳥井の家は客人を持て成す為に宴会へと突入した
客間でソーシャルディスタンスを守りながら、宴会へと突入する
久遠はその時になってやっと八雲の存在を認識した
久遠は「八雲、珍しいなお前がいるなんて‥‥」と少し驚いて口にした
八雲は東京から去ってから、首都圏に出向くと奴じゃなかった
何があったのかは解らないが、大阪に引っ込んでからは頑なに他を拒絶していた
「俺は呼ばれれば何処へでも出向くと約束したからな」
「それで横浜に来たのか?」
「彼から逃げられる筈はねぇからな
呼ばれれば来るしかない
昼間、助手に文句を散々謂われたけどな」
「お前は嫌な事はしない主義だったよな?」
「あぁ、嫌じゃないから来ている」
「なら良かった」
久遠は笑って八雲のコップにビールを注いだ
車の中で康太は「久遠、今宵は八雲を酔い潰せ!」と謂った
「アイツ‥‥ザルですよ?」
「ならば‥‥盛ってくれ!」
「‥‥‥理由、聞かせて貰えるんだろうな!」
「今宵、アイツの深淵を覗きに逝かせる!
それ程にアイツは頑なで殻で心を包み込んでいる」
「‥‥‥アイツは人が変わった様になったのは、大阪に逝ってからだ‥‥
何があったのかは畑違いだから解らないが‥‥何かがあったのは解る」
「頑なな心は破滅へ進む
他を見る眼を持たないからな‥‥
どっち道八雲はオレの前に出た以上は、分岐点だったんだよ!
どっちかに転がして立たせてやらねぇとな!」
「アイツを頼む‥‥」
久遠は心から八雲を救ってくれ!と願った
で、約束した以上は飲ませるつもりだった
久遠は膝に烈を乗せて飲んでいた
八雲は「その子はお前の子か?」と問い掛けた
一晩中走って横浜に来た八雲は宴会の前まで眠ってしまっていた為、康太の子達と顔合わせ出来ていなかった
久遠は笑って「この子は康太の一番下の息子だ」と謂った
拓海と拓人は烈を可愛がっていた
時々、父に甘え、祖父母に甘えていた
それに混じって康太の子達が久遠に甘えていたから‥‥八雲にしたら、どの子が久遠の子なのか理解できずにいた
流生と音弥はビール瓶片手に「のむよろし!」と謂いお酌に来ていた
「どんどんのむのよ♪」と音弥が歌うと、久遠の膝の上にいる烈が
「びーりゅ!」と続けた
太陽と大空は康太の横で座っていた
翔は瑛太の横に座って緑茶を飲んでいた
烈も久遠の膝の上で緑茶を飲んでいた
八雲は「その子、酒じゃないよな?」と問い掛ける程、堂に入っていた
「緑茶だ、お酒は早すぎたろが!
あー!でもこの子は貫禄半端ないお子様だからな、俺もお酒じゃないかと想った時はある」
久遠はそう言い笑った
とても自然な笑顔は学生時代では考えられない笑みだった
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