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第29話 夏休み

飛鳥井太陽は応接間のソファーの上でデローンと伸びていた 大空はガルを枕に伸びていた 流生はテラスに仰向いてガラス張りの天井を眺めつつ伸びていた 今年流生はテラスの窓にそって朝顔とゴウヤを植えてグリーンカーテンを作ったのだった 準備は5月からして、すくすくと育ち、テラスの窓には朝顔が蔦を伸ばしてカーテンを作っていた そして赤や青の色取り取りの花を咲かせていた 夕顔も植えて、その前には向日葵も植えた 毎日、お水をやり、流生の愛を受けた花々は日々育ち綺麗な花を咲かせたのだった 屋上には花の他に、温室の外に夏野菜も植えた トマトに茄子にキュウリに青紫蘇も植えて、流生はお野菜にも初挑戦していた 兄弟も協力してくれ、皆で育てていたのだった 音弥は烈と歌を歌っていた 「きれいにさいたね」 「あしゃがお」 「ブツブツたべごろ」 「ゴーヤ」 「まいにちあついよ」 「もうしょぉ!」 楽しそうに口ずさみ、兄弟を和ませていた 翔はそんな中、墨をすって写経に勤しんでいた シナモンはガルの横で丸くなり コオとイオリは腹を向けてデローンとしていた 子供達は19日しかない夏休みを家で過ごしていた 本当なら沖縄に逝く予定だったが、新型コロナの影響で旅行は取り止めにした 何処へも逝けない夏 短い夏休み 今年は何時もと違った夏休みだった 子供達は朝イチで桜林学園へ行き、ラジオ体操を済ませ、夏休みの課題を済ませデローンとしていた 努力家の大空は課題は総て終わらせた 今は夏休みの絵日記を書いていた 音弥と流生、太陽と翔も課題は終わらせていた 烈は宿題はなく毎日「にーに」達と遊べて楽しそうだった この日は康太と榊原も応接間にいた 榊原は「何処かへ連れて行きたいのですがね」と父として子供達に楽しい日々を過ごさせてやりたいと想っていたのだった 康太も短い夏休みを何処かへとは考えていた だが‥‥‥現実は感染予防の為に外出は避けての生活となっていた 白馬のホテルも今年は宿泊者数を半分以下に引き下げて、感染予防とソーシャルディスタンスを保っての営業となっていた その前に‥キャンペーンから除外された地域からのキャンセルで連日空きが出ている状況で、かなり経営を悪化させているのが現状だった 各部屋の除菌清掃に人手は足らず、何とか回してはいるが厳しい状況なのは変わらなかった 康太は「残りの夏休みは白馬に逝くか?」と提案した 榊原は「それは良いですね、夜のうちに走れば、渋滞とか避けられますからね」と顔を綻ばせ謂った 「源右衛門の邸宅は宿泊対象外にしてあるかんな‥‥大丈夫だろうけど‥‥ 白馬に逝っても、所詮はソーシャルディスタンスだかんな 何処まで遊ばせられるかは解らねぇ‥‥ うちの子は虫取りとかして遊ぶタイプじゃねぇしな‥カブトとゴキブリの区別が出来ず叩き殺そうとするかんな‥‥」 「それは仕方ありませんよ 子供達は虫なるものを目にした事がないのですから‥‥」 「普通、幼稚舎に通えば、庭の木に止まる蝉を捕まえたりしねぇか?」 康太が呟くと、応接間に入って来た一生が大爆笑して 「今の子は虫とか取らねぇんだよ 素手で触れない子も沢山いるんだよ」と答えた 康太は「軟弱な‥‥」とボヤいた 康太は元気なお子様で幼稚舎の木々に止まる蝉やカブトや草むらにいるバッタやカマキリを捕まえて楽しんでいた 一生は「おめぇみてぇな野生児は今はいねぇだろ?」と笑って謂った 「田舎の子とかはいるだろ? 町の子だって虫取りとかする奴はいるさ」 「中にはいるだろうけど、飛鳥井の子は虫とは縁がなかったからな‥‥」 「それなんだよな、オレは夏になると後ろも前も解らねぇ位に日に焼けていたのによぉ‥」 康太が謂うと一生は大爆笑して 「そうだったな! お前は本当に元気なお子様だったよ」と謂った 流生は母に抱き着くと 「ボク、むし、だいじょうぶよ!」と謂った お花に着いてる虫を駆除しながら、日々花を育ててる者の言葉だった 「おっ!流石流生はオレの子だな!」 康太が謂うと流生は嬉しそうに笑って 「かあさんのこだよ!」と謂いスリスリした 榊原は「何時頃、行きますかね?」と問い掛けた 「今夜には立つか、母ちゃん達には後で電話する どのみちお盆だ、今年は飛鳥井は長めの夏期休暇を取る事になるしな」 コロナ禍の中、マスクをして猛暑の中の工事で熱中症で倒れる作業員も多々と出て、お盆前後を含んだ大型の夏期休暇を取る事にしたのだった 康太が謂うと一生が「なら支度に取り掛かるわ、花火はどうするよ?」と準備にする段取りを始めた 「沢山頼む、それ位しか楽しみもねぇしな」 「悠太はどうするよ?」 「悠太はアメリカに定期検診に逝ってて留守だ、帰宅は9月頃だからな大丈夫だろ?」 「そうか、でも聡一郎は倭の国にいるぞ? 一人で逝ったのかよ?」 「誠一が向こうで仕事があるから、悠太の面倒は誠一が見てくれるって話だ 家族も共に向こうに行ってるからな」 「なら清四郎さん達はどうするよ?」 「これから電話する!」 康太は携帯を取り出すと電話を掛け始めた まずは清隆に電話を入れた 「あ、父ちゃん、オレだけど!」 『康太、どうしましたか?』 「白馬に子供達を連れて逝こうと想っているんだけど?」 『それは良いですね 何処へも逝けないのは可哀相なので、今夜にも私達から提案をしようと想っていた所です』 「なら母ちゃんや瑛兄も知ってる?」 『ええ、昼に3人で昼食をしていた時に話してましたから』 「なら瑛兄と母ちゃんには、父ちゃんが謂ってくれよ!」 『解りました、連絡しておきます で、何時立つのですか?』 「今夜にも逝こうと想ってるんだよ」 『それは良かったです、飛鳥井建設は明日から夏期休暇です 私達も一緒に逝けますね今年は!』 清隆は嬉しそうに謂った 「孫の面倒は頼んだぞ!父ちゃん」 『任せておいて下さい』 「なら清四郎さん達に連絡するわ!」 『それが良いです では私は玲香に電話をしましょうかね』 清隆はそう言い電話を切った 康太も電話を切ると清四郎の所へ電話を入れた ワンコールで出ると『もしもし、榊清四郎です』と渋い声が聞こえた 「清四郎さん、今時間大丈夫ですか?」 『はい、大丈夫です 私はもう夏休みに入りましたからね』 「なら白馬に行きませんか?」 『白馬ですか?良いですね 真矢が最近、体調を崩しているので涼しい所へ逝けるのは嬉しいです』 「義母さん、体調崩してるんですか?」 『この暑さとマスクで熱中症になり以来、体調を崩して家にいます コロナかと想い、検査もしたんですよ? でも陰性でコロナではありませんでした ですので何処かへ静養に逝こうかと想っていたのです』 「この暑さとマスクはかなり堪えるかんな‥‥今年の白馬だってめちゃくそ涼しい訳じゃないけど、土が多い分、まだ少しは温度は下がっている感じだけどな」 『源右衛門の邸宅は庭に木々が生い茂ってますからね、かなり涼しいんじゃないですか? 楽しみです で、何時立つのですか?』 「今夜にでも出て車が空いてるうちに白馬に入りたいと想ってる」 『なら支度をせねば! あ、笙の家族も大丈夫ですか?』 「構わねぇよ、慎一がまたバスを借りて来てくれる筈だかんな」 『今年も君達や飛鳥井の家族と過ごせて楽しみです 流生達と過ごせるのも、とても嬉しいです では支度を始めますね!』 「なら夕方には飛鳥井に来てくれよ!」 『解りました、では!』 清四郎は忙しそうに電話を切った 康太は電話を切ると榊原に 「真矢さん体調を崩しているって‥‥」と話した 「母さんは暑いのが苦手な人ですからね なのに今年は猛暑でマスクを着けての夏ですからね 体調を崩してもおかしくはないですね」 「涼しいかは解らねぇけど、ゆっくり休んで貰おうな」 「そうですね、飛鳥井の家族も休息は必要でからね」 連日、暑さ対策を打ち上げて取り掛かっても、この猛暑を前にして為す術もないのが現実だった それでも止まってくれないのが現場で‥‥‥苦境に立たされているのは変わらなかった 仕切り直しだ 取り敢えず夏休みを打ち立てて、休暇を取る そして鋭気を養って残りの夏を乗り切る それしかなかった 康太はキッチンに向かい慎一に白馬に今夜立つ事を告げた 一生から既に聞いてた慎一は、既に動き出していた 買うモノのリストを作り、手分けして買い物に逝く算段を着けていた 「康太、応接間に隼人はいましたか?」 「おー!伸びてたぜ?」 「なら隼人には買い物に行かせましょう! サポートに聡一郎が着いてくれるなら、かなり沢山頼めるのですがね」 「聡一郎なら部屋にいるぜ アイツは夏が大嫌いだからな、出来るだけ涼しい所にいたがるからな」 「なら買い物に逝けと命令して下さい!」 「了解!」 康太はそう言いキッチンを離れて2階へ向かった 聡一郎の部屋のドアをノックすると 「どうぞ!」と声が聞こえた 康太は部屋に入ると‥‥‥‥ そこは北極だった 「寒くねぇか?」 康太が聞く程に部屋はキンキンに冷えていた 榊原がいたなら即座に温度を落とされる事だろう‥‥ 康太は榊原と一緒でなくて良かったと想った 聡一郎はそっけなく 「いえ、これで良いのです」と答えた 頑なな様子に康太は気を取り直して 「聡一郎、買い物に行ってくれ!」と命令した 康太が謂うと聡一郎は固まった 「これは命令だ!」 康太はクーラーのリモコンを持つと温度をかなり上げて電源を落とした 「聡一郎、快適空間は安定の25度だぜ? 電気代にも地球にも優しい25度設定にしろや!」 「それだと溶けます」 「‥‥‥‥だから応接間に来ねえのか?」 「あそこは暑すぎます」 「体躯に悪いだろ?冷えすぎは?」 「‥‥‥‥ぅ‥‥‥痛い所を‥‥」 「命令だ!買い物に行きやがれ!聡一郎」 「解りました、行きますよ」 「隼人が御使いに出されるからな、付き添ってやってくれ!」 「了解しました!」 聡一郎は首に冷え冷えクールタオルを巻き付け、その上に首かけ扇風機を着けて、手にはハンディ用の扇風機を持っていた バックの中に冷えピタを数枚入れて準備をすると、康太と共に応接間に向かった そして隼人を叩き起こし、慎一に買い物リストを貰い、買い物に出掛けた 音弥は「そーちゃん‥‥あついのにがてなのに‥‥」と呟いた 大空も「そーちゃん、なかなかでてこないのにね」と部屋に引きこもっていて、中々部屋の外に出ないのに、と不思議そうに呟いた 康太は「どんだけよ?」とボヤいた 一生は「悠太がいないからな‥‥体温の低い恋人は夏は重宝だったみてぇだな」と恋人の不在がそうさせているのだと謂った 冬はお前は寒いから近寄るな、とストーブの前から離れない 我が儘な聡一郎を想って、康太も笑った 大空が「かず、はなびある?」と問い掛けた 「沢山、買いに逝くんだよ!」 と花火や蚊取り線香等を此れから買いに逝くと告げた 「ボヤもいきたい!」 大空が謂うと流生も「ボクも!」と名乗りをあげ 音弥も太陽も翔も烈も手をあげていた 一生は「俺一人で6人は無理だぜ!」とボヤくと康太と榊原も立ち上がった 「なら買い物に逝くとするか!」 と康太が謂うと子供達は大喜びした 地下駐車場へ向かい、一生とは別々の車に乗り込む 一生は自分の車に乗り込み 流生達は父さんが運転するアルファードへ乗り込んだ 榊原は妻と子供達が乗り込むと車を走らせた 一生はその後ろに着いて走った ホームセンターの駐車場に到着すると、子供達はマスクを着けて車から下りた 康太と榊原もマスクを着けて車から下りた 康太は「んとによぉ、マスクって蒸れるよな‥‥」とボヤいた 一生も車から下りて、康太の傍に逝くとリストを出した カートの椅子に烈を座らせると、烈はご機嫌だった カートを押すのは流生と太陽 翔は父と手を繋ぎ、大空と音弥は母と手を繋いだ 一生がリストを見てカゴの中へポンポン品物を入れる 流生が兄弟の好きなお菓子を見つけて、ポンポンとお菓子を入れる ある程度買うとカゴは満杯となり、一生はカゴを見た するとお菓子が沢山入ってて 「流生、こんなに要るのか?」と問い掛けた 「いるよ、みんなのすきなのだもん」 と流生は一歩も引かなかった 康太は「構わねぇよ、全部買ってやれ!その変わり食えないなんて謂ったら、お尻をペンペンしてやるけどな!」とケロケロと笑うと、音弥と太陽は幾つかのお菓子を商品棚に返しに行った 榊原は「チョコ系は大丈夫ですかね?」と溶けないかと心配した 一生は「チョコはダメだな!」と商品を棚に返した そしてビスコは10個も要らないだろうと触れようとすると、流生は「ダメ!」って怒った 翔が流生の前に来ると、一生に 「びすこはれつがすきなのね れつはおなかへると‥‥たいへんなのよ‥‥」 と弟のお腹事情を訴えた 確かに烈はお腹が減ると、お腹空いたぁ~と我が儘謂って困らせる事が多々とあった でも10個も必要か? とは想ったが、棚には戻さないでおいた 烈は流生と手を繋いで「にーに」「れつ」と仲良くしていた 榊原は買い物を素早く終わらせると車に戻る前に、涼しい場所で水分補給を告げた 子供達は手洗いをして消毒をすると、肩から下げた水筒を手にしてストローを伸ばした 榊原はマスクを外さなくても飲める様にストロー式の水筒を子供達に持たせていた 塩分タブレットを貰い、それを舐めながらマスクの隙間からストローを入れて麦茶を飲む 汗っかきの烈の顔をウエットティッシュで拭うと、烈にも水分補給をさせた 水分補給を終えると、車に向かい買い物は終わった 最近は目的地に行って用事を済ませたら即還る 感染リスクを避けての行動だと、どうしてもそうなってしまうのだ 大空は母に「しゃしん、たくさんとってね!」とお願いした 「おー!今年は新調したデジカメで撮ってやんよ!」 音弥が「おとこまえよ!」と注文を着けると 「それなりには撮ってやんよ!」と答えた 楽しそうにワイワイ話して笑って、飛鳥井に着くと、清四郎と真矢が玄関に立っていた 榊原は車を停めると康太が車から下りた 「父さん達、待ちましたか?」 康太が聞くと真矢が 「今来た所なのよ」と答えた 清四郎も「チャイムを鳴らそうかと想っていた所だよ」と答えた 康太は鍵を開けると、清四郎と真矢を招き入れた 応接間へと入りクーラーを着けると、ソファーにドサッと座った 榊原の車から下りて来た子供達が応接間に走ってやって来ると、真矢と清四郎は嬉しそうに孫の顔を見た 流生は「ばぁたん、じぃたん、さみしかったよぉ!」と最近逢えなかった日々を口にした そして顔色の悪い祖母を心配して 「ばぁたん‥だいじょうぶ?」と問い掛けた 「大丈夫よ流生」 真矢はかなり窶れて‥‥青い顔をしていた その窶れ様に康太は「母さん、何の仕事してたんですか?」と問い掛けた 「チャリティー番組の中で流すドラマの撮影よ?」 ホラー映画じゃなくチャリティー番組の中で流すドラマの撮影? あぁ、夏になると毎年恒例のチャリティー番組の中のドラマの撮影だったのか そのドラマに今年は真矢は出たのだなと想った ならなんで、其処まで窶れて憑かれた様な顔をしているのか? 「母さん、ロケ地は何処だったんです?」 「湘南の外れにある〇〇海岸の奥にあるホテルの中で撮影してたのよ 今年はソーシャルディスタンスが出来そうな現場を、との事で、そこの土地を借りて撮影してたのよ」 真矢が謂う現場には思い当たる節があった 「〇〇ホテル?本当に〇〇ホテルですか?」 「あら、知ってるの?康太 とても綺麗なホテルだったのよ」 真矢は景観を思い浮かべて口にした 康太は眉を顰めて真矢を視ていた 城ノ内龍之介が廃ホテルで謂っていた、何処かの番組の撮影があったと言うのは、チャリティー番組のドラマ撮影だったのか? ならば無傷では済みはしないだろう‥‥と想っていた 近いうちに撮影をしていたと言う番組を調べねばと想っていた矢先の出来事となった そして真矢にそれを知らせる事なく連れ出す為に 「母さん達は源右衛門の墓に、参りしましたか?」と問い掛けた 「あら、今年はまだだったわ」 「なら今から行きますか? 源右衛門も喜ぶと想います」 真矢と清四郎を強引に連れ出すと、榊原に謂い菩提寺まで連れて行って貰った 榊原は運転しながら康太に 「誰があのホテルを貸したのですかね?」と尋ねた 「あのホテルは国が管理してた筈だぜ? そんな簡単に国が撮影を許可する訳ねぇだろな?」 「ならば無許可ですかね?」 「口利きをして利益を得た奴が騙したんだろうな‥‥ でねぇと考えられねぇからな もし発覚したとしても、逃げて掴めれなければ、まるまる得した事になるからな」 「撮影をした人達は無害だったのですかね?」 「それは解らねぇからな、相賀に連絡を入れて調べて貰うしかねぇわな! 取り敢えず義母さんを何とかしてからな!」 車は飛鳥井の菩提寺へ向けて走って逝っていた 清四郎は不安な顔をしていた 康太は「視ましたか?義父さん?」と問い掛けた 清四郎は康太を見る事なく「ええ‥‥やはり見間違えではなかったのですね‥‥」と答えた 「真矢さんがロケした地は、倭の国が封印している土地なんです この世と彼岸とあやふやな領域に建っているので、霊障も起きるし、取り憑かれたりもする‥‥と言う土地です 飛鳥井建設が工事に入る前と言う事はゴールデンウィークの頃ですか?ロケがあったのは?」 「いいえ、ロケがあったのは6月の上旬よ!」 「え!有り得ない筈だが‥‥‥ あのホテルの回りには建築バリケードで囲んでませんでしたか?」 「なかったわ、そんなのは」 「どういう事だ?それは?」 6月の上旬ならば、確実にその現場には飛鳥井建設の作業員が入っていた筈だ 建築用のバリケードを設置して事務所も設置してあった筈だ‥‥ どういう事なのだ? 康太にはさっぱり解らなかった どの道、避けては通れぬ事だ 究明はせねばならなかった だがその前に真矢を何とかせねば!と想い思念を紫雲に飛ばした 此れから逝く事、そして真矢が霊に取り憑かれたから浄霊が必要な事を思念で飛ばした 菩提寺の駐車場に到着すると、駐車場には菩提寺の住職の城ノ内が出迎えに出ていた 車から下りて来た康太に 「準備は万端だ!」と伝えた 康太は後部座席のドアを開けて真矢の手を掴んだ 「義母さん、貴方は霊に取り憑かれている その霊を今から祓います!」 真矢の中の霊が悪なるモノならば、神楽を調伏せねばならない 闇が強いならば、真島も呼ばねばならぬだろう 何にせよ、霊と対峙せねば視えては来ないだろう 真矢は康太に促され車を下りた だが車から下りると康太の手を振り解いて逃げようとした 康太は「縛!」と呪文を唱えた すると真矢は動きを止めた 「伊織、義母さんを抱き上げて連れて来てくれ!」 「解りました」 榊原は真矢を抱き上げて歩き出した 真矢は榊原をポカポカ殴り抵抗していた 清四郎はそんな真矢の手を握り締めていた 康太は一足早く城ノ内と共に姿を消すと、城ノ内の息子の龍之介が姿を現した 「此方へお願い致します!」 そう言い深々と頭を下げた 榊原は真矢を抱き上げたまま龍之介の後に続いた 清四郎も真矢の手を握り締めて、横を歩いた 本殿儀式の間に榊原と清四郎と真矢を案内すると、龍之介は父の横に座った その横には巫女の水萌も座っていた 水萌は榊原に「真矢さんを布団の上に寝かせて下され!」と謂うと、榊原は真矢を部屋の中央に敷かれた布団の上に寝かせた 真矢を寝かせると清四郎の横に座った 康太と城ノ内は白い祈祷の正装に着替えてやって来た 城ノ内は「祓えるかな?しぶとそうだな」とボヤいた 康太は「祓えねぇならオレが祓う!」とニカッと笑った 真矢は呪縛の呪文が効いているのか、苦しそうに眉根を寄せて寝ていた 低い声でうぅぅぅぅぅと唸り睨みあげる顔付きは真矢のモノではなかった 康太は「御子柴の血がそうさせるのか‥‥今の真矢さんは憑依状態だな」と呟いた すると紫雲が姿を現し 「御子柴だと‥‥この御婦人は御子柴の血を引いておると申すのか?」 門外不出の霊魂の拠り所とされる御子柴一族は異常な程に外の血を敬遠して、純血を貴む事で有名な一族だった 外と交わる者は波紋し追放され消される その一族の血が混じっていると謂うのか‥‥ 紫雲は信じられない想いで、康太の声を聞いていた 「太陽と大空と烈を産んだ人だぜ? その血のルーツを知らねばと想って調べたんだよ、で其処へ辿り着いたって訳だ」 「御子柴を出た者が‥‥生きていられたのも驚きじゃ‥‥ 何せあの一族は‥‥‥特殊‥‥血の掟がそれを許さないのではないか?」 「真矢さんの母親は一族の中でも相当な力持ちだったらしいからな、逃げて誰にも知られず子を産めたんだよ だが‥‥我が子を護る為に殆どの力を使い果たし、己の総ての形跡を消して夫に我が子を託してこの世を去る事となった‥‥ 夫は我が子を連れて転々として体躯を壊して他界した その後は親戚中を盥回しにされ施設に逝っている それらの複雑な経緯で御子柴からの追跡は交わせていたんだがな‥‥」 紫雲は考え込んで 「何やら総てのピースが揃い申したな‥‥‥ 御子柴の血を持つ者なれば、数ヶ月憑依されて精気を吸われても耐えられると謂えよう‥‥」 そう呟いた 霊に取り憑かれていなたならば、憑いた霊が生気を食らう為、餓死直前の様に痩せ細り死に至るケースも珍しくはない その前に狂って発狂し自ら命を断つと謂うケースも珍しくはない なのに真矢は6月の下旬からお盆の頃まで憑かせていたと謂うのか? 御子柴の血がなくば、もっと早く憔悴していただろうに‥‥‥ 城ノ内と龍之介と紫雲による浄霊が始まった 紫雲が真矢の中から出て逝く様に霊に説得している 無理矢理祓うのは容易いが、それだと乗っ取られていた者の精神がやられかねないからだ 紫雲が浄霊の祈祷を詠み上げる 康太が闇を祓うと、龍之介が魔を斬った 城ノ内が真矢の体躯に御神酒を吹き掛ける 三人は息の合った動作で謂われなくても、次々に浄霊の為に動いていた 真矢は‥‥低い唸る様な声で‥口汚い言葉を放っていた 清四郎は妻が妻でなくなった様な恐怖に耐えて‥‥泣きそうになっていた 榊原は黙って浄霊を見守っていた 霊は真矢の中の御子柴の血で、霊力を強め悪戦苦闘した 霊を弱らせ真矢の中から出て行かせるのに、何時間も要した それでも‥‥日付が変わる前には‥‥‥何とか霊を祓う事が出来た 紫雲も城ノ内も龍之介も康太もヘトヘトになっていた 康太は榊原に「一足先に白馬に立つ様に謂っといてくれ!」と謂うと 「浄霊が成功したと同時に席を立ち連絡を入れて来ました 家族は家で待ってるから、何時になろうとも構わぬ!との事です」 「母ちゃんらしいな んじゃ、還ってバスに乗り込むとするか! 真矢さんは寝かせておけば良いかんな!」 康太が言うと清四郎は康太の手を取って 「本当にありがとう康太」と礼を謂った 康太は清四郎を促して車の方へと向かった 龍之介が真矢を抱き上げて逝こうとすると、紫雲が真矢の額に印字を切った 紫雲はそのまま姿を消した 龍之介は真矢を榊原の車まで抱き上げて連れて逝った 榊原の車に康太が乗り込み、清四郎と真矢も乗り込むと榊原は運転席に乗り込み車を走らせた 康太は「バスに乗ったら話をする」とだけ清四郎に謂った 飛鳥井の家の近くに逝くとバスが停まっていた 榊原はバスの後ろに車を停めた すると康太は車から下りてバスに近寄った すると一生がバスの扉を開けて 「用は終わったのかよ?」と問い掛けた 「あぁ、終わった 真矢さんを連れに来てくれよ」 と謂うと一生はバスから下りて榊原の車に近寄った 後部座席のドアの窓をノックすると、清四郎はドアを開けた 一生は真矢を抱き上げると車から下ろした 清四郎も車から下りると、康太は榊原の車に乗り込んだ 「少し待っててくれ! 伊織の車を置いて来るからな! オレ等の荷物は積んでおいてくれたのかよ?」 「あぁ、慎一がバスの中に運んでいたから大丈夫だ」 「なら車を置いて来るわ!」 康太が謂うと榊原は車を走らせた 飛鳥井の地下駐車場に車を停めると、歩いてバスの方まで向かった バスに乗り込むと、バスは白馬へと向かって走り出した 康太はバスに乗り込むと 「瑛兄、あの地の工事に携わった奴を調べといてくれ!」と伝えた 「何かありましたか?」 「〇〇ホテル、あそこは早い段階で工事の依頼を受けていたからは5月のゴールデンウィーク前にはバリケードを張っていたやん」 「ええ、ゴールデンウィークに人が来ない様にバリケードをしに行ってる筈ですね」 「なのに6月上旬にそのホテルで真矢さんは撮影をしたって謂ってる その時、バリケードはなかったと謂ってる んな事が出来るのは関係者しか考えられねぇよな?」 「今回の工事は外部の業者は入れてませんでしたね でしたら飛鳥井建設の社員が手引きしたと謂っても過言ではないでしょうね」 「‥‥‥だよな‥‥残念だが、んな事をする社員がいたって事だよな」 「今は夏期休暇で会社には人はいませんから、休暇が明けたら調べさせます その前に会社のセキュリティに引っ掛かる愚か者が出ないと良いのですがね‥‥」 夏期休暇で会社には人はいないのを知っている人物が、何かをしでかなさい様に祈る気分だった だが隙在らば‥‥と天蚕糸ね引いている輩にとっては、長期の夏期休暇は格好の餌食にならんばかりだと謂う事も理解していた 子供達はバスの中で寝ていた 日付が変わって真夜中だから仕方がないが、両親が来るのを待っていたのだろう だがバスが走り出すと流生が目を醒ました 両親がちゃんと来ていて流生は嬉しそうに笑った 他の子も皆、目を醒ましていた 笙は不安げな顔で康太を見ていた 御子柴の血は当然、笙の中にも受け継がれ、笙も霊感が強かったりした だが笙はまるで何も見ていないし、感じないかの様に、遮断する事が出来ていた ある意味、笙の持つ力と謂っても良いだろう 康太はそんな笙の不安を知っていて何も謂わなかった 流生は笙に「しょーたん だいじょぶよ!」と声を掛けた 「流生‥‥」 翔も「きにしないのよ!」と謂うと 音弥が「はげるよ!しょーたん」とあまり気にするな!と声を掛けた 「剥げは嫌だな‥」 笙が謂うと烈が 「ちゅるちゅる!」と頭がツルツルになるとゼスチャーをした 笙は「勘弁してよぉ‥‥」と弱音を吐いた 翔は笑って「ぼくがしょーたんをまもってあげる」と約束した 頼もしい物言いに笙は笑って「なら僕も翔を守ってあげるね」と言った ほのぼのとした空気がバスの中に流れた 真矢は意識を取り戻して目を開けた 「あなた‥‥」 心配そうに手を握ってくれる夫に真矢は声をかけた 「真矢‥‥大丈夫ですか?」 清四郎は心配そうに問い掛けた 「ええ‥‥もう大丈夫よ」 取り憑かれていた時の記憶はある 意識の奥に追いやられていたが、記憶はあるのだ 自分が何者かに乗っ取られた様な感覚に真矢はどうする事も出来ず、康太に救いを求めていた 浄霊され霊の気配が消えると、靄が掛かった様な意識は鮮明となり、そこで意識は途絶えた 今は晴れやかな想いで清四郎を見ていられる自分が嬉しかった 清四郎は「総て終わったんだ‥‥」と謂うと真矢は康太は見た 康太は榊原の肩に凭れ掛かって寝ていた かなりの力を使ったのだろう‥‥ その顔は憔悴を濃くして力尽きた様に眠りに落ちていた バスは白馬へ向けて走り続けていた 飛鳥井の家族も眠りに着いていた 子供達も目を擦り眠りに再び堕ちようとしていた時 康太はカッと目を見開くと 「逝ね!警告を無視するのなら、御主らは飛鳥井家真贋を敵に回す事となる事を努々お忘れるなき様に!」と放った バスの中は緊張感が走った 何が起きたのかは解らないが‥‥‥ 不穏な空気だけは伝染して伝わっていた 『ならば正式に御主に面会を申し入れる事とする』 声だけが静けさを増した空間に響き渡った 烈が不愉快そうに『御子柴風情が吠えるな!』と一喝した 不穏な空気を掻き消すかの様な宗右衛門の声が響き渡った 康太は烈に「何故に御子柴との名が出るのよ?」と問い掛けた 烈に教えた事はない 烈が知る筈などないのだ 『あの家も転生を繰り返す力持ちの一族で、遥か昔から御子柴は厄介な存在として、飛鳥井と敵対しておったからな‥‥ 今世の当主は多分、御子柴言珠(げんじゅ)の転生者じゃろ‥‥ あの一族は年々力を失くしておるからな‥‥強い力の一族の血を与し者を此処で吸収したいのであろうて!』 「宗右衛門は‥‥‥御子柴を知っているのかよ?」 『今世の御子柴は知らぬが、わしの転生に数度、御子柴とやりあったからのぉ~ 知らぬ家ではない』 「んな所に繋がっていたのかよ? 今回の事で御子柴は強い力が発動されたのを感知した筈だ 動くかも‥‥とは想っていたが、想ったよりも早かったな」 『あの一族の血が絶えそうなのであろうて! 血で血を濃くした一族など、滅びの一途を辿るしかないと何度も申したのに、変わらぬ決まりを続ければ破綻は自ずとやって来ると謂う事じゃ!』 「宗右衛門‥‥烈の夏休みを護ってくれ!」 『容易い事よ! 童の事は我が護ると約束しようぞ!』 宗右衛門はそう言い、ほほほ!と笑って気配を消した バスは夜明けと共に白馬へと到着した 眠っていた子達を起こして、源右衛門の別邸まで向かう 京香は瑛智と柚と共にバスを下り、瑛太は家族の荷物を下ろして忙しいそうだった 明日菜は美智瑠と匠と結子と共にバスを下りると、笙は家族の荷物を下ろして忙しいそうに動いていた 榊原は康太を抱き上げ口吻けを落とすと 「眠いですか?」と尋ねた 「力を使ったかんな‥‥怠いし眠い」 「なら僕の隣で寝てて良いですよ 僕も君を抱き締めて寝ますから」 康太は榊原の首に腕を回して抱き着くと 「伊織、愛してるかんな」と甘く囁いた 「僕も愛してます康太」 ラブラブの雰囲気が二人を包む すると足に我が子達が抱き着き、父に自分達の存在をアピールした 榊原は笑って「君達も眠いなら父と母と雑魚寝をしましょう! 但し、母さんの寝相を考慮しないと痛い目に遭いますよ?」と我が子に謂った 子供達は嬉しそうに頷き、両親にビタッと引っ付き源右衛門の屋敷の中へと入って行った 客間の襖を広げると窓を開けた 涼しい風が家の中を通り抜け逝くのが解った 康太は「取り敢えず此処で寝るか!」と謂うと慎一と一生が布団を敷いた 康太は早々に布団に転がると眠りに着いた 榊原は康太を抱き締めて眠りに着くと、子供達は両親に抱き着いて眠りに着いた 早々に眠る康太一家に、玲香も「我も寝るかのぉ~」と言い寝る事にした 広い客間に皆が布団を敷いて眠りに着いた 家族が目を醒ますと、康太と榊原の姿はなかった 変わりに城ノ内と息子の龍之介が布団で寝ていた 瑛太は「康太は?」と訪ねると起きていた弥勒が「魔界に逝っておる」と答えた 玲香は「ならば御主らは康太の代わりかえ?」と笑って問い掛けた 「御子柴が狙わぬ様にお子と真矢殿を護る様に謂い使っておる!」 弥勒は腹の虫をキュルキュル鳴らしながら、そう言った 慎一は簡単に作ったチャーハンを弥勒に渡すと、弥勒はガツガツとそれを平らげた 笙は「ならば住職と倅は?」と問い掛けた 「彼奴等は真矢殿の護衛みたいなものだ!気にするな!」 気にするなと謂われても‥‥‥ 家族は困った顔をした 流生は師匠の顔をピチピチ叩き 「ししょー!ししょーってば!」と城ノ内を起こした 「流生、寝る時間も与えられず呼び出された師に対して酷くないか?」 「ししょー!おにぎりれす!」 と流生は城ノ内に一生に握って貰った爆弾お握りを渡した 城ノ内はそれを笑って受け取り 「サンキュー流生」と謂い流生を撫でた 龍之介も起きると音弥が爆弾お握りを渡した 龍之介は「ありがとう音弥」と言い爆弾お握りを受け取った 「りゅーのすけ、たくさんたべるのよ」 「ありがとう音弥」 「ばぁたん‥‥ まもってね」 龍之介は音弥の力を知っていた 九曜の力を継ぐべき子だと知っていた と謂う事は、音弥には真矢が憑かれていたと謂う事が解っていた事となる 龍之介は「ええ、この命に代えても‥‥護ります」と謂った 音弥は安心した顔を龍之介に向けた お昼過ぎには魔界に逝っていた筈の康太と榊原が還って来て直ぐに皆の所へ顔を出した 弥勒は「成果はあったのか?」と康太に尋ねた 「あぁ、それなりには在った 本当なら釈迦に話を聞こうと想ったんだがな‥‥‥」 「あやつは寝ておろうて!」 「今は惰眠の時間なのか起きねぇのな‥‥ 仕方ねぇから兄者に逢って話をして来た」 「閻魔殿は何と?」 「多分予想通りであろうて!との事だ」 「‥‥‥ならば近いうちに顔を出すであろうな」 「面倒くせぇな‥‥‥んとに‥‥」 康太はボヤいた 弥勒は笑って「我は夜まで寝る事にする、夜になったら宴会を楽しんで還る事にする」と謂った 康太は「おー!楽しんでくれ!」と謂い子供達の側に行った 子供達は皆康太と榊原に抱き着いて離れなかった 一生が「飯食うか?」と問い掛けると、康太は「無論!」と答えてキッチンへ向かった 少し遅い昼を皆で取り、夜には宴会に突入した 子供達の為に花火をあげた ホテルに泊まっていた家族も窓の外に顔を出して打ち上げ花火を堪能していた 想わぬサプライズに客達は大喜びだった そして子供達も気合いを入れた慎一、一生兄弟の努力の賜物とも言える連携の打ち上げ花火を見て喜んでいた 今年は特に多く打ち上げ花火を購入した 聡一郎は悠太が大好きな線香花火を手にして、真矢に写メを撮って貰ってご満悦だった 検査でアメリカに逝っている悠太に送るのだろう 真矢も玲香も花火を手にして夏の風情を楽しんでいた 流生が「きれーね!ばぁたん」と瞳をキラキラさせて見ていた 「綺麗ね流生」 「らいねんもこようね!」 「ええ、来年も再来年もずっとずーっと一緒に見ましょうね」 「ばぁたん ボクもみたい」 と大空が謂うと真矢は「当たり前じゃない!皆で見るのよ!」と謂った 大空は真矢の横に座り花火を見ていた 太陽は清四郎の横で「じぃたん!ふぁいとぉー!」と応援していた 清四郎は笑って少しだけ格好をつけて花火をしていた 烈は美智瑠と匠と瑛智と線香花火を手渡してもらい、じじくさく四人で線香花火をしていた 美智瑠も匠も笑っていた 音弥が時々、四人の面倒を見て世話を焼く そして烈と歌を歌って笑っていた 翔は母と手を繋ぎ打ち上げ花火を見ていた 「翔」 「なんですか?」 「楽しいか?」 「はい、たのしいです」 「夏が終わったら修練の儀式を行う」 「はい!わかってます」 「お前なら出来るさ オレの子だからな!」 翔は母を見上げ嬉しそうに笑った 弥勒と城ノ内と龍之介は久し振りの穏やかな時間を噛み締める様に、花火を見ながらお酒を飲んでいた 清隆も玲香も瑛太も京香も縁側で花火を見上げお酒を飲んでいた 源右衛門が生きていたら、そうしていていたであろう‥‥‥時間を噛み締めて花火を見ていた 短い夏休み 新型コロナと謂う、見えない菌との戦いの夏 何時もの夏と違う夏が過ぎようとしていた

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