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第31話 愛が生まれた日 2020年

11月11日 この日は榊原伊織の誕生日だった 子供達は1ヶ月前から父さんへのプレゼントの準備に奔走していた 康太も愛する夫の為に贈るプレゼントに悩んでいた 仲間の緑川一生は「今年はどうするのよ?」とそれなりに康太に問い掛けた 「自粛だかんな簡素化になると想う」 康太の言葉に一生はビックリした瞳を康太に向けた 「おいおい‥‥誕生日を自粛で簡素化って‥‥」 「今年は仕方ねぇんだよ プレゼントを用意するにも、人混みにいかねぇとならねぇだろ? ならば人混みを避けて用意するしかねぇやんか‥‥それだと皆無に等しいやんか」 康太の言い分も最もだった 世の中はGotoキャンペーンに浮き足だって、コンビニでは行列が出来る程、キャンペーンが出るたびに飛び付いている状況だった 自粛生活の反動なのか? 人々がこぞってキャンペーンに飛び付いて経済を盛り立てようと躍起に活動的になっていた 感染者は300人近く叩きだし、康太はプレゼントは通販で用意する事に決めた 味気ないが仕方ない 子供たちと外に出て感染するリスクを考えれば‥‥ 人混みを避けてだとどうしても通販となるのだった 一生は耐えきれず胸ポケットから携帯を取り出そうとした それよりも早く康太は 「道明寺には電話はするな! デパート業界は今、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだからな!」と止めた 春先に数ヶ月自粛で休業せざるを得なかった その皺寄せが赤字を叩き出して、年末商戦に賭けて利益を出さねば死活問題となっていた 一生は泣きそうな顔をして康太を見た 「だって‥‥旦那の誕生日なんだぞ? お前がどれだけ気に掛けてるか‥‥」 「それでも、だ!一生」 康太は一生を抱き寄せた 何とか出来るならばしてやりたい 一生は己の無力さを痛感していた 一生は康太に縋り付いて顔を埋めていた すると突然押し退けられ、唖然として顔を上げた 「カズ、かあさんはボクのだから!」 流生はそう言い康太に抱き着いた 康太は笑って流生を抱き締めた 「流生、どうしたよ?」 「かあさん、ボクね、おはなをとうさんにぷれじぇんとするの」 「おっ、流生が育ててるお花をか?」 「しんいちくんに、どらいふらわーってのにしてもらうの」 「父さんきっと喜ぶぜ!」 流生は嬉しそうに笑うと母に甘えて抱き着いた 音弥も母に抱き着いて 「ボクね、うたをぷれぜんとするの! あきまさにたのんで、しーでぃーにするのね!」 「おっ!父さんきっと喜ぶぜ!」 神野はきっと大変だろうな‥‥と康太は想った 太陽も母に抱き着いて 「ボクはね、ばぁたんにたのんで、とうさんのにんぎょうつくるんだよ」 「人形?」 「そうなのよ!」 太陽はバンドエイドだらけの指を母に見せた 「ちくちくはいたいのよ!」 康太は太陽の手を取って撫でた 「頑張ってるな、きっと父さんも喜ぶぜ!」 太陽は笑って康太に甘えた 翔も母に近付いて来た 康太は翔の手を取って皆と一緒に抱き締めた 「ボクはとうさんにあぶらえをぷれぜゆとします」 「油絵?誰に教えて貰ったのよ?」 「しょーさんです」 「笙?油絵なんて描けたのかよ?」 「がくせいじだいはしょうをそうなめしたといってました!」 「まぢかよ?」 「えは‥‥しゃきょうとちがって‥‥むずかしいです」 写経はお手本があるが、油絵は自分の想像力のみで描かねばならない違いがあった 康太は翔の頭を撫で 「翔が一生懸命描いたなら、きっと父さんは喜ぶぜさ」 翔は嬉しそうに笑って兄弟と母に抱き着いた 大空は「ボクはね‥‥みさんがをつくりはじめました」と気弱に伝えた 康太は大空を抱き寄せて 「誰に教わってるのよ?」と問い掛けた 「まま」 「京香は手先が器用だからな お前達の着てる服だって京香が作ってくれてるもんな!」 京香は子供達に似合う生地を見付けると、服や学校で使う袋とか作ってくれていた 大空らしい器用さに康太は嬉しそうに笑った 「父さんは絶対に喜ぶぜさ」 「かあさんは、なにつくるの?」 大空の問いかけに康太は買うばかりがプレゼントじゃないな、と何かを作るのを決意した 「オレか?オレは何を作ろうかな?」 榊原伊織が欲しがるモノはこの世で唯一つ 飛鳥井康太だけなのを知っているから悩む 康太は一生に耳打ちすると一生は嬉しそうな顔をして 「よし!アポイント取ってやんよ!」と謂った 愛する人の生まれた日 その日に向けて家族は心ばかりのプレゼントを用意する為に奔走していた 11月に入り康太は忙しそうに動いていた 子供達も一生や聡一郎や隼人も忙しそうに動いていた 朝起きるなり榊原は康太に 「最近、忙しそうですね」と拗ねた様に口にした 「飛鳥井で始めての牝馬をデビューさせる為に動いてるかんな!」 「‥‥‥でしたね、だけど君は忙しすぎな気がします」 「もう少し待て! そしたら時間を作るから、あと少しの辛抱だ!」 「解りました‥‥我慢しますが、我慢した分の徴収はしたすよ?」 「おー!望む所だ!」 康太は悪戯っ子みたいに笑うと、榊原は胸がキュンと高鳴った 愛してるのだ 尽きる事のない愛情を妻に注ぐ 妻も同じ分愛情を注いでくれる‥‥のだが、足りない もっともっと愛して欲しいのだ 自分は再現なく欲張りなったモノだ‥‥と榊原は苦笑した 康太はそんな榊原の心の葛藤を知ってか 「もっともっと欲張りになれ!伊織 なっても良いんだよ、お前にはその権利がある!」 と最大限許された言葉を贈る 榊原は康太を抱き締めた 「愛してます」 「おー!オレも愛してるかんな!」 こんなに愛せる人は見付からないだろう‥‥ 愛して愛して愛し抜いて尚、愛は募るのだ 自堕落に求め合い、食い尽くす それでも足りないと抱き潰す 榊原は何かに焦れていた 自分の誕生日も忘れる程に‥‥ 11月11日 世間ではPOCKY&PRETZの日 飛鳥井では康太の愛する榊原伊織の誕生日 家族はこの日早く仕事を上がり準備に余念がなかった 子供達もこの日の為に日々頑張ってプレゼントを仕上げた 榊原は瑛太に連れられ早目に家に帰り応接間に足を踏み入れた瞬間 パンパンパーンと鳴り響くクラッカーの音で、今日が自分の誕生日だと知った 清隆と玲香が帰って来ると、清四郎と真矢と笙夫妻がやって来た 内輪で静かに迎える榊原伊織の誕生日 今年は派手な事は一切避けて迎える誕生日だった それでも心を尽くして料理を用意して プレゼントを用意した 子供達はプレゼントを手にしてそわそわしていた 翔が「おとうさん たんじょうびおめでとう」とペコッとお辞儀をした 「翔、ありがとう」 榊原は満面の笑みを浮かべて喜んでいた 「とうさんのぷれじぇんとです うけとってください!」 翔はそう言い風呂敷で包まれたプレゼントを受け取った 「何ですか?」 「ボクがかきました」 榊原は嬉しそうに風呂敷を開けた すると風呂敷の上には額に入れられた榊原の絵があった たどたどしいタッチの油絵だが、確かに榊原に良く似た面差しの絵だった 「しょーさんにおしえてもらいかきました」 翔が謂うと笙は 「翔は優しいタッチの絵を描くのに驚いたよ その絵、何処から見ても伊織なんだよな こんな小さいのに上手に書いちゃうんだもんな‥‥驚いたよ」 笙が謂うと家族が絵を覗き込んだ 玲香は「よい絵じゃな、何処から見ても伊織ではないか!」とわらった 清隆と瑛太は頷いていた 清四郎は「良かったですね伊織」と少し寂しそうに謂った 子供達との時間を持たなかった清四郎には羨ましくて堪らなかった 役者としての自分しか考えず、家族を省みなかった‥‥ 翔は清四郎に近寄ると 「じぃたんのたんじょうびにもかくよ!」と謂った 「ありがとう翔」 「じぃたん だいすきだから、たくさんかくよ!」 清四郎は翔を抱き締めて泣いた 流生はドライフラワーを花束にして、綺麗にリボンをされた花束を榊原に渡した 「とうさん たんじょうびおめでとう!」 「これは流生のお花ですね? 良かったのですか?切ってしまって‥‥」 「とうさんのたんじょうびだから、おくりたかったのね!」 「ありがとう流生」 榊原はこの子達の父で良かったと想った こんなに良い子に育っていた こんなにも優しい子に育っていた それが嬉しくて堪らなかった 音弥が父の前に立つとリボンを着けたCDを手渡した 「とうさん たんじょうびおめでとう ボクねあきまさにたのんでしーでぃーにしてもらったのね!」 音弥が謂う晟雅は今宵呼ばれていて、瑛太は友の顔を見た 神野は「一発録りで成功させて音弥は本当に凄いよ」と自慢げに答えた 榊原は「ありがとう音弥、通勤の時に聞きますね」と礼を述べた 音弥は嬉しそうに笑っていた 大空は父の前に立つと小さなリボンの着いた袋を手渡した 「とうさん たんじょうびおめでとうございます これ‥‥ままにおしえてもらってつくりました!」 榊原は袋を開けて中からミサンガを取り出した ミサンガは蒼い綺麗な糸で織り上げられていた 「ありがとう大空 難しかったでしょ?」 大空は頷いた 「でもままがおしえてくれたの」 榊原は京香の方を向くと 「京香、ありがとう」と礼を述べた 京香は「大空は器用な男だ、どんな細かい作業でも弱音も吐かずに黙々と作っていた 父さんに渡したくて必死に作ったのだ」と伝えた 「ありがとう‥‥嬉しいです 大切にしますね」 大空は頷いた 太陽も父の前に立つと少し大きなリボンが施された紙袋を渡した 「とうさん たんじょうびおめでとう ひながつくりました!」 そう言う太陽の指はバンドエイドだらけで痛々しかった 榊原は太陽の手を取り 「ありがとう太陽 手、どうしたのですか?」 「ちくちくはいたいのよ」 榊原は首を傾げた すると真矢が補足で答えてやった 「伊織、太陽のプレゼントを見て下さい」 真矢が謂うと榊原は封を開けて中のプレゼントを取り出した 榊原に良く似た人形が作られていた 「太陽は私に父さんに贈るプレゼントが作りたいと謂ったのです 最初は危ないわよ‥‥と嗜めましたが、流石貴方の子です頑固でやると決めたら諦めません ですので人形の作り方を教えたのです ちくちくは針で指を刺したと謂う意味です 本当に太陽は頑張りました」 真矢は涙を拭って榊原に伝えた 榊原は人形を抱き締めて 「ありがとう太陽 僕に似てますね」 と嬉しそうに謂った 太陽は嬉しそうに笑って安堵した風に息を吐き出した 烈が「とぅちゃ!ぷれれれんと!」と待ちきれずに差し出すと、榊原は烈からのプレゼントを受け取った 康太は「烈‥‥そう言えば何を作ったのよ?」と計画を立ててる時にいなかったな?と思い起こした 烈の後ろには兵藤貴史が立っていて 「烈が俺んちに一人で来たのよ めちゃくそ驚いたぜ! 誰も連れずに来たんだからな 危ないわよ!と美緒なんて卒倒してた位なんだぜ!」 兵藤が謂うと康太は驚いた瞳を烈に向けた 「てめぇ一人で裏に行ったのかよ?」 「みんにゃ いそがちそーらったからね」 「一人で行くのは禁止だったよな?」 「だれも‥‥ぼきゅなんかきにかけないないもん! ぼきゅいなくても‥‥みんにゃきずかにゃいやんか!」 烈は泣いて叫んでいた 康太は烈を抱き締めた 「誘拐されたらどうするよ?」 「されにゃいもん‥‥られも‥‥ぼきゅなんかきにかけないもん」 「んな訳ねぇやんか!」 最近忙しくて烈を見なかったのは確かだった だが、烈がどうでも良いとかではない 烈は文句も謂わないし 本当に弁えていたから、ついつい後回しにしてしまっていた 「烈、おめぇに何かあったら竜胆に顔向けが出来ねぇやんか」 初めて聞く名だった 清隆は知っているのか?顔を強張らせていた 「りんどう きにちなくていいもん!」 「んな訳に行くかよ?」 「ちらにゃいもん!」 「烈、約束してくれ! 外に出るなら必ず誰かを連れて出てくれ! 何かあったら明日の飛鳥井の歯車が狂ちまうだろ? 竜胆が産まれるのは瑛智の子としてだ その時にお前がいないと歯車は回らねぇだろうが!」 康太がそう言うと嗄れた声が反論した 「お主は幼子の気持ちが解らぬのか? 烈は寂しかったのじゃ! この数日、烈は兵藤の小倅の家におったのに誰か烈の事を気にかけた奴はおるのか?」 そこまで謂われて初めて、康太は己の不甲斐なさを思い知らされた 「烈、貴史の家にいたのかよ?」 康太が聞くと兵藤は 「おー!いたぜ! 家族に知らせなくても良いのかよ?と聞いても『かまわにゃい!』と頑固でな そう言う事だったのね 康太、おめぇが悪いわ!」 兵藤は烈の想いを代弁して謂った 康太は「宗右衛門‥‥悪かった‥‥烈はあんまし我が儘を謂わねぇからな‥‥兄弟と仲良くいるのかと想っていた」と謝罪した 「烈は寂しかったのじゃ この家の中の誰も烈の事を気にしなかったとは申さぬが‥‥後回しが多かったのは否めぬと想うぞよ!」 「もう烈を淋しがらせない‥‥だからオレに烈を返してくれ!」 「どうしようかのぉ‥‥まぁ、これは意趣返しなんだが、竜胆を早目に呼び寄せる手筈を整えた 斯波竜胆は5年のうちこの世に誕生するであろう!」 「え?嘘‥‥5年‥‥早すぎねぇ?」 「それだけ御主が命を削っておると謂う証拠であろうが‥‥ 早まるのは‥‥完封なきまでの明日の継承の為じゃ」 「宗右衛門‥‥」 「女神からの申し出でもあるからな‥‥仕方あるまい 烈は此より歯車の軸となろう、常に気遣ってやってくれぬか?」 「あぁ‥‥済まなかった宗右衛門」 「では変わろうかのぉ‥ふぉほほほほ!」 宗右衛門から変わった烈は静かに泣いていた 「ごめんな烈」 烈は口を利かなかった 烈は反論や文句を謂うのを極端に嫌う それなら口を閉ざして黙った方が楽なのだろう‥‥ 兵藤は「烈、父さんにプレゼント渡さねぇのか?」と問い掛けた 「ひょーろーきゅん わたちといて!」 「それは出来ねぇよ! お前が心を込めたのならお前が渡せ!」 「にゃら、わたさにゃい!」 烈が謂うと榊原は立ち上がり烈を抱き上げた 「烈、父さんにプレゼントはくれないのですか?」 「らって‥‥」 「父さんも母さんも忙しくて烈を気に掛けてやれなくて傷付けてしまいましたね‥‥ 烈、君は大切な僕の息子です‥‥」 榊原が訴え掛けるのを、烈は困った顔で聞いていた 兵藤は「烈、父さんにプレゼント贈ろうぜ!」と再度問い掛けた 烈は榊原の腕から下りると、プレゼントを父に差し出した 「とぅちゃ、たんじょうびおめれとう!」 涙を拭いてそう言った 榊原は烈からのプレゼントを受け取り封を開けた 中から渋い湯飲みが出て来た 兵藤が「それは烈が土から捏ねて轆轤で回して作った湯飲みだ! 絵も烈が描いた 今回指導に当たった窯元の親父が烈の才能を気に入って弟子にならねぇか!と謂った程に出来の良い仕上がりとなってる!」 「貴史が付き添ってくれたのですか?」 「俺よりも美緒がずっと一緒に動いていたからな 美緒は烈を一目見るなり気に入っていた そう言うか‥‥何か今の烈見てて解った気がした」 あの気難しく、人を見る美緒が烈を見るなり気に入って接していた 「美緒がいてくれたのか‥‥今度礼を謂わないとな」 康太は烈を抱き上げて、ごめんな‥‥と謝った 烈は母に抱き着いて甘えていた 康太は榊原にプレゼントを 「ならオレも伊織に!」と渡した 榊原は妻からのプレゼントを嬉しそうに受け取り中を見た 康太からのプレゼントは小さな箱にリボンを施され入っていた 「革の文字はオレが掘って作ったんだ 革が硬くてめちゃくそ時間が掛かったけどな‥‥何とか作れて良かった」 榊原は妻からのプレゼントを手にして感動していた 真矢は「上手く出来てますね」と息子の肩を撫でた 清四郎は康太からの烈を貰い受けると 「今度じぃたんと遊園地でも行きますか?」と問い掛けた 「じぃたん あいがと」 真矢も「なら私と服を買いに行きましょうね! 帰りにはまたファミレスでお子様頼みましょうね!」と誘った 烈は「あいがとばぁたん、れも‥‥しゃんとおやのぎちきあるから、それおわったらね」と丁寧に断った 真矢と清四郎は康太を見た 真贋でもない烈が何故に三通夜の儀式を控えているのか?不思議だった 康太は「烈は転生者だかんな、転生者は真贋同様に三通夜の儀式を受けねぇとならねぇんだよ!」と説明した 「烈はまだ‥‥四歳なのに?」 「転生者は真贋よりも過酷な儀式を受ける 四つで三通夜 七つで覚醒の儀、十二で剣術の儀を、十五で元服の儀を受けねぇとならねぇんだよ」 真矢は言葉もなかった 「烈は宗右衛門の転生だからな、翔よりも早く儀式をやらねぇとならねぇんだよ それが転生して来た者の掟だかんな」 「ならば康太も‥‥烈と同じ位に儀式を?」 「オレは稀代の真贋だから烈と同じ年で三通夜の儀式をやりました 勿論、小学校に上がる年にもレベルを上げた三通夜の儀式をやったからな 烈と全く同じじゃねぇけど、転生者だから厳しい修行は受けて来たのは事実だ」 真矢は飛鳥井の事に口を出す気はなかった だが烈の背負う荷物の重さに‥‥真矢は胸を掻き毟られる程の痛みを感じていた 清四郎は妻の肩をそっと抱き寄せた 康太はポリポリ頭を掻いて 「飛鳥井の人間は総ては明日の飛鳥井の礎になる為に生きている 父ちゃんや母ちゃんも然り‥‥ 飛鳥井の人間はそんな痛みを抱いて見守るしかねぇ現実を受け入れている‥‥」 と、飛鳥井の人間はそれを諾としていると告げた 清四郎は「私達が飛鳥井の事で口を出す事はありません‥‥見守ると決めたのです どれだけ苦しくとも見守ると決めたのです‥‥」 「ありがとう義父さん すまねぇな義母さん」 真矢は「いいえ、私も飛鳥井の事に口を出す事はありません でも小さな烈が背負う荷物の重さに‥‥少しだけやるせなくなっただけです‥‥ 烈は受け入れてるのにね‥‥ダメね」と瞳を伏せた 烈は真矢に近寄ると、膝にドスンッと座った 「ばぁたん もうじき くりちゅまちゅらよ!」 もう悲しむなとばかりに烈は話題をすり替えた 「そうね、伊織の誕生日が過ぎれば、直ぐにクリスマスね」 「ばぁたん!ゆじゅね、はいはいできりゅのね!」 「まぁ、柚はハイハイ出来るのね」 真矢が感動していると烈は「ゆじゅ!」と柚を呼んだ すると柚はハイハイして烈の所へやって来た 烈は柚の頭を撫でて誉めると、柚は嬉しそうに烈に抱き着いた 「にー」 「ゆじゅ」 仲の良い兄弟に見えた 柚は凛々しい顔で烈に甘えていた そうして見ると京香に似て、かなりの男前だった 京香は「烈は柚の面倒を見てくれるのじゃ!」と嬉しそうに謂った 真矢は「烈は優しい子なのね」と頭を撫でた 「ばぁたん ゆじゅ」 「柚、おいで」 真矢は柚を抱き上げた 柚は真矢に抱き着いて甘えていた 清四郎も「柚、来年の初節句にはお雛様を買おうね!」とデレデレだった 京香は嬉しそうに柚が可愛がられる姿を見守っていた 流生が柚の傍に逝くと、柚は嬉しそうに流生に抱き着いた 「にー」 流生は柚を抱き上げると、母の所へ持って行った 流生の後ろには5人の子供が護る様に立っていた 康太は柚を抱き上げると 「モテモテだな柚 お前のナイトが6人もいるじゃねぇかよ?」と笑って謂った 明日菜は「流生達はまだ私を警戒しているのか?」と問い掛けた 「違げぇよ!箱入り娘なんだよ柚は! 柚が結婚相手でも連れて来てみ? 反対するのは父や母じゃねぇんだな、コレが! オレの子のお眼鏡に掛からねぇとOKを貰えねぇんだよ!」 康太は爆笑して果てを見て謂った 明日菜は「それは大変だな」と寂しそうに謂うと 「嫌々、結子も美智瑠や匠が目を光らせてるからな、婿殿を選ぶ時は大変かもな 美智瑠は流生達の協力を得て、とことん叩き潰そうとするからな!」 康太の言葉に明日菜は驚いた顔をして、そして笑った 「それは結子も大変だな」 「まぁ兄が美智瑠と匠だかんな、既に大変の片鱗は見えてるんじゃねぇか?」 美智瑠と匠は常に妹の面倒を見ていた それはそれは、過保護な程に見ているのだった 明日菜は「片鱗は既にあったか‥‥過保護な兄はずっとって事か」と笑った 流生は明日菜の所に来ると 「みーたんはケチだから、ゆいたんみせてくれないのね」と訴えた 明日菜は美智瑠を見ると、デレデレぶりの兄が結子を抱っこしていた 明日菜は美智瑠に「結子を流生に見せてやりなさい!」と謂うと「やーだ!」と謂い隠した 流生は「ねっ?みーたんケチなのね」とボヤいた 明日菜は流生を膝の上に乗せて抱っこすると 「すまないのだ、流生 美智瑠は後で叱っておくから許してやってくれ!」 と謝罪した 「しかるの‥‥だめよ みーたん‥‥かわいそうだからね」 「流生は優しいな」 「あしゅな」 「何だ?」 流生は立ち上がると、明日菜の頬に手を添えた 「わらっててくれるんだね」 「お前達との約束だからな」 「あしゅなはね、みーたんのじまんのままなんだよ!」 「え?」 「だから、ずっとわらってて」 「流生‥‥」 明日菜は泣きそうな想いを堪えて笑った その笑みはとても美しい笑みだった 音弥は「しょーたん ほれなおすね」とおませなことを謂うと 太陽も「きっともうひとり きょうだいふえるよ」とボヤいた 明日菜は真っ赤な顔になり 笙は「ひなちゃん ひょっとして僕の事嫌いなの?」と情けない声を上げた 「だいきらいよ!」 「えー!!!そんなぁ‥‥」 笙は泣きそうになった するの翔が笙の肩に手を置き 「ひなはね、いつもいつもいわれるからいやなんだよ」と説明した 「え?何て謂われてるの?」 「はいゆうのさかきばらしょうに、にてるって」 「え?僕!!!」 笙はまじまじと太陽を見た そう言えば太陽は我が子よりも酷似した顔をしていた まぁ血の繋がった兄弟なのだから、似るなと謂う方が無理があった 「みないで!しょーたん」 太陽は嫌な顔をした きっと幼い頃の写真を引っ張り出せば、太陽に酷似した自分が映っているのだろう 「ひなちゃん、僕は君のお父さんの兄だから似ても仕方なくない?」 「でもね、いやなの ばぁたんなら、このきもちわかってくれるのに!」 太陽はそう言い真矢に抱き着いた 真矢は太陽を抱き締めて 「笙、太陽は本当に何処へ行ってもお前に似てると謂われてるのです 私が太陽と共にいると『笙さんのお子さんなんですか?』と謂われる程にね 似てると言われ続けて辟易してるのです」 「母さん、それは僕の所為ですか?」 「お前の所為ではないけど、太陽は似てると謂われるのを嫌うのです もう少し大きくなるまで、待ってやりなさい そしたら‥‥似なくなるかも知れないんだから‥‥‥」 真矢は困ってそう言ったが、この子達を産み落とす前から康太が 『一人は笙に、もう一人は伊織に酷似して生まれ落ちるだろう』と謂っていた この先似なくなる保証はないけど‥‥ 大きくなれば太陽は賢い子だから、何とかしてくれるだろう‥‥と真矢は想っていた 愛すべき康太と伊織の子が間違うなんて絶対にないのだから‥‥ 清四郎は見かねて 「笙、なら君はこの先、太陽に誇れる男になりなさい 太陽がお前に似てると謂われても、自慢したくなる男になりなさい!」と助け船だした 確かに助け船だが、それは途轍もない壮大な助け船だった 笙は「解りました、太陽が自慢出来る叔父になりますとも!」と胸を張った 太陽は「それならにててもがまんしてあげる!」と笑った 笙は太陽を抱き上げて 「それはそれは有難いお言葉をありがとう!」と太陽をグリグリした 「なれなかったら、けりあげるけどね!」 「おっ!僕はひなちゃんに蹴りあげられちゃうの?」 「なればいいんだよ」 「頑張るよ」 「がんばれ!」 太陽は笑っていた 太陽はこの叔父が嫌いな訳ではなかった 唯、似ていると囃し立てられるのは嫌だったし、許せなかったのだ 真矢はじゃれてる笙と太陽を見ていた 本当に良く似ている 美智瑠や匠よりも酷似して、そうしていれば間違いなく親子だと謂われるだろう‥‥ 美智瑠や匠が似てないんじゃない もう細胞レベルでコピーの様な容姿には、誰も太刀打ちなど出来ないのだ 美智瑠や匠は太陽が苦手だった 怒られると父に怒られてるみたいで‥‥堪らない気持ちになった 最も、怒るのは母さんで、父さんは滅多と怒らないのだけど‥‥ 真矢は康太をそっと見た 康太は笑っていた そして真矢の耳元で「笙を焚き付けるのはやはり太陽の仕事か‥‥ 見てみろよ義母さん、笙の顔付きが変わっただろ?」と謂った 確かに笙の顔付きが変わった気がした 男の責任を感じさせる顔付きに、笙の伸び代が感じられて清四郎も真矢も 「まだまだ負けられない!」と闘志を燃やしていた 榊原は「また賞を総ナメしそうですね」とボソッと呟いた 『熱き想い』で賞を総ナメした その年の話題は『熱き想い』で始まって『熱き想い』で終わったと謂っても過言ではない程に興行収入は記録を塗り替えログランを叩き出した 康太は笑って「だか、まだまだ終わらねぇかんな!」と呟いた 榊原は康太を抱き締めた 「生まれて来てくれてありがとう伊織」 愛が生まれた日だった 激しく求め合う日もあれば 家族で過ごす日もある 波のように緩やかな日も 激しい日もある それが日常として子供の成長に合わせて変化していった 子供達は初等科に入学した 大きくなった 紅葉の様な手は、大きく力強く成長して行った これからも子供達は大きく成長して逝く 楽しみな日々だった 「伊織、ずっとずーっと‥‥」 共に逝こう 「ええ、ずっとずっと共に‥‥」 共に在ろう 榊原伊織の誕生日は家族に祝われ、今年も迎える事が出来た あと何年、こうやって過ごせるかは解らない‥‥ 解らないからこそ、我等は力を抜かず逝かねばならないのだ 抱き合う両親に子供達も抱き着いた 子供達のぬくもりが二人を包んだ 2020年 11月11日 夜更けまで飛鳥井の応接間からは笑い声が絶える事なく響いていた Happy Birthday 伊織 永遠の愛を君と

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