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第33話 年末年始

飛鳥井建設の年末恒例行事となつつある大掃除の中止が社員に告知された 社員達はその決断をしたであろう副社長の心情を想い‥‥言葉もなかった 男性社員は「今年もうさポン印のマイクロファイバーの雑巾買ったんだ 去年めちゃくちゃ綺麗になったから買ったのに‥‥」と残念そうに口にした 「俺だって、キレキレ本舗のお掃除ポイポイ買ったよ今年も! 去年凄い落ちたから、買っちゃったよ」 「私だって!ツルリン印のキュピカスポンジ買っちゃったのに!」 社員達は昨今の情勢は知っているし、もしかしたら‥‥と言う想いもあった だが、年末を締め括る大掃除は絶対にやらねばならないと想って、お掃除道具を買って当日に備えていたのだった 女性社員は「そう言えば社長の奥様、大掃除の後にご出産されたのよね? この前真贋がお連れになってた子が、そうかしら?」と真贋がヨチヨチ歩く子を連れていた姿を地下駐車場で見かけた時の事を口にした 男性社員は「もう歩かれているのか?一歳位だろ?」と驚いて口にした 「私も早いなって想って二度見しちゃった位だもの‥‥ でも京香さんに良く似たお子だったから、きっとそうよ」 「良かったな‥‥あの人が泣く事にならなくて‥‥笑ってて欲しいからな」 社員達は皆、頷いた そこへ康太が柚を連れてやって来た 「おっ、お疲れさん!どうしたよ?」 気軽に声をかけてくれるから社員達も装う事なく、康太と向き合っていた 「真贋、そのお子、京香さんのお子ですか?」 男性社員が問い掛けると、康太はスカートをはいた子を男性社員に抱き上げて渡した 「おー!オレの子はどの子も男だからなスカートは履いてねぇからな 瑛兄と京香の子の柚だ!」 男性社員はデレデレになり、女性社員達も柚を抱き上げて笑顔になっていた 「お母さん似ですか?」 女性社員は康太に問い掛けた 「どうだろ?瑛兄にも似てる所はあるかんな‥‥」 「どちらに似ても美人になる事は間違いなしですね」 「この子は亡くした京香の娘に良く似て育っているかんな‥‥可愛くなる事は間違いないわ!」 「亡くしたお子に‥‥ですか?」 女性社員も男性社員も言葉を失った 「あぁ、この子はその子の転生者だからな 似て当り前なんだよ!」 社員は言葉を失った そこへ京香がやって来た 横には康太の子達が一緒だった 烈が「ゆじゅ!」と走って来ると護る様に柚を取り上げた 流生や音弥、太陽と大空は母に抱き着いて 翔は社員達に深々と頭を下げた 京香は柚を抱き上げて「オムツは濡れておらぬか?」と確かめた 流生は「まま、みるくはぼくがあげるよ」と名乗り出ると 音弥も「まま、ぼくはオムツかえてあげる」と謂った 烈は「にーに!」と嬉しそうに笑っていた だがその顔は傷だらけで痛々しそうだった 康太は社員達に「この子は飛鳥井宗右衛門の転生者だからな、この年にして三通夜の儀式を見事果たされたんだよ!」と説明した まだ‥‥幼稚園児位の子が‥‥顔や手足に傷を作って儀式に立ち向かっていると謂うのか‥‥ 康太は翔に目をやると 「次代の真贋も三通夜の儀式を無事果たされた その時に怪我をしたからな、今も治療中なんだよ!」と謂った 社員達は「次代の真贋、大丈夫なのですか?」と心配そうに問い掛けた 翔は胸を張ると「だいじょうぶです」と答えた 社長に良く似た顔が人懐っこく笑っていた 康太は翔と烈の肩を抱くと 「飛鳥井はまだまだ安泰って事で安心してくれ!」と謂った 男性社員は「心配なんてしておりません!」と笑い飛ばした 女性社員は「私達は飛鳥井建設の一員ですから!心配なんてしておりません!」と答えた 音弥が「かあさん、とうさんがまってるよ!」と母を急かすと康太は柚を抱き上げて 「おっ!そうだった! 京香、行くぞ!」と言い慌てて去って行った 社員達は康太達を見送り 「あんな小さい子も頑張ってるんだ! 俺達が頑張らなくてどうするんだ?」と気合いを入れて謂った 女性社員も「本当にそうね、烈さんはまだ幼稚舎に入られたばかりのお子なのよ? そんな小さな子が儀式を無事果たされたって謂ってたじゃない! 私達も頑張らずしてどうするのよ!」と気合いを入れた 疫病になんて負けていられないじゃない! 社員達の心は燃えていた 飛鳥井建設の統制の取れた絆は、こう言う所から伝染して社内を盛り上げて逝くのだった 柚を抱き上げた康太は副社長室へと急いだ 副社長室のドアを開けると榊原が柚を康太から貰い受け抱き上げた 「会議室に来て下さいとの事です 京香も行きますよ!」 榊原が謂うと京香は 「子供達も一緒でよいのか?」と問い掛けた 「ええ、構わないです でも柚はそろそろお眠ですかね、グズグズ泣き始めました」 榊原が抱いたまま会議室に向かう頃には柚はすっかり眠りに着いていた 会議室で待ち構えていた慎一と一生が簡易的な布団を作り、柚を寝かせた 康太が席に座ると 瑛太は「それではお話があります」と切り出した 「あんだよ?瑛兄?」 「今年の大掃除なのですが?」 「中止と告知したやんか!」 「社員は中止でも例年通り行うと談判に来ました! 社長室の電話はそんな社員の意向を聞いた上司からの要望で止まりません! ハッキリ謂います、真贋、何とかして下さい!」 瑛太の言葉に康太は翔を見た 翔は「かあさん、さっきのひとたち、おそうじようひん‥‥‥かってますよ」も申し訳ない様に謂った 「知っている‥‥でも決まった事は覆す事は出来ない 社員の命を預かる者の使命だかんな!」 康太が謂うと瑛太が「それを曲げてくれませんか?」と談判した 康太は困った顔で兄である瑛太を見た 「瑛兄‥‥決まった事を覆せと謂うのかよ?」 「そうです!」 キッパリ謂われ、康太は仕方ないな‥‥と呟いた 「うちの社員も頑固者だかんな、一筋縄で逝かねぇって事か‥‥」 「そうです!副社長の教育の賜物ですね!」 瑛太は笑って謂った その言葉に榊原が反応して 「社長の頑固さを引き継いだんじゃないんですか?」と嫌味の応酬をした 二人はバチバチ火花を放ち、対抗意識を燃やした だが康太は「翔、どうしたら良いよ?」と次代の真贋に問い質した 「たのしみにしてるんだから、やればいいとおもいます」 「なら父さんにお弁当の手配を頼むと良い!」 「わかりました」 翔はそう答えると榊原の所まで行き 「おべんとうのてはい、おねがいします!」と頼んだ それを受けて榊原は 「何か考えがあるのですか?」と問い掛けた 「みつにならないように、きょりをとれば、できなくもないです」 「ならば、君が指揮を取りなさい! 総ての手筈は副社長である僕がしましょう!」 翔はペコッと頭を下げると 「よろしくおねがいします!」とサポートを頼んだ 康太はそれを見届けて 「って事で一件落着だな!」と笑った 最初からこうなる様に仕組んだのかと思える程の鮮やかさだった 康太は流生達兄弟に 「流生、音弥、太陽、大空、烈! お前達は翔のサポートをしろ! 協力して大掃除を成功させろ!」 と発破をかけた 兄弟は頷いた 瑛太や清隆は心配そうな顔で康太を見た だが康太は知らん顔でお茶を啜っていた 榊原は翔に「では真贋、手始めに何からやりますか?」と問い掛けた 「かくぶしょのせきにんしゃをよびだしてください!」 「解りました」 榊原はドアの前で立っていた秘書の安西力哉に 「力哉、各部署の責任者をこの会議室に呼んで下さい!」と指示を出した 力哉は直ぐに内線を手に取ると他の秘書に伝令を流して指示を出した 暫くすると各部署の責任者が会議室に姿を現した 待ち構えていた榊原は責任者が席に座ると 「真贋、お願いします」と声を掛けた 各部署の責任者の前に翔が立つと、皆は驚いた顔をしたが‥‥‥何も謂わなかった 翔は皆の前に立つと 「ボクがしきをとります! よろしくおねがいします!」と挨拶した 榊原は「僕と子供達はサポートをします!」と説明した 榊原は「手始めに何から着手しますか?」と翔に問い掛けた 「フェイスシールドをにんずうぶんよういできますか?」 「それなら康太が倉庫に大量に用意させた筈です」 「なら、しゃいんぜんいんに、それをくばってください!」 「解りました、話し合いが終わりましたら、責任者に人数分渡せる様にしておきましょう! 力哉、お願いします!」 力哉は「解りました、名簿を用意して各部署へ人数分お渡し致します!」と謂うと、秘書課の者へ手早くメールで伝令を流した 「フェースシールドをわたすとき、てぶくろもおねがいできますか?」 翔は着実に指示を出していた 力哉は「使い捨ての手袋なれば、倉庫にありますので、セットにして渡す様にします」と言い追加で伝令を流した 翔は兄弟を見ると、兄弟は何やら話をしていた 翔は「なにかある?」と問い掛けた 流生は「きょり、ひつようよ」と謂った 榊原も「掃除をする時は2メートルの距離を取る様にお願いします」と細くした 各部署の責任者はメモを取っていた 太陽は「かんき、ひつようよ」と父が何時も謂ってる事を口にした 「そうです!どれだけ寒くとも換気は必要ですので、換気をお願いします」 大空は「きゅうけいをおおくとるのね」とトーレニングしてる時に父に謂われる事を口にした 「そうですね、根をつめてはいけません! 適度な休憩も必要ですね 一時間掃除したら10分の休憩を取る それは社内放送で流しましょう!」 力哉は直ちにメールを送信した 音弥は「おんがく、ながしたらダメ?」と問い掛けた 「気持ちが落ち着くBGM位なら流しても構いません 宜しくお願いします」 力哉は忙しそうにメールを打つと送信した 烈は「おうえんしゅる!」と謂った 「では烈は応援お願いします 一生を着けるので、差し入れをお願いします」 力哉は「差し入れですか?何を差し入れたら良いですか?」と伝令を流せずに問い返した 「大丈夫です、烈が溜め込んだお菓子を放出すると謂っているので!」 そう言い榊原は笑った 烈は「とぅちゃ!!」と叫んだ 一生はサンタの袋張りのお菓子が入った袋を手にして笑っていた 「ひどいにょね」 「今年のお菓子は今年中に食べなさい!」 「ことちのよぎょれは、ことちのうちに‥‥じゃないにょね」 榊原は爆笑した 烈を抱き上げると 「また買ってあげます! 年末だからこそ、大盤振る舞いなさい! 持ち越すと良くないですよ?」 「わきゃった‥‥」 一生は可哀想になりポケットに忍ばせたお菓子を烈に渡した これは烈の非常食として持っていたお菓子だった お腹が減ると烈は機嫌が悪くなるから、苦肉の策だった 烈はお菓子を受け取りニコニコご機嫌になった 今年のクリスマスは家族だけで過ごした 井筒屋のチキンは美味しかったけど 家族でいられて楽しかったけど‥ 榊原の家族や兵藤は来なかったから、少しだけ寂しかった 少しだけ寂しいクリスマスだった 年末もそうだろう‥‥ 今年は何かにつけて寂しい年末年始になりそうだった だから皆で掃除が出来て、子供達は嬉しそうだった 康太は「力哉、頼んどいた子供用のフェースシールドを着けてくれ!」と謂った 力哉は紙袋から子供用のフェースシールドを取り出すと、子供達に装着した そして子供用のキャラモノのビニール手袋も渡した 準備が整うと 「よし、サイズは丁度良いな 今年の大掃除は明日、28日に行う 仕事納めの日に大掃除をする事にする 今年は29日から1月11日まで休みにする 休暇を多目に取るのは、世間の動向を見てからの方が動きやすいからだ! 納期が差し迫った現場もねぇからな、休みを取りやすくて助かったわ」 統括本部長達は気を引き締めた それだけ会社に不利益が被っていると謂う事なのだろう だから情勢を見てから動くと謂うのだろう‥‥ 延期されたオリンピックも行われる特別な年になる筈なのだ‥‥ 倭の国は‥‥再び立ち上がり活気に満ちると期待を心に抱いた 大掃除が行われる事は統括本部長達が部署に戻って社員に伝えた 社員達は例年通り大掃除が出来る事を喜んだ 飛鳥井建設だとて、疫病で不利益を背負わされダメージを受けていた その上、建築と謂うモノを造る者達に与えられた試練と言うか、マスクをして真夏の暑い時に力仕事をすると謂う大変さを改めて認識させられた年だった 仕事の効率は下がり、熱中症で倒れる者も後をたたなかった そんな苦難を乗り越えて、夏を乗り越えてやだと辿り着いた年末だった だからこそ、の年末だったのだ 社員の想いも一塩なのだろう 皆で乗り越えた今があるのだ だからこそ、皆で協力して心行くまで磨きあげ、清々しい想いで新年を迎えたいのだ 大掃除決行が伝えられると社員達は喜び 闘志を燃やした 12月28日 飛鳥井建設の仕事納めの日 この日は飛鳥井建設の大掃除の日でも在った 例年通り、大掃除が出来て社員達は喜んでいた だが今年は何から何まで、例年通りとは行かなかった 大掃除開始の合図は社内放送用のモニターで 各部署の者はそのモニターの前に距離を取って集まっていた テレビ画面に飛鳥井家 現真贋の顔が映し出されると、社員達は気を引き締めてその画面を見た 『今年は感染対策の一環として、テレビモニターから開始の合図を送る事にした 皆を集めて話をしたいのは山々だが、昨今の病を鑑みれば、それはしちゃぁいけねぇ事だと判断した 本当なら皆で行う大掃除も最初は中止にした 社員の命を預かる側としては万全な対策がなければ、行ってはならないとの考えから判断した だが皆の情熱がオレを動かした 今年、大掃除の指揮を取るのは 次代の真贋、飛鳥井翔だ! 翔、皆にご挨拶しろ!』 康太に謂われ翔が現れた キリッと顔を引き締めて立つその姿は、社長に良く似た面差しだった 日に日に翔は瑛太に酷似して来ていた 瑛太の子の瑛智は、どちらかと謂うと源右衛門に近い顔をしていた 『みなさん、ことしもおおそうじのきせつがやってきました! こころをこめて、じぶんのぶしょをみがきあげてください! これより、あすかいけんせつ おおそうじをかいしします!』 立派な口上だった 康太は笑顔を浮かべて、その姿を見ていた 翔の合図で大掃除の火蓋は切って落とされた 掃除が始まると皆、フェースシールドを装着し、ゴム手袋をはめて臨戦態勢を取った 今年は事前に密を避ける為に距離を測って、各々の掃除の役割分担を決めていた 窓に近い者は窓を全開にした 冷たい風が吹き付ける中、大掃除は始まった 皆、防寒着に身を包み磨きあげていた 広報宣伝部の水野と一色も率先して掃除をしていた 今年は去年流生に謂われた事を守り導線を作り上げ能動的な部署へと生まれ変わっていた 流生のアドバイスは流石としか謂えない的確なモノだった 大掃除の後も流生は何度も足を運び、指示を出して改善をしてくれた その真摯な姿に胸を打たれた社員達が率先して片付けを心掛け、今の空間が出来上がったと言っても過言ではなかった 建設 施工 設計部門の栗田も感染予防対策を確りと取り距離と換気を徹底した 最近は猛者な男達は暇が出来ると部署を磨いてきた 年末が近付くと特に皆が率先して掃除をしていた その甲斐あってかなり綺麗な状態を保っていた 建設と施工の猛者達は、掃除の合間に日頃自分達が使う道具も磨いた 翔が現場に来た時、乱雑に扱われる道具を目にして 『どうぐはおのれをたすけてくれるぶきでもあるんだよ ひごろからていれしなくてどうするの?』 と厳しい一撃を食らわした それ以降、猛者達は道具の手入れにも余念がなかった 昔は使おうとする時、想ったように使えない事もあった 知らないうちに壊れてる事もあった だが心掛け一つで道具は何時でも気持ち良く使える事が出来るようになった フェースシールドを曇らせながら、一心不乱に社員達は掃除に勤しんだ 人事 経理 人材管理部の統括本部長の陣内は、去年烈に痛い一撃をかまされてから、社員に近寄る様にしてきた 上から目線でなく、目線を社員の所まで落として接する様にしてきた すると如何に社員の気持ちが解らない奴だったのか‥‥と己を再認識した こう言う性格だから常に会社と謂う年功序列の世界に入ると上手く立ち回れずにいた 世の中が無能だから自分の言葉が解らないのだと、人を見下した 今は少しはマシになって来たが、やはり社員に寄り添う事はしてなかったのだと再認識させられた 陣内は「今年はどの部署が綺麗で賞はないけど、それでも一年間使わさせて貰った部屋を綺麗にする為に頑張ろう! 皆と過ごして来た部屋を綺麗にして、来年また新たな想いで立ち向かって逝こう!」 と口にした 社員達は【はい!頑張りましょう!本部長!】と笑顔で答えた 和気藹々とした雰囲気の中、掃除に取り掛かろうとした時 「しゅぎょいよ!ちんない!」と謂う声が掛かった 入り口を見ると烈が笑顔で立っていた 陣内は烈に近寄り、烈の目線まで屈むと 「どうされたのですか?烈」と声をかけた 「ちんない、ぎゃんばっちぇるか、みにちた!」 「頑張ってますよ!俺は 去年貴方に謂われた通り、社員に近寄り同じ目線で歩いて来ました」 「えらいねぇ、ちんない!」 烈は陣内の頭を撫で撫でした 「烈‥‥」 陣内は胸が熱くなって、泣きそうになった それを堪えて烈に向きなった 烈の噂は既に社内中に広まっていた 飛鳥井宗右衛門の転生者として、三通夜の儀式を無事果たされた事を‥‥ 当然、陣内の耳にも入っていた 陣内は烈の顔の傷に触れ 「痛くはないのですか?」と問い掛けた 「‥‥‥ちょれ、きかにゃいにょ!」 「どうしてですか?」 「いたいいうと‥‥よけいいたくにゃるにょよ!」 烈の言い種に陣内は笑った 「烈、俺はこの一年本当に人を敬う様に心掛けました」 「らから、ごほうびにゃにょね」 烈はそう言いお菓子を陣内に手渡した 一生が同行していたから補足するかの様に口を開いた 「それは烈が多くの人に戴いたお菓子だ! 俺は烈サンタの同行者として来てるんだよ」 一生はそう言い大きな袋を担いで笑っていた 陣内は「烈サンタですか、ありがとう!社員の分は手渡しでお願いします!」と笑って謂った 烈は一生からお菓子を手渡して貰うと、一人一人にお菓子を手渡した 「ごきゅろうちゃま!」 烈はそう言いニコッと笑った 社員達はその笑顔に癒され、掃除に邁進した 総務部の蒼太も皆と掃除を頑張っていた 烈サンタからの差し入れを皆で喜び、今年はまた違った年末の情景に笑顔を浮かべていた お昼になり弁当が配られると、各部署の責任者が密にならぬ様に、時間差で受け取りに行った 今年は副社長の監視はないと最初から謂われていた だが社員達はどの部署よりも綺麗に!と年末の恒例行事が行われただけで、喜んでいた 今年は午前中で大掃除は終わり仕事納めとなっていた お昼を食べたら大掃除は終わる 今年は少しだけ侘しさが残る大掃除となったが、悔いはなかった 昼の休憩が終わると館内放送が流された 現真贋の声で 「今年の大掃除はこれを以て終了とする 今年は年始めから疫病との戦いとなった 来年もその影は色濃く出るだろう! だがオレ達は負けねぇ! 負けてる暇なんてねぇからな! 来年は今年以上に忙しい年にしようぜ! 不景気なんて吹き飛ばす程の勢いで乗り越えたいと想う! 年末年始は皆も気を付けて楽しい時間を過ごしてくれ! オレからは以上だ!」 締め括られた 今年の大掃除は終わりを告げた 副社長の声が今後の指示を出す 「新年は11日まで休みとなります 仕事始めの日は皆さんの元気な顔を御目に掛かれます様に、心より御待ちしております それでは飛鳥井建設、仕事納めとさせて戴きます! 今年も1年、ご苦労様でした! 各部署で解散をお願いします」 副社長の放送を持って、年内の業務は総て終わりを告げた 各部署で解散をすると社員は皆、一旦正面玄関から出て行く事を命じられた 地下駐車場に車がある者は、外の駐車場入口から地下に下りる事となった 密を避けて、各部署毎に下へと下りて行く 時間差で下へ下りる時間が伝えられた 統括本部長はそれに習って、伝えられた時間が来ると階段で一階まで下りた 正面玄関へと出るとアクリルボード越しに、会長、社長、副社長、真贋、そして子供達が並んで立っていた 会長達は社員の姿を見ると、深々と頭を下げて社員を見送った 会長は「また来年も宜しくお願いします」と丁寧な挨拶で社員を送り出した 総ての部署を見送ると、康太はコキコキ首を動かして 「今年の大掃除も終わったな 次は飛鳥井の家だな」とボヤいた 清隆は「掃除はほぼ終わってます」と笑って伝えた 「後は源右衛門の部屋と客間と応接間だな」 康太が言うと一生は 「それも終わってんぜ!」と告げた 「早かねぇか?」 「今年は皆を呼んで宴会とかなかったからな‥‥暇を見付けて旦那と慎一がやってたぜ!」 一生の言葉に康太は榊原を見た 榊原は笑顔で妻を見て 「家に還ったら料理に精を出しますかね?」と謂った 「誰も呼ばないのに、どんだけ豪勢にする気だよ」 「僕の趣味なのですよ?」 そう言われたら何も謂えなかった 「んじゃ、帰るとするか!」 康太が言うと家族は地面に置いた荷物を手にして歩き出した エレベーターの前に行くとボタンを押した 直ぐ様、エレベーターのドアが開くと乗り込み地下駐車場に向かった 地下駐車場に向かうと車に乗り込み、それぞれ帰宅の徒に着いた 榊原はファミリーカーのドアを開くと子供達と康太が乗り込んだ 康太は思い出した様に 「そう言えば慎一がいなかったけど、用を頼んだのか?」 と問い掛けた 榊原は「僕は何も頼んでませんよ?」とそう言えばいなかったと思い浮かべた 康太は「まぁ家に帰れば逢えるんだし良いか?」と気には止めずに呟いた 榊原も「そうですね!」と家に還ったら料理の算段を考えながら車を走らせた 飛鳥井の駐車場入口に車が近付くと自動でシャッターが上がり、榊原は車を地下駐車場へと走らせた 車がスロープを下りて行くと、シャッターは自動で下りて閉まった 決められたスペースに車を停めると、榊原は車から下りた 後部座席のドアを開けると、子供達を下ろした 康太も車から下りると、子供達は母の元へと近寄った 子供達を下ろすと榊原はドアをロックして、康太と子供達と共に駐車場から出て応接間へと向かった 応接間に行くと‥‥‥ 割烹着を着た真矢と、着物の袂を襷で縛り、臨戦態勢をしている清四郎の姿が在った 榊原は「父さん、母さん、誰に入れて貰ったのですか?」と唖然と問い掛けた 真矢は「慎一よ!」と答えた 清四郎は上質な着物を惜しげもなく結わえて、掃除に勤しんでいた 「応接間の掃除は終わってますが‥‥」 「細かい事は謂わないのよ伊織!」 「それより父さん、母さんどうされたのですか?」 「今年はクリスマスにお呼ばれされなかったから、お正月は大晦日前から泊まり込む為に来たのよ! 全館ライトアップもイルミネーションも今年は行かないと謂ったから、我慢していたのよ? お正月も呼ばれないのは嫌なので押し掛けました!」 真矢は艶然と笑ってそう答えた 康太は「年が明けたら数千人規模の感染者が出るからな‥‥本当なら距離を置いた方が互いの為なんだがな‥‥」と呟いた 清四郎は「それでも、一緒にいたい想いは止められません‥‥ 逢いに行けない程の距離なら‥‥諦めも着きますが、近くにいるなら逢いたいと想ってしまうのです‥‥」と訴えた 榊原は「大丈夫です、頼んでいたモノも届きましたから問題はないでしょ!」と笑った 清四郎と真矢は頼んでいたモノ‥‥成るモノの想像は着かなかったが、息子が味方になってくれた‥‥と感動していた だが‥‥夜になり宴会に突入して、榊原の頼んだモノが露になり、清四郎と真矢は言葉を失った 宴会の席には隣と前を区切るパーティションが置かれていた 対人する人との間には、完璧に飛沫を防げる程の大きなパーティションを お隣との間を仕切るパーティションは横に長く‥‥‥ これで完璧に飛沫を防ぐ意図が解るモノだった 清四郎と真矢は言葉を失い 清隆と玲香は爆笑した 瑛太と京香は互いを見詰め‥‥諦めて笑った 榊原は近年見た事もない笑みを浮かべ 「それでも酒を飲みたいと謂い出す者達を、完璧に予防する為に特注で頼んだのです 僕の奥さんと子供達を護る為です、嫌でしょうけど我慢お願いしますね!」 と言い放った 今年の飛鳥井の年末の宴会は‥‥‥ 飛沫対策を万全にされ‥‥少し味気のない宴会となった だが皆が元気でいられる為の予防策だと謂われれば‥‥ 皆はそれに従い、楽しめる時を頼んだ 2020年の年は過ぎる そして新しい年が開ける 今年は良い年であります様に‥‥ 心から願って止みません どうか皆様、無事に年末年始を過ごされます様に‥‥ そして元気で2021年を乗り越えられます様に、祈っております あけましておめでとうございます 本年もどうぞ宜しくお願いします

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