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第34話 GWの日々
GWに突入する少し前
飛鳥井康太と榊原伊織はリビングのソファーの上で、GW中に子供達をを何処かに遊びに連れて行くか?で話し合っていた
昨年に続き新型の疫病は蔓延して、日々患者数を増やしていたからだ……
榊原は康太に「GWどうします?」と問い掛けた
康太は困った顔をして
「それな、どうするよ?」と逆に問い掛けた
榊原は困った顔をして
「去年は我慢の日々でしたから……今年は人出は増加傾向にあると謂われてます……困りましたね」
と呟いた
連日のニュースで増え続ける感染者数
康太は「まぁよくも4波まで乗り切ったとオレは想うぜ……」と苦笑した
家の者達も、会社(飛鳥井建設)の社員達も感染対策を徹底して、何とか乗り切って来た
榊原も「ええ……家族も頑張ってくれたから此処まで乗り越えられたのです
会社も然りです、社員の意識が高く協力的だからこそ、此処まで来られたのです」と日々の暮らしを想いながら口にした
「今年は……何処へ行くかな?
去年は若旦那の協力で子供達の夢を叶えられた
今年はそうは行かねぇからな……」
「ですね、まぁ何処へ行っても凄い人なのは否めないでしょうからね」
「此処まで頑張ったんだからよぉ、ワクチン打って日常を取り戻せる日までは、乗り切りてぇよな?」
「そうですね、乗り切りましょう!」
榊原は康太を引き寄せた
「慎一に頼んである件が通れば、行き先は決定なんですがね?」
「だな、上手く行くと良いな!」
榊原は康太を強く抱き締めた
そこへ一生がやって来て
「ラブラブな所すまんが、義父さん達が呼んでますがな」と気まずそうに声を掛けた
榊原は立ち上がると康太に手を差し出した
康太はその手を取って立ち上がると、榊原に抱き着いた
「親父達は応接間か?」
康太が尋ねると一生は「家族全員集まってる」と告げた
康太は榊原から離れると、一生の背中によじ登った
一生は康太を背中におんぶしてリビングを出て行った
榊原はゆっくりとその後を追った
「なぁ一生、家族の話って、オレが伊織と話してたのとカブってる?」
「お前が何を旦那と話してたかは、察しがつく
多分同じ要件だと想うぜ!」
「頭が痛い問題だよな……」
康太はため息混じりに呟いた
「本当に……でも仕方ないでっしゃろ?」
「あー!お前の髪の毛全部毟ってやりたい……」
一生は笑って
「ハゲてまうがな」と答えた
「ハゲておしまい!」
「植毛してくれるなら良いぞ!」
一生は笑っていた
この男は総てを許して康太に尽くしてくれていた
「おぉっ!最高級の植毛してやんよ!」と康太と笑っていた
応接間のドアの前に来ると、康太は一生の背中から下りた
康太は応接間のドアを開けると
「どうしたのよ?」と問い掛けた
応接間には飛鳥井の家族と榊原の家族がソファーに座っていた
そこに子供達の姿はなく
「子供達はどうしたのよ?」と問い掛けた
それに答えたのは清四郎だった
「子供達は笙が連れて出てくれてます
不用意に聞かせて連れて行けなくなった時、失望させたくはありませんからね……」
と予定通りに行かない事を計算して言った
清隆が「GW、子供達を何処にも連れて行かない気ではありませんよね?」と問い掛けた
康太は「それを今伊織と話していたんだよ」と答えた
榊原も「日々感染者数の増加している今です……
そして我慢の日々に痺れを切らした人々が流出している現状を鑑みて……話し合っていました」と説明した
真矢は「それを言っていたら何処へも行けません……まぁそう言い大義名分を掲げて出掛ける人がいるから感染者数は減らないのでしょうけど……」と溜め息混じりに言った
玲香は「ならば感染対策を確りして出ればよかろうが!
気を付けていても感染はする……だからと言って何処へも連れて行かないのは違うであろうて!」とキッパリ線引する様に言葉にした
康太は「オレ達もそう話していたんだよ、なぁ伊織!」と嬉しそうな顔をして榊原を見た
榊原は康太を優しく見詰めて
「ええ、僕達も何処へ連れて行こうかと話していた所です
子供達に寂しいGWなんて送らせたくないですからね……
それより何よりGWに何処へも行かなかったなんて、桜林の教師陣が聞いたら何を言ってくるやら……抗議は凄いでしょうから……」
桜林学園の教師陣の煩さを思った
特に佐野と長瀬は文句を言って来るだろう……
榊原が言うと瑛太が
「春彦辺りなら言って来るでしょうね……」と友の性格を鑑みて言った
清隆が「ならば何処へ連れて行きますか?」と本題に切り込んだ
康太は「そこなんだよな……」と考え込んだ
清四郎は「行楽は何処も混むのでしょうね」と人の多さを想像してゲンナリとした
「ソーシャルディスタンスなんてあってねぇようなもんになってるから……間を空けてたら割り込みされたりするしな……」
康太もゲンナリ呟いた
榊原が「今、慎一に進めさせている事があるのです……良い返答ならばGWはそこへ過ごすつもりです」と康太を抱き寄せて言った
真矢はだから慎一はいなかったのか……と今更ながらに思った
飛鳥井の家を尋ねれば慎一が執事として総てを取り計らっていた
その慎一がいなくて一生が出迎えてくれたのだ
そして康太達を呼びに行ったのも一生だった
そこへ何処かへ出掛けていた慎一が応接間に姿を現した
榊原は慎一に目を向けると、慎一は
「総ては我が主の想いのままに……話を進めて参りました!」と告げた
榊原は「ならば皆さんにその旨を伝えて下さい!」と言った
慎一はソファーに座ると、聡一郎が飲み物を置いた
「お腹は減ってないかい?」
「はい、大丈夫です」
「朝は食べたのかい?」
「いえ……」
慎一が答えると真矢が「ならば昨夜は何を食べたのです?」と問い掛けた
「………」
慎一は答えなかった
真矢と聡一郎は顔を合わせると
「まずは食事です!」と言い、食事の準備を一生に頼んだ
一生は京香が作って置いてくれた朝食を持って来ると、慎一の前に置いた
「お前さ、主の為に食事する時間も惜しんで動くのは良いけどさ、体躯が資本だって怒られるぞ!」
一生が謂うと慎一はバツの悪い顔をした
真矢は「沢山食べなさいね!」と一生に邪魔するな!と無言の圧力を掛けた
食事を終えると慎一は
「向こうは何時来てくれても構わない!との事です!」
と告げた
榊原は慎一からの言葉を受けて皆に全容を告げる事にした
「慎一には○○県の山奥の山村へと向かって貰いました
静かな山村の開発計画が持ち上がって、その話に飛鳥井建設も名を連ねた事がキッカケで、以来親しく交流を重ねていたのです
今回はその山村の使われてない区域をお借りできないかと話をしに行って貰っていたのです」
「○○県の山奥の山村?
GWはそこへ行くつもりなのかい?」
と清四郎は問い掛けた
「飛鳥井の開発計画に携わった人間なら知っている場所です
地図には乗ってない廃村を避暑地にしたのです
バーベキュー場やアスレチック遊具などがあります
今年はこんな状況だから人が押し掛けて来るのを危惧して、閉鎖すると謂われたので、ならば貸して下さいませんか?と願いした所、了解の返事を慎一が貰って来てくれたのです」
真矢は「そこへは皆行って構わないのですか?」と訪ねた
それに答えたのは康太だった
「皆で行くつもりで慎一に動いて貰ったから、そのつもりだが……
一緒に逝くなら約束して貰わねぇとならねぇ事もある
それが守れるならばの話となる!
その山は樹海ばりの木々が生い茂る場所だからな
下手に歩き回られたりして迷ったなら、探せるか解らねぇ程に険しいんだよ!
ちゃんと正規のルートを通るならば心配はねぇけど、山奥に足を踏み入れたら最後だ
だから勝手に動き回るのは禁止だ
山中で迷ったなら方向感覚もなくなる程に険しくて方位磁石すら正確に動かねぇ場所だ……
まずは発見されねぇだろう危険は常に隣合わせとなる!
だがルールを守るならば、長閑で空気が美味しい場所だ!
だから来るならば、それなりの覚悟はして貰わねぇとならねぇ!」
京香は「大丈夫だろうて!我が駄目だと申して逝くチャレンジャーな子は飛鳥井にはおらぬだろうて!」と笑った
子供が自我を持ち我儘を謂う様になって京香は、かなりの鬼と化して子供達に恐れられていた
だが普段は優しいママだから、子供達は恐れられていた
康太は真矢は笙を電話で呼び出した
飛鳥井の家に笙が子供達と共にやって来ると、慎一と一生は子供達を連れてキッチンに向かった
一生が「手洗いうがいしたらおやつタイムだせ!」と言うと子供達は嬉しそうに着いて行った
真矢は笙をソファーに座らせると、事の経緯を話した
「貴方の子はどうなのですか?
ちゃんと約束は守れますか?」
「母さん美智留も匠も結子も勝手に何処かへ行きません!
またちゃんと見てますから!」
「約束よ!勝手な事をして迷惑は掛けないで頂戴ね!」
「解ってます!」
笙が答えると話は着いたと子供達を呼びに行った
子供達は慎一に作って貰ったおやつのゼリーを食べていた
榊原は「お話があります、食べ終わったら来て下さい!」と声を掛けると、子供達は元気に
「「「「「「はい!」」」」」」と返事をした
おやつを終えて応接間に逝くと、明日菜が子供達を連れてやって来ていた
真矢は明日菜に事の詳細を伝えていた
「どうしますか?
勝手な行動は許されません!
見ていられないと謂うのであれば、貴方達は笙と別の所へお逝きなさいと謂うしかありません!」
真矢は厳しく明日菜にそう言った
「お母様、子供達には言い聞かせます!
それでも勝手な事をするならば部屋から出さねば良いだけの事です!
私は常日頃から約束は絶対だと子供達に言い聞かせております!
母との約束を破る愚か者など、我が子の中にはいないと想います!」
明日菜の迫力のある物言いに美智留達はチビリそうになっていた
最近の母はやたらめったら厳しい
他所に出して恥ずかしくない礼節と節度を弁えろと叩き込まれていた
明日菜の指針は飛鳥井康太
康太の子が目標であった
美智留は「かあしゃん、やくちょくまもれるよ」と口にした
匠は頷いていた
結子は兄の腕の中で心配そうな瞳をしていた
明日菜は「大丈夫です、ですのでご一緒させて下さい!」と申した
慎一がそんな明日菜に「子供が怯える様な押し付けは感心しませんよ?」と声を掛けた
明日菜は「……え?そんなつもりは……」と躊躇していた
慎一は美智留の前に屈むと
「美智留、お約束守れるかい?」と問い掛けた
美智留は頷いた
「匠は?お約束守れるかい?」
「まもりゅよ」
慎一は二人の頭を撫でた
「偉いな、なら勝手な行動はしないと約束するんだよ!
勝手に何処かへ行ってしまったら2度と戻れないかも知れないからね!
お家に帰りたいよぉって泣いても、探しに行けない……そんな場所で勝手な行動は皆に迷惑掛ける事になるし、君が帰らなくなったらご両親は苦しむ事になるんだからね、約束は絶対に守るんだよ!」
慎一が小指を差し出すと、美智留と匠は小指を巻き付けて約束した
解りやすい説明に、美智留と匠もやっと事態を把握出来ていた
それを見ていた流生が「どこかゆくの?」と問い掛けた
榊原が我が子に「行きます、ですがその場は勝手な行動をしたら2度と帰れないであろう危険を伴う場所でもあるので、注意喚起の為に約束が必要なんです!」と説明した
音弥は「ダメといわれた、やらないよ!」と答えると
太陽も「やくそくはぜったいね!」と笑った
大空も「はり……せんぼんはのめないのね」と真顔で答えた
翔は「ボクたちはやくそくまもります」と答えた
烈が「ごはんとこからうごきゃない!」と答えると、皆が笑った
流生が京香に「ママ、ゆずはおへやね!」と残念そうに言った
最近の柚は最近オペをして退院して来た今も無理は出来ない状態った
京香は「あぁ、でも皆が元気してれば柚も喜ぶであろうて!」と豪快に笑った
明日菜は「柚、どうかしたの?」と問い掛けた
京香は「柚は音弥と一緒で股関節の病気でな、先月オペをしたのじゃ!
今はまだ歩くのは駄目じゃからな、外で遊ぶ事は出来ぬのじゃ!」と答えた
聞かされていなかった明日菜はショックを受けていた
そんな明日菜を心配して真矢は
「私もそれは知りませんでした!
何故オペがあったのなら知らせてくれなったのですか?」と問い掛けた
それに答えたのは康太だった
「別に隠していた訳じゃねぇ!
京香が見舞いにも来られない現状を憂いて知らせるなと言っていたから知らせなかっただけだ!」
「見舞いにも来られない?……それは何故なのですか?」
「厄介な疫病が蔓延しているからな、見舞いの制限も厳しくなっていた
一等親だけしか許可されなかったんだよ
知らせたとしてもオレらも見舞いなんか出来ないからな
総てを母ちゃんに任せていたってのが現状だった
そんな状況で知らせる方が心配させちまうと考えての判断だ!」
真矢は納得して「そうでしたか……だから柚がいないのですね」と呟いた
烈は何時も何時も柚を可愛がって離れようとしなかった
なのに烈は兄達とソファーに座っていた
柚がいないからなのは明白だった
明日菜は「柚は大丈夫なのですか?」と問い掛けた
京香は烈を抱き上げて
「妊娠中に栄養が子供に行かなかったみたいでな……柚は未熟児でこそなかったが……成長するにしたがって歩き方が少し可笑しくて、康太が音弥が診てもらっていた病院に連れて行ってくれたのじゃ!
音弥は今は元気で走り回っておる
柚も元気に走り回れる筈だからな、我は何も心配などしておらぬ!」
と答えた
母になるには母体から子を成せる様に変化を伴う
京香の場合、明日菜の子を分けて腹に宿したのもあって、充分な栄養供給が成されなかった
康太は「音弥は今、学年で3番目の速さで走れるかんな!心配しなくても柚も元気に走り回れるさ!」と答えた
真矢は「学年で3番目?1番目は誰なんですか?」と問い掛けた
「1番目は流生だ、2番目は大空、3番目が音弥だ!
ちなみに4番目が翔で5番目が太陽だ!」
康太が言うと笙が「ひなちゃんは長距離向きなのかな?」と問い掛けた
「しょーたん、だまってて!」と太陽は吐き捨てた
「酷いな!ひなちゃんは
ちなみに僕は長距離向きなランナーでね
短距離走は蒼太には勝てなかったな」
当時を思い出してそう呟いた
榊原は太陽を膝の上に乗せて
「太陽は今、捻挫しているので実力以上の力が出せないのです」と事情を説明した
清四郎は心配した顔で「大丈夫なのかい?」と問い掛けた
「ひなは負けす嫌いですから無理して実力以上の力を発揮しようとするのです
ですから軽い捻挫を何度も何度も繰り返してしまうのです」
太陽はバツの悪い顔をして俯いた
康太は太陽の頭を撫でた
「かあさん……」
「ひなは頑張り屋さんだからな無理する
だけど家族や兄弟はそんなひなを心配してるって解ってるか?」
太陽は頷いた
「なら無茶は駄目だぞ?」
「はい、かあさん」
太陽は母に抱き着いた
康太は太陽の背中を撫でてやった
烈がふんふん!と鼻息荒く真矢の膝の上に座った
「ばーたん」
「なぁに?烈」
「ばーべちゅーっておいちぃにょ?」
烈の問に真矢は笑った
「美味しいわよ
皆で食べると美味しいの
その上奇麗な空気の中食べるとね、もっと美味しいのよ!」
烈は指を咥えてヨドを垂らした
流生はポケットの中からビスコを取り出すと、烈の口の中に放り込んだ
モグモグ食べる烈の頬が盛り上がっていた
「あぶなかったね、ばぁたん」
流生が言うと真矢は「え?何が?」と問い掛けた
「はらへりれつはきけんよ!」
「え?……」
真矢には訳が解らなかった
慎一が流生に補足して
「烈はピークを超えると、噛み付きますから……危険なんです」と言うと真矢はビックリして
「烈……本当に誰に似たのよ?」とボヤいた
烈はしれっと「ばぁたん」と答えた
「私はお腹減っても噛み付いたりしないわよ!」
「このまえ でんわ ポイした」
真矢は唖然として……真赤になった
この前、空腹も手伝い無理難題言って来るマネージャーの電話を切ってソファーに電話を放り投げた事を言っているのだと気づいた
「見てたのね!烈」
怒ろうとする真矢の肩を叩いて流生は
「おちつくよろし!」と言った
太陽はお茶を手にすると、真矢に
「のむよろし!」と言うと
音弥が茶菓子をそっと差し出した
そして大空がハンディ扇風機で真矢を冷やしていた
翔は烈を「めっ!」と叱っていた
それを見ていた美智留が「ばぁたん……つくされてりゅのね!」と羨ましそうに言った
真矢は嫣然と笑った
気高く美しい笑みだった
「そうよ!私の宝ですもの!貴方達は!」
真矢はそう言い6人の子を抱き締めた
そして美智留と匠と結子に目を向け
「貴方達も私の宝物ですよ」と言った
烈は「たのちみね!」と楽しそうだった
子供達も「だね!」と楽しそうに笑っていた
令和になって3度目のGWが静かに幕を切って落とされた
GWの休みは4月29日から5月5日までの7日間
飛び石の前半戦は静かに過ごし
5月1日から3日を利用して飛鳥井の家族や榊原の家族と共に○○県へと足を伸ばした
今年もバスをチャーターして移動する事にした
色々なリスクと渋滞避けて、深夜に出発する事にした
横浜の家から夜通し走り続けた
高速を降りてからが大変で、田んぼの畦道をゆっくりと走り通り抜け、茶畑を傷付けない様に気を付けて上がって逝く
かなり上って空気が薄くなったんじゃないか?思う程に上った所で、広い敷地が現れた
康太は「その敷地にバスを停めて良いって言われてるから好きな所に停めて良いぞ!」と言った
真一は「施設はあの建物ですか?」と尋ねた
広い敷地の横には幾つかの建物が建てっていた
旅館の様な建物とペンション造りのこじんまりとした建物が幾つも建っていた
康太は「泊まるのは町営旅館にしてる建物だ!」と言った
ならば真一は建物の近くにバスを停めた
バスを停めると一足先に一生がバスを下りて旅館の様な建物のドアを開けに向かった
正面玄関のドアを全開にすると榊原は「各々の荷物を持って玄関で待ってて下さい」と言った
部屋が幾つかあるから部屋割りをするつもりだった
皆、荷物を持って玄関に集まると、榊原は
「部屋割りをします」と告げた
清四郎は「一家族に一部屋あるのかい?」と問い掛けた
「プライバシーがありますからね
私物は部屋に入れて鍵を掛けといて下さい」
「君達はどの部屋で寝るんだい?」
「僕達は広間で雑魚寝です」
「なら私達もそれで構わないよ」
清四郎はそう言った
康太が「義父さん、取り敢えず部屋に荷物を入れないと義母さんの着替えが困りますよ
義父さんだけなら大丈夫でしょうが、義母さんは皆の所で着替えなんて無理でしょ?」と執り成した
清四郎は「……ぁっ……」と気不味い顔をした
榊原は家族に部屋の鍵を渡した
2階のワンホールを使って家族に部屋を割り当てたのだ
榊原は「僕達も荷物を置く部屋は用意しました!
ですが、全員で寝るのは皆無なので広間に布団を敷く事にしたのです
また僕達だけでは手が足らないので隼人や聡一郎に手伝って貰うのです
恋人のいる一生は恋人と過ごさせるつもりです!」と説明した
清四郎は納得した
だが「ならばその雑魚寝に私達も加えて下さいね!」とちゃっかり便乗した
割り当てられた部屋に荷物を置きに家族は向かった
玲香は部屋に入ると窓を開けた
窓の向こうは生い茂った木々が揺らめいて眩しい程だった
辺り一面緑が広がり、樹海ばりの山の深さに
「これは気をつけねば永久に出られぬな……」と呟いた
清隆が隣に来て
「楽しい一時を作りましょう!」と言うと、玲香は嬉しそうに笑った
一生が廊下に出て「荷物を置いたなら、バーベキューの準備に出て下さい!
男性陣はバーベキューの組み立て
女性陣は材料の調理とお米を炊いて下さい!」と号令を出した
部屋に荷物を置いて皆が出て来た
京香は柚を抱っこしていた
康太は「烈、柚を見てろ!」と言うと、烈は嬉しそうに母に飛び付いた
「あい!」
康太は柚を一階の中庭が見える部屋に座らせると、烈を部屋に入れた
京香は「ならば我はこの部屋で食材を切るとするわのぉ!」と笑っていた
玲香も「それはよいわ!ならば我もそうしようかのぉ!」と笑って言った
慎一は男性陣を連れて中庭へと移動した
真矢も一階の中庭の見える部屋へと入って行った
明日菜は頑張って「ならば我は笙の分も荷物を運ぶしかないわね!」と燃えていた
それを瑛太が「止めときなさい佐伯!貴殿はおなご衆と共に子を見ながらの仕事をしない!」と言った
「社長、偏見ですよ?それ?」
「偏見大いに結構!
お前が出てサクサクやられたら我らの立つ瀬がないですからね!」と瑛太は笑った
笙も「明日菜、美智留と匠と結子を見てて下さい!」と言った
明日菜は「美智留と匠は外で扱き使ってやると良いのよ!」と鬼の様な事を言った
トホホな気分で笙は美智留と匠を連れて外へと向かった
外に出ると康太は子供達に
「広場を取り囲むバリケードを張った
この外に出たら2度と再び戻れねぇと思え!」と説明していた
康太は美智留と匠を見て「おめぇ達もだぜ!」と言った
美智留と匠は頷いた
笙は「凄いね此処……緑に飲み込まれるかと想う程だね」と言うと辺りを見渡した
康太は笙に方位磁石を渡した
笙はそれを受け取り「なんですか?これは?」と問い掛けた
「見れば解るよ」と康太は言った
笙は方位磁石を見た
すると方位磁石はグルグル回って方向を指し示してはいなかった
「地場がな安定していねぇんだよ
樹海と同じで方向感覚さえ奪うから迷えば還れねぇ!
そんな所なんだよ此処は」
笙はギョッとした
聞いていたが、何処かで絵空事の様に甘く想っていたのかも知れない……
笙は気を引き締めて「気をつけるよ!」と答えた
「山の方へ行かねぇなら此処は空気が上手くて、遊び場所にも困らねぇ所だ!
楽しもうぜ!笙」
「はい、楽しみにしてたのは子供達だけではありません!」
笙は楽しみにしていた事を告げた
後はもう黙々とバーベキューの設営をした
皆で手分けして設営を終えると、町営旅館に戻った
康太は中庭の見える部屋に入ると
「母ちゃん朝飯にしようぜ!」と声を掛けた
玲香は飛鳥井の家から持って来た朝食のタッパを開けてテーブルに並べた
「一生、此処は全員入れぬ!
何処か広い部屋へ持って逝くとよい!」
一生は康太を見た
すると康太は「その奥に食堂があるかんな、そこへ持って行ってくれ!」と言いタッパを持って移動した
皆もタッパを持って食堂へと移動した 食堂はかなり広くて長テーブルが並べてあった
「朝はこの食堂で良いだろ?
夕飯は外で、宴会はこの横に広間があるからそこでやると良い!」
旅館だけあって部屋は沢山あった
しかも宴会の出来る部屋も用意してあり、家族は喜んだ
朝食の後、少し休んて昼過ぎにバーベキューの準備に取り掛かった
子供達は元気に中庭で遊んでいた
美智留や匠も飛鳥井の子たちと一緒にいた
面倒を見るのは慎一の子の和希と和真、そして一生の子の北斗と聡一郎の子の永遠だった
流生は和真に「アスレチックであそぼうね!」とご飯を食べたら逝く場所に心を馳せていた
他の子達もアスレチックで遊ぶのを楽しみにしていた
美智留も楽しみにしていた
匠は表情が暗かった
北斗は「たっくん、どうしたの?」と問い掛けたが、匠はツーンっとそっぽを向いた
北斗は困った顔をした
翔も兄弟なら怒れるが、従兄弟だと中々注意は出来ずにいた
美智留が「たっくん……はんきょうきなのね」と困った顔をして言った
北斗は「反抗期……僕あったかな?」と体験してないから困った顔で呟いた
和希は「北斗の反抗期なんて見た事ないよ」と笑った
烈が凄い目で匠を見ていた
大空はその目を手で覆い背中に隠した
「にーにー」
「ビスコあげるからね」
だから機嫌を直せと言った
「しぇんべぇがいいにょね!」
「ならあとで持って来るからね」
烈は大空に抱き着いた
「にーにー!らいすき!」
「ボクもれつ大好きよ!」
仲の良い兄弟だった
兄弟はどんな時だって励まし合い助け合い、互いを尊重し合っていた
それが匠には羨ましくて仕方がなかった
美智留だって口にこそ出さないが、羨ましくて堪らないのだ
美智留は「たっくん……」と名を呼んだ
だが匠はそっぽを向いて走って行ってしまった
それを見ていた康太は「反抗期なのか?早くねぇか?」と呟いた
榊原は「個人差はありますからね」と執り成した
康太は流生を見て
「おめぇ反抗期あったっけ?」と問い掛けた
「それ美味しいの?」
「美味くはねぇな」
「美味しくないならボクはいらないよ!」
流生はそう言い笑った
康太は烈を見た
「おめぇ匠と近いだろ?反抗期か?」
烈は笑って「わっぱとはちがうにょね」
と、とんでもない台詞を吐いた
「うちの子は反抗期を何処へ置き忘れたんだ!」
康太がボヤくと真矢が
「それは仕方ありませんよ康太!
私は伊織の反抗期など見た事がありませんからね!
この子は昔から何でも自分で解決して反抗すらした事ありませんからね」
と榊原を見て笑った
「母さん……」
榊原は言葉を失った
流生は「なら父さんの子だね!ボクたち!」と嬉しそうに言った
音弥も「だね!」と喜んだ
大空は「ボクは父さんににてないから、はんこうきあるもん!」と抵抗して言った
一番榊原に良く似ているのに、父さんに似てないからと謂う
榊原は「どの口が言いますか!」と大空のお口を摘み上げてボヤいた
「いたいよぉ父さん」
康太は大空を抱き寄せて撫でてやった
「母さん、ボクたくさんかせいで楽させてあげるからね!」
「おっ!オレの子はどの子も頼もしいな!」
康太が言うと音弥も
「母さん、ボクも四季のがくえん売りとばして楽させてあげるね!」ととんでもない事を言った
「おいおい、それは四季が泣くぞ」
「母さんより大切なモノはないもん!」
康太は音弥を撫でた
バーベキューの火が灯り、網に食材が乗せられると子供達はお皿とお箸を取りに行った
慎一が食材を乗せて、一生がひっくり返していた
隼人が大きなお皿に乗せると、聡一郎がタレを用意して手渡していた
皆が変わりばんこで焼いて食べる
空気が美味しく、笑いが耐えないバーベキューを囲んでお酒が進んでいい気分だった
子供達はお腹一杯になると中庭の前の部屋の窓を開け放った縁側に寝そべった
翔は「もう」
流生が「食べられ」
太陽が「ないね!」
大空が「お腹」
音弥が「パンパン」
烈が「だね!」
と、口々に言っていた
和希と和真は子供達に内輪で風を送っていた
玲香が「和希、和真、北斗、お主達は食べたのかぇ?」と問い掛けた
北斗は「僕達もお腹パンパンだよ」と答えると
和希と和真も「「もう食べられないよ」」と笑った
永遠はまだ聡一郎の横で肉を食べていた
瑛太は「樽で買って来るなんて、流石慎一ですね!」とビールの旨さに舌鼓を打っていた
清隆も「美味しい酒です!」と珍しく頬を赤らめ酔っていた
玲香は真矢と意気投合して何時もの様に飲んでいた
康太は中庭の前の部屋を覗き込み
「京香、食って来いよ!」と声を掛けた
「頼めるかえ?」
「あぁ、うちの子も寝てるかんな
オレは此処で見てる事にするわ」
「ならば、我も女子会に入って来るかのぉ!」
と笑って京香は部屋を出て宴会の中へ入って行った
康太は縁側に座って「おっ!お腹パンパンだな」と言い流生のお腹を少し押した
「らめっ!ぎゃくりゅうする!」
流生は慌てて母を止めた
康太は笑って「後でアイスがあるから食おうぜ!」と声を掛けた
美智留が「やったー!」と喜んだ
匠はブスッとして部屋を出て行った
烈は起き上がると匠の姿を追った
康太と榊原も後を追った
匠は母たちの所へ行くのかと思っていたら、駐車場を横切り、雑木林へと走って行こうとした
烈は大声を出し「縛!」と叫んだ
すると走っていた匠の体躯はピタッと止まり!彫刻の様に固まっていた
バーベキューをしていた家族も何があったのか?
康太の所へやって来た
真矢は「何があったの?」と問い掛けた
すると康太は匠が不貞腐れた様な顔をして外に飛び出し雑木林の方へ走ろうとしたから烈が呪縛したと告げた
明日菜は「あれ程言ったでしょ?」と溢れ出す涙を止められずに訴えた
烈はツカツカと匠に近付くと、術を解き思いっ切り殴り付けた
何処にそんな力があるの?と驚く程で、匠は吹っ飛んていた
匠は口から血を流し泣いていた
笙は烈の前に出ると深々と頭を下げた
「宗右衛門殿、許して下さい」
『許せば死ぬしかないぞ?
それでも我を止めるか?』
嗄れた老人の声だった
『此奴の心の寂しさに漬け込まれ呼ばれた
呼ばれた者は……今は逃げられようとも、禍根を断たねば、幾年経とうとも確実に此処へ辿り着きその命を盗られる事となる』
笙は言葉もなかった
康太は烈に「何時魅入られたのよ?」と問い掛けた
『来る前には既に目を付けられておった』
「……それはどう言う事よ?」
『匠には予知の能力がある
此処へ来ると話を聞いた時には予知の夢を見たのであろう……
その時にまだ未熟なその魂を魅入って摂り込もうと目を付けられたみたいだな
何にせよ力持ち程美味しいモノはない!
その者の力を取り込めるならば尚更じゃ!』
だから烈が匠を視ていたのかと康太は思った
「ならばどうするよ?宗右衛門?」
『我は五通夜の儀式を3日後に控えておるから……体力の消耗は避けたい……
従ってこの案件はお主に任せる事とする!』
「五通夜の儀式本当にやる気なんだな……」
『当たり前ではないか!
避けては通れぬ道じゃ!
例えお主でも邪魔はさせぬ……』
「なら烈を守ると約束してくれよ!」
『解っておる
案ずるでない!
なら我は消えようかのぉ~』
宗右衛門はそう言い消えた
宗右衛門と変わった烈はじーっと匠を見ていた
「烈、取り敢えず部屋に戻らねぇか?」
「かぁちゃ たっくんおさえりゅにょ!」と言った
康太は匠を抱き上げると動きを封じた
夜に宴会をやる予定の広間に逝くと、家族を部屋に入れて出入り口を閉めさせた
そして「慎一、一生、出入り口を固めてくれ!」と言った
慎一と一生は出入り口の前に立った
クーラーを起動させ、窓も総て締めた
窓の側には大人を配置させ子供達は中央に集められていた
康太は匠を見て「やったぱ飛鳥井の血が濃く出たか……」と呟いた
真矢は「どう言う事なんですか?」と康太に問い質した
「美智留は転生し魂だから、それなりの力を持つ
匠はそれとは違い何らしかの力を持つと思っていた
だがまだ幼いからな、子供のうちは神と謂われる能力を持つかんな、どっちなのかと思案していた所だ……そうか匠は予知の力を持つのか……
ならば和希、お前が匠の面倒を見て導いてやれ」
康太に謂われて和希は嬉しそうに「はい!」と答えた
「慎一の子は予知予見の和希、未来視と地場相場を視る和真
二人の子の親が元女神に眼を貰っていた一族だからな、力が出てしまっていたんだ
飛鳥井は元は斯波家と言う力持ちを排出する一族で、その際たるが斯波宗右衛門だ
宗右衛門は物見の眼を持つ力持ちだ!
始祖返りである宗右衛門の力となる
斯波家の力は予知予見と物見、星詠み、未来視、そして真贋と言う眼を持つ一族だ
飛鳥井と名を変えても、その力は継承されて来ている
匠も飛鳥井の力が強く出たか、始祖返りなのか?
一度調べてみねぇと解らねぇな……」
康太の言葉を聞いて清四郎が
「なれば……匠も修行させれば宜しいではないですか?」
と問い掛けた
「それな、己の子なれば厳しい道にも叩き込める覚悟があるから修行させられるが……
親の理解と子の覚悟、どちらも必要になるからな安易には言えねぇのが実情だ!」
榊原伊織の兄弟の子と言えども、我が子の様な気軽さはない
況してや親の理解と修行を受ける子の覚悟がなくば成せない現実が立ちはだかっていた
真矢は「子に修行を強いるなれば、子が挫けぬ様に親が支えねばなりません!
また子も覚悟なくば挫折してしまう……
それが出来てやっと修行は成り立つと言う事ですね?」と問い質した
「そうだ!親だけ躍起になっても子が厭々成せば身になど着かぬ
子だけ頑張っても支えてくれる腕がなきゃ、厳しい道など逝けやしねぇ!
何方かだけじゃ駄目なんだよ修行ってヤツは!」
笙と明日菜は言葉を失った
二人の心に子を支えられるだけの覚悟と信念はあるのか?
真矢と清四郎はそれを想った
難しい問題にその場は静まり返った
飛鳥井の家の者は口など出さず静観を決めていた
口など出せる筈もないと思っていたからだ……
真矢は「笙と明日菜がどうするか?……ですね?
二人にその覚悟がなくば……救う道は途絶えると言う事ですか?」と問い掛けた
「そう言う事になる……決めるのは当事者たちだ
どんな屈強な戦士だとて、支える手が無くば乗り越えなど出来ねぇ!
況してや子供なら尚更だ……俳優と秘書と言う仕事をしている二人に支える覚悟はあるのか?
そこなんだよな……」
真矢も、それねらば口は出せないと黙った
康太は「どうするよ?笙、明日菜……お前は子の為に全ての時間を使う覚悟はあるか?」と問い掛けた
笙も明日菜も答えられなかった
康太は敢えて厳しく二人に
「今うちは全員が修行に出ている状況だ!
次代の真贋の翔は既に真贋の仕事を始めている
それにより修行も厳しくなっている
転生者の烈も然りだ
転生者故に次代の真贋よりも厳しい修行を熟している
五通夜の儀式は普通、4歳のお子様じゃ決して行わない儀式だが、転生者と言う事で行う
それだけでも大変なのに、オレの子はどの子も力持ちと来ている
その子に合った修行を菩提寺で行っている
だから他所の子の修行まで面倒を見る余裕などない!
オレ等に頼ろうなんて考えは抜いてくれと謂うしかねぇのが実情だ!」
実情を訴えた
慎一がそれに加えて
「今康太の子はどの子も修行と共に塾やスイミングにも通っています
その他にも家庭教師の栗栖にみっちり英語とフランス語の特訓も受けています
なので僕としても、あなた方のお子まで面倒は見られません!
俺は飛鳥井康太の執事ですので、康太の子を全てにおいて優先してサポートしています」と協力は出来ない旨を伝えた
明日菜と笙は選択を迫られていた
我が子は愛しい
我が子は何よりも大切な宝だ
明日菜は覚悟を決めた
「私が……仕事をセーブして匠に付き添う事にします」
「新プロジェクトから下ろして良いと謂う事か?」
痛い一撃を食らされられ明日菜は拳を握りしめ
「はい!仕事は…悔しいけどプロジェクトから降ろされても、またチャンスがあるけど、匠は今踏ん張らなきゃ明日がありません!
私は……母親です!
なので我が子を最優先致します!」
「美智留や柚の面倒もある
仕事を辞めたらどうだ?」
明日菜は康太を見た
「それは無理です……私は飛鳥井康太の秘書であり続ける事を父に誓いましたから……
これよりの人生は父に恥じぬ生き方をすると誓ったので、嫌に御座います!」
明日菜の瞳は覚悟を決めていた
そんな妻の瞳を見て笙は覚悟を決めた
「康太、僕も妻や子を支える為に仕事をセーブします!
皆で乗り切る為に……今は踏ん張る時だと思うので……」
「笙、俳優が人の目に触れぬと謂う事は、忘れ去られてしまうと謂う事だと知っているか?」
「………っ!!!今日の君は意地が悪いね……
そんな事は百も承知だよ……
忘れられたなら、また皆の記憶に残る様な仕事をするよ」
笙の手は震えていた
人の記憶に残らぬ事は俳優にとって死を意味する
それでも笙は家族を選んだのだ
康太は「慎一、神野の事務の真野に言ってスケジュールを全て調整させろ!
一生、そのスケジュールを持って西村の所へ行って、笙の仕事の日は明日菜に仕事を入れない様に調整してやってくれ!」と指示を出した
慎一は「では帰宅したら、真野に言ってスケジュールの調整をさせます!」と手帳にスケジュールを書き記し言葉にした
一生も「あいよ!慎一がスケジュールを持って来たら西村の所へ行けば良いんだな……
そして悪魔の様な西村に暇なんだなお前!と謂われ扱き使われて来れば良い訳ね!」とトホホな気分で言葉にした
瑛太が「西村にはあまり一生を虐めるなと言っておきましょう!」と助け舟を出したが……
清隆に「そしたらお前も暇なんだな!と鬼の様に仕事させられますよ?」と言った
家族は爆笑した
「さぁ、隣の広間で宴会するか!」
と康太が言うと皆は広間へと移動した
バーベキューで残ったお肉をお皿に並べ、持って来た食材で調理した料理を並べた
明日菜と笙は匠を離さなかった
烈は柚と結子の面倒を見て遊んでいた
美智留はどうして良いか解らずにいると、北斗が傍に来た
北斗は一枚の髪を美智留に手渡すと
「その子は僕の魂の半分なんだ
人として生きられなかった子で魔界で生活してるんだよ」と言った
美智留は北斗に良く似た真っ赤な髪で角の生えた子を見ていた
「ほくと……にちぇるね」
「僕はね、その子の分まで強く生きると決めているんだ」
北斗は美智留の手を握ると、手の甲にある十字架をなぞった
「君は生きられなかった子の分まで生きないとね」
美智留は北斗に手紙を返して頷いた
北斗は大切に鞄の中へ写真をしまって
「この写真はね、毘沙門天さんから戴いたモノなんだ
とても大切な大切な僕の宝物なんだよ」と言い笑った
北斗は美智留の手を取ると、流生の横に座った
「流ちゃん、また食べ過ぎると辛くなるよ!」
北斗は流生の心配をしてた
「そうなのよね!
でも美味しいのがいけないのよね!」
どこぞの主婦よ!と言う言葉で謂うから北斗は笑っていた
美智留は「ボクね……りゅーちゃんたち……うらやましかったにょね」と心の内を吐露した
「僕だって和希や和真が羨ましいよ
あの二人は何だって出来るし、仲が良いからね」
「ほくと……」
「でも僕だって負けてないよ
だって僕は馬の言葉が解るんだもん!
これだけは誰にも負けてないと思うんだ!
美智留だって、お手伝い凄く出来るよ
誰にも負けてないって思うよ」
美智留は笑っていた
嬉しそうに笑っていた
それを見ていたの康太は「北斗はすげぇな!」と呟いた
榊原は「人の痛みが解る子ですからね北斗は……」と言葉にした
北斗は強くなった
消えそうになった一件から、自分の考えを少しずつ伝える作業をする様になっていた
どうせ言っても伝わらない……と思って何も言わなかった事が駄目だったのだと理解して以来、少しずつ変わって来ていた
「あの写真、毘沙門天か……ったく世話好きだよなアイツは……」
「君程ではありませんがね!」
「それでも愛してるんだろ?」
「勿論です!君以外愛せませんからね!」
甘い雰囲気になるのだけれど、それを狙ったかの様に子供達が母に甘える
翔が「かあさん食べてる?」と世話を焼く
「おー!食ってるぞ!」
「おすしもらって来るね!」
母の好きな海老を瑛太に取って貰いに行く
「えいにーさん、えびおねがいします!」
ほろ酔いの瑛太は「海老か?どんどん食べなさい!」と言い海老を乗せる
翔はお皿に海老が乗ると「かあさん!海老だよ!」と康太に手渡した
「翔、ありがとうな!」
流生が「かあさん、飲み物もらって来るね!」と玲香の所へ行く
「ばぁちゃん、ジュースちょうだい」
「おぉ!沢山飲むがよい!」
とコップに並々に注ぐ
流生はそれを持って母に手渡した
「かあさんジュースだよ!」
「流生ありがとう
お前も沢山食べるんだぞ!」
流生は笑っていた
太陽は母の肩をもみ
「かあさん、こってるね!」と言った
「おっ!ひな揉んでくれるのかよ?」
小さな手で母の肩を必死に揉む
康太は嬉しかった
大空は内輪で母を仰ぎ
音弥は歌を歌った
康太は「かな、音弥、ありがとうな、お前らも」と礼を言った
烈は母の膝に乗って「ごとうや、せいきょうする!しょれ、おやきょうきょうらから!」と言った
「烈……無理だけはするな」
「あい!」
我が子に囲まれ康太も榊原も笑っていた
康太は匠を見て「さてどうするかな?」と呟いた
すると嗄れた声が『予知でなく予言視なれば……話は違って来るからな
転生者を確かめに行かせるしかなかろうて!
斯波竜胆が早目に出て、予言視の恵方が出るなれば……波乱の乱世に突入であろうて!
千年……全員は揃う事無い……
だが今世でそれを遣ると謂うことなれば……覚悟が必要となるであろう!』と宗右衛門は告げた
「竜胆、恵方、宗右衛門、そして稀代の真贋のオレ……千年顔を合わせる事のなかった面子が揃うと?」
『可能性の話じゃ!
もし恵方だとしても、まだ覚醒もしてはおらぬ
このまま覚醒せぬのか?
覚醒するのか?それさえも解らぬ……仮説じゃ!』
「その仮説……めちゃくそ怖いじゃねぇか!
もし恵方だとしたらオレは……笙夫婦から子を奪う事になるじゃねぇかよ!」
『覚醒したらまず、そうなるしかない
………間違いである事を祈ろうとするかのぉ!』
おーほほほほっ!と笑い宗右衛門は消えた
康太は頭を抱えた
流生が「かあさん、いまはたのしむときよ!」と頭を抱える母を慰めた
康太はヤケクソになって飲み始めた
夜明けまで笑い声が耐えなかった
笑って飲んで、飛鳥井ならては宴会となった
酔っ払った康太の面倒を、榊原が我が子達と一緒に見ていた
家族や榊原の家族は酔って、その場に寝転がった
北斗と和希と和真と永遠が、家族にブランケットを掛けて歩いた
「もぉ、飲めねぇ!」
康太の叫び声が響いた
笙と明日菜は匠の傍を離れなかった!
離れれば……何処かへ行きそうで……目が離せなかった
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