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第35話 GW…そして五通夜の儀式

GWお泊り2日目 その日、飛鳥井の家族も、榊原の家族も二日酔いになり宴会場にはうめき声が響いていた それでも何とか起きて慎一が作ってくれた二日酔いの味噌汁を飲む頃には何とか落ち着いた 昼からアスレチックへと出向き、子供達は思いっ切り遊んでいた 子供達を見て立っていると笙が傍にやって来て 「すみませんでした!」 と謝った 康太は笑って「あに謝ってるんだよ!」と言った 「匠は……寂しかったのですよね?」 「だろうな、でもそれを謂うならオレの子だって何時だって淋しがってる! 寂しがらせねぇ様にしようと思っていても、出来ない事の方が多い…… 明日の飛鳥井の礎となり繋げる為には、どんな犠牲を強いようが、止まる訳にはいかねぇからな!」 笙は康太の子達を見ていた 伸び伸びと楽しそうに遊ぶ子達は何時だって自信に満ちて輝いていた 「僕は……どうしたら良かったのですか?」 「笙、おめぇは頑張ってる 明日菜も頑張ってる……だけど子供達は何時だって両親の温もりが欲しいんだよ 一緒にいられる時は子供達と遊んでやるんだよ こんな所でウダウダ言ってる暇に、ほれ行け!」 康太は笙の背中を押してやった 子供達の方へ笙は向かった 太陽が「げんきないね?しょーたん」と声を掛けて来た 「ひなちゃん……」 「しょーたんがそんなだと、みーたんやたっくんがしんぱいするよ!」 「ごめんね……ひなちゃん」 「しょーたん、すわって!」 「え?」 笙は太陽の横にしゃがみ込んだ 「みーたんやたっくんの見てるせかいはね、こんなにちいさいんだよ」 「ひなちゃん……」 「だから大人はこわいよ 上からおこられるともっとこわいよ」 「そうだね、こんな小さな世界なんだね 君達の見てる世界は……」 「げんきないのは、しょーたんらしくないよ!」 「そうかな?」 「あかでみー取る男があきらめちゃダメよ」 「ひなちゃん……そうだね、絶対に諦めないよ!」 「らくたんしてたら、じぃたんがとるんだけどね」 太陽はそう言い笑った 清四郎は「ひな、私が取るから大丈夫だよ!」と太陽を抱き締めた 太陽は笑っていた 笙と同じ様な顔をして笑っていた 清四郎も真矢も太陽を見れば笙の小さな頃を思い出し 大空を見れば榊原の小さな頃を思い出す だが清四郎は役者馬鹿で家族を顧みなかったから……今孫達と過ごすこの時が一番我が子を感じられていた 我が子がこんなに小さい頃私は何をしていたのだろう… 寂しい想いをさせた……… だからこそ孫達が寂しい想いをしない様に……我が子の分も想い、孫と接していた 大空が清四郎の傍に来て「じぃたん、大丈夫?」と聞いて来た 清四郎は大空も抱き締めて 「大丈夫だよ、優しいね大空は……」と笑った 烈が大きな滑り台から勢いつき過ぎてコロコロ、コロコロ転がり落ちると太陽と大空は慌てて烈の方へ向かった 擦り傷が痛々しかった その傷以外にも烈は常に怪我をしていた やんちゃな烈だから怪我をしているのだろう?と想いがちだが、烈は転生者として過酷な修行を受けているのだ 烈は泣きそうな顔をして耐えていた 康太が烈を抱き上げると、烈は康太の胸に顔を埋めた 「危ねえからもう滑っちゃダメだぞ 五通夜やるなら尚更傷は作るんじゃねぇ!」 烈は何度も何度も頷いていた 慎一が傍に来て烈を持ち上げると、腕が熱傷になっていた 烈は泣いてはいなかったが、睫毛が涙で濡れていた 慎一は烈を抱き上げて連れて行くと、町営旅館へと入って行った 烈を椅子に座らせると、慎一は「怪我を見せて下さい!」と謂った 烈は痛い手を差し出した 慎一はその手を取り「泣いて良いですよ!」と言った それでも我慢している烈に 「誰も見てませんから大丈夫です」と言った するとやっと烈は泣き出した 「ちんいち……いたかったにょ!」 慎一は烈の傷の手当をした どんなに辛い修行でも烈は平気な顔をして過ごしていた そんな烈を気にして何時だって慎一は烈に謂うのだ 「誰も見てないから泣いて良いですよ!」っと…… 烈は誰も見てないからと謂われると、ついつい泣いてしまうのだ まだ彼は幼稚舎の年中組なのだ 泣いても良いのに烈は泣くのを堪えていた 慎一は烈の傷の手当をしてやった ポタポタと大粒の涙が慎一の手に落ちる 「今度は俺と一緒に滑りましょう!」 「もう……しゅべらにゃい……」 「それだと怖いだけになっちゃいますよ?」 「いちゃいもん……」 「俺と一緒なら痛くありません!」 「ちんいち…」 慎一は烈の頭を撫でた そして涙を拭う 家族は烈が泣くのを知らない 康太と榊原以外は烈の涙を見た事は無いだろう それ程に烈は泣くのを堪えていたのだった だが慎一はそれが堪えられなくて、烈をこうして連れ出していた ぷるぷると肩を震わせ堪える姿は……見たくなかったのだ 「五通夜までには少しでも治さないといけませんね そして万全な体調で迎えて下さいね」 だから絶対に……出て来て下さいね!との想いを込めて言葉にする 「ちんいち……」 「なんですか?」 「こえられにゃいかべって……やたりゃとおおきいのよね……」 宗右衛門と言う御仁の転生者として生を受けた 宗右衛門は体躯の中で眠っていて、確かに自分は宗右衛門でもあった だが自分は本当に宗右衛門みたいな力があるのか? 思いたくなる日もあるのだ…… 何も淡々と達観して生きている訳ではないのだ 皆には見せないが、日々の修行の辛さに出来ない自分に心が折れる日もあるのだ まだ子供なのだ烈は…… お茶を飲んでていても酒を飲んでる風に見える貫禄があっても、まだ幼稚舎に通うお子様なのだ 「烈ならばきっと超えられます 超えられないならば俺がお尻から持ち上げて超えさせますとも!」 「ちんいち……あいがとう!」 「五通夜の儀式の介助人、俺がなりますから! ずっと傍にいて貴方のサポートをするつもりです!」 烈は驚いた様な顔をして慎一を見た 「いいにょ?」 「介助人には弥勒も紫雲も参加する様です」 「そんにゃにいらにゃいにょね!」 烈は笑った 転生者として重き鎖を着けられた幼き子は、どんな困難な道だとて歩いて逝く…… その姿は飛鳥井康太と酷似していて…… 飛鳥井の人間はこうして先へと繋いで来たのだと、実感する 全ては家の為 明日へと繋げる為だけに生きている GWを楽しく過ごし帰宅の途に着く 笙と妻の明日菜は深刻な面持ちで過ごしていた 烈はGWを終えると直に五通夜の儀式の準備に入った 心身共に清めて、修行の日を迎えた 五通夜当日の朝 他の子が起きて来ないように、朝早く烈は朝食を食べていた 食事を終えると、烈は気負いもせずに落ち着いた雰囲気で緑茶を飲んていた 康太はキッチンに顔を出すと、烈に深々と頭を下げ 「我等は貴殿が無事に帰還される事を、心から願っております!」と言葉を送った 烈は頷いてお茶をズズッと啜った 清隆は「今日でしたか……」と何でもない風にしている烈に声を掛けた 烈は清隆の方を向いて、親指を立てニカッと嗤った 慎一が「行きますか?烈」と声を掛けると、烈は立ち上がった そして嗄れた声で康太に 『五通夜を終えて帰って来たら匠を呼ぶがよい!』と告げた 「どうなさるのですか?宗右衛門……」 『何を戯けた事を申しておる! 我の眼は人の真髄を視るが務め! 匠が転生者がどうか、視るのは我でなくどうする?』 そう言い烈は嗤った 「解りました!呼んでおきます! オレと伊織は五通夜の儀式の間は、菩提寺で待っている所存です!」 『好きにするがよい! では、烈に変わるとするかのぉ!』 宗右衛門は笑って気配を消した 「烈、五通夜の儀式を終えたら、一族にお前は宗右衛門の転生者だと知らせる これ以降は……転生者の着物を着なければならぬ……」 烈は母を見詰め頷いた 康太は烈を抱き締めた 「絶対に還って来てくれ……」 「あい!」 烈は元気に返事をした 清隆も「還ったら好きなのを食べさせてあげますから……」絶対に帰って来て……と思いを込めて烈を抱き締めた 烈は一歩踏み出すと、家族とは距離を取った 背中を向けて「いってきましゅ!」と挨拶をした そしてスタスタ歩いて玄関へと向かった その後を慎一が追った 烈を見送る康太を榊原は抱き締めた 「烈ですから、きっと大丈夫です」 康太は榊原の胸に顔を埋め頷いた 烈の後を玲香が追って玄関へと向かうと 「無事の帰還をお祈りしております!」と言い火打石をカチカチと烈の背中で鳴らして厄を払った 烈は振り返る事なく玄関を出て行った 烈は駐車場入り口で待つと、慎一が地下駐車場から車を運転してやって来た 助手席のドアを開けると、烈は乗り込んだ 車は菩提寺へと向けて走り出した 車内では烈は目を閉じて何も話さなかった 慎一はこんな姿を見ると康太と酷似しているなと想う 飛鳥井で生きると謂う事は覚悟の道を逝くと謂う事なのだろう…… その背に驕りはない 虚勢も怯えもなく……泰然自若としていた 風もないのに烈の髪が揺れる 勝機を呼び込んでいるのが解った 菩提寺に到着すると駐車場には菩提寺の住職 城之内が出迎えた 城之内は烈の姿を見ると 「我等菩提寺の住職一同、貴殿の無事の帰還を心より願っております!」と深々と頭を下げた 烈は何も謂わず城之内の横を通り過ぎて行った 城之内は烈の背中を見送って 「あんな所ばっかし似なくて良いのによぉ……」と呟いた 友の背に似た烈の背中を見送る 友は何時だって命を賭けて歩みを止めなかった 城之内の妻の水萌が、夫の背を押した 「我等一同命を賭したとしても、烈殿の邪魔はさせぬ! さぁ貴方も呆けている暇などありませんよ!」 妻のキツい一撃に城之内は我に返り、職務を全うすべく歩き出した 烈は慎一と共に本殿儀式の間の前の控室にやって来た 烈は慎一に黒い羽織袴に着えさせて貰っていた 慎一はこれとは別に転生者の着物も用意して来ていた 慎一も黒い羽織袴に着替えると、袂を襷で結わえた 烈の袂も襷で結わえると、控室を出て本殿儀式の間の前へと歩を進めた 僧侶二人が儀式の間の襖を左右に開けた 城之内等、菩提寺の関係者が一列に並んでいた 姫巫女が「無事の帰還をお祈り申し上げます」と告げる 烈は何も謂わず本殿儀式の間へと足を踏み入れた パターンと音を立てて襖が閉まると、部屋は真っ暗になった 真っ暗な部屋は物音一つしない静けさがあった 烈は念じていた 念じねば目的地が現れてはくれないからだ 五通夜を迎えるのはこれが初めてではない 転生前には幾度もこの試練を乗り越えて来た それが転生した者の務めだと想い乗り越えて来た この先も幾度となく乗り越えて逝くのであろう…… 慎一は夜目が効くのか烈の姿を捉えていた その他にも二人の姿も捉えていた 真っ暗な部屋が明るくなり、スクリーンに投影されたかの様な景色が浮かび上がった だが次の瞬間には、空も空気も緑も……総てがリアルと変わりない風景となった 山の奥の長閑な風景ではあった 鳥が囀り、野生の動物の声が響いた 烈は岩に腰を下ろすと、目を瞑り両手を前に差し出し握り拳を強く握り締め念じた すると手に剣が現れた その剣を目にして弥勒は「えぇぇぇぇぇ!何でこの剣が出て来るのよ?」と叫んだ 烈が手にしていた剣は素戔鳴尊の剣 草薙剣だったからだ! 「うるちゃいなぁ!みろきゅ このけんはせいたんのとき、すしゃのおどのからかしされたものじゃ!」 「素戔鳴殿から下賜されたぁ?嘘… もしかしてレプリカか?」 「しつれーにゃ!」 「生誕の時?……それって何時頃の?」 「このよにはじめてせいをなしたとき」 それは平安の世より少し前ではないか…… 「それはそれは……素戔鳴殿の加護を受けていたのね君は……」 弥勒は驚きトホホな気分だった 「かごではにゃい! ちをひくもののひとりらから……」 弥勒はギョッとした 素戔鳴尊の血縁のモノが人の世に堕ち出て良い訳がない だが一人……素戔鳴尊の血縁のモノで謀反の果に処罰された者がいた 妻と子を奪われ世を呪い血を呪い、素戔鳴尊の血筋が途絶えるのを祈った神がいた…… その者は人の世に堕とすと炎帝は謂った… 現世ではなく過去へ堕としたと謂う事なのだろう…… 転生し魂は縁のある者の腹の中へ転生する 炎帝に縁のある者は、その血を手繰り寄せ近くに生を成す その転生先は炎帝ですら予測は付かぬ聖域となる なのにこんなに近くに何度も何度も転生を繰り返し、この先も転生して逝くのか? 弥勒は言葉もなかった 『黴の生えた話はよいわ! 逝くがよい!わっぱよ!』 静まり返っていると嗄れた声が響いた 弥勒は小童呼ばわりされて苦笑した 「さぁ、行くとするか!烈!」 「おー!」 烈は元気に歩き出したと 紫雲は「お知り合いか?」と声を掛けた 弥勒は遠い目をして「遥か昔の…黴の生えた話だ……」と言った 慎一が「早く追いますよ、遅いと年寄りが!と怒られますからね!」謂い烈の後を追った 波乱に満ちた五通夜の儀式が始まった 進むにつれ魑魅魍魎が烈を襲う 烈はそれを草薙剣でぶった斬っていた 何処にそんな力があり、そんな大きな剣を振り回せるのか? 慎一は「重くありませんか?」と問い質した 「きでとばちてるにょね でなきゃとばにゃいのね!」と言った 気で飛ばしてる それがどう言う事なのか慎一には理解出来なかった そんな慎一の困惑を弥勒が答えてやった 「腕力のない烈には剣を操作するだけの力はない たが、あの剣は人を選ぶ……そう言う剣だ 許された者だけが手に出来る……そうそう手に出来る剣ではない その剣が烈を認めたと言うなれば、剣は烈の思いのまま覇道を読み取り気で動かせる事が出来ると言う事なのだろう!」 「やはり康太の子ですね!」 「あの子は……」 「何です?弥勒?」 「嫌……康太の子なれは、だな!」 弥勒は笑った 友を想って笑った 天魔戦争の覇者と呼ばれ、共に闘った友がどんな想いであの剣を手放したのか?と想うとやるせなかった 家族を愛し 何時も先陣を切って闘ったその背中に…… お前は何を想って……… ボーッとする弥勒に烈は嗄れた声で 『惚けるでない!わっぱめ!』と怒った 「貴殿は…遥か昔の記憶は……」 『全てある 己の罪も忘れてはおらぬ! だから烈の五通夜を駄目にしたら許しはせねぞ!』 脅され弥勒は吹っ切れた様に笑った 「ならばサクサク片付けますかね? お子様は早寝だから慎一に夕食と寝る準備をして貰っておくとしますか!」 そう謂い弥勒は気合を入れ直した 紫雲も万全な態勢を維持して烈のサポートに徹した 五通夜 一日目は魑魅魍魎を力の限りぶった斬り終えた 烈は夕食を食べると早々に寝た 五通夜の儀式 2日目 この日は魂の選別が必要な儀式となる 烈の眼でその人の魂を視て選別をする 行いや罪 それ等を視て選別をする 間違えは許されない儀式となった 烈の前に様々な人が現れる 烈はその人を視て選別をして昇華させる 大人でもキツい儀式だった やはり体力のない烈は、剣を揮うのもやっとだった 弥勒が「斬るのは俺と龍騎がやる!お前は選別して教えてくれ!」と申し出た 介助人だけが許された行為だった 本来なら総てを本人が完遂せねばならぬ儀式だが、烈は幼い事で介助人が許されていた そう謂れ烈は魂の選別を始めた 昇華すべき魂を昇華させ 地獄に堕とすべき魂を浄化させる 烈は選別する人に触れ「昇華」「浄化」と指示をした 日が暮れるまで選別は続き 烈は夕食を食べると気絶した様に眠りに堕ちた 五通夜の儀式 3日目 この日は覇道を辿り、鬼道で敵を倒し迷路を出て来る難関な儀式だった 慎一は「烈は鬼道は使えるのですか?」と想わず聞いた程の儀式だった 紫雲が「この御仁は達人級の力を持つ!前世では右に出る者はおらなんだ程だ!」と答えた 慎一は信じられない想いだった 「烈、疲れてませんか?」 「つかれたにょね もうきゃえりたいにょね!」 「なら帰りますか?」 「できにゃいのよね……あとふちゅか、ぎゃんばらにゃいと!」 「ならしっかり食べて下さい!」 食欲が疲れの所為か落ちてるのを気にして口にした 烈は慎一を心配させない様に無理してでも食べた スタート地点に立つと地形はグルグルと回り始めた 迷路が出来上がる様を慎一は初めて目にした 森が木々を呼び変わって逝く ピタッと森が動きを止めると、烈は歩き出した 何の変哲もない迷路に見えた 木々が逝く道を塞ぎ捻じ曲げて道を作って逝く 烈は気を詠み覇道と鬼道を使い分けて、正当な道へと出て歩んだ いかんせん、烈は子供にしては体力があるけど、お子様なのだ 息があり、ゼェゼェ謂うと紫雲が 「鬼道は我が、覇道は弥勒が変わりに使うとする 烈は道を探り当て、我等に知らせるがよい!」と言った 烈は頷くと進み出し逝く先を視て覇道と鬼道を見極め紫雲と弥勒に指示を出した 出口に着く頃にはすっかり辺りは暗くなっていた 慎一が夕食を作り、寝袋を用意すると、烈は 「きょうはしゅまなかった……」と謝罪した 弥勒は「気にすんな!じぃさん!」と烈の背中を叩いた 紫雲は「調子が悪かったのですか?」と問い掛けた 「ちがうにょね、さいぎょのほう……きどうかはどうか……わかりにくくしてあったのね…… みきわめるにょに……じかんかかったにょね」 流石宗右衛門だと弥勒と紫雲は想った テストで謂えば引っ掛け問題と同等で、解り難くなっていたのだ 大人でも間違う引っ掛け問題を烈は見極めたと謂う事なのだ 紫雲は「時間が掛かっても完遂なさっではないですか! さぁ、お子様は寝る時間ですよ!」と言い、烈のお口にカプセルを一つ放り込むと、無理矢理水で流し込み飲まさせた 烈は寝袋に入るとスヤスヤと眠りに落ちた 弥勒は「今何飲ませたのよ?」と問い掛けた 「久遠先生から処方された薬じゃ! 疲れると胃腸系統の働きが悪くなるらしくて、伴侶殿から預かっていたのじゃ! 3日目の夜に飲ませてくれとの事じゃったから飲ませたのじゃ!」 「流石は伴侶殿! 我が子の事は良く解っておいでだ!」 「しかし烈は凄いですね 転生者と謂えども、この五通夜を成し遂げようとしているのだからな……」 紫雲は感心して言葉にした 大の大人でも厳しい儀式なのだから… 菩提寺の僧侶達の中でも飛鳥井の一族の中でも、この儀式を完遂させた者は一握りだと謂うのに…… 弥勒は「さぁ寝るぞ!お子様が起きちまうからな!」と言い横になった 慎一は火を途絶えさせない為に、薪を焚べ続けた 陽が上ると朝を告げ 慎一は烈を起こして歯を磨かせ支度をさせた 五通夜の儀式 4日目 この日の儀式は大勢の人間が烈目掛けて近付いて来るから、その中から悪霊を見極めて浄化する かなり高度な儀式となった 転生者 宗右衛門の儀式は【眼】に関する儀式だった 真贋や従者達とはまた一線を引いた、精神的に来る事からの儀式だった 烈が一歩踏み出すと景色は大正時代のモダンな作りの街並みに変わった 赤煉瓦の駅の前にはかなりの人が何をするでもなく集まっていた その人は烈が歩むたびに増えて行った 烈は一人一人に目を向け浄化して行った 今度はかなり早いペースで視て浄化していた まるで昨日の挽回するみたいなペースだった 弥勒が「少しペースを落とされよ!」と止める程だった 「何をそんなに焦られておる?」 「やれるからだいじょうびよ!」 「やれるとか、やれないとか申してはおらぬ! 何をそんなに急いでおるじゃ?と尋ねてるのじゃ!」 「………」 烈は何も答えなかった 「少しペースを落とされよ!」 「あい!」 烈は返事した 慎一は剣を握る手から血が出ているのを見つけ 「何時からですか?」と尋ねた 「あさから……」 慎一は剣を烈の手から取ると、手当を始めた 「無理は禁物だと知ってますか?」 「しってりゅ……」 烈はバツの悪い顔をして答えた 「手当は終わりました はい、深呼吸して下さい!」 謂れ烈は深呼吸をした 肺まで酸素を巡らせ、深く深く深呼吸した 弥勒は「出来るか?」と問い掛けた 「らいじょうびよ!」 烈は答えた 紫雲は「ならば今度は御自分のペースを崩さぬ様にして下さいね!」も声を掛けた 烈は康太に酷似した笑みを浮かべ、ニカッと笑って親指を立てた 今度は烈はゆっくりと人を視て浄化させた 最後までその動きは乱れる事なく4日目を終えた その日も烈は夕飯を食べると早目に寝た 大の大人でも弱音を吐きそうになる儀式も、残り1日を切った 五通夜の儀式 5日目 この日は本当に精神的にキツい儀式となる 目の前に家族や知人が出て来るのだ その家族のカタチを取ったモノが飛鳥井にり関わりのある魂を持っているか、いないか選別しする儀式だった 飛鳥井の魂を持った存在は昇華する そうでないモノは浄化する かなり高度な儀式となる 烈はじっと黙って一人ずつ視ていた そして呪文を唱え斬る 烈の目前には榊原の祖父母が姿を現した 真矢が「烈!」と呼び笑い掛ける 清四郎が「烈!」と言い優しい眼差しで見る たが烈は真矢と清四郎の中の魂を用心深く探り当てる…… 真矢の中の魂は飛鳥井の魂はなく、烈は浄化の呪文を唱えながら真矢を斬り浄化した 真矢の姿がサラサラと音を立てて崩れ去った 烈は…少しだけ苦しそうな顔をしたが、躊躇する事なく清四郎に昇華の呪文を唱え斬りつけた すると清四郎の姿がスーッと煙の様に消えた 次は飛鳥井の祖父母や瑛太と京香が姿を現した 清隆や玲香は何時もの優しい祖父母の顔をしていた 瑛太も優しい眼差しで烈を見ていた 京香は育ての母みたいな存在で、康太の子達は皆、京香の事をママと呼んでいた 祖父母や瑛太や京香は優しく烈の名を呼んだ 烈は祖父母を見た 玲香も清隆も飛鳥井の魂は入ってなくて……草薙剣で袈裟斬りに斬り浄化した 瑛太には飛鳥井の魂が入っていて、昇華し 京香は……飛鳥井の魂が入っていなかった 烈は「ぎょめん…まま……」と言い京香を斬った この修行は烈自らやらねばならない修行だった 今までの様に介助人の手は一切借りてはならなかった 烈の前に慎一、一生、聡一郎、隼人が現れた 全員、飛鳥井の魂が入ってなくて、烈は一人一人浄化して斬った 次は和希と和真と北斗や永遠が現れた 北斗だけ飛鳥井の魂が入っていて、昇華した 和希と和真も永遠は一突きで刺殺し浄化した 一人一人本質を見抜き草薙剣を使い呪文を唱え斬った 目の前に兄弟が姿を現した 烈は一瞬躊躇するが、大好きな大好きな兄達を斬った そして最後は………烈の大好きな父と母 烈は「とぅしゃん…」と呟いた 大好きな大好きな父さんと母さんの本質を見抜く もし本物だったら? 怖くて……躊躇する だが視ねばならない試練なのだから…… 烈は視た 大好きな父には飛鳥井の魂が入っていた そして母にはそうでないモノが入っていてた 烈は呪文を唱え康太に斬り掛かった だが軽くかわされた 烈は「縛!」と呪文を飛ばすと康太を呪縛した 身動き取れずにいる母の胸に草薙剣を突き刺した 「かぁしゃん……」 烈は泣いていた だがきっと母なれば……笑って烈の手に掛かってくれるだろう…… 本当の母なれば…… 母がパラパラと崩れ落ち消えていく…… 烈は涙を拭って父の心臓にも剣を突き刺した 榊原は笑っていた 「そうです、それで良いのです」 父に報いる為に……烈は昇華の呪文を唱えた 父の姿が……スーッと消えてなくなった 儀式が総て終わった瞬間だった スパーンと襖が開く音が響いた   辺りが明るくなり、そこは入った時同様の本殿儀式の間だった 菩提寺の住職の城之内が姿を現した 「五通夜の儀式の完遂を見届けさせて戴きました! 無事のご帰還お待ちしておりました!」 烈はまだ衝撃から抜け出すにいた 康太と榊原が烈を抱き締めた 「かあしゃん?」 「おー!お帰り烈! 偉かったぞ!」 厳しいけど優しい母がいた 「烈、お帰りなさい ずっと心配してました!」 そう言い抱き締めてくれる優しい腕を持つ父がいた 烈は堪え切れず泣き出した この手で斬ったのだ 愛する人達を斬ったのだ…… 本当なのか? 幻覚なのか? どちらなのか解らない感覚に囚われていた 康太は烈を抱き上げると 「まやかしだ! 総てが作られし世界のまやかしだ」 そう言い強く抱き締めた 何度もこの修行はやって来た 転生者として生まれる度に受けて来た修行だった 何度やっても本当なのか?解らない感覚に囚われ抜け出せなくなるのだった 「かぁしゃん……」 「烈、疲れてるだろうけど一族に知らせねぇとならねぇ……だから着替えて写真を撮らねぇとならねぇんだ!」 「わかっちぇるから……」 烈は下に降ろされると控えの間に移動した テーブルの上にお茶菓子かあり、烈の好きな熱々のお茶が注がれた 康太は烈の前に熱々のお茶を置くと 「火傷すんなよ!」と言った ズズズッとお茶を飲む音がする その頃には烈も落ち着きを取り戻しつつあった お菓子とお茶を飲み干すと、着替えをした 黒い着物を脱ぎ捨て、転生者にしか許されていない紫紺の着物に袖を通した そして家紋は斯波家家紋が入っていた 専門家がやって来て、烈の写真を撮る 本殿の壁には歴代の真贋達の写真が掲げられていた 少し離れた所に、次代の真贋の写真が掲げられていた 烈の写真はその横に、転生者 宗右衛門として掲げられる事になる 写真を撮り終える頃には烈は疲れて眠りに落ちていた 榊原は烈の転生者の着物を脱がすと、パジャマに着替えさせた そして抱っこして連れ帰る事にした 榊原は慎一に「5日間、本当にご苦労様でした!」と労いの言葉を掛けた 「烈は凄いですね……本当にどんな辛い境遇にだって耐えて進んで行きました……」 慎一は烈の頑張りぶりを二人に伝えた さぁ帰ろうと正面玄関まで逝くと、弥勒が待ち構えていた 「俺も乗せていけや!」と謂うと、榊原は「お疲れ様でした」と弥勒にも労りの言葉を掛けた 榊原は「慎一、家族に烈の帰りを伝えて下さい! 僕は烈を久遠先生に診せてから逝きます!」と伝えると慎一は一足先に車に乗り込み帰って行った 康太は烈を抱っこしたまま榊原の車に乗り込むと、弥勒は後部座席に乗り込んだ 車に乗り込むやいなや弥勒は 「……何で教えてくれなかった‥‥」と文句を言った 「烈が手にしていた剣の事か?」 「そうだ……あれは本当に………」 「草薙剣だ! 一緒に天魔戦争を闘って来たお前ならば、区別は付くだろ?」 「なぁ……アイツはどんな想いで……それを手放したんだ?」 「それは本人に聞くが良い! オレの口からは謂えねぇな……」 「烈は……ひ……」 弥勒が言い掛けると康太は「そう謂う話は叔父貴とやってくれ!」と突き放した 「何故……俺は……知らなかった?」 「一万年寝続けたからじゃねぇのか?」 炎帝が消えた魔界は辛過ぎて………惰眠を貪っていはいた だが……何も聞かされていないってのは、納得が行かなかった 「そりゃぁ……寝てたけどさ……もう良い! 本人に聞いてくるわ!」 そう言い弥勒は姿を消した 榊原は「良いのですか?教えてあげても良かったのでは?」と問い掛けた 「本人から聞くのが一番だかんな、聞きに行けば良いんだよ……」 「……お辛いでしょうね……」 友に話すには苦し過ぎると榊原は想った 「痛みも苦しみも分かち合った戦友だからな 分かち合って……肩の荷を軽くすれば良いんだよ」 榊原はもう何も謂わなかった 康太ももう何も謂わなかった 車は静かに飛鳥井記念病院へと向かって走った 病院に到着すると榊原は車から降り、助手席のドアを開けた 康太から烈を受け取ると、康太は車から下りた 病院に入り受付で、烈を連れて来た事を告げると、久遠が姿を現した 「寝てるのか?」 久遠は榊原の腕の中で寝ている烈を見てそう言った 「ええ、よっぽど疲れたのでしょう」 「幼稚舎に通うお子様が五通夜なんてやれば、体力も気力も削れちまうわな!」 久遠は榊原の腕から烈を受け取ると 「検査に30分はかかる!」と言い検査に連れて行った 康太は榊原に「オレは此処で座ってるから家族に烈が帰った事を伝えてくれ!」と言った 榊原は病院から出ると慎一に電話を入れた ワンコールで電話に出た慎一に 「帰宅早々すみません! 家族に烈の帰宅を伝えて下さい 榊原の家の方は匠の件もありますし、伝えなくて結構です! お願い出来ますか?」 と伝えた 慎一は「解りました、連絡を入れておきます!」と了承した 榊原が待合室に戻ると康太は寝ていた 烈が五通夜をやってる最中、ずっと菩提寺に詰め掛けて心配していたから、安心して眠気が来たみたいだった 榊原は康太の頬に触れると、康太は目を醒ました 「寝てたか?オレ」 「ええ、寝不足でしたからね」 「今夜は良く寝れるな!」 康太が寝不足ならば、行動を共にしている榊原も寝不足だった 気力だけで動けてるだけだった 病院に一生が顔を出すと「烈は?」と問い掛けた   「今久遠先生の診察だ!」 「あの年で五通夜を完遂だなんて疲れて当たり前だし、何ともないなら良いけどな  怪我とかないのか?」 「手とか怪我してたな」 「大丈夫なのかよ?」 「慎一が手当してくれたみてぇだからな」 「慎一が飛鳥井の家族には連絡を入れたみてぇだな 榊原の両親の方には入れなくて良いのかよ?」 一生は心配して問い掛けた 「烈が匠の件は視ると言ってるからな 烈が動けねぇのに連絡は入れたくねぇんだよ」 「ならば、真矢さん達にはその旨を連絡しておく! あの人達も烈が帰るのを心配して待っていたんだからな!」 「あぁ、頼む……」 一生と話してると久遠がやって来て 「疲労が凄いから点滴を打ってる 一時間ちょいかかるからな、飯でも食って来ると良い!」 「飯は烈と共に食いてぇから此処で待ってる事にするわ!」 「終わったらスタッフに連れて来させる!」 久遠はそう言い戻って行った 康太は榊原の肩に頭を置いて目を瞑っていた 榊原も目を閉じて眠っている風だった 我が子の帰りを待っていた両親は、我が子の無事の帰還に安心したのか睡魔に襲われていた 久遠が再びやって来ると、眠ってる康太と榊原の腕に点滴の針をプッ刺した あまりの痛さに目を覚ますと久遠が 「寝てねぇんだろ? 疲労感が一目で解るだろうが!」と怒っていた 「お前等も1時間ちょい点滴打ってろ!」 久遠はそう言い奥へと帰って行った 康太と榊原は互いを見詰め、手に打たれた点滴を見ていた 一生は「康太と旦那も点滴中だと伝えとくわ!」と謂い外に出て行った そして少しして一生は戻って来て、康太にプリンを渡した 「それ食って堪えなはれ!」 「点滴の針が痛くて剥けねぇし、食べられねぇ!」 康太が言うと一生は「仕方ねぇな!」と謂い康太の横に座りプリンの蓋を開けた そしてスプーンで掬い康太の口に運んだ 「うん!うめぇな!」 ご機嫌な康太を榊原は優しい瞳で見ていた 一生は「旦那は珈琲買って来たけど?」と袋から缶コーヒーを取り出した 「飲みます!」 榊原が言うと一生はプルトップを開け榊原に手渡した 缶コーヒーを手渡して貰って榊原は缶コーヒーに口を付け飲み始めた 一生は「儀式は無事終えられて良かったな」と康太に声を掛けると 康太が「ラストに弥勒が煩かったけどな……」と呟いた 「弥勒?あんで弥勒が煩かったのよ」 「烈はあの年でもう己の剣を持っている その剣は……生誕した年に授けられ……ずっと手にしている宗右衛門の剣だ それを見て弥勒は解ったんだろうな……」 「何を?」 「その剣が草薙剣だって……」 「えっ???烈って草薙剣持ってるのか?」 魔界の者ならば、その剣の偉大さを知らない者はいなかった 「あぁ……斯波の家に転生した時から持っている剣だ」 一生は言葉を失った 「弥勒は今頃確かめに行ってる頃だろ?」 一生はそれ以上の会話を止めた 康太ももう何も謂わなかった 暫く沈黙が続いた その沈黙は飛鳥井の家族がやって来て破られた 清隆と玲香と瑛太が一生を見付けて近寄って来た そしてその横にいる腕に点滴の針を刺した康太と榊原に驚きの表情をした 清隆が「烈が帰ったと聞いたのですが?」と病院に来た理由を述べた 玲香が「何故、お主達が点滴しておるのじゃ?」と問い掛けた 一生が疲れていた康太と榊原を見て、久遠が烈の点滴に合わせて打ちに来た経緯を話た 瑛太は「大丈夫なのですか?今宵は烈を連れ帰ったら寝られるがよい!」と顔色の悪い二人に言った 康太達の点滴が終わる頃、烈が久遠に連れられ戻って来た 久遠は康太と榊原の点滴を外しながら 「胃腸が弱ってるから薬を出しておくから取りに行ってくれ!」と処方箋を取り出した 一生がそれを受け取り烈を抱き上げた 「お疲れさん」 「かじゅ……ねむい……」 「寝てて良いぞ! もうパジャマ着てるんだ 帰ったらベッドに入れてやるからな!」 一生に謂れ烈は頷いた 榊原が病院の精算を済ませると、康太達は飛鳥井の家へと還って行った 飛鳥井の家に着くと、烈は一生に連れられて子供部屋に直行した 康太と榊原も寝に行くと謂うから、その日は帰還の喜びを噛み締めて終わった

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