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第37話  優しい雨

6月に入って雨が続く じとじと鬱陶しい雨が降る 屋上に作られた流生の温室の外にサンカヨウの花が今年も咲いていた 雨に濡れた花は硝子の様に透き通っていた 流生は温室の花に水をやり 「毎日雨なのにねぇ……」と溜め息をついた 慎一は「梅雨ですからね……」と苦笑した 「しんいち君、うめとらっきょつけたの?」 週末に慌てて梅とらっきょを漬けねば!と言っていた事を言ってるのだと気付くと 「漬けましたよ!」と答えた 「しんいち君の梅はすっぱいのよねぇ……」 流生は酸っぱい顔になって言っていた 「熱中症対策になるんですよ」 「そうなんだけどね、すっぱいのよ」 「太陽と大空と音弥は大好物ですがね……』 「ボクはすっぱいのダメなのよぉ~」 個性が出て来た子達は味覚もそれぞれ違う 辛いのが駄目な子 酸っぱいのが駄目な子 甘いのが駄目な子 それぞれだった 慎一は笑って「そうてしたね、流生は酸っぱいのが駄目でしたね」と謂った 流生は笑って「でも辛いのはとくいよ!」と答えた 辛いのが好きな味覚は一生に似たのか? 一生は大の辛党だった なら酸っぱいのが駄目なのは亜沙美に似たのか? 慎一は「今度亜沙美さんに逢ったら、酸っぱいのが苦手か聞いてみると良いです」と言った 「わかった、聞いてみるね!」 流生は笑ってお花の世話をした そこへ一生が姿を現した 流生は一生を見ると「カズ、お花、用意出来るよ!」と伝えた 「悪かったな流生、お前の大事にしてるお花なのに大丈夫か?」 一生は流生に問い掛けた 「ばぁたんのお見舞いに烈にお花渡していたし大丈夫よ!」 温室の中には甘い花の香が漂っていた 流生が丹精込めた花達なのだ 「悪いな……」 「ファミレスおごりで大丈夫よ!」 ちゃっかり発言に一生は笑って 「全員奢るかる大丈夫だ!」と答えた 慎一は「この花で作るのか?」と問い掛けた 「あぁ、そうしたいけど無理か?」 「出来なくもない、頑張って作ってみるよ! 他の準備は?順調に行ってるのか?」 「あぁ、ホテルニューグランドのオーナーの口利きで、用意出来た……」 「ならば、明日、決行しますか?」 「あぁ、康太と旦那に二人を連れて来て貰う手筈は整えた」 「ならば万端ですね! 今枝が写真を取ってくれるそうです」 慎一の言葉に一生は「今話題の雑誌の編集長が…有難すぎて……何と言って良いやら?解らねぇよ」 と信じられないと口にした 「そもそも…何処で聞いたんだ?今枝は?」 「それ、俺も聞いたけど、教えてはくれませんでした ちなみに康太に聞いたけど、オレは言ってねぇぜ!との事でした」 益々謎が深まる… 「康太じゃねぇなら誰よ?」 一生は呟いた 慎一は「悩んでる暇などない程、君はやる事があるでしょ?」と発破を掛けた 「解ってるって!」 一生はそう言い出掛けて行った 流生はキッチンに向かい兄弟より早い朝食を取る それが日課になっていた 慎一は食事を終えた流生に「飲み物のおかわりは?」と問い掛けた 流生はコップを差し出し 「今枝にラインしたのよ」と答えた 慎一は「君が今枝を動かしたのですか?」と問い掛けた 「今枝とはラインでつながりあるから」 流生は何時もキッチンで慎一と一生の会話を聞いていて、それを今枝にラインしたのだった 「想い出……つくってやりたいのねぇ……」と。 そんな流生の想いに応えて今枝が名乗りを上げてくれたのだった 今枝は流生や他の子達とのラインをしていた 子供達から来る「お仕事頑張ってね!」ラインが励みになっていた だから流生の想いに応えてやりたくて、想い出を撮るのを協力したのだった 流生は「明日なのね」と問い掛けた 慎一は「そうです!平日なので空いていたそうです」と答えた 「ボク達も行くから! 母さんにはもう言ってあるのね」 「喜びます」 「じぃちゃんとばぁちゃん ばぁたんとじぃたんも来てくれるのよ」 「……それは………それで…複雑ですよ?流生」 「ボクのけっこんしきには亜沙美も呼ぶよ」 「流生……」 「もう決めてるんだ」 「そうですか……それは最高の親孝行ですね」 「ボクのおやこうこうは、りょうしんにするの だからカズと亜沙美には、少しだけするのね」 「それで十分です……流生は本当に優しいですね」 流生は嬉しそうに笑った そこへ支度をした子達がやって来た 翔が「りゅー、支度しておいで!」と言うと、流生は自分の部屋まで支度に向かった 太陽と大空と音弥は慎一に渡された朝食をテーブルに並べた 早起きしてガーデニングをしている流生は皆よりも早目に朝食を取る ゆっくり起きて支度をして来た兄弟と入れ違えに、流生は着替えに行く そんな毎日だった 音弥は賛美歌の練習をして歌っていた とても綺麗な声だった そこへ康太と榊原が来て一緒に朝食を始めた 康太は「音弥の賛美歌はめちゃくそ綺麗だな、ウィーン少年合唱団からスカウトが来たらどうするよ?伊織」と親バカ発言全開にして榊原に問い掛けた 「断りますとも! 僕は我が子と離れて生活する気は皆無ですから!」 とキッパリ答えた 音弥は嬉しそうに笑って 「父さんの側から離れないよ」と抱き着いた 賑やかな朝の朝食だった 流生が着替えて戻って来ると、清隆と玲香や瑛太も賑やかな食卓に来て、朝食を始めた 太陽と大空が祖父母や叔父の朝食も用意する 清隆はデレーっと眼尻を下げて 「ありがとうね太陽、大空、音弥」と礼を述べた 翔と流生はお茶の準備をして、清隆達の前に置いた 玲香も眼尻を下げて「ありがとう、翔、流生!」と嬉しそうに言った 孫達に用意して貰う朝食は格別に美味しい そして家族が揃って食べる食卓は幸せな雰囲気で包まれていた 流生は「ばぁちゃん達明日休めるの?」と問い掛けた 玲香は「半休は取った、午後からは飲みまくっても大丈夫であるな!」と豪快に笑った 清隆も瑛太も頷いた 流生は「ならバッチしだね!」と笑った 清隆は流生の頭を撫でた 慌ただしく朝食を終えて、会社へと出勤する 子供達も慌ただしく初等科と幼稚舎へと栗栖が送り届けて行った 最近栗栖は飛鳥井の家で寝泊まりしてはいなかった 車に乗り込み大空は「最近忙しそうねクリス」と問い掛けた すると栗栖は最高級の笑みを浮かべ 「ええ、有栖院院家最大の恥が問題ばかり起こすので、少し大変なんですよ」と答えた 烈は「れきやか……」とため息混じりに呟いた 「烈、あの馬鹿親父見かけました?」 「はるきょろ」 「あのクソ親父!」 アクセルを踏む 子供達は烈の口を押さえた 太陽が「クリス死んじゃう……」と叫んでやっと栗栖はスピードを落とした 大空は烈の耳に「余計な事言うと死んじゃうからね!」と怒って注意した 烈はブンブン頷いて応えた そんなこんな思いをしつつ学校へ送って貰う 車から下りると子供達は皆、安堵した 後は幼稚舎に烈を乗せて向かう 栗栖は「アイツ……元気でしたか?」と問い掛けた 烈は嗄れた声で『何時の世も暦也は台風の目の中心におる だがアイツは曲がった事はせぬ! 真贋を裏切る事もせぬ! 腹を括れ!栗栖!  お主の父とはそう言う輩なのは承知しておろうで! ならば我等はどんな衝戟にも堪えれる様に踏ん張るしかあるまいて!』と豪快に笑って言った 「宗右衛門殿……そんな覚悟ならとうの昔に出来ています!」 『ならばよい……あやつ若返っておったぞ! だがその手は荒れて過酷な生活を物語っておった 死にかけたのも一度や二度であるまいて…… それでも突き進むのは、果てにお主や真莉愛がいてくれると信じているからじゃ!』 「宗右衛門殿、ありがとう御座いました! 母にこの話を聞かせたいと想います」 幼稚舎に到着して烈は車から降りた 栗栖はその足で母の所へ走って行った 翌日もじとじと雨の降る天気だった この日康太は聡一郎に「ちょっと付き合ってくれねぇか?」と声を掛けた 聡一郎は「はい、何処へ行けば良いのですか?」と嬉しそうに問い掛けた 「オレが運転するから、お前は付いてくるだけで大丈夫だ!」 「え?康太が運転するのですか?」 聡一郎が問い掛けると康太は不機嫌な顔をして 「乗りたくねぇのかよ?」と問い返した 「解りました! 乗りますとも!」 聡一郎は覚悟を決めて康太と共に行く事に決めた 康太の運転する車に乗り込み、康太と聡一郎は出掛けて行った その後、少し経ってから榊原は悠太に 「僕と一緒に来てくれませんか?」と問い掛けた 悠太は「義兄さん、構いませんが、何処へ行くのですか?」と不思議そうに問い掛けた 「康太の友人が来るので服を見立てたいのですが、その服のサイズが君と同じ位なので変わりに着て欲しいのです」 「そんな事なら喜んで着ます!」 悠太は疑う事なく榊原の車に乗り込み目的地へと向かった 榊原は悠太は純真な子だから疑う事なく着てくれるだろうが…… 聡一郎は……大変だろうな……と思った だが康太命な聡一郎なのだ、命令ならば着るだろう どれだけ屈辱だと想っても喜んで着てくれるだろう! 康太、頑張って下さいね、君が聡一郎を御さねば……始まらないのですから… 慎一が子供達を連れて会場にやって来ていた 一生も慎一の子や自分の子、聡一郎の子を連れて会場にやって来ていた 真矢と清四郎、笙と明日菜夫妻も我が子を連れてやって来ていた 控室では悠太は試着だと想って白のタキシードを素直に着てくれていた 問題は康太が連れ出した聡一郎の方だった 康太は自分が着たウェディングドレスを聡一郎に渡すと「着ろ!」と言った 聡一郎は何が何だか解らず唖然としていた 「これからお前と悠太の結婚式を執り行う だから着ろよ!オレが着たウェディングドレスに!」 「え?ウェディングドレスは悠太に…」 「お前さ、母ちゃんや父ちゃんも来るのに、悠太にウェディング着せるのかよ?」 「……すみません、それは無理でしたね」 「これは一生の想いだ お前達がアメリカで撮った写真を見せたら誰よりも幸せな結婚式を挙げると誓ったんだ 一生の想いを踏みにじる気か?」 「一生が?」 「二人だけの挙式なんて寂し過ぎるってアイツは泣いたんだよ アイツはお前の父としてヴァジンロードを一緒に歩くつもりだ そんな一生の想いを、お前は台無しにする気か?」 「義母さん達も……出席するんですか? ならばあの人達を苦しめる事になりませんか?」 「母ちゃんや父ちゃんは悠太が生きていてくれただけで良いと想ってる うちの両親はお前がアメリカで撮った写真を見てるからな、大賛成してくれた そもそもオレ達が夫婦としていられるのは、家族のそんな想いがあればこそなの忘れたのかよ?」 聡一郎は康太の純白のウェディングを抱いて泣いていた 「挙式をあげるな?」 「はい、僕は幸せ者ですね」 「幸せになれない、そして幸せにしてやってくれ! オレらはそれしか望んじゃいねぇよ」 聡一郎は着付けを許諾した 挙式のスタッフがやって来て聡一郎に康太が着たウェディングドレスを着せてメイクを施す そして最後に金髪のロングの鬘を被せると、フランス人形ばりの美人な新婦の出来上がりとなった 清隆と玲香と瑛太が新婦側の控室に顔を出すと、美しい花嫁に 「綺麗ですよ聡一郎 ヴァジンロードを一生に盗られたのが残念でなりません!」 と悔しそうに言った 瑛太も「私も聡一郎の兄としてヴァジンロードを歩きたかったのですが…」と残念がった 聡一郎は「なら悠太の方が一生で、僕は義父さんと義兄さんとエスコートして貰うよ!」と嬉しそうに言った 康太は兵藤に「オレの勝ちだな!」と手を差し出した 兵藤は悔しそうに一万円を支払った 聡一郎は「僕で賭けをしたのですか?」と少し怒って問い掛けた 兵藤は「俺は一生パパがエスコートするに賭けたんだけどな、康太は父さんと瑛兄がエスコートするって方に賭けたんだよ お前……一生が父親言ってたやんか……」とボヤいた 聡一郎は嫣然と笑って 「一生は僕を組み立て父になってくれた 康太は僕を生かして悠太をくれた… そして僕が初めて心から慕ったのは飛鳥井の家族なんだ 義父さんや義兄さんが大好きなんだ こんな僕なのに……悠太を取った僕なのに………優しく接してくれる義父さんと義兄さんが大好きなんだ」と答えた 清隆は花嫁の涙を拭いてやった 瑛太はそっと花嫁の手を取った 清隆は花嫁に肘を差し出した 花嫁は清隆の肘に手を掛け、エスコートされて控室を出て行った 一方、新郎側の榊原は悠太に 「君はこのまま聡一郎と挙式を挙げなさい!」と爆弾発言をした 「え?試着なんじゃ?」 「君をわざわざ連れて来たのは試着の為じゃありません 君達のアメリカで撮った結婚式の写真を見た一生が君が還って来たら式を上げると誓ったのです この式は一生の想いでもあり、家族の想いでも有るのです」 「義兄さん……」 「問題は聡一郎です……素直にウェディングドレスを着ますかね? まぁ康太が向こうに行っているので、何とかしてくれるとは想います 彼の生涯の主の言葉ですからね、聞かぬなら【絶交】と謂われますからね、何とかなるでしょう」 榊原は苦笑した たかが絶交なのだが、飛鳥井康太が齎す絶交は絶対に交友が途絶えるのだ…… 相手もそれが嫌ならば飲むしかないのだった 新郎側の控室に一生がやって来て 「アイツ、義父さんと義兄さんにエスコートして貰うと抜かしやがった!」と腹を立てていた 榊原はそれを聞いて  「賭けは康太の勝ちですか?」と溜め息を着いた 「視てねぇのに聡一郎の性格を熟知しやがって!」 「仕方ありません、彼の主ですから」 榊原の言葉に気を取り直した一生は、純白のタキシードを着た悠太に目をやった 「おっ、男前出ぜ!悠太」 「一生君、僕は知りませんでした」 「当たり前じゃねぇかよ? サプライズなんだからよぉ!」 一生は笑っていた そこへ教会のスタッフがやって来て 「お時間です!」と挙式の開始を告げた スタッフに連れられ悠太が行くと、榊原と一生は教会の親族の控室へと向かった 親族の控室には康太が子供達と共に座っていた 「おっ!伊織、悠太は着られたかよ?」 「彼、少し痩せていたのでベルトで締めました 帰りに久遠先生に見せた方が良いかも知れませんね」 「最近慎一から食が落ちてると聞いていたんだよ どうしたんだよ?悠太?」 康太が呟くと流生が康太の前に来て 「ゆうちゃんね、製図の事ばかり考えて食べないのよ」と心配そうに口にした 「製図?んな急ぎの仕事あったかよ?」 康太は首を傾げた 榊原は「脇田さんの方から出されてる製図ですかね?」と思案して口にした 音弥が「ゆうちゃんね、かしゃいの家の旅館買い取ったのよ」と最近悠太との時間が多くて知ってる事を口にした 「葛西の家の旅館?買い取ったって金は?」 太陽が「そーちゃんだしたのよ」と言った 「聡一郎が?天宮が管理していたんじゃねぇのか?」 康太は榊原を見た 榊原は「その筈ですが……君が時が来たら葛西に渡すつもりでいたのですよね?」と不思議そうに言った 「天宮は何も言って来てねぇからな、他の旅館を買ったって事なのか?」 康太が呟くと榊原が 「後で聞けば良いです 今は挙式の成功を祈りましょう! 太陽と大空、花嫁のヴェールを持ちに向かいなさい!」 と言い今は挙式に向けと暗に言った スタッフに呼ばれて太陽と大空が連れられて行くと、別のスタッフに親族は教会の中へと案内された 親族席に座り新郎新婦の入場を待つ 挙式のスタッフがやって来て 「今日は生憎のお天気ですので、外でのライスシャワーとお見送りは室内に変更になりました 後、記念写真も室内での撮影となります 記念撮影が終わりましたらレストランへと移りいただいて会食会となります」 挙式のスケジュールを告げる 今日も雨だった じとじとと鬱陶しい雨だった 外での撮影ならば紫陽花の花をバックに撮影ができたのだが、いかんせん梅雨時なのだ お天気など宛にはならないのだ 教会の中で待っていると榊原が新郎と共に入場して入って来た 新郎を神父の前まで連れて行くと、榊原は康太の横の席に座った 足が悪い悠太の為に榊原は介助人としてサポートしていたのだ 新郎が神父の前で待つと、新婦が清隆と瑛太にエスコートされて入場して来た 花嫁のヴェールを太陽と大空が持って歩いていた 兵藤は「フランス人形健在だな」と康太に話し掛けた 康太も「だな、黙ってれば美人なのは昔からだ!遥か昔からアイツは美人だったからな」と昔を思い出して口にした 「あの髪はどんな事しても遺るんだな」 「それが司命のカタチだからな」 「親代わりはお前じゃねぇのか?」 「オレは主だ、これからも司命司録の主なんだよ!」 兵藤の横には真っ白な髪の男が座っていた 男は「アイツの挙式なんて天地が引っ繰り返る程驚いたぜ!」と笑って言った 兵藤は「何処から聞いたのよ?お前」と問い掛けた 「烈殿が閻魔の邸宅で素戔男殿と話していた時にお聞した」 「え?烈……あんで魔界に行ってるのよ?」 「烈殿は良く魔界においでですぞ?」 「え???どう言う事よ?康太?」 「魔界に用があったからな、行ってただけだ 烈は五通夜の前で深淵に結界も張りたかったからな」 春先の事件を知っていた兵藤は納得して 「五通夜成功おめでとう烈」と言葉を贈った 烈は嬉しそうな顔で笑っていた 花嫁は新郎の所まで静かに歩いて行った 清隆と瑛太は新郎へ花嫁を渡した 清隆は悠太に「幸せにしてあげなさい、そして君も幸せになりなさい」と言葉を贈った 瑛太も「家族を持つのです、誇れる仕事をする男になりなさい」と言葉を贈った 悠太は「はい!」と返事して花嫁を受け取った 神父の言葉が静かに鳴り響く 雨音も優しくBGMを鳴り立てる様に降っていた 誓いの言葉を交わし、指輪の交換をし口吻けを交わし挙式は終ったわ 聡一郎はずっと泣いていた まさかこんな挙式をして貰えるなんて思ってもいなかったからだ 許されるべき間柄ではない 悠太も男なら聡一郎も男なのだ アメリカで挙式を挙げ正式に夫婦になったが…… あれは悠太の病院に付き添う為にした様なモノだった 聡一郎は涙で濡れた瞳を悠太に向けた 悠太は「幸せにするよ、だから俺も幸せにして下さい!」と言葉にした 愛した男だった 年下の可愛い恋人だった 悠太の幼い頃から世話を焼いて見てきた子だった 止めどなく花嫁の瞳から涙が流れた 挙式が終わる頃には立っていられない程だった そんな聡一郎の体を玲香が支え、清隆が涙を拭いてやった 玲香は「綺麗な顔が台無しじゃぞ!」と頬を撫でた 清隆も「聡一郎は私の自慢の子供です、泣かせたら許しませんよ?悠太」とわが子に目を向けた 悠太は「はい、父さん」と涙ぐみ答えた 瑛太が悠太を支えた 「足は大丈夫ですか?」 「はい、兄さん大丈夫です」 「挙式が終わったら寝不足の件の話をして下さい!」 「解りました!」 「君の命は我が祖父源右衛門が繋いだって事は忘れてはなりませんよ?」 「はい!」 瑛太は写真撮影の場所まで悠太を支えて連れて行った 聡一郎は玲香と清隆に連れられて写真撮影の場所まで向かった 皆で記念撮影をした後、二人での撮影となった そして撮影を終えるとお色直しで会食の席に着いた 二人が席に着くと一生は前に出て深々と頭を下げ 「今日は本当にありがとう御座いました 皆の協力があったからこそ迎えられた今日でした!本当にありがとう御座いました!」 礼の言葉を述べた 真矢が力哉を連れて一生の横に立つと 「一生と力哉はずっとずっと悔いていました 自分達の挙式の時、聡一郎がどんな想いでいたのか考えて何度も何度も泣いていました 悠太が還って来て一生はずっと悔いて来た聡一郎と悠太の挙式をと動き回っていました 私も清四郎も康太も伊織も、一生に協力して動きました 共に動けば動く程に一生の想いが伝わって来て…… 力哉の想いも伝わって来て、絶対に成功させねばならないと心に決めました 力哉は今幸せなのは皆がくれた幸せなんだと言います ならば私達は聡一郎と悠太にも幸せになって欲しいと願っています おめでとう聡一郎、悠太 今日の佳き日は一生の想いであり、力哉の願いであり、私達全員の願いでもありました おめでとう、幸せにね」 真矢の横に立つ力哉は泣いていた 聡一郎の事を考えれば、辛くて堪らなかったのだ なのに聡一郎は何時だって優しく支えてくれていた 自分だって辛かったろうに……おくびにも見せずにいたのだ それが力哉は辛くて堪らなかったのだ 真矢は力哉を抱き締めた 「義母さん……」 「もう苦しまないでいいのよ力哉 もう良いの……もう悔やまなくて良いのよ」 真矢は優しく力哉ノ背中を撫でた 聡一郎は立ち上がると一生に抱き着いた 「ありがとう一生 そして力哉もありがとう」 一生は「俺は知らなかった……俺等の挙式の時お前がどんな気持ちでいたのか……考えたらやるせなくて、絶対に挙式を挙げさせると力哉と約束したんだ」と苦しい胸の内を吐露した 聡一郎は力哉を抱き締め 「君達が悔やむ事なんてないんだよ 僕は悠太の看病をする為に大義名分が必要だったから式を挙げて夫婦となった 海外では同性婚も求められているから、僕は悠太の妻としてオペにも立ち会う事が出きたんだ それを許してくれた義母さんや義父さんに感謝しても足らない程なのに……僕達の式だなんて……望みすぎて怖いよ……」 訴えた 力哉は「望んでよ、そして幸せになってよ!」と訴えた 真矢は力哉と聡一郎と一生を抱き締めた 聡一郎は幸せだと想った こんなにも沢山の愛で包まれていたのだと、今更ながらに想った シーンと静まり返った会食の席に康太の嬉しそうな声が響いた 「うしうし!男前だぞ悠太! 誠一にも三木にも見せてぇからな、ほら笑え!」 康太に謂れ悠太は笑った するとパシャパシャとシャッター音が響いた 「やっぱオレの弟は男前だな伊織」 康太の言葉に榊原も「今日は一段と男前です!正義や勝也さんにも頼まれてるので笑って下さい!」 と言いパシャパシャと写真を撮っていた 聡一郎は二人に「花嫁抜きで何写真撮りまくってるのさ!」と拗ねて訴えた 「おっ!聡一郎も今日はフランス人形みてぇに綺麗だぜ! ほら横に来いよ!ほらほら笑って 若旦那にも見せてぇからな!」 康太も榊原もパシャパシャと写真を撮りまくった 「悠太、聡一郎にイジメられたら謂うんだぞ!」 「康兄、ありがとう」 「可愛い弟を嫁に出す心境だぜ!」 康太も榊原もハンカチで涙を拭いながら写真を撮っていた 真矢は「もう台無しじゃない康太」とボヤいた 康太は「悔やむ為に式を挙げた訳じゃねぇ! だから力哉も一生ももう悔やむな!良いな!」と告げた 一生と力哉は頷いた 「式なんてのは永遠の証明書じゃねぇ…… どんだけ盛大な式を挙げたって別れる奴はいる 日々愛を育てて互いを尊重し合い、互いを慈しみ共に生きる為のステップにしかならねぇかんな 共にいたいなら己を磨き続けろ! 互いから目を離すんじゃねぇぞ!」 聡一郎と悠太は「「はい!」」と返事をした 聡一郎は外を見て 「僕は雨が大嫌いでした…… でも……これからは好きになりそうです」 しとしとと優しい雨が降り注いでいた 聡一郎は幸せに笑っていた 美しく嫣然と笑っていた 流生が「そーちゃん」 翔が「ゆーちゃん」 太陽が「しあわせに」   大空が「なって下さい」 音弥が歌を歌い 烈が「おにあいね!」と声を上げた 聡一郎は立ち上がると6人兄弟を抱き締めた 「ありがとう お礼に明日からフランス語は僕が教えてあげるね!」と口にした 烈は「やぶへびらー」とボヤいた この家が好きだ この家の家族が好きだ 仲間が好きだ そして何より主が大好きだ この人の為ならば命さえ厭わない その主に貰った幸せなのだ 主に報いる為に幸せになる ずっと笑っていよう どんだけ辛くても笑っていよう 悠太は聡一郎の肩に手を掛けると、聡一郎はその手を強く握り締めた 愛する人が生きていてくれるなら…… 愛する人が傍にいてくれるなら…… これ以上の幸せなんてない 「悠太、僕を幸せにしてよ!」 聡一郎は言った 「幸せにするよ聡一郎君」 「僕は君を幸せにするよ悠太」 「幸せにしてね」 悠太は嬉しそうに笑った とても優しい雨に包まれた挙式は終った 挙式と会食会の間中、今枝は記録を残す為に写真を撮りまくった 決して目立たぬ様に写真を撮りとまくっていた 後日談 飛鳥井の家に還ると康太は悠太と聡一郎をリビングに呼んだ 「悠太、お前、葛西んちの旅館をリメイクする為に悩んでるんだって? そしてその旅館は聡一郎がお金を払って買ったとか? 天宮に聞いても葛西の家の旅館は動いた形跡はねぇって事だ? 寝不足で痩せる程の現状を話してくれねぇか?」 謂われ悠太は「その話は誰から聞きました?」と問い掛けた 「オレの子が言っていた」 「そうですか?何時も心配して声をかけてくれる優しい子ですから、僕の言葉を覚えていてくれたのですね 僕は葛西の旅館をリメイクする前に、何時だって気軽に家族で行けるような旅館をリメイクして見たかったのです そしたら聡一郎が君に投資してやるから、好きな様にリメイクしなよ! 旅館の経営は葛西にやらせて、自分の旅館が手に入った時のシュミレーションをすれば良いよって言ってくれたんだ で、いざ旅館を手に入れたので、どうリメイクするかって悩んでて…思考が今、全てそこへ行ってるのでご飯も食べなかったして、康兄さんの子に心配されちゃったんだ、ゴメンなさい康兄」 悠太の言葉に康太は聡一郎を見た  「どこいら辺に買ったのよ?」 「○○県です、白馬よりは近くて高速で飛ばせば数時間で到着する距離の旅館です  その旅館は離れと謂うか別館があるので家族で気楽に行けるように購入しました リメイクを悠太がやって、経営は葛西にやらせるつもりです 利益を上げねばならぬ経営を腕鳴らしの為に用意しました 僕らはその旅館の別館で癒やされるのが一番の購入理由です ですので赤字は出せませんし、経費は知れてるので今悠太が悩んでるのです」 「それって四宮で買ったのか?」 「いえ、僕の受けった純利益を注ぎ込んでやりました」 「なら飛鳥井がそのリフォームに乗り出しても良いぜ! 丁度この前GWで行った土地もそうだけど、○○県の方の仕事が続くからな 古民家の解体も頼まれている その資材を使って街の再生を図る事になってるんだ」 「そう言えば○○県の方の仕事が続いてますね? 偶然ですか?これは?」 「オレはお前が旅館を買い取ったのも今聞いたから狙ってなんかいねぇよ!」 「ですよね、でも偶然過ぎて驚きました」 「あの街と言うのが特殊な県でな、ある一族の者が県を牛耳って外部から来た者が弾かれている実情があるんだとよ! で、勝也から異常な現状を訴えられてな、県団連の奴を通して小手調べで、あっちの廃村の活性化をやり出したんだよ お前……旅館買っても流行れば圧力掛けられて潰されるかもな…… そうやってその一族はその県を牛耳って来たらしいからな 邪魔者は県を上げて排除するんだよね」 康太の言葉に聡一郎は驚いた瞳を向けた 「何ですか?そんな無茶苦茶な事……」 「無茶苦茶が罷り通るんだよ」 「何ですか?それは?」 「だからなお掃除が必要なんだよ」 「どうするんですか?」 「まぁそれは蓋を開けてからのお楽しみだ!」 康太はもう何も謂わなかった 榊原が話が付いたとして、鞄の中から分厚いアルバムを取り出した そしてそれを悠太と聡一郎の前に置いた 悠太は「これは?」と問い掛けた 榊原から「中を見なさい」と謂れページを開けると、そこには…… 幸せそうな顔で笑う二人の挙式の写真が映し出されていた   榊原は「今枝が写真を撮ってくれたのです」と告げた 聡一郎は「彼、式場にいたのですか?」と問う程に気配を隠していた事となる 「はい、来てくださっていました 写真を選んでアルバムにしたのは康太です 今枝が全部支払おうとしてるのを止めて、康太が作りました」 「今度、彼にお礼を言いに行きます」 「ええ、そうして下さい その時に四宮興産が輸入してるチョコを持って行くと彼のご家族が喜ぶでしょう」 「はい、そうします!」 聡一郎は幸せそうに笑っていた 今日も外は優しい雨が降っていた 聡一郎は嵐が来る前の静けさだと想った 飛鳥井康太が動けば必ず嵐となるのだから…… 「僕は康太の想いのままに動きます!」 「それは助かるな 心強い援護射撃も受けた事だし動き出すか!」 康太はそう謂い嗤っていた 風もないのに髪が揺れていた 波乱の幕開けはそこまで来ていた だが今は優しい雨を感じて 幸せを噛み締めていたかった 聡一郎の部屋に二人の結婚式の写真がパネルとして今枝浩二から贈られたのは直ぐの事だった 幸せそうに笑ってる聡一郎と悠太のパネルを聡一郎は部屋に飾った そのパネルの下には、あの日持ったブーケをドライフワラーにして飾っあった 流生のお花なのは一目見て解った その大切に育てた花なのだ 聡一郎はブーケをドライフワラーにしてパネルの下に大切に大切に飾っていた 聡一郎の宝が増えて聡一郎は幸せを抱き締めていた 「そーちゃん、嬉しそうね」 息子の永遠が謂う 聡一郎は永遠を抱き締めて 「嬉しいし幸せだよ 僕の宝物が増えたんだ 一番の宝物は永遠、お前だよ」 「そーちゃん」 永遠も幸せそうに笑っていた 悠太はそんな二人を見るのが大好きだった 悠太と聡一郎の生活はまだ始まったばかりだった

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